「マスター、照れてます?」 「断じて違う」 「あら、残念」 ほんと、勘弁してください。 二次創作 はぴねす! Magic Word of Happiness! 「ん、朝か……?」 「おはようございます」 一緒に寝よう、と再三言ってきた母さんには申し訳ないが、しっかり寝た場所は別々だ。 その時に拗ねられたような気がするのは気にしちゃいけない。 「おはよう、ティア。母さんは?」 とりあえず、いつも通り魔法の訓練でもしようかと思っていたからか、予想より早めに意識が覚醒した。 普段なら、こんな時くらいはいいかと睡眠を継続しているかもしれないんだけど。 「鈴莉様でしたら、すでに起きられてなにやら行われているようですが」 「そっか、それじゃぁ挨拶しなきゃな」 まだ母さんが眠っているのなら、そのままゆっくりと眠らせてあげようと思っていたが、起きているのなら挨拶するのに遠慮はいらないか。 とりあえず、母さんがいつの間にか用意していた寝間着から、着てきた服に着替える。 一応簡易魔法式を仕込んであるから、魔法服としても使えるっていう一品だったりする。 「最初にその魔法式を仕込んだときは、音羽かーさんにたっぷり説教されたんだよなぁ」 ――――ゆーまくん、服に変なものを仕込まないの!!ってね。 まぁ、今はなんとか俺の懇切丁寧な説得の甲斐もあり、絶対ダメと言われた服以外にはこっそり仕込んでいたりするんだけど。 「さて、ティア。母さんの所に案内頼むよ」 「了解しました、マスター」 マジックワンド状態のティアを持って、母さんがいるであろう方向へ、案内されて向かった。 「おはよう母さん、随分早いね」 「おはようございます、鈴莉様」 「あら、雄真君、ティアちゃん、おはよう」 ティアに案内された場所、そこにはすでにフィールドが張られており、内部に立ち入る事ができなかったが、声は問題なく届くので、その場から声をかけると、母さんはすでに気づいていたのか、そう返してくれた。 「良く眠れた?」 「おかげさまで、母さんは、魔法の練習……かな?」 「練習というよりは、新しい魔法式を作ってみたからの実験かしら?」 ちょっと興味があるなぁ、母さんの新しい魔法式…… 稀代の魔法使いと言われる鈴莉母さん。 母さんが作った新しい魔法式は、先人が作った概念を覆すような理論で組まれていたらしい。 「見ててもいいかな?俺も朝の訓練がしたいし」 「いいわよ、フィールドに穴を開けるから、入ってらっしゃい」 「お邪魔します」 「ついでだし、雄真君の今の実力を見せてもらおうかしら?」 「げ……まぁ、いいけどさ」 一応、俺が今使っている魔法式も母さんのヤツを主流として考えてはいるが、すでに それを母さんが見てくれるのなら、まぁ好都合といえば好都合なのかな? 教員職についてる母さんと手合わせする機会なんて少ないし。 「とりあえず、母さんが考えたっていう新しい魔法式が見てみたいんだけど」 「そうねぇ、じゃぁこうしましょう」 母さんが提案してきたのは、なかなかに過酷とも言えることだった。 つまるところ、母さんと模擬戦をし、その魔法式を使うくらいまでの実力を見せろということだ。 に、してもだ。 「実験なしで実戦に使おうとするあたり、自信の表れなのか、特に何も考えてないのか……」 「恐らく、前者であると思いたい所ですが……」 「俺もそうあって欲しい」 そんな危険なことはそうそうしない、と思っておこう。 「さぁ、雄真君。準備はいいかしら?」 「ま……せいぜい力を見ていただくとしましょうか。ティア、 「 ティアに補助の魔法式を起動してもらい、いつでも第一手を出せるようにしておく。 そして、俺自身も頭の中で、いつでも詠唱に移れるようにしておく。 「うん、油断も少なく、最初は合格かしら。それじゃぁ行くわよ。……エル・アダファルス」 たった二小節の魔法詠唱。 それだけのはずなのに、明らかに母さんが出した火球は威力が見て取れるような魔力を纏っていた。 うわー、あれ食らったらさすがに洒落にならないような気がするなぁ。 「ティア、相乗魔法式を起動!とりあえず真っ向から防ぐぞ!!」 「相乗魔法式、起動します。ディ・ナグラ・フォルティス」 「エル・アムダルト・リ・エルス・カルティエ・ディ・ラティル・アムレスト!!」 自分でも驚くくらいの速度で展開した防御魔法。 三つのリングが常に回転し、半円上の魔法障壁を形成した。 さらに、その魔法式にティアによる強化系の補助魔法を使い、万全とも取れる態勢で待ち構える。 「クッ……」 たった一つの火球のはずなのに、威力はとてつもなかった。 回転していたリングがすべて、その回転力を限界まで使い切っているのか、火球との間で耳障りな音を立てていた。 俺の魔法障壁が押されている……攻勢に出ないと、このままじゃ押し負ける。 「さすがに、辛いが……やるしかないか」 「それが雄真君の実力?」 母さんが、何気なくそう問いかけてくる。 その目は、俺の持てる力を総て見せてと言っているようだった。 なら、俺はその思いに答えて見せよう。 俺の精一杯の力を持って!! 「ティア、少しでいい、防御魔法の維持を任せた」 「了解しました、数十秒程度ですが、持ちこたえて見せます」 過去に実験というつもりでやった魔法式。 内容から言ってしまえば、ただ魔法式を多重起動するといったもの。 ただし、実際にはそう簡単なものではなく、呪文としての魔法の他に、限りなく短い詠唱でもう一つの魔法を使わなければいけないので、その分魔法式や使用魔法量も自然と増える。 前に使った後、ものの見事にぶっ倒れてすももや音羽かーさんに怒られた記憶がある。 「エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ・エルリシア・カルティエ……」 俺の詠唱で創られるのは母さんと同じ、シンプルな火球。 だけど、その中身は俺流のアレンジバージョン。 さぁ、行くぜ。 「ティア!防御魔法の展開角度修正、上に弾け!」 「ディ・アストゥム!」 俺の指示が出たと同時に、ぶつかり合っていた防御壁がズレ、母さんの放った火球は上へと反れた。 これで、母さんまでの道に障害はない! 「……フォン・クレイシア!!」 ゴウッと音を上げながら、バスケットボール大の火球が母さんに向かって飛んでいく。 これだけ終わりなら、きっと母さんに防御されて終わるだろう。 だけど、俺の……小日向雄真が今まで培ってきた魔法は、ここからだ! 「ディ・ダ・オル・アムギア」 すでに頭の中で詠唱を完了させ、ティアによって増幅しておいた魔法を四小節で開放する。 そして、薄い燐光を纏った俺の右腕を、思いっきり地面に叩き付けた。 「なるほど……攻勢魔法と妨害魔法を一度にやるのね」 母さんはまだ余裕があるのか、俺のやっている一挙一動に対して何かしらの反応を返してくれる。 「でも、まだまだ妨害魔法の精度が足りないわね、これじゃあ魔法使い相手ならすぐにレジストされちゃうわよ?」 実際、その通りなんだろう。 母さんに向かって延びたツタは、寸前の所で効力を失ったかのように消え去った。 くそ、無詠唱状態でレジストされるのか…… でも、まだ、俺の火球は威力を見せてない!! 「ディ・ラティル・アムレスト」 三小節の詠唱。 それだけで母さんの前には一目見て強固とわかる、光の壁が出現していた。 だけど、それは計算内のこと、俺の狙いはそれが創られてからだ。 「まだまだ! アス・ルーエント・ディ・アダファルス!!」 バスケットボール大だった火球が、俺の詠唱の完了と同時に、弾けた。 弾けたそれは、それぞれが野球ボール大にまで小さくなったが、母さんを全方位するくらいの量になっている。 これなら、前にだけ防御魔法を使っている母さんには防げないはず。 「ふふ、本当に成長したわね」 防げないはず、なのに母さんは微笑んでいた。 その微笑みは紛れもなく息子である俺の成長を喜んでいるんだろう。 そして、その瞬間、魔法使いとしての俺の思考は、敗北を悟っていた。 「それじゃぁ、見せてあげましょう。……エル・オ・ルダ・ディバス」 それは、一瞬だった。 何が起こったのか、俺自身も理解できずに、思考や反応が止まってしまった。 「マスター!!」 「っ!!」 そして、その一瞬は、大魔法使いである、鈴莉母さんの前では致命的だった。 「エル・アダファルス」 最後に認識できたのは、俺の腹にめり込むように突き刺さった火球だった。 「……っ……いたた!!」 うっすらと覚醒する意識の中、腹に感じた痛みで一気に目が覚めた。 「あら、雄真君起きた?」 「大丈夫ですか、マスター」 横から声がした。 その方向を見ると、ティアが、俺の横にあり、母さんはテーブルで優雅に何かを飲んでいた。 匂いから察するに、恐らくコーヒーだろう。 「魔法使いたるもの、思考を止めちゃダメよ、その一瞬が致命的な隙に繋がっちゃうんだから」 「そうだね……肝に銘じておくよ」 俺が寝ていたのは、どうやらソファーの上らしい。 とりあえず、起き上がったものの、まだ少し辛かったので、そのまま横になる。 「ところで、母さん、さっきのあの呪文は一体……?」 「それは、私としても気になります、鈴莉様」 あの時はわからなかったが、恐らくレジストされたか何かだったとは思う。 だけど、あの数の火球を一瞬で消せるとは思えなかった。 「あぁ、あれね。今回考えた魔法式にも繋がるんだけど、やっぱり魔法で全方位された場合、大抵の場合は防御魔法を使って防ぐって場合が多いわよね?」 「うん、他には避けたり、同程度の魔法をぶつけて相殺させるか……だよね?」 自分の機動性に自信があるやつは避けるし、防御魔法が苦手な人は相殺を狙う。 魔法を使ってる人ならすぐにわかる問題だ。 「その通り。それで、今回私が考えたのは、防いだりするんじゃなくて、文字通り消し去る魔法式を考えてみたのよ」 開いた口が閉まらないとは、今の俺みたいな状態を言うんだろう。 それだけ、母さんの言う理論っていうのはめちゃくちゃだった。 「それって、可能なの……?」 「可能だったみたいよ、雄真君のおかげでいい実験結果が取れたわ」 魔法を消すということは、すでに事象として発生したモノを、魔力に還元してしまうことに等しい。 火や電撃などの属性を纏った魔力を、元の無属性の魔力に還元するなんて、そうそうできるはずがない。 その考えを覆すようなことを、母さんはあっさりとやってのけたのだ。 「は、ははは……やっぱり壁は高いなぁ……」 「そのようですね……」 できるなら、母さんに一矢報いてみたかった。 だけど、それはもう暫くできそうにない。 「でも、雄真君の魔法もなかなかだったわよ、全方位配置なんてそう簡単に制御できるモノじゃないわ」 「ティアの協力があってこそ、だけどね」 「きょ、恐縮です、マスター」 その後、動くのに問題ない程度まで回復した俺は、母さんお手製の朝食を食べたあと、さっきの模擬戦でどこが甘いのかを時間の許す限り教えてもらった。 そして、学校へ行くための荷物を取りに、一度小日向家に戻った。 戻ってそうそう、音羽かーさんとすももによる小言が待っていたのは予想外だったが。 「もー、なんでゆーまくんは唐突に鈴莉ちゃんの所にいっちゃうのかしら!」 「兄さんはずるいです!お泊りだなんて羨ましいです!!」 どうやら、自分達も一緒に行きたかったらしい。 今度は、一緒に鈴莉母さんの所に行こうと約束させられたのは、言うまでもない。 From 時雨 2007/12/08 |