そんな少年達の元にたどり着く前に、一人の女の子が先に子供達に声をかけていた。
そして、唐突に襲い掛かった過去の記憶の傍流。
俺は、抗う間もなく、その記憶の傍流に飲み込まれた。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















幼い頃から、俺は魔法が使えた。
母さんが驚くくらい、俺は保有魔力量が高く、そして制御する力を持っていたらしい。
そして、母さんが褒めてくれるのが嬉しく、それが俺の誇りだった。
だが、それが原因で起こしてしまった事件を、俺は今まで忘れたことが無い。


「♪」


その日、幼い頃の俺は、天気のよさに誘われるがまま、散歩に出掛けた。
そして、いつもの散歩コースである公園に辿りつくと、その光景に出会った。
それは、同じ年代くらいの少年達が、一人の少女に意地悪なことをしている光景だった。


「やめろーー!!」


特に、何を考えたというわけでもない。
ただ、俺はそうしなきゃいけないという思いに導かれるまま、いじめられている女の子を背に、少年達の間に割って入った。


「なんで、こんなことしてるんだよ!」


そう声を張り上げる俺に、一瞬きょとんとした顔を見せた少年達は、すぐに表情をからかいのものに変えると、一斉にはやし立ててきた。


「こいつ、女をかばってるぜ!」
「きっとできてるんだろ!」
「あついねぇ、ラブラブだなっ!」


言われたことを幼いながらも理解した俺は、頬が赤くなるのを自覚していた。
だけど、それを出来る限り我慢して、また声を張り上げた。


「これいじょう、この子をいじめるなっ!」


そういうと、少年達のからかいは止まり、代わりにリーダー格のような少年が前に出てきて言い放った。


「うるせぇ、かんけいのないやつはひっこんでろよ!そいつは生意気だから、今から俺たちでおしおきしてやろうと思っただけだ!」


そうだそうだ!と、周りの少年達が騒ぎ出した。
そして、それと同時に、俺の心の中に、怒りという負の感情が爆発的に膨らむのを感じた。


「なんだよその目は、いいかよく聞けよ、俺のしんせきにはまほうつかいがたくさんいるんだ!おまえなんてかんたんにやっつけられるんだからな!」


その頃の俺は、母さんから魔法は人を幸せにするためにあると教えてもらっていた。
それなのに、この少年達は、自分達の力と錯覚し、それで人を脅すという最も許せない行為に出た。
その言葉で、俺は我慢の限界を向かえた。
そして、俺は……使ってしまった。
本当の怖さというものを知らない少年達に、本当に怖いことを知らなかった俺が。


「エル・アムダルト・リ・エルス……」


気づいた時には、少年達の姿は、すでになかった。
だが、周りの光景を見たとき、俺の心は凍りついたのではないかという錯覚を受けた。
樹木はへし折れ、地面は何かの爪のように穿たれた、その光景を見て。
そして、俺は魔法というものに恐怖した。


「あ……あぁ……」


こんな恐ろしい力が、自分の中には眠っていると。
そして、それは俺の意識次第で牙を剥き、誰彼構わずにその牙で傷つけるということを。
自分という存在に恐怖した俺は、震えが止まらなくなり、歯も上手く合わさらずカチカチと無様な音を立てていた。
しかし、恐怖に襲われる俺の手を小さくも暖かいモノが、包み込んでくれる感覚を感じた。


「……ぁ」
「…………」


それは、俺が助けた少女だった。
それと同時に、俺はまた恐怖に襲われた。
下手をすれば俺はこの少女を傷つけていたのではないかと。
そう考えて、また震えが酷くなった。


「ありがとう」


一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと思った。
少女は、俺の手をしっかりと握り、笑顔を浮かべて俺に「ありがとう」と言った。
怪我をさせてしまうかも知れなかった俺に向かって。
そのおかげで、幾分か落ち着いた俺は、少女に向かって掠れる声で、問いかけた。


「君は……僕が怖くないの?」
「うん、こわくないよ」
「……どうして、僕は君を傷つけてしまうかもしれなかったのに」
「ほんとうはね、こわかったよ……でも、やさしくてあったかい感じがしたから、だから、だいじょうぶ」


そう言い、また少女は微笑んだ。
そして、俺は唐突に理解した……いや、幼いながらも、きっと知っていたんだろう。
魔法は確かに人を幸せにすることができる、だけどその反面、人を傷つけることもできてしまう。
自分が望んだことは何か……?
人を幸せにするために魔法を使うことじゃないのか?


「みんながこわいっていっても、私はだいじょうぶ、君をこわいって思わないよ」
「…………」
「あ、そうだ!ねぇ、これをあげる!!」


そういって、少女はつけていた髪のヘアピンを一つ外すと、俺の手に持たせた。


「たすけてもらったお礼と、私が君を怖がらないって言うあかし!」


雫のような、澄んだ色をした宝石のついたヘアピン。
それを渡された俺は、心が温かくなったかのように感じた。
そして、同時に自分に対して誓いを立てた。

















―――――僕は、みんなを幸せにできるまほうつかいになるよ!
















それから年を重ね、今も俺は夢に向かって進んでいる。
貰ったヘアピンは、長い年月を過ごしたこともあり、俺の誓いの証として、マジックワンドのティアとして生まれ変わった。
そして、その時、俺にはもう一つの目標ができた。
それは……


(随分と、昔のことを思い出したな……いまだ、あの子には会えてないけど……)


そう、俺のもう一つの目標は、ヘアピンをくれた少女に再会すること。
あの時、俺の心を助けてくれたお礼と、ヘアピンを勝手にマジックワンドにしてしまったことを詫びる為に。


「女の子に意地悪するなんて、最低の男の子のすることよ」
「なんだよ、おまえ」
「返してあげて、お姉ちゃんからもお願い」


声をかけた女の子は、一生懸命子供達を諭そうとしているが、子供達は聞く耳を持つこともなく、ただ邪険に女の子に何かを言っていた。
少女は、どうすることもできず、大粒の涙を瞳に溜めて、ただ一連のやり取りを見ていることしかできなくなっていた。


「あれ、春姫ちゃんじゃない?」
「……準、知ってるのか?」
「雄真も知ってるでしょ、瑞穂坂学園のアイドル『神坂 春姫』ちゃん」
「あぁ、彼女がそうなのか」


瑞穂坂学園とは、俺たちが通っている高校である。
普通科と魔法科という二つの科に分けられた学校で、ハチが言うには、その中でも魔法科は美人ぞろいと評判であり、それに釣られるかのように普通科、魔法科ともども絶大な競争率を誇っている学園である、らしい。
そして、その学園の中でも知らないものは、ほぼいないだろうというくらい有名なのが、件の人物、『神坂 春姫』だ。
魔法科ナンバーワンという能力の持ち主で、それだけではなく、容姿端麗、成績優秀、品行方正という、究極的な好印象を持たれている人物、そう俺は記憶していた。
そして、もう一つ。


(彼女が、噂の母さんの生徒か……)
「うるさいな〜!かんけいのないやつはひっこんでろよ!たかしっ!!」
「え……あっ!!」


痺れを切らした少年が、小箱を別の少年に投げたが、唐突なことで、反応に遅れた少年は小箱を掴み損ねてしまった。
このままでは、小箱は無残にも地面に落ち、中身ごとダメになってしまうだろう。


「よっと」


だけど、それはこの場に俺がいない場合の結末だ。
少年の手からこぼれた小箱は、しっかりと俺の手の中に収まっている。


「こーら、坊主ども、女の子は大切にしないとダメだぞ?」


キャッチした小箱を少年達が届かない肩のあたりで持って、少年達をあやすかのようにした優しい口調で少年達に注意した。


「っ!」


自分達の不利を本能的に悟ったのだろう、少年達は示し合わせたかのように一斉にその場を逃げ出そうとした。


「……甘いな、ティア」
「はい、マスター。 ディ・ルテ・アストリアウス」


だが、それも失敗に終わった。
俺の指示により、魔法を発動させたティアによって、少年達の体は浮き上がり、少女の前まで引き戻された。


「ま、まほうつかいだっ!」
「ほら、悪いことしたら、逃げる前にしなきゃいけないことがあるだろ?」


少しだけ、威圧感を出して少年達に言った。
少年達は俺のその威圧感に怯えたのか、小さな声で口々に、謝罪の言葉を少女に向けて言った。
うん、素直なのはいいことだ。


「よし、もうこんなことするんじゃないぞ?次やったら、俺よりもこわーい人が君達に説教しにくるんだからな?」


そう言って、少々乱暴に少年達の頭を撫でると、ティアに命じて魔法を解除させた。


「ほら、少年は少年らしく、健康的に遊んで来い」


言うが早いか、はたまた俺に怯えたからか、少年達は後ろを振り向く事無く走っていった。
その少年達に、苦笑しつつも、その前にやるべきことがあると頭を切り替えて、大粒の涙を浮かべていた少女に向き直った。
そして、地面に膝をつけ、少女と同じくらいの目線まで体を下げて、優しい表情でゆっくりと話してやる。


「もう、大丈夫だよ」


優しく頭を撫でながら、小箱を少女の手に乗せようとした。
だが、その瞬間、俺は小箱の中身の状態に気づいてしまった。
気づいたというのは正しくないな。
小箱の状態をこっそりと確認していた俺は、小箱の中から何かがぶつかり合うような音を聞き取ってしまった。


「あぁ……くそ、乱暴に投げられたから中で割れちゃってるな……」


声に出してしまい、はっとして口を閉じたが、少女の耳にはしっかりと聞こえてしまったようだ。
少女は再び、瞳に涙を溜めてしまっていた。


「ねぇ、ちょっとだけそれ、お姉ちゃんに貸してもらってもいいかな?」
「え?」


どうしたものか、そう考えていると、隣から声が飛んできた。
そっちを見てみると、神坂さんが俺の隣で、同じように少女に目線を合わせるようにしゃがんでいた。
そして、優しく少女に問いかけると、小さくだが、少女は首を縦に振った。


「お姉ちゃんが、この小箱におまじないをかけてあげる」
「……おまじない?」
「そう、おまじない」


小箱を受け取った神坂さんは、両手で包み取るように持つと、静かに呟いた。


「ソプラノ……」


ゆっくりと、神坂さんの持っていた杖が空中に静かに浮かび上がった。


「エル・アムダルト・リ・エルス……」


神坂さんの呪文と共に、小箱の周りにぽっと淡い光が生み出され、小箱を包んでいく。


(……すごいな、魔力量も魔法式も申し分ない)
(総魔力量はマスターが上ですが……やはり制御では差が目立ちますね……)
「ディ・アムンマルサス……」


淡い光は光量を増していき、ついには小箱が一瞬光に消えたかに見えた。
しかしそれは本当に一瞬で、次の瞬間には小箱は元通りの形のまま、神坂さんの手の中にあった。


(ティア、解析準備)
(了解しました、マスター。……ディ・シルフィス)


念話のようなものでティアとの意識を共有し、ティアに小箱の中を解析するように頼んだ。
そして、その結果に驚くことになった。


(完全に、復元されたのか……)


小箱の中身がどうなっていたのか、そしてそれの元の形がどんなものであったかわからない俺には、それを直すことができなかった。
当然だろう、原形を知らないものを修復することは、誰であろうとも不可能だからだ。
それなのに、今俺の目の前にいる神坂さんは、それをいとも簡単にやってしまった。
それは、俺が驚愕するのには十分な理由だった。


「はい、これで、大丈夫よ」
「わぁ……!」


小箱を受け取った少女は、瞳を輝かせて、しっかりと小箱を神坂さんから受け取った。


「好きな子にあげるの?」
「……うん」
「そう……その想い、大切にしてね」
「ありがとう、お姉ちゃん、おにいちゃんも!」


そう言って少女は走り去っていった。


「あんまり走って転ぶなよ!」
「うんっ!」


元気よく手を振っている少女に向かって、小さく手を振り返していると、唐突に俺の肩に重みが走った。


「お疲れ様、雄真」
「……今までのより、今のお前の対応に疲れたよ」
「まぁ、ひどぉい!」


いつも通りの軽口でのんびりと準と話す。
ついつい、俺たちは忘れてしまっていた。
この場には、もう一人の存在があったことを。
























      〜 あとがき 〜


まじはぴの第3話でしたー。
ぶっちゃけると、あとがき考えるの大変なんで飛ばしちゃいます。
すいませんorz



          それでは、このへんで。


                          From 時雨  2007/09/15