……居間の状態、どういうことだ?
とりあえず、見てみるか……
手早く学校への支度を済ませ、ティアを再びカフス状態にすると、居間へと降りることにした。



















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















普段どおりならば、平和な我が家のダイニングが顔を覗かせる空間も、今やなんと例えればいいのか……
まず、最初に俺の五感が感じ取ったもの、それは圧倒的なまでの匂い!
これは……ブランデーあたりか?


「あー、兄さんだー」
「……すもも……か?」
「すもも様?」


ふらふらと、台所から現れたのは愛すべき我がシスター、すももだった。
だが、様子がどうにもおかしい……
顔を赤くして、ふらふらと歩き、若干呂律が回っていないようにも見えたが……


「おはようございますー」
「あぁ……おはよう……って!」
「ごろごろ〜」


ふらふらとそのままこっちに歩いてきたかと思えば、俺に抱き着いてきてそのまま匂いまでかぎ始めた。
まさか、すもも……新たな性癖に目覚めたのか!


「……って、んなバカなこと考えてる暇はねぇな」
「その通りかと……」
「えへへ〜、兄さんの匂いがします〜」
「すもも、兄さんの質問にゆっくりでいいから答えなさい……一体、何してたんだ?」
「ちょこれーと、作ってました〜」


よくわかった……というか、大体把握した……
恐らくこういうことだろう。
昨日の夜からダイニングを独占していたのは、全てはこのためだったということ。
そして、試行錯誤の末、作るものが決まった。
それを作っていたら、この惨状に結びつき、今なお顔を見せないかーさんは逃げたと……


「で、チョコはいいんだが、なんのチョコ作ってたんだよ。大体、ここまで酒臭くなるなんて……」
「……マスター、その予想は正しいかと思われます」
「ちょこれーとぼんぼんを作ってたんですよ〜」


説明しよう!
チョコレートボンボンとは、チョコの中に酒などを入れた大人向けのチョコレートである!
……って、これもまたこんなことしている場合じゃないってな。


「で、作ったのはいいが、上手くいかなくてそれを食べて処理してたら今に至る……か」
「兄さんすごいです〜、その通りなんですよ〜正解した兄さんには、はい、はっぴ〜ばれんたいんですよ〜」


そういってすももは、綺麗にラッピングされた箱を俺にくれた。
……よく、こんな状態でこんなにも綺麗にラッピングできるもんだな……


「まぁ、ありがとうな、すもも」
「特別サービスです〜、兄さんには、私が食べさせてあげますね〜」


そういうと、ラッピングされた箱を自分であけて、おもむろに1つのチョコを取り出すと、自分で加えて俺の方にその口を向けた。


「どうぞ、兄さん〜」
「……俺に、どうしろと?」
「ま、マスター、私は見ておりませんので、ど、どうぞご自身の赴くままに!」
「ティア、そんな気遣いは、いらない」


どうにも、俺の相棒は線が一本か二本抜け落ちているんじゃないかと思うときがある。
普段は、とても頼りになるんだが、どうにもこういう状況に陥ると、暴走するというかなんというか……


「……はぁ、かーさんには後で追及するとして……」


このままじゃ、一向に拉致があかないと判断した俺はとりあえず、いまだ口にチョコを咥え迫り来るすももを抑えると、自分の知識の中にある、ある魔法を展開した。


「ディ・ルテ・ルシア・エルフ」
「ふぇ……」


暴徒……まぁ、大抵ハチなんだが、鎮圧用に開発したオリジナルの魔法。
どんなに暴れ狂う奴でも、一発で眠らせるというある意味最強じゃないかと思える魔法だ。


「すぅ……すぅ……」
「やれやれ、手のかかる妹だよ、本当に……」


眠ったすももをゆっくりとソファーに横たえ、風邪を引かないようにかけ布団をかけておく。
ついでに、学校へすももは体調不良で今日は休むという旨を伝えて、俺は朝飯も食べる余裕もなく、学校へと行くことにした。


「申し訳ありません、マスター。取り乱しまして……」
「お前も、微妙に抜けてるんだよなぁ……」
「あ、マスター、何も摂取せずに行かれるのは体調的にもよろしくないと判断致します、せめて、すもも様がお作りになったチョコを食べていかれるのはどうかと」


確かに、何も食わないで行くのは俺もつらいから遠慮したいところではあるんだが……


「だけど、これ酒入ってるぞ?」
「恐らく、台所に行けば、お酒の混入されていない通常のチョコレートがあるかと思われます」
「あぁ……そうか、探してみよう」


結局、辛うじて無事だったチョコを発見し、食パンならぬチョコを加えて俺は爆走するハメになった。
……しょうがないだろう、探してる間に時間がかなり押し迫っていたんだから。


「セーフッ!!」
(本当に、ぎりぎりでしたね)


学校では、俺は魔法が使えない一学生ということにしているから、公にティアと会話することはできない。
だからこそ、ティアにはカフス状態で、さらに念話を使ってもらっている。


「よう、雄真、今日はまた、どうしてぎりぎりに来たじゃないか」
「……うるさい、ハチ」
「今日はバレンタインだぞ!男の真価が問われる重大イベントの日じゃないか!」


熱くなっているこの男……名を高溝八輔、こんなんでも俺の親友だったりする。


「あぁ……俺はもうパス、めんどくさい」
「かぁ〜そのやる気のない台詞はなんだよ!!」
「知らん」


今だ、あーだこーだ、そーだどーだとうるさいハチは放っておいて、俺は机にたどり着くとぐったりと身体を机に預けた。


「それはそうと、お兄様。すももちゃんから俺に預かっているものはないかね?」
「はぁ?」
「もったいぶらずに出したまえよ、ほら」
(恐らく、すもも様よりのチョコレートはないのか、と聞きたいのだと思われますが)


何を言ってるんだこいつは。
なにやら今だ熱く叫んだり、かと思えば、唐突に妄想の世界に旅立ったり、相変わらず忙しい奴だなぁ……
第一、すももの朝の状態はあんなんだったからな……
例え、世界が何かの間違いでハチにチョコを用意していたとしても、あの状態じゃ預かることなんて出来ないさ。


「ところでハチ、今の戦果は?」
「ふ、聞くだけ野暮ってもんだろう?」
「あぁ、それは悪かったな、聞くまでもないよな、お前なら」
(まぁ、通常通り考えて、取得無しと考えるのが妥当ですよね)


何気に、お前も酷いこと言ってるんだよなぁ、ティア……
時々俺より毒舌になっているときがないか?


「ぢぐじょう!まだだ、まだ昼の天王山が残ってるんだぁ!!」
「はいはい」
(マスター、背後より準様が接近中です)


まぁ、このまま付き合ってても、めんどくさいだけだしハチのことだ、どうせもうオチは決まっているしな。


「オチっていうなぁ!!」
「ゆ、う、まぁ〜」
「準、どうでもいいが、背後から気配を消して抱きついてくるのは二度と止めろ」
「でも、大抵雄真にはばれてるのよねぇ」


まぁ、ティアが常時俺の周りを警戒していてくれているからこそなんだけどな。
だけど、時々、こいつはどういうわけか気配遮断なんかを使ってくるから、気が抜けない。


「まぁまぁ、いいじゃない、ハイこれ、雄真にチョコレート」
「あぁ、毎年サンキューな」
「雄真にはもちろん、本命チョコだからねぇ」
「このやり取りも、毎年恒例だよなぁ……」


結局、俺がなぁなぁで準の言うことを流して終わるんだけどな。
俺と準が表面上和やかに会話していると、横から唐突に、ハチが吼えた。


「雄真!お前に男としての尊厳はもはやないのか!!」
「……これも、またお決まりなんだよなぁ……」
(マスターは、すでに数個のチョコレートを頂いていますから、ハチ様の気持ちは分かりづらいのかと)


すでに、準が男に見えないというのは周知の事実で、さらには下手な女子より美少女なもんだから、準からチョコをもらって心の補完をしている男子すらいるっていうのに、こいつときたら、毎年毎年、余計なことを言っては自分で自分の首を絞めてるんだよなぁ。
そう考えている俺に、ティアからなにやらよくわからないことを念話で言われてしまった。


「じゃ、ハチの分は無しでいいわよね?」
「え、あ、おう!男からのチョコなんて貰ってられるか!」


あぁ、そんな準を喜ばすだけの台詞なんか言っちゃって……


「……バカが」
(ハチ様……一言多いのですよ……)


結局、その後ハチは準からチョコを貰うことが出来ず、寂しそうな表情をしつつも、女子からのチョコを期待し、見事に玉砕していた。
……合掌。


「さーて、昼休みだなっと」


ハチが玉砕し、石化して風化しかける頃、授業は寸分の滞りもなく終了し、学生にとっての貴重な時間、昼飯時が訪れた。


「あら、雄真、今日はOasis?」
「あぁ、ちょっとかーさんに物申してこないとな」
「そ、いってらっしゃーい」


学内喫茶Oasis。
それは瑞穂坂学園が誇る、味よし、値段よし、出てくる速度よし、という理想的な三点を抑えている貴重な学生達の食事場である。
すももが不慮の事故により弁当を用意できなかったり、かーさんの計略により、俺はたびたびここに足を運ぶことになっている。


「さてと、かーさんはいつも通りかな?」


喫茶内にあるカウンター席、その一箇所に空きを見つけて、身体を滑り込ませる。
目の前には、まだピークではないのか、多少忙しそうにして入るが、まだ余裕を見せている目的の人物がいた。


「さぁ、かーさん。弁明があるのなら今のうちに、一言だけ聞いてあげるよ?」
「うっ、雄真くん……」


俺が、笑顔で一言問いかけると、かーさんはマズぃという顔をして逃げようとしたが。
そこはかーさんの仕事場だ、逃げる場所などなく、俺は刑を執行することにした。


「うん、猶予は与えたよな……酔っ払った娘を放置して逃げるなっ!!」
「ごめーん、雄真くんなら何とかしてくれると思ってー」


『みー』とでも擬音が聞こえてきそうな泣き真似をして、かーさんは俺に謝ってきた。
結局、かーさんが自分のした事を認めているということは、これ以上俺が責める必要性もないということで。
すももは多少二日酔いが残るかも知れないが、問題はないだろう。


「今度からは、出掛ける前にせめて俺に一声かけてくれよ?」
「ごめんねー、ほら、お詫びにサービスしちゃうから!」


そういって、かーさんは大盛りにさらにオマケが付いたA定食を俺の前においた。
俺が来るのを解っていて、先に作ってたな……?
まぁ、出された食べ物に罪は無い、ということで俺はしっかりとそれを平らげた。


(マスター、後方二十メートルより、高峰小雪様が接近中です、目的はマスターのようですが?)
「……小雪さんが?」


ティアの報告を受けて後ろを振り向いてみると、確かに、小雪さんが俺の方へ歩いてきていた。
だがしかし、これは一体どういうことか。
先ほどまでは人通りもそこそこあった喫茶内が、まるでモーゼの十戒の再現かのように分かれ、小雪さんの道を作っていた。


「こんにちは、雄真さん」
「どうも、お元気そうで、小雪さん。タマちゃんも」
「なんやー、あんさん、ワイはおまけでっかー?」


俺の挨拶が不満だったのか、小雪さんのマジックワンドのスフィア・タム。通称タマちゃんが不満の声を上げた。
タマちゃんもまた、ティアと同じく自意識を持った喋るマジックワンドである。


「そういうわけじゃないよ、今日も元気に丸いね」
「そら、ワテは毎日丸いでっせー、なんせ姉さんが懇切丁寧に作ってくれはるからなー」
「くすん、雄真さん、タマちゃんとばっかりお話していらっしゃいます」


俺とタマちゃんが他愛もない話をしていると、小雪さんが仲間はずれにされたのが寂しいのか、泣き真似をしてまで俺に突っ込みを入れてきた。
だが、俺の内心はそんなタマちゃんとの会話のように軽いものではなく、あたかも死刑宣告間近の囚人のようだった。
あぁ、平和に終わってくれれば……いいんだけど。
……無理だろうな。


(心中お察しいたします、マスター)
(言わないでくれ、余計辛い)






















                          From 時雨  2007/09/24