いつも通りの軽口でのんびりと準と話す。 ついつい、俺たちは忘れてしまっていた。 この場には、もう一人の存在があったことを。 二次創作 はぴねす! Magic Word of Happiness! 「あ、あの……」 「ん、あぁ、悪い。えーっと、神坂さん……で、いいのかな?」 おずおずとかけられた声に、改めてその存在を思い出した俺が、まず声を返した。 ただ、名前を呼んだだけなのに、神坂さんは過剰ともいえる反応を示して、何か焦ったように言葉を捜しているようだった。 「あ、はい、はじめまして、神坂春姫です」 「始めまして、小日向雄真です、よろしく。そして、こっちが……」 「渡良瀬準でーす、よろしくね、春姫ちゃん!」 「えっと、小日向君に渡良瀬さん……?」 確認するかのように名前を呼ばれたので、首を縦に振ることで肯定を表した。 一方の準は、渡良瀬と呼ばれた瞬間、何かを思いついたような顔をした。 あぁ、これは何かを企んでいるときの顔だ…… 付き合いが長い俺にはよくわかる。 「準でいいわよぅ、春姫ちゃん」 「はい、じゃぁ、準さんですね」 「で、神坂さん。何か用でもあったのか?」 とりあえず準のことは置いておいて、今、俺が神坂さんに呼ばれることに、思い当たる節の無いかを考えていた。 そして、結局何も浮かばなかったので、神坂さんにそう問いかけることにした。 すると、神坂さんは数瞬悩んだ表情になったが、すぐに表情を改めると、真剣な顔になり、俺のことをじっと見つめた。 (……果たして、俺は睨まれるようなことをしただろうか?) あまりにも真剣すぎて、ついつい思考がそれてしまったらしい。 しかし、あまりにも俺たちを見る目が真剣すぎて、何もしていないはずなのに悪いことをした気になるんだから不思議なものだ。 「あの、ですね。小日向君も、魔法使い……なんですか?」 「うん、そうだよ」 「雄真はね、魔法が使えるのに普通科に進んだ変り種なの」 俺の台詞を補完するかのように、準がそう言葉を付け加えた。 そんな準を見て、苦笑を浮かべたが、俺はまた新たに言葉を付け加えた。 「正確にいうと、世間での俺は魔法は使えないっていうことにしてあるんだ」 だから、黙っていてもらえると助かる。といって神坂さんに向かって頭を下げた。 頭を下げられた本人は、唐突な俺の行動に慌てて、頭を上げてくれるように言っていた。 「ぜ、絶対言ったりしませんから、顔をあげてください」 「そうか……助かるよ」 そう言ってとりあえずは大丈夫か、と安堵の表情を浮かべたが、何故か神坂さんは、一瞬呆けたような顔をして、すぐに顔を振ると再び雄真に質問を始めた。 「さっき、呪文の詠唱が少しだけ聞こえたんです……」 (やっぱり、そのことか……) 正直、あまり聞かれたいとは思わないところだったが、やはり本人からしたら気になるのだろう。 「まぁ、聞きたい事は予想がつくんだけど、俺の呪文と神坂さんの呪文がほぼ同じってことだろ?」 「……その通りです」 通常、魔法の呪文というものは子々孫々に引き継がれていく。 故に親と子の詠唱が同じということは良くあるが、他人と詠唱が同じということはほぼ確実にない。 何故なら、呪文とは一種の魔法式であり、それぞれの人が持つ魔法式を言葉として発するのが魔法の呪文だからだ。 俺や神坂さんのように、魔法の呪文が偶然、ほぼ全て同じということはあり得ないのである。 (まぁ、俺は一応理由は知っているんだけどな……) 確かに、俺は独学での魔法の勉強が多かったが、音羽かーさんの家に預けられてからも、母さんには会いに行っては魔法についていろいろと教わっていたからだ。 その時に、新しく生徒を取ったということ、母さんや俺が使っている魔法を基盤として教えたということも聞いていた。 「あ、それは私も聞きたい」 「……そうだな、悪いけど、今はまだ秘密にしておくよ」 俺は、少しだけ考えたような表情を見せると、元の表情に戻して、そう言うことにした。 その答えに納得しかねたような神坂さんは、もう一度聞いてみようと口を開こうとしたが、それより先に俺は口を開いた。 「俺には、二つの目標があるんだ、その片方が達成できるまでは誰にも魔法のことを言うつもりはないんだ……」 俺のその表情を見て、神坂さんはそれ以上言葉を続けることはなかった。 何故なら、そこにある俺の表情は、強い決意を表していたから。 そんな表情ができる人が、そう簡単に自分で言ったことを覆すことはないだろうと、悟ってくれたんだろう。 「……わかり、ました……いつか聞かせてもらえますか?」 「そうだね、片方の目標がいつ達成できるかわからないけど、そのときは必ず」 「もちろん、その時は私もよね、雄真?」 「あぁ、わかってるよ、準」 まだ何か聞きたいことがありそうな神坂さんだが、俺としても、これ以上聞かれたとしても魔法関連については答える気はない。 だが、そう言っただけで納得してもらえるか? そんなことが頭に浮かんできたが、今回の運は、どうやら俺にに味方したようである。 「春姫―!ここにいたの?」 「あ、杏璃ちゃん」 「もー、探したのよ!唐突にいなくなるんだから!」 声の聞こえた方向に目を向けると、そこには、金髪をツインテールにした、美少女が片手を振り上げて駈けて来ていた。 と、いうか……神坂さんといい、今来た子といい二人とも雑誌に載りそうなくらい可愛いなぁ…… 「でもまぁ、春姫に負けないようなチョコレートを買えたわよ!」 「あ、あはは」 さて、とりあえずどうしたもんか…… 二人が話し始めたのを見て、俺はどうしていいか、情けないが分からなくなった。 「ね、雄真、そろそろ行きましょ?」 「あ、あぁそうだな……それじゃぁ、神坂さん俺たちはこれで」 三十六系逃げるに如かず。 ……いや、違う、俺は逃げるんじゃない、あくまで。 「……あ」 「それじゃ、また機会があれば」 準に引き摺られる俺、杏璃という少女に引っ張られる神坂さん。 そんな珍妙な光景を生み出すようなペア二組は、別れた。 「ただいまー」 「あ、雄真くん、おかえり〜」 「ただいま、かーさん」 あれから、適当に準と別れ、帰宅した俺を、なぜかかーさんが少しばかり慌てた様子で出迎えてくれた。 「あぁ、疲れた……なんか飲もうかな……」 「雄真くん、すとーっぷ!!」 「な、なんだよかーさん?」 「ダメっ!今日は諸事情により、ダイニングに立ち入り禁止なの!」 ……なんでさ? あぁ、しまったこれは俺の言葉じゃない。 「ところで、どういうこと?」 「夕ご飯は後でお部屋に持っていくから」 「いや、喉乾いてるんだけど……」 「それも後で持っていってあげる!」 「…………」 この状態のかーさんには、何を言っても通じないという経験則が働いて、さらになにやらこのまま押し問答しているといろいろとピンチが発生するような直感があった。 だからだろうか、俺が素直にかーさんの言うことを聞いたのは。 「懸命な判断だったと思います、マスター」 「いやぁ、あそこまで隠されると、俺としては気になるんだけどな」 「恐らく、あのまま押し問答を続けた場合、マスターの夕飯に影響があったかと思われます」 ……どうやら、俺の直感も捨てたものってわけじゃないらしい。 そう心の中で愚痴を言いながら、カフス状態だったティアをマジックロッドの状態に戻し、机に立てかけると、俺は大きく伸びをしてベッドの上に横になった。 「まぁいいや、とりあえず夕飯持ってきてくれるっていうし、今日は疲れた……軽く、寝よう……」 「お疲れ様でした、マスター、ごゆっくりお休みください」 ピリリリッ ピリリリッ 「ん……朝……って、しまったっ!!」 準に付き合わされた昨日のチョコレート戦争…… その結果、俺に多大な心労を与えたせいで、俺は普段の夜の魔法練習をやらないであのまま眠ってしまったらしい。 ……くそう、日々の弛まぬ努力が魔法の力になるっていうのに。 「おはようございます、マスター」 「あぁ、おはよう、ティア。だが、起こしてくれてもいいだろう?」 そういうと、机に立てかけておいた自分の相棒、ティアに軽く文句を言って見ると、ティアは申し訳なさそうな雰囲気を見せ、すいません、と小さく謝ってくれた。 「まぁ……すぎたことを悔いても仕方がないか」 「それで、マスター。早速で申し訳ありませんが、少々居間の状況が宜しくありません、早急なる対処をお願いします」 ……居間の状態、どういうことだ? とりあえず、見てみるか…… 手早く学校への支度を済ませ、ティアを再びカフス状態にすると、居間へと降りることにした。 From 時雨 2007/09/17 |