式守の秘宝というものに答えが隠れているんじゃないだろうか?
だけど、調べるのは今度にして……今日は、とりあえずもう帰ろう。
魔力を強引に持っていかれたから、予想以上に疲労感として現れている。
こんな状態で考え事してたって、きっといい答えなんて出せないだろう。


「……やれやれ、これは相当めんどくさいことになりそうだ」



















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!



















翌日、俺の危惧は残念なことに当たってしまうことになった。
……小雪さんの言うとおり、俺ってそういう運命の持ち主なんだろうか?


「……気づけば、こんな状態になってるんだよなぁ」


周りは阿鼻叫喚と言ってしまえばそれで事足りそうではあるんだが。
……いや、地獄絵図か?


「にぃさ〜ん」
「小日向君……」
「ゆぅまぁ」
「雄真さん……」


見る人が見るならば、恐らくこれは天国だと言うだろう。
何せ瑞穂坂学園でも上位に入る美少女達が、どういうわけか俺を取り囲んでいるわけなんだから。
しかしそれも、彼女達が手にしている飲み物が酒ではなく、普通の飲み物でで精神状態も正常の時ならの話だ。


「ふふ、雄真ったらモテモテねぇ〜」
「……そういいながら、その手に持ったデジカメで撮影しようとするな、準」
「あら、記念よ記念、思い出って大事だと思わない?」


生憎と、こんな後に禍根を残しそうな思い出なんて、謹んで遠慮したい。


「って、あぁ神坂さん!それ零れてるから!!」
「うふふ、本当ですね〜」
「本当ですねじゃなくて……とめてとめて!」


だけど、神坂さんはコップに酒を入れる手を休める気配もなく。


「いいえ〜、零れる前に飲んでしまえばだいじょうぶい」


なんていう、普段ではまずありえないことを言ってくださった。
っていうか、キャラ変わってませんか、神坂さん!?


「おー、いい飲みっぷりじゃない。それでこそあたしのライバルよ〜」
「誰がいつ、お前のライバルになった」


神坂さんの次は、どうやら柊らしい。
なぜかライバル認定され、さらに酒を飲めと煽ってくる。


「春姫がそう言ったのよ〜」
「……神坂さん?」
「はーい、小日向君、もう一杯いかがですか〜」
「あぁ、だからちょっと、零れてるって!」


俺が一体何をしたんだろうか。
っていうか、神坂さんもなんでわざわざ俺を引き合いに出したんだ。
……酔っている人にそんなことを聞いても無駄なのはわかっている。
だけど、聞かなきゃ俺が冷静でいられない。


「しょーぶよー!!」
「あぁ、もうお前はもう飲むな!」


これ以上の混乱を避けようと、一生懸命打開策を考えつつも、これといった方法が思いつかなかった。


「だめよー止めたかったらあたしの口を塞ぐことね〜そのお・く・ちで」
「な、それじゃキスになるだろうが!」


いくらなんでもぶっ飛んだことを言いすぎだ。
そんな事ができるわけないだろう。


「何言ってるのよ〜、飲み負かして見なさいって言ってるだけじゃない〜」
「あぁ……そういうことか」


良かった……って、安心していいものか、勿体無かったと惜しむべきか。
俺自身、酒が入ってそんな微妙にずれた思考が混じっていた。


「そうねぇ、あたしに勝ったらキスしてあげてもいいわよ〜」
「だめえええ!」
「ぐぁっ!」


耳がっ!耳がキーンって!!


「兄さんがキスするくらいなら、わたしが柊さんとします」
「なんでそうなる!」


酒宴が始まって最初の方に、小雪さんによって酒を飲まされたすもも。
途中まで、俺の背中に張り付くかのようにして、大人しくしていたはずなのに、なんで突然。


「じゃぁ、それでいいわ!」
「良くないって!!あぁ、神坂さん、また零れてるから!」
「それじゃぁ、零れたのは私が飲みますね」


ね、じゃなーい!!


「あぁ、もう、待って待って、そういうことしちゃダメだって!!」


シートに零れた酒に口をつけようとした神坂さんを、俺は慌てて止める。
止められて、頭を上げた神坂さんはちょこんと首を傾げ、見たこともない色っぽい微笑を見せた。


「それじゃぁ、小日向君が飲ませてくれますか?」
「うっ……」


不覚にも、神坂さんのその表情に見とれ、口ごもってしまった。
そんな俺を、すももと柊がものすごい剣呑な目で見ていた。


「なに……「うっ」って?」
「なんですか……「うっ」って」
「な、なんでもない!」


とりあえず、それ以上の追求を避けるために、俺はコップの中の酒を一気に飲み干した。


「こっくりさんこっくりさん、雄真さんは幸せになれますか?」
「小雪さん、そんな占いしなくていいですから!っていうかこっくりさんなんですか!」
「……静かにしてください」


なぜか、小雪さんのこっくりさんからとてつもない地響きが聞こえるのは、俺の気のせいだろうか。


「…………」
「…………」


ズゴーン、という素敵な音を出して、小雪さんが使っていた10円玉が吹き飛んだ。


「幸せになれるそうです」
「それ、どんな幸せですか!小銭が吹っ飛ぶ幸せってどんな!?」
「表せないくらいの幸せです」
「あぁ、もう、会話が通じてないし!!」


これ以上やっても、被害が増えるだけで、そうなる前に止めなくちゃ。
そう考えていても、今の俺の状態では、正常な思考なんて不可能だった。


「小日向君」
「ゆぅまぁ〜」
「にいさーん」
「雄真、さん」


そう、無理なんだよ。
このメンバーを止めるなんて。























花見という名の酒宴も、いずれは終りが来るもので。
気づけば空はすでに茜色に染まりつつあった。


「ああ……桜が夕日に染まって綺麗だなぁ……」


風流っていうのは、きっとこういうことを言うんだろう。
そんな気持ちを味わえること、それが花見なんだよな。


「ねぇ、小日向君」
「あぁ、神坂さん。桜、綺麗だよね」
「えぇ、そうね……でも、そろそろ現実逃避していないで、片付けましょ?」


……だよね。
純粋に綺麗と感じる桜から、少しだけ視線を下に戻せば、そこに見えるのはまたも地獄絵図。
俺の視界に入るもの、それはゴミと屍の山だった。


「……神坂さんが起きてくれなかったら、俺一人でやってたのか」


つくづく、神坂さんが起きてくれて助かったと思う。
たとえそれが途中まで酒を際限なく注ぎ続ける注ぎ魔だとしても。


「な、なにかしら……」
「神坂さん、みんなに酒を注ぎまくってたの、覚えてる?」
「えぇ……私そんなことを?ご、ごめんなさい、よく覚えてないんです」
「いや、責めてるわけじゃないから、まぁ楽しかったしね」


実際、宴会は楽しかったと心から思っている。
みんなと騒ぐ機会なんて早々あるわけでもない。
さらに、ここまで人数が膨らんだなんてのは数少ないからな。


「それにしても、すももと神坂さんが知り合いだったとはね」
「本当にびっくりしました」


どうやら、俺がすももを見ていなかった時期。
その時、すももがいじめられたのを助けてくれていたのが神坂さんだったらしい。
今じゃそんなこと想像もできないんだけどな。
すももが言うには昔はやんちゃな女の子だった、ということだ。


「あぁ、そうだ、神坂さん」
「なんですか?」


本当にいろいろあって、大事なことを言うのを忘れていた。
これは、わかった時点で俺から言うべきだったのに。


「小さいころのすももを、助けてくれてありがとう、すももの兄として、本当に感謝している」


神坂さんをしっかりと見つめ、頭を下げる。
魔法にばかり時間をかけて、時々だがすもものことを見ていられなかった時期がある。
そんな時に俺の代わりをしてくれていたのが神坂さんなら、俺は兄として、感謝しなくちゃいけない。


「そ、そんな。私はそんな大層なことしたわけじゃないんですから、頭を上げてください、小日向君」
「うん、それでも感謝しているのは本当だ、ありがとう」


恐らく、俺ができる中で精一杯の笑顔と共に言葉を神坂さんに贈る。
すると神坂さんは一瞬惚けたような顔を見せ、次の瞬間には真っ赤になっていた。
……暖かいとは言え、外に寝ていたから風邪でもひいたんだろうか?


「顔が赤いけど……大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶです!なんでもありませんから!!」
「……それならいいんだけど?」
「そ、それより早く片付けとかしちゃいましょう」


それもそうだな。
とりあえず今はこの惨事を片付けるのを優先しないと。
……でも、それはいいとして、運ぶとなると、手間がかかるなぁ。


「仕方がない、か……」


あまり使いたくないけど、このままハチを運ぶくらいなら、ちょっとくらいはいいだろう。
……男を背負って喜ぶような趣味なんて俺にはないからな。


「申し訳ないんだけど、これからやること、全部神坂さんがやったことにしてもらっていいかな?」
「え……何をするかにもよりますけど……」
「大丈夫、とりあえず無事に帰れるくらいにみんなを起こすだけだから」


返答を待っていると、神坂さんはどうやら了承してくれたらしい。
とりあえず首を縦に振ってくれた。


「ふぅ……今度、なにか埋め合わせしてくださいね?」
「うん、必ず。……それじゃ、始めようか」


そう言って、ティアの付いている耳に手を持っていき、引き出すような動作と共に、ティアをマジックワンドの形態に戻す。


「……ティア、やれるな?」
「もちろんです、マスター。早朝以外でこの形態になるのは、久々ですね」
「無駄口は後だ、やるぞ」
はい、マスター(イエス・マイロード)


この頃、人前で魔法を使う事が多くなっている気がする。
それだけ、小雪さんが前に占ってくれたことを期待しているってことかな。
そんな自分に苦笑しつつも、意識を集中して、魔法を使う。


「……エル・アムダルト・リ・エルス・カルティエ・リディア・フローリア!」


魔法に集中しているために、俺は気づいていなかった。
神坂さんが、俺を、そしてティアを見つめる目が、真剣そのものだったということに。















From 時雨  2007/12/24