俺とタマちゃんが他愛もない話をしていると、小雪さんが仲間はずれにされたのが寂しいのか、泣き真似をしてまで俺に突っ込みを入れてきた。 だが、俺の内心はそんなタマちゃんとの会話のように軽いものではなく、あたかも死刑宣告間近の囚人のようだった。 あぁ、平和に終わってくれれば……いいんだけど。 ……無理だろうな。 (心中お察しいたします、マスター) (言わないでくれ、余計辛い) 二次創作 はぴねす! Magic Word of Happiness! 「それで、小雪さん、どうしたんですか?」 「あぁ、そうでした雄真さんにお渡ししたいものがあったんです」 そういうと、小雪さんは、深くなさそうに見えるエプロンのポケットに『深く』手をいれて何かを探しているようだった。 「ありました、じゃーん、これです」 「……それは?」 「今日は雄真さんに女難の相が見えましたので、厄除けのチョコレートです」 ……はぃ? 「こ、小雪さん、今なんて……?」 「ですから、厄除けにと」 俺の空耳だと信じたかった言葉は、無情にも…… にっこりスマイルで裏切られた。 あぁ……俺の命は今日で……終わったかもしれない 「あと、これは厄除けとは別に、私とたまちゃんからです」 「え?」 「チョコレート、お嫌いですか?」 そう可愛らしく小首を傾げられると、俺としては受け取らないわけにはいかないわけで…… それによって凶悪度が増す周りの視線には、魔法の修行で培った精神力で耐えるしかなかった。 「い、いえ。ありがとうございます」 「では、占いの続きがありますので、私はこれで」 「またなー、あんさんー」 この絶対零度ですら超えそうな空気を感じていないのか、小雪さんは元来た道を戻って、またいつもの占いスペースにもどって言った。 ……非常に、周りの目が痛い。 ここは、さっさと食べて、戦略的撤退をするしかない。 「ごちそうさま、それじゃぁかーさん、また」 「はーい、雄真君、いってらっしゃーい」 「雄真、帰りましょ」 「あぁ、そうだな……って、ハチはどうした?」 「昼の天王山っていうのに敗北して、『俺は、放課後に強い男なんだ』って言ってどっかに走って行ったわよ?」 ……あいつは、まぁ、いつも通り収穫無しだな。 今の状態でチョコなんてあいつに渡したら、勘違いが妄想になり、妄想を実現しようと血迷った行動に出るかもしれない。 そうなる前には、止めないとな。 「んじゃま、後から付いてくるだろうし、先に行くか」 「それもそうね、だってハチだもんね」 「あぁ、ハチだもんな」 そんな他愛もない話をしていると、ふいに何か、魔力の乱れのようなものを感じ取った。 「……準、下がれ」 ティアの周囲警戒にも引っかからないくらいのわずかな乱れ。 だが、俺は本能的に、その乱れを危険だと感じた。 「ん、どうしたの、雄真?」 「急げ!来るぞ!!」 (前方の窓より、暴走した魔力を感知しました!ターゲットは無差別!!) 「っ!無差別だと……!」 準を背後にかばい、いつでも対応できるようにしておく。 魔法は、使えない。 ここは普通科の教室棟の前だ、俺は魔法を使えないことになっているから、下手に魔法を使うのは得策じゃない。 「来たっ……」 「雄真!?」 まるで小さな台風のような魔力が、上空から、俺たちの方に向かって飛んできた。 「(ティア、簡易防御魔法展開、俺の前で足元に落としてレジスト)」 (しかし、それでは魔法は消せても、衝撃までは殺しきれませんが) 「(そのくらいの方が、リアリティがあるだろ?)」 (了解しました、防御魔法展開します。ルティア・ロル・ラディス) ティアは俺の指示したとおり、防御魔法を上手く使って、魔力弾を逸らして衝撃だけを残して魔法を消した。 「っ!」 「ちょっと、雄真、大丈夫!?」 「あぁ、大丈夫だ、一体、なんだったんだろうな?」 予想より魔力量が多かったのか、結構な衝撃が俺のところまで飛んできた。 その反動で、軽くしりもちをついてしまったが、身体には問題ない。 「(さんきゅーな、ティア)」 (いえ、ご無事で何よりです、マスター。前方より魔法科と思われる生徒二名が向かって来ています) 言われたほうを見ると、マジックワンドを背中につけた女生徒がこちらに向かって慌てて来ているのが見えた。 「あれが、あの魔法弾の原因ってことか……」 「あら……片方は春姫ちゃんじゃない?」 「え……?」 言われて、まだ少し遠くにいる二人をしっかり確認するため、視覚強化してみる。 片方は、本当に準が言ったとおり神坂さんだった。 もう片方も……前に見た人だな…… 「しかし準、良く見えたな?」 「あら、あたしは目はいいのよぉ、どこにいても雄真を見つけるために鍛えたんだから」 「……はいはい」 本気で言ってそうで怖いが、それはそれと割り切って話半分で流す。 そんな漫才みたいなことをしているうちに、当事者達が俺たちのすぐ傍まで来ていた。 「だ、大丈夫でしたか!?」 「ごめーん、魔法失敗しちゃったぁ……」 「あぁ、大丈夫だけど。なんで魔法科の魔法がこっちまで飛んでくるんだよ?」 迷惑がこっちにかかったのは事実で、そのことを言葉の裏に潜ませて聞いてみると、神坂さんの方がなぜか気まずそうな顔をし、金髪をツインテールにした生徒の方をちらちらと見ていた。 「それは……その……」 「ごめんなさい!あたしが魔法の制御に失敗しちゃったの!!」 ガバッ!っと擬音が聞こえてきそうな勢いで、ツインテールの生徒が頭を下げた。 見た目の性格的に、素直に謝るのかと失礼なことを考えていただけに、ちょっと予想外でびっくりしてしまった。 「……まぁいいよ、今回はこうして大して怪我もしてないんだし」 「本当にごめんなさい……」 「ま、雄真もこう言ってるんだし、気にしなくていいわよ、春姫ちゃん」 「あ、準さんに小日向君」 準がそう声をかけると、神坂さんは今気づいたのか、俺たちをみて驚いた顔をした。 どうやら、謝ることが優先されすぎていて、相手の顔までは頭に入っていなかったらしい。 「なによ、春姫、知り合い?」 「知り合いっていうか……」 「まぁ、前にちょっとしたことがあってね」 「はは〜ん……」 あえて言うことでもないと考えて、言葉を濁すと、どう受け取ったのか、金髪の子が背筋が寒くなるような顔をした。 この顔は、準がろくでもないことを企んでいるときと、感覚が良く似ている。 「ねぇ、あんた」 「ん、なんだ?」 「はい、これあげる!」 そう言ってて渡されたのは、今日は何度か目にしたものだった。 「……チョコ?」 「そ、魔法でのお詫びも込めてね。あたしの名前は柊杏璃、よろしくね」 なんていうか、底抜けに明るいというか、深く物事を考えていないような子だなぁ…… 「ほら、春姫」 「え?」 「え?じゃないわよ、昨日買いに行って、朝から持ってたチョコ、彼にあげるんでしょ?」 ……何の話をしているんだろうか。 準はなんとなく内容がつかめているのか、俺の隣でニヤニヤと笑っていた。 「あの、良かったらこれ、貰ってくれませんか?」 「……はぃ?」 「迷惑かけちゃった、お詫びってことで」 「…………」 さて、この場合受け取ってもいいものだろうか。 柊さんのとは違って、神坂さんが取り出したチョコは、しっかりラッピングされていて、誰か渡したい人がいたというような雰囲気がある。 「でも、これ、渡す人がいたんじゃ?」 「いいんです、どうせ渡せないってわかっていたやつですから」 「……でも」 俺が、どうしたものかと困っていると、後ろから助け舟が出された。 「雄真、貰ってあげなさいよ」 「……準」 「春姫ちゃんもこう言ってるんだし、第一、女の子から渡されたチョコを拒否するなんて、男として失格よ?」 言葉こそ、からかいが混ざっているが、ここは受け取っておいたほうが双方収まりがいいと、準の目が言っていた。 「……そう、だな。じゃぁありがたく頂くよ、ありがとう、神坂さん」 「いえ、それじゃぁ私達、行きますね。本当にごめんなさい」 「それじゃーねぇ」 神坂さんは、いまだ申し訳なさそうに、柊さんはもはや忘れているのかもしれない。 とてもじゃないが、対極な二人だなぁ。 「それじゃ、私達も行きましょ、雄真」 「あぁ、そうだな……」 「ゆ〜ぅ〜まぁ〜……」 「っ……ハチ?」 後ろから、気配もなく現れたのは、放課後の勝負に挑んでいたと思われるハチだった。 手ぶらな所をみると、どうやら今年も問題なく敗北してきたらしい。 「なんで……なんで、なんで!雄真だけチョコを貰っているんだああ!!」 「いや、何でって言われても……」 「小雪さんに、魔法科で、学園のアイドル姫ちゃん、同じく魔法科の杏璃ちゃん!!」 ……なんで知ってるんだ、こいつ。 その場にはいなかったはずなんだが…… 「俺にそのチョコをよこせえええ!!」 「うわ、落ち着けハチ!!」 「うがあああ!!」 その後、暴走するハチを宥めるのに時間を食われ、さらに帰宅した後、すももが俺の貰ったチョコを見つけ数時間にわたる説教を聞くハメになった。 「……俺が一体何をした」 「(ご愁傷様です、マスター)」 From 時雨 2007/10/28 |