その後、暴走するハチを宥めるのに時間を食われ、さらに帰宅した後、すももが俺の貰ったチョコを見つけ数時間にわたる説教を聞くハメになった。


「……俺が一体何をした」
「(ご愁傷様です、マスター)」



















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















草木も眠り、夜の蚊帳にすっかり包まれた深夜。
雄真たちが通う瑞穂坂学園、その魔法科構内に一つの影があった。


「……ほぅ、よく入り込めたものだな?」
「…………」


訂正しよう、影は一つではなく二つだった。
その影はお互い向かい合うと、片方が声をかけた。


「最初から、こうなることは運命だったのです」
「……運命か、して私の邪魔をするつもりか?」


片方の影は、威圧感を持ってもう片方に問いかけた。


「いいえ、私では貴女を止められそうにありませんから」
「ならば、大人しく退くがいい」
「……そうも、いきません」


だが、もう一方の影は、首を縦に振らなかった。
そして、自らの杖に手を伸ばした。


「ふぅ……無駄なことを」
「ですが、貴女には退いていただきます」
「何?」


そして、片方の影は、マントを翻し、杖を高く掲げた。


「タマちゃん!!」
「はぃなー!!」
「何っ!」


魔力の風が、校舎内を遠慮なく蹂躙する。
その込められた魔力量に、影は慌てたように顔色を変えた。


「馬鹿な、そんな力を使えばこの場がどうなるかわからないでもないであろう!」
「結果的にはこうなる運命ですから」
「くっ……この場は退こう……」


影は、身を翻し、闇の中へと消えて行こうとした。
そして、もう一方は、それに向かって溜めていた力を、遺憾なく発揮した。


「タマちゃん、GO!!」
「あぃあぃさー!!」


そして、その魔力の一撃は、魔法科校舎を吹き飛ばした。























「マスター、異常値とも言える魔力量を感知。方角は瑞穂坂学園です」
「……なんだよ、こんな夜中に……」


家でくつろいで漫画に偽装した魔法書を読みふけっていると、唐突にティアからそう報告が入った。
こんな時間に瑞穂坂学園から魔力反応……?
一体どこの誰がそんなことを……?


「とりあえず、行かないわけにはいかないよな……」
「マスターが、この現状を見逃せるとは思いませんが……」


ティアが苦笑混じりにそう言って来た。
確かに、聞いた以上俺としてはいかないとな。


「ティア、行くぞ」
「マスターのお心のままに」


軽装に着替えると、俺はティアに乗り、瑞穂坂学園へ向けて飛び立った。


「……なんなんだ、これ……?」


到着した瑞穂坂学園は、ものの見事に魔法科校舎がぶっ壊れていた。
それはもう、どこかのダイナマイト班が遠慮なくやったような勢いで。


「……うーん……この魔力反応は……小雪さんか?」


でも、なんで小雪さんがこんなことを?


「マスター、微量ですが、別の魔力反応がありますが……?」
「別の魔力反応……?」
「はい……このパターンは……式守かと」


式守……?
どっかで聞いた事があるような……
っていうか、ティアがそう言っている以上、一度は会った事があるってことか。
うーん、どこで聞いたんだっけ?


「雄真くん?」
「あれ……母さん」
「どうしたの、こんなところで?」


後ろから声をかけられて、そっちの方に振り向いたところ、そこには鈴莉母さんがいた。
心なしか、息が上がっているように見える。


「それはコッチの台詞だよ、ティアが何か異常を感知して、来て見ればこの有様だしね」
「……そう」


母さんは、何かを考えるような素振りを一瞬見せたが、すぐに意識を切り替えたのか、俺の方に向き直った。


「雄真くん、少し話があるのだけれど、これから時間はあるかしら……?」
「時間……?別にいいけど、ちょっと待ってて、音羽かーさんに連絡をいれておく」


とりあえず携帯で小日向家に電話すると、開口一番叫ばれた。


『ゆーまくん!どこに行ってるの!!』
「あぁ、ごめんごめん、ちょっとコンビニに行きたくね。そこで鈴莉母さんに会ったからちょっと時間かかってるだけだよ、ごめん」
『あら、鈴莉ちゃんがいるの?なら大丈夫ね』


何が大丈夫なんだろうか?
まぁ、音羽かーさんは、鈴莉母さんが魔法使いだっていうのを知っているからか。


「うん、それでもう少し話してから帰るよ、もしかしたら鈴莉母さんの家に泊まるかもしれないけど」
『そう、わかったわ、もし帰ってくるなら気をつけてね?』
「うん、わかったよ。それじゃ、おやすみ」


連絡を入れたことで、音羽かーさんは安心したんだろう。
予想よりもあっさりと、許可が下りた。


「これでよし、と。鈴莉母さんいいよ、どこで話す?」
「じゃぁ、私の研究室でいいかしら?一応泊まれるようにもなってるわ」
「おっけー、それじゃ行こうか」


それから俺と鈴莉母さんは、教員棟にある、母さんの研究室にやってきた。
ちゃんと、入る前にノックするのを忘れない。
これを忘れると、強制的に中庭の池にダイブさせられるからだ。


「あら、忘れてなかったのね?」
「流石にね、あんな思いは一度で十分だよ」
「ふふ、あの時は面白かったんだけどね」


勘弁してくれ……
さすがに二度もびしょびしょに濡れる趣味はない。


「それで、母さん、話って?」
「そうね……雄真くん、式守家を覚えているかしら?」


さっきも、ティアに式守の魔力反応がどうのって言われたけど……
どうにも記憶があやふやで思い出せない。
どこか懐かしいような記憶があるんだけど……


「うーん、覚えがあるようなないようなって所だね」
「そう……少しじっとしててね?エル・カルティエ・ティル・リアラ」


母さんが俺に向かって手をかざし、呪文を放つと、俺の中で曖昧だった部分がクリアになり、どんどん思い出として甦ってきた。
どうやら、今かけられた呪文は記憶を鮮明にする類のものだったらしい、覚えておこう。
そう考えているうちにも、どんどん式守についての記憶が甦ってきた。


「あぁ、覚えがあると思ったら……那津音さんの家の事か」
「えぇ……そして、今回の騒動に関わっているのは……那津音の妹の伊吹さん……」
「伊吹……?」


記憶の中から伊吹というキーワードに引っかかるモノを思い出す。
そして、出てきたのは小さな銀色の髪をした少女だった。


「あぁ……伊吹か……って、今回のアレに伊吹が!?」
「えぇ……そして、原因は……」
「原因は……?」


ゴクリと、唾を飲んで母さんの言葉の続きを待つ。
果たして、どんな理由で伊吹はここにやって来たのか。


「ま、これはまだ秘密にしておきましょう」
「…………」


そこまで引っ張っておいて、秘密はないと思う。
さすがに全身の力が一気に抜け落ちた感覚が、俺を襲った。


「鈴莉様……それはあんまりかと……」
「あら、ティア……元気だった?」
「えぇ、鈴莉様もお変わりないようで」
「母さん……なんで秘密なんだよ」


そう問いかけると、母さんは少し困ったように微笑んで、俺に優しく言い聞かせるかのように言った。


「今回のことは、できれば伊吹さん自身の口から聞いて欲しいの……そして、できれば雄真くんにはそれを止めて欲しい……」
「それなら、俺が先に聞いておいたほうがいいんじゃ?」


普通なら、俺の言っていることが正しいと思うだろう。
だけど、母さんはそれを良しとせず、首を横に振るだけだった。


「伊吹さんが今回、事を起こした原因に、少なからず私も関係しているわ……だからこそ、私にはそのことを口にする権利がないの……」


そう言った鈴莉母さんの目は、とてつもない悲しみを帯びているように見えた。
……仕方ない、母さんがそこまで言うのなら、俺は俺でなんとかするしかないか。


「わかったよ、俺の方で、なんとかやってみる」


母さんの期待にどこまで答えられるかは、わからないけれど。


「ごめんなさいね……」
「とりあえず、今後の母さんの活動の予定は?」


俺の方の活動指針は少なからず決まった。
だけど、いつでも母さんと連絡を取れるようにはしておいた方がいいだろう。


「そうね……とりあえずは魔法科の校舎の結界を直して、見回りかしら」
「見回りね……母さん一人でやるわけじゃなさそうだけど?」
「察しがよくなったわね、雄真くん」


見回りっていうのは、本来複数人でローテーションを組んで行ったりするのが普通だ。
それを母さん一人でカバーするとは考えられない。
となれば、誰か救援として手伝いが入る可能性がある。
これくらいは、多少話を深く理解できればすぐにわかる。


「それで、恐らくClassBで、母さんの弟子でもある神坂さんあたりかな……?」
「あら……本当に察しがよくなったわね」
「まぁ、いうなれば俺は神坂さんの兄弟子みたいなものだからね……」


恐らく、神坂さんと一緒にいた柊じゃ、もしもの時があった場合、対処しきれるとは思えない。
そうなった場合、ある程度の能力がある神坂さんが選ばれると考えるのは妥当の線だろう。
教員は最低でも見回りに自動的に混ざるから、最初から考慮の中には入れていない。


「それじゃぁ、俺は影ながら神坂さんの手伝いでもしていればいいのかな?」
「そう……ね、お願いできるかしら?」
「うん、問題ないと思うよ。ティアもいるし、式守への連絡はそんなに難しくはないだろうし」
「ありがとう、雄真くん」


そういって、母さんはようやく微笑みを見せてくれた。
やれやれ、少しばかりめんどくさいことになってきたかな?
でもまぁ、母さんの手伝いになるなら、まぁやってみよう。


「とりあえず、今日はもう遅いわ、泊まっていく?」
「うん、そうさせて貰うよ」


さすがにこれから戻るとなると、軽装すぎたので寒いかもしれない。
そう考えて明日の朝に帰ればいいかと開き直った俺は、母さんの申し出をありがたく受けることにした。


「久々に一緒に寝ましょうか?」
「……それは勘弁してください」


でも、さすがにこの年になって母親と一緒に寝るっていうのは、勘弁してください。


「マスター、照れてます?」
「断じて違う」
「あら、残念」


ほんと、勘弁してください。















From 時雨  2007/12/02