「もー、なんでゆーまくんは唐突に鈴莉ちゃんの所にいっちゃうのかしら!」
「兄さんはずるいです!お泊りだなんて羨ましいです!!」


どうやら、自分達も一緒に行きたかったらしい。
今度は、一緒に鈴莉母さんの所に行こうと約束させられたのは、言うまでもない。



















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















結局、学校に関しては春休みという形で休校になった。
まぁ、一部の人以外には原因不明の事件だからな……
休校にするのも不自然だから、強制的に春休みっていう形に落ち着けたんだろう。
でも、それはそれで好都合だ。
その間を利用して、魔法の特訓や、式守家への連絡をしてみよう。


「それじゃ、出かけてくるとしますか」


最初は……とりあえず式守家の方から当たってみようか。
上手く伊吹に連絡がつけばいいんだけど。
そう考えながら、携帯から式守家へ直通する番号を探す。
母さんから思い出させてもらうまで、この番号があったことすら忘れていた。


「確か、那津音さんに教えてもらったんだよなぁ……?」


曖昧になっている思い出を思い出そうとしつつ、電話をかける。
さて、誰が出てくるやら。


『はい』
「もしもし、鈴莉母さん……御薙鈴莉の息子の雄真ですが、伊吹はいますか?」
『……少々お待ちください』


少しの間をおいて、保留音が俺の耳に届いた。
さて、なんて切り出したものか……?


『お待たせしました。……申し訳ありませんが、伊吹様は現在外出されており、暫く帰宅する予定はございません』
「行き先は……教えてもらえないでしょうね」
『重ね重ね、申し訳ありません』
「わかりました」


ま、そう簡単に連絡がつくとは思っていなかったけどね。
それじゃぁどうしようかなぁ……とりあえず、学校の様子でも見に行こうか。
昼間と夜に見るんじゃ、違うものが見えてくるかもしれないし。
携帯をズボンの後ろポケットにしまい、俺は瑞穂坂学園への道を歩き始めた。


「……こりゃぁ、派手に壊れてるなぁ……」


夜も見たが、昼間見るとどの程度学校が壊れているのか、よくわかった。
確かにコレは休校にでもして、修復作業に当たらないと授業なんて落ち着いてできないだろうなぁ……
周りを見ると、考える事は同じなのか、野次馬に来たような人が大勢いた。
うーん、俺もそうだけど、大概みんな暇人だなぁ……


「ふん……行くぞ」
「はっ」


ふと、ざわついている空間の中で、それだけが耳に響くように入ってきた。
その聞き覚えがある声の方向に振り向くと、わずかにだがワインレッドのワンピースと、風になびく銀髪が見えた。


「あれは……」


見間違い出なければ、幼い頃に出会った伊吹に見える。
だが……あの付き人のように木刀を持って傍にいた人は誰だ……?


「とりあえず、追ってみるか……」
(危険では……?)
(伊吹であるなら多分大丈夫だ……と、言いたいがあのもう一人が気になる。防御魔法はすぐに展開できるように準備しておいてくれ)
(了解しました)


人影が向かった方向へ、小走りに追いかける。
相手は歩いて移動しているように見えたから、そう時間をかけることなく、俺は追いつく事ができた。


「……三人か」


追いついて気づいたのだが、伊吹らしき人影には木刀を持った男の他にもう一人、マジックワンドらしきものを持った女の子もいた。
とりあえず、声をかけてみるか……


「しかし、なんて声をかければいいんだろうな?」


唐突に声をかけて、別人だったのなら赤っ恥をかくことになる。
あれが伊吹だという確証が持てないからこそ、俺はどうやって声をかければいいのか分からなかった。


「……オルム」
「マスターっ!……ディ・ラティル・アムレスト!!」
「なんだ!?」


唐突に、ティアが俺に何も言う事無く防御魔法を展開していた。
そして、その防御魔法にあちらが放ったであろう魔法はぶつかって、消滅した。


「後ろです、マスター!」
「ハァッ!」


いつの間に移動したのだろうか、木刀を持っていた男が、俺の後ろから袈裟懸けにその木刀を振るってきた。
ティアのおかげで反応が追いついた俺は、瞬時に前に転がるようにして回避する。


「幻想詩・第四楽章・懺悔の檻」


転がった先に、もう一人の女の子が放った魔法に、俺は囚われた。
くっ、精神力を消耗していく感じがある……これは拘束魔法か……?
っていうか、なんで俺はこんな状態になってるんだ……?


「ふん……コソコソとつけて来ているかと思えば、魔法使いとはな……」
「危険です、お下がりください、伊吹様!」


……うん、今、男の方が、確実に言ったよな?
さすがの俺も、意味も解らずここまでされて怒らないでいられるほど、人間が出来ているつもりは無い。


「……ティア、準備はいいな?」
「はい、いつでもどうぞ」


優秀なマジックワンドが相棒で、俺は本当に幸せだと思う。 ティアには俺が魔法に囚われたと同時に、ある魔法式の補助してもらっていた。
そして、使うのは、今朝鈴莉母さんに見せてもらったあの魔法。


(エル・アムダルト・リ・エルス・カルティエ・ディ・アストゥム・アス・フローラ)
「……エル・オ・ルダ・ディバス」
「なっ!!」


魔法を打ち消す……消滅させる魔法。
ありがとう、母さん……早速役に立ったよ。


「まったく、ただ追いかけただけで、なんでこんな目にあわなきゃいけないんだ、なぁ伊吹?」
「な、誰だ貴様!」
「なんだ、お前は俺のことを覚えてないのか……那津音さんには及ばないけど、懐いてくれていたのに」


木刀を持った男が、こちらを伺っているのはわかった。
警戒だけは解かず、伊吹に声をかける。
これで思い出してくれれば、もしかすると伊吹が抑えてくれるかもしれない。
そうじゃなかった場合のために、ティアに詠唱の補助をしてもらう。


「くっ!」
「待て、信哉!!」
「っ!伊吹様?」
「まさか……貴様、雄真か」


どうやら、思い出して貰えたらしい。
と、いうか思い出してもらえなかった場合、全力で応戦しなきゃいけない可能性もあったんだが。


「とりあえず、そこの後ろで魔法を使おうとしている女の子も止めてくれないか?」
「っ!沙耶、止めよ!」
「しかし、伊吹様……」
「よい、こやつは敵ではない」


それから少しの間、伊吹による俺の説明があったらしい。
木刀の男と、マジックワンドを持った女の子は納得こそしていないながらも、俺に対して攻撃してこようという意思は見えなくなった。


「何故、貴様が此処にいる」
「貴様……ねぇ、随分会わないうちに、物々しい言い方をするようになったな」


あのちっこかった伊吹が……いや、まぁ今でもちっこいんだけどな。


「ふん、貴様が悠々と暮らしている間にも、私は練磨を続けてきたのだ」


言うだけあって、伊吹から感じられる威圧感とでも言おうか。
そういったものが強く感じられた。
本当に、頑張ってきたんだろう。


「へぇ……それで、後ろの二人は誰かな?」
「こやつらは私の随身、信哉と沙耶だ」
「上条信哉だ」
「沙耶と申します、兄ともどもご無礼をお許しください」


男の方は言葉少なく、女の子の方は礼儀正しすぎるんじゃないかという対応で返って来た。
ん、兄ということは……


「君達は、兄妹か……?」
「いかにも」


なんていうか、男の方はものすごく言葉が少ないというか、対応の仕方が昔がかっているように感じられる。


「おっと、俺の自己紹介してなかったな、小日向雄真。伊吹の古い知り合い……でいいのかな?」


正確に言うのなら、那津音さん経由で知り合ったって事になるんだけど。


「……小日向?貴様、御薙ではないのか?」
「わけあってね、今は小日向を名乗っている」


幸運にも、目的の人物に会えたんだ。
とりあえずは済ませたいことを、済ませてしまおう。


「さて、伊吹……聞きたい事があるんだが、時間はあるか?」
「こちらにはない。行くぞ、信哉、沙耶」


取り付く島もなく去ろうとする伊吹達。
このまましつこく聞いたとしても、恐らく何も答えてはくれないだろうと感じた俺は、とりあえず一つだけ問いかけることにした。


「……那津音さんは、元気か?」


そう問いかけると、伊吹の動きがわずかながらに止まった。
振り向いた伊吹の表情を見て、俺は背筋が凍るような悪寒を感じた。


「……那津音姉さまは……今は病院にいられる」


他の一切を排除した、負の感情だけを表す赤い瞳……
一言だけ言い残し、伊吹はこちらを二度と見る事無く、立ち去った。


「……行くぞ」
「御意」
「はい」


一方の俺は、その瞳に魅入られたかのように、動けなくなった。
だが、それ以上にショックを受けていた。


「……病院に?」


病院ということは、何かよくない状態なんだろうか……?
だが、それにしては伊吹のあの目……
あれは、ただの病気や怪我じゃないような気がする……


「一体、どういうことだ……?」


俺の呟きに、答えてくれる人は、誰もいなかった。















From 時雨  2007/12/12