ピリリリッ、ピリリリッ


「うーん……誰だよ……って、準か」


朝早く、というといささか語弊があるか。
現在時刻は10時半、健全な学生であるのならばすでに起床していてもおかしくない時間ではある。
しかし、鳴り響く携帯の持ち主である俺は、今朝方まで魔法の鍛錬をしており、十分な睡眠を取れたとは言いがたい。
その為に、そのまま眠ろうとも思ったんだが。


「……でないと、いつまでも鳴ってるんだよな」


ついついため息の一つもこぼれて落ちるのは、仕方が無いとも言えるだろう。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















「もしもし、俺だけど……」
『雄真、出るの遅〜い!』


開口一番電話の向こうから聞こえてきた台詞に、再びため息がこぼれた。
紹介が遅れたか、俺の名前は、雄真……小日向 雄真。
そして、電話口の相手、俺は『準』と呼んでいたが、そいつに少しばかりの愚痴をこぼした。


「せっかく出てやったのに、その言い草はないだろ……」
『それになぁに、雄真ったら声ガラガラじゃない』
「今の今まで寝てたんだよ、仕方が無いだろ。それで、なんの用だ?」
『あ、そうそう、12時にオブジェ前まで来て欲しいの!』


そう言われて、俺は時計とカレンダーが掛かっている壁の方へ視線をやった。
そして、残念なことに、俺は気づいてしまった。


「……バレンタインの、チョコか?」
『だーい正解!お願いね、ゆ・う・ま!』


プツッ、ツーツー


「あ、おいちょっと待て、準!!」


言いたいことだけを言われ、こちらの返事を確認する事無く、準は電話を切った。
さすがの俺も、これには唖然となり、暫くの間呆けることになってしまった。
だが、そうこうしている内にも、時間の流れということは止まることなく一定のリズムを刻み続けているわけで。


「……マスター、思考が停止なさっているのは重々承知していますが、遅れるとマスターに危害が加わる可能性が増加しますが」
「……はっ!しまった、急がないと!!」


俺の相棒である杖……マジックワンドの正式名称は『ティア』。
俺が幼い頃、ある事件で名も知らない少女から受け取った、雫のような形をした、澄んだ色の宝石の付いたヘアピンを、マジックワンドとして作り出したものである。


「くっ、このままじゃ間に合わない……仕方ない、あまり私利私欲のために使いたくはないが……」


俺は机に立てかけてあったマジックワンド『ティア』を手に取った。


「そうも言ってはいられないでしょう、マスター、飛ばしますのでしっかり捕まってください」
「すまない、頼んだぞ、ティア」


そして、俺はティアに乗り、一陣の風となった。














町が一望できるような高いところを、飛ぶ鳥と共に彼はいた。


「そろそろか……ティア、人気の無い場所に下りてくれ」
「了解しました、マスター」


高度が少しずつ下がっていく、そして、ビルが立ち並ぶ路地裏、その薄暗い道に、彼はゆっくりと降り立った。
携帯のディスプレイに表示された時計を見ると、約束の時間まで五分程度の余裕が出来ている。
これならば、歩いて行ったとしても丁度いい時間に着くだろう。


「ありがとう、本当に助かった」
「お礼を言うことはありませんよ、マスター。私のこの身は、ただ貴方のために」
「それでも、ありがとう」


マジックワンドは、元来持ち主の魔法行使のための補佐として作られる。
意思を持つまでになるのには、いろいろとした難関があるのだが、その点に関しては、おいおい解って行くことなので、今は割愛しておこう。
だからこそ、そのマジックワンドにお礼を言うような持ち主は少ないらしい。でも、俺はこういうのは言わなきゃ気がすまないんだよな。
再び、ティアに感謝の言葉を示していた。


「そうですね……マスターはこういうところではお引きにならない人でした。それでは、お言葉、ありがたく賜るとしましょう」
「そうしてくれると、俺も助かるよ」


そして、俺はティアを変形させ、カフスにすると、耳の目立ちづらいところに付け、街中の雑踏へと一歩を踏み出した。
本来マジックワンドに変形するような能力は無い。
これは俺の保有魔力量が高いからこそできる能力であり、一般のマジックワンドでは、杖形態しかないという認識が正しい。
そして、この変形は俺の目的のためにはなくてはならない能力だった。


「相変わらず、質量の保存を無視した変形だよな……」
「そういわないでください、私にも謎なのですから」


丁度中心あたりに雫のような宝石がついたカフスとなったティアから、愚痴とも聞こえるような返答が返ってきた。
それに小さく笑いながら同意しつつ、俺は準との約束した場所へと向かった。




















少しばかり歩いたところで、すぐに目的地が目に入るようになった。
その瞬間、俺は回れ右をして帰ろうとしたが、それを阻止するかのように捕まえる腕があった。


「雄真ったらおそ〜い!」
「遅い、じゃないだろう……これでも最大速度で来てやったっていうのに」
「まぁ、雄真ったら、そんなに早く私に会いたかったのね!」
「違う、そう何でもかんでも自分にプラス思考に考えるな、第一なんで俺が男に会うために最大速度を出さなきゃいけないんだ」


そう、先ほどの電話口での相手、準だ。
周りの男達は、俺らのことを薄紫色のロングヘアーを風になびかせる美少女と戯れる野郎、と見ていることだろう。
だが、俺の腕を抑えている存在、そう、準は紛れも無い男なのだ。
こいつの名前は『渡良瀬 準』、生物学上迷うこと無い男である。


「あぁん、雄真ったら、いけずぅ」
「気色の悪い声を出すんじゃない……」


こいつの猫撫で声が頭痛でも呼び起こしたのだろうか、ついつい俺は片手を額に当てて、天を仰いでしまった。
そんな俺の後ろから、準に対して声をかける存在があった。


「準さん、どうかその辺で勘弁してあげてください」
「あら、ティアじゃない、元気してた?」
「えぇ、おかげさまで」


ティアは、人間で言うところの女性体の意識を持っている。
体は男、心は女である準とは、なぜか話が合うらしい。
和気藹々、そんな言葉が似合うかのように二人は会話で盛り上がっていたが、こうしていても埒が明かないな。
俺はとりあえず準に先を促すことにした。


「はぁ……準、話し込むのもいいが、疲れることは早めに終わらしておきたいんだが」
「あ、それもそうね。それじゃあ行きましょうか」
「……はぁ」


先を促したのはいいものの、やはり気は乗らないな。
まぁ、仕方が無いのかも知れないが……




















「…………」
「なによ、元気ないわねー」
「当たり前だ、あんな戦場に二時間も付き合わせやがって……」


バレンタイン……それは女の聖なる戦場である。
血で血を洗うが如く、目的に向かって我先にと自分の腕を掴み、その栄光を手に入れるために、女達は修羅となる。
その混沌とした空間に存在する、例外を一名除いたただ一人の男。
俺にとって、それは考えられないほどの苦痛となった。
トラウマにならなければ良いんだが……すでに、手遅れな気もするが。


「ん……?」
「どうしたの?」
「いや、何か聞こえた気がしたんだけど……」


俺は、何か聞こえたという方向を見ると、そこには公園があった。


「ここからか……?」


その方向に体を向けたとき、今度こそはっきりと、俺の耳にそれが聞こえてきた。


「返してよぅ!」


声の方向を確認し、俺たちが見たものは、一人の少女を数人の少年がいじめているところだった。


「ちょっと……あれ、ひどくない?」


準がそう俺に声をかけてくるが、準に対して反応を返す事無く、自分の相棒であるマジックワンドに声をかけた。


「……ティア」
「お心のままに、マスター」
「相手は子供だからね、手加減忘れちゃだめよ?」


準は、そんな俺に苦笑しながらも、しっかりと釘を刺して俺を送り出した。


「あぁ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」


俺が、近付こうとしている間にも、少年達は少女をからかい続けていた。


「だれにやるんだよ、いったら返してやるよ」
「やめてぇ!」
「ほら、ケンジ、パース!」
「オーライ!」


少年達の手によって、宙を舞う小箱。


「そこまでにしたら?」


そんな少年達の元にたどり着く前に、一人の女の子が先に子供達に声をかけていた。
そして、唐突に襲い掛かった過去の記憶の傍流。
俺は、抗う間もなく、その記憶の傍流に飲み込まれた。
























      〜 あとがき 〜


と、いうわけで第2話?をお送りしました。
はぴねす!の二次創作Magic Word of Hapiness!、勝手に略してまじはぴ。
あ、この呼び方でいいや。
んじゃまぁ、そういうわけで、ちまちま前進させていただきましょう。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨  2007/09/09