考える事は多々あれど、クラスメイトとして一緒になったんだ。
挨拶できるくらいの仲にはなっておいても全然良いだろう。


「貴様らぁ!!!」


と、悠長に考えていると、辺りに男子生徒の怒号のようなものが響いた。
あぁ、もう、嫌な予感がする……



















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!



















「な、なんだぁ?」
「あら、あれって噂のお兄様じゃない?」
「そう見えるが、なにか怒ってないか?」


俺の目の錯覚じゃなければ、こちらを間違いなく睨みつけているように見える。
なんていうか、今にも持っている木刀で、切りかかってきてもおかしくないくらいの気迫だなぁ……


「貴様ら沙耶に何をしている!沙耶から離れろ!!」


そう怒鳴ると、上条は猛スピードで突っ込んできた。


(マスター、捕縛魔法起動可能ですが?)
(いや、上条さんの方が何かするらしい、様子を見よう)
「あ、兄様……!仕方ありません……」


上条さんは、何かを決心したように、マジックワンドを背から下ろすと……


「お許しください、兄様!えい!」
「ぐはぁ!!」
「……え?」


綺麗に、信哉に向かって振りぬいた。


(今、手加減されてませんでしたよね?)
(っていうか、マジックワンドの新しい使い方を見た気分だ)
(そういう風に使われたら、確実に私は拗ねます)
(あんな風に直接やるつもりはないから安心しろ)


若干の呆れ混じりで、ティアと念話しているうちに、信哉が立ち直ったらしい。
勇ましくも立ち上がり、上条さんを背にかばい俺たちを睨みつけていた。


「沙耶に危害を加えるつもりならば俺が許さん。死をも覚悟せよ」
「……えい!」
「ぐぉ!」


どうやら、兄妹漫才はもう少しだけ続くらしい。
兄の方が何か言うたび、妹は顔色を面白いように変えて、兄を叱っていた。
なんていうか……下手したら俺もあんな感じに見られるんだろうか?
なんて考えているうちに、信哉は納得したのか、さっきまでの怒気は消え、逆にすまなそうな表情をしていた。


「おかしな誤解をしてすまなかった。どうにも妹の事になると頭に血が上ってな……どうか勘弁願いたい」
「まぁ、そんなに心配なら、妹を一人で置いていくなんてしない方がいい」
「む……それは道理、以後気をつけよう」


本当に、前に一戦交えた時とは全然違うというか……
こっちの方が明らかにひょうきんに見えるなぁ……


「ふ……君はいいやつだな。君のような御仁がクラスメイトで安心した。あらためて挨拶させていただく、上条信哉だ、俺のことは信哉でいい」
「小日向雄真だ」
「小日向……まさかお主……」


こちらも、妹と同じようにジェスチャーで内緒にしておくように伝える。
兄のほうも、辛うじてだがわかってくれたらしい。


「どうしたの、信哉君?」
「いや、気のせいのようだ。失礼した」
「皆様、挨拶したばかりで申し訳ありませんが、この辺で失礼させていただきます」


上条さんが、そう切り出してきたが、信哉と上条さんの目は、俺に対して話があると告げていた。
こちらとしてもそれは好都合だ、今は話をあわせるとするか。


「しからば」
「それでは、皆様、ごきげんよう」


さて……それじゃぁ俺の方も動くとしますか。
準やハチには悪いが、遊ぶのはまた今度でも出来るしな。


「それじゃぁ、俺も用事があるから、ちょっと抜けるな」
「おう、またな」
「またねー、雄真」


さて……どこにいるのかなっと。
さすがにアイコンタクトだけじゃ、どこにいるかまでは伝えるのは不可能だしなぁ……


「ティア、場所、わかるか?」
「屋上の方ですね……式守の魔力反応もあります」
「そうか、ならなおさら好都合だ」


さて、蛇が出るか、鬼が出るか……
一応警戒態勢にはして、行って見ますか。
攻撃が無いとは、思いたいところだけどな。


「ふむ、ようやく来たか……」
「よぅ、先日ぶりだな、伊吹」


想像していた襲撃はなく、かといって友好的とは言いがたい雰囲気を持って、伊吹は話しかけてきた。
でもまぁ、会話が成立するだけ十分だと、今は思っておこう。


「信哉に上条さんも、さっきぶり」
「…………」


二人とも、目を閉じ本当に伊吹の臣下のように仕えて立っていた。
やれやれ……どう切り出したらいいものか……


「で、貴様はいまさら私になんのようだ」
「……そうだな、回りくどいのはお前、嫌いだったな。なら単刀直入に聞かせてもらおう……瑞穂坂に訪れたのは、何が目的だ?」


鈴莉母さんは伊吹から聞き、止めて欲しいと俺に言った。
なら、俺は俺にできる手段で、いろいろとやってみるしかない。
伊吹は、苦虫を噛み潰したかのような表情で俺を睨みつけ、信哉たちはどこか悲しそうな表情を見せた。


「……那津音姉さまの、願いを叶えるためだ」


那津音さんの……願い?


「那津音姉さまは……私が式守の当主であることを願った……だからこそ、私はそれを示せねばならぬ」
「……それと、ここに来た理由はなんの関係がある」
「貴様は知らぬのか、御薙鈴莉に奪われた、式守の秘宝の話を」


式守の秘宝……?
昔、何かで聞いた覚えがあるような……


「ふん、その顔ならば、わからないと答えているようなものだぞ」
「あぁ、正直に言うと、わからない」


奪われたということは、鈴莉母さんが押し入って持っていったんだろうか……?
だけど、そんな状態を想像できないしなぁ、何か理由があって母さんが預かったのを、伊吹は知らないという可能性の方が、信用性が高い。


「話を知らぬなら、この場に意味を持たぬ。行くぞ、信哉、沙耶」
「御意」


伊吹は興味を失ったとばかりに、歩いて去っていこうとした。
だけど、俺は大事なことをまだ聞いていない。


「伊吹、那津音さんは、今どこに?」
「……瑞穂坂総合病院だ」
「……わかった、ありがとう」


なるほど……後で様子を見に行く必要がありそうだ。
前よりは、何か前進したような気がするが……しかし、なんだろうか、この伊吹から感じられる悲しい感情は……?


「伊吹」
「……まだ何か用か」
「辛くなったら、いつでも言いに来い。相談くらいなら、乗ってやれるから」
「……ふん」


話は終わりだとばかりに、伊吹は去っていった。
一瞬だけ、昔の伊吹のような雰囲気を感じたが、俺の気のせいだろうか。
そして、上条さんが、何か俺に言いたげに見えたが、結局お辞儀をして、信哉と一緒に伊吹の後を追っていった。


「……どこか、お礼を言いたそうに見えたのは、俺の気のせいだと思うか、ティア」
「私もそのように見えましたが……」


何もかも気のせいってわけではないらしい。
ティアからもそういう風に見えたのなら、もしかすると上条さんたちにも何かあるのかもしれないな……


「……さて、とりあえずキーワードがいくつか手に入ったな」


那津音さんが、病院にいるということ。
式守の秘宝という物の存在。
伊吹が、次期当主と認められるために必要なモノが、式守の秘宝であるということ。
そして、その式守の秘宝というものを、母さんが持っているということ。


「……まずは、母さんに聞いてみるのと、那津音さんの様子を見に行くことから始めるか」


結局、伊吹が何をしたいのかは、その秘宝というものを知ってからじゃないとどうしようもなさそうだ。
今一番、俺の近くで鍵を握っているのは、鈴莉母さんだろう。
後は……まぁ、なるようになるか。


「やれやれ、やることが一気に増えたな、ティア」
「そうですね……ですが、このまま見過ごすこともできないでしょう、マスター?」
「まぁな……やれるだけのことはやってみるよ」
「及ばずながら、この身はマスターと共に」


頼もしい相棒に励まされ、俺はとりあえず、鈴莉母さんの所へ行ってみようと、足を進めた。
この時の俺は、伊吹から得た情報に、少なからず動揺していたのかもしれない。
そうでなければ、まだ普通科も、魔法科も、生徒が残っている時間に、母さんの所に行こうなんていう思考が、普段魔法を使えることを隠している俺の頭に浮かんでくるわけがないのだから。


コンコン


「失礼します」
「あれ、小日向君……?」
「あ、え……神坂、さん?」


ティアも……俺の考えを知っているんだから教えてくれればいいのに。
本当にどうしようか。
神坂さんと対面したまま、俺は何を言えばいいかわからず、ただ固まってしまった。
……あぁ、ちくしょう……情けない。















From 時雨  2007/12/10