みんなに声をかけてから、移動を開始する。


――――さてさて、すももは緊張しないでちゃんとできるかね。


そんなことを考えていた俺だが、この後俺に降り注ぐ苦労に、気づくことはできなかった。
まぁ、それも仕方がないだろう、まさかあんなことになるなんて思いもよらなかったんだから。



















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!



















体育館に移動したとき、同じクラスにあの金髪の柊って子がいたのには驚いた。
なんでも彼女も人気が高いらしい。
なんていうか、彼女も中身を知らなければ俺も美人だと思っただろう。
……さすがに魔法弾をくらいかけてまで、そう考え続けられるほど俺は阿呆ではないが。


「ふぅ、校長の話は相変わらず長いな……」
「ほんとよねー、私貧血で倒れそうになっちゃったわ」


……中身を知らなければ、貧血で倒れる準は、それはもう絵になっただろう。


「……ん?」
「どうしたの、雄真」
「あれって、小雪さんだよな?」


どこかに歩いていく小雪さんの姿が見えた。
この時間にどこに行くんだろうか?


「……ちょっと挨拶してくるよ、先に戻っててくれ」
「あ、ちょっと雄真」


小雪さんを追いかけて、俺は桜が咲き乱れる公園にたどり着いた。
そして、その公園の芝生の上に、小雪さんは腰を下ろしていた。


「こんにちは、小雪さん」
「……え?あら、雄真さん、どうしかなさったんですか、こんなところで」


相変わらずののんびりとした物言いに、少しだけ苦笑が漏れそうになった。
なんとも小雪さんらしい、優しい雰囲気だ。


「それはこっちの台詞ですよ。小雪さんこそ、こんなところで何を?」
「桜を、見ていました……」


そう言われ、小雪さんの視線を追いかけるように俺も桜を見上げる。
確かに、見事な桜の花が咲いていた。


「……ここは、ある人との……思い出の場所なんです……」
「ある人……?」


なぜか、その台詞を聞いた瞬間、頭の中で那津音さんの姿が浮かんだ。
……何故、今ここで俺の考えの中に那津音さんが出てくるんだ。


「はい、その人はとても優しくて、私にとって姉のような存在でした」
「…………」
「けれど、ある事件によって、今は……」


小雪さんがどうして、こんな話を俺にしてくれているのかはわからない。
だが、俺にはこう、問いかけなくてはいけないような気がした。


「式守……那津音さんですか……」
「っ!……雄真さん……何故それを?」


真っ直ぐな視線が、俺を捕らえた。
正直に言って、時期尚早すぎたとも言えなくはない。
未だ俺の、俺自身への誓いはどれ一つ果たされていない。
でも、今ここにいる人には、知っていることを少しだけでも伝えておかなければいけないような気がした。


「今はまだ言えません……俺が、自分に課した誓いを果たせていないから……だからこそ、言えないことがあります」
「その約束とは、聞いても構いませんか……?」
「名前もわからない、思い出の人との再会を果たすこと……」


そう一言だけ告げると、小雪さんは静かに眼を閉じた。


「再会の縁は、すでに結ばれています……あとは、きっかけだけ……」
「……小雪さん?」
「ふふ、占いです。今の雄真さんの一言で、少しだけ未来が見えちゃいました」
「きっかけ……」
「はい、何がきっかけになるかはわかりませんが、すでに縁は結ばれていますよ」


そうか……記憶のあの子に会えるかという不安があったけど、小雪さんがいうのなら、そのきっかけさえあれば、再開ができるということなんだろう。
小雪さんの占いのすごさは、身にしみてよく知っているからな。


「ありがとう、小雪さん」
「雄真さんがお話してくださることを、お待ちしています」
「はい、誓いが果たされた時は、必ず」


キーンコーンカーンコーン


「あ、そろそろ戻らないとやばいかな。小雪さんはどうします?」
「そうですね……私はもう少し、ここでゆっくりしていきます……」
「わかりました、それじゃ」


自分が何も教えて上げれないことを悔しく感じつつも、俺は小雪さんと別れ、教室へと向かった。
一つ確実になったこと……それは、那津音さんに何かがあったということ。
その原因はわからないが、伊吹が来た理由も、少なからずそれが関係している可能性がある。


「……結局、わからないことだらけか」


考えていても仕方がない、なんとか伊吹にも詳しい話を聞かなきゃならないだろう。


「ゆーまー!!」
「ん、準?」
「どこ行ってたのよ!早く戻らないと、HR始まっちゃうわよ!!」
「げ、マジか……急ごう」


とりあえずは、教室へ戻ることを考えよう。
シーンとした空間の中に入らなきゃいけないのは、なかなか精神的にもよろしくないから。


「……と、思って急いでみたが、間に合わなかったなぁ」
「自業自得でしょ、ほら開けて開けて」
「……仕方がないか。すいません、遅れましたー」


開けて教室に入ると、視線が一気に俺たちの方へ集まった。
やっぱり、この感じは苦手なんだよなぁ……得意なやつもいないだろうが。


「小日向に渡良瀬か……まぁいい、とっとと座れ」


先生の方に視線を向けた瞬間、驚きのあまり固まりかけた。
先生の隣に男子と女の子が立っていて、その姿に見覚えがあったからだ。


「あー、悪かったな上条。自己紹介を続けてくれ」
「上条信哉だ、よろしく頼む」


とてつもなく、シンプルな自己紹介だと予想外のことに呆れながらも感心してしまった。
隣にいる先生も、続きがないものかと信哉を見ている。


「…………終わりかね?」
「余り己のことを語るのは得意ではありませぬ故」
「そ、そうか……では次は……」
「上条沙耶です、兄共々よろしくお願いいたします」


もう一人の、上条さんが頭を下げると、男子生徒がどよめいた。
ハチがこの場にいなかったことを幸運と思っておこう。
いたらいたで、まためんどくさい騒ぎが発生していた可能性がある。
ところで、あいつはどこに行ったんだ?


「二人は今学期から魔法科に転入してきた、わからないこともあるだろうから面倒をみてやってくれ」


上条兄妹が席についたのを確認してから、先生はそう締めくくり、出席簿を広げた。


「さて、それじゃぁHRを始めるぞ」


結局、朝のHRは全員の自己紹介で費やされた。
だが、その間にも、俺の意識は深いレベルで上条兄妹に送られていた。
……後で、伊吹のこととか、聞いてみよう。






















「たっだいまー」


HRが終わって暫くしてから、ハチがアホ面をして帰ってきた。


「お前、一体どこ行ってたんだ?」


確か、教室を出るまでは一緒にいたはずなんだけど。


「杏璃ちゃんの魔法で痺れてた……」


どうやら、体育館で遭遇した柊に挨拶しようとして、勢いが良すぎたために手痛い反撃を食らったらしい。
それにしても、そんなことになってるなんて気づかなかったなぁ……


「で、クラスにすげぇ可愛い子が来たんだって?」
「どっからそんな情報を手に入れてるんだ、お前は」
「ふふふ、俺の情報を甘く見るんじゃなぁ〜い!」


良く先回りされる情報だけどな。
とりあえず、一つはっきりした事がある。


「上条さんには、ハチは劇薬かもしれないなぁ……」
「目に触れないように隔離しておいた方がいいかしら……」


本気で捕縛魔法でも使ってしまおうかと考えて見たが、どうやら時すでに遅し、といった状態だったらしい。


「お、見ろよすげぇ可愛い子がいるぜ」
「どうやら、遅かったらしいな……」
「ほほぅ、あれが噂の上条沙耶ちゃんってわけか……かぁわぃいい〜」


どうやら、信哉がいないらしい。
なおさら、ハチにとっては好都合といった状態かもしれない。
俺たちにとっては、とてつもなくめんどうな展開になるということだけど……


「信哉君だっけ、いないわね」
「男の方はどうでもよろしい!自己紹介タイムを逃した俺としては、このチャンスは逃せない!」
「あ、バカおい待て!!」


止める間もなく、ハチは上条さんの方へ行ってしまった。
あぁ、こういうパターンって、絶対悪い方向に転がるんだよなぁ!


「雄真、照準はOKよ!」
「今すぐ発射」
「パトリオット・ミサイルキーック!」
「ぐはぁ!!」


無理矢理、上条さんに迫っていたハチを、準の攻撃が再び弾き飛ばした。
とりあえず、ハチのことは準に任せて、俺はせめてものフォローをしておこう。


「驚かしてごめんな」
「あ……いえ、その……申し訳ありません」


……完全に怯えられてしまった。
こういう時に頼れるのは準なんだが、今はハチに制裁という名のトドメを加えているからなぁ……


「えーっと、あのバカも悪いやつじゃないんだけど、可愛い女の子を見るとすぐ暴走しちゃってさ」
「あ……は、はい……」


なんだろう、俺が何を言っても通じないというか、それ以上に怯えられちゃってるように見える。
何か、話題になるようなことは……


「あ、あの……」
「え……あ、何?」
「男の方とあまり得意ではなく……もしや、不快に思われましたか?」
「あ、いやいやそういうんじゃなくて、悪いのはこっちというか、あいつだから」


あの一戦から比べると、ずいぶんと人が違うようだ。
教室でもそんな雰囲気はあったが、極度の恥ずかしがり屋ということなんだろうか?


「一応、さっきもHRで言ったけど、俺は小日向雄真、覚えてるかな?」
「あ……はい、あの時の……小日向……様ですね」


何かを言い出しそうになったが、指を口に当て、内緒というジェスチャーを取ると、それがわかったのか、余計なことは言わずにいてくれた。
だけど、その呼び方は勘弁して欲しい。


「様なんていらないから、普通に呼んで欲しいかな?」
「あ、はい……では、小日向さん、と」
「ん、まぁそれでいいや」


準やハチが遠くないところにいる状態で、あんまり立ち入った話はしたくなかったので、当たり障りのない挨拶をすることにする。


「先日は失礼しました、私は、上条沙耶と申します。どうぞよろしくお願いします」
「うん、こちらこそ」


考える事は多々あれど、クラスメイトとして一緒になったんだ。
挨拶できるくらいの仲にはなっておいても全然良いだろう。


「貴様らぁ!!!」


と、悠長に考えていると、辺りに男子生徒の怒号のようなものが響いた。
あぁ、もう、嫌な予感がする……















From 時雨  2007/12/10