「これは事故だ、お前は悪くないから気にするなよ?」 「でも……」 「でももなんもない、事故ったら事故だ、気にするな」 「雄真動くなよ、支えずらいだろ」 あぁ、しかし……不測の事態ごときで察知が遅れるなんて……まだまだ修行が足りないな、俺も。 いち早く動き出した準やハチ、それに神坂さんに付き添われて、俺はそれだけを考えていた。 二次創作 はぴねす! Magic Word of Happiness! 「っ!」 「あ、大丈夫でした?」 「ちょっと染みただけだから、ぜんぜん平気だよ」 結局、気づかないところで擦り傷も出来ていたらしく、神坂さんが手当てをしてくれている。 それを見たハチがまた絶叫しそうになったが、保健室ということもあり、準が瞬殺して教室へと強制連行していった。 ……哀れ、ハチ。 「杏璃ちゃんのこと……ホントに怒ってませんか?」 「うん、あれは解除したはずの魔力が暴走しただけだから、柊には関係ないよ」 「……ふふ、よかった。小日向君は優しいんですね」 別に、そんなことはない。 そう言おうかとも思ったけど、神坂さんの性格を考えると素直に聞き入れてもらえないだろう。 それに、今回は本当に自分のツメの甘さが招いたんだ、柊を怒る要素なんてどこにもない。 「でも、不思議なんですよ……私が魔法解除に関われたのって全体の三割くらいなんです……」 「…………」 「もしかして、小日向君が解除してくれたんですか?」 質問というよりは、確認といった感じだろう。 神坂さんの目は、確実に俺を捉えてそう告げていた。 「……はぁ、参ったな、出来るだけバレないようにやったつもりだったんだけど」 「他の誰も気づいてないと思います。でも、私は前に魔法を見せてもらった後ですから……」 「あれはたまたまで、俺にそこまでの実力はないかもしれないよ?」 とりあえず、やったことは認めつつも、俺の実力に関しては曖昧にしようとした。 何度か見られているのは確かだけど、それだけでは判断できないだろう。 だけど、神坂さんの口から漏れた一言は、俺の予想外のものだった。 「そんなはずないです!朝早くに小日向君、がんばってるじゃないですか!」 「なっ!」 朝早くに頑張る……要するに、神坂さんは俺の魔法の特訓を見たということだろう。 ……やはり、俺が知らない間に巻き込んだのか。 「け、怪我は!?」 「きゃっ」 手当てしてくれていた神坂さんの手を取って問いかける。 よほど俺は慌てていたんだろう、少しだけ冷静になったときに、自分の顔にとても近い位置に神坂さんの顔があった。 「あ、ごめん!……だけど、俺が魔法で巻き込んだとか……気づかないうちに暴走しちゃって怪我したとかは?」 普段はそこまで近くで見ることのない神坂さんの顔に、少しだけ見惚れた。 だけど、次の瞬間には我に返って、手を離しながらもう一度同じ事を聞く。 「あ、怪我とかは別にしてませんよ」 「……よかった」 安堵感からか、力が抜けて、立ち上がりかけていた体が、再び椅子の上に落ちる。 怪我がないだけで、良かった…… 「あの、小日向君、お願いがあるんですけど……?」 「ん、なに?」 その後、俺が大人しくしていたからか、手当ても滞りなく終わった。 あとは教室に戻るだけかと思っていたら、神坂さんが真剣な顔で言った。 「小日向君のマジックワンド、見せてもらってもいいですか?」 「……ティアを?」 「あ、ティアさんって言うんですね」 一体、どういうことだろうか……? 神坂さんがティアを見て、何か面白いことでもあるんだろうか? 「えーっと……ティア、お前はどうだ?」 「……別に構いませんよ、マスターが決められたことならば、私は従うのみです」 あまり、他の人に触られるのはイヤなようだが、一応は認めてくれたってことかな。 「神坂さん、とりあえず鍵、かけてもらっていいかな?」 「あ、はい、わかりました」 神坂さんはすでに自分のワンドを持っている。 それなのに、他のワンドを持っている場面を見られるのは得策じゃない。 どんな変な噂が立つのかわかったもんじゃないしね。 「それじゃ……はい」 「ありがとう……」 カフス状態だったティアを、ワンドに戻して、神坂さんの手にしっかりと渡す。 神坂さんは、ティアを暫く見つめた後、俺には聞こえなかったが、何かを呟いたように見えた。 「―――――――」 「――――っ!」 その時ティアの魔力が、少しだけ揺れたような気がした。 でも、次の瞬間には元通りになっていた。 ……なんだったんだ、今のは。 「はい、無理言ってごめんなさい」 「いや、ティアがいいなら問題ないさ」 何を言われたのか、気にならないわけじゃない。 だけど、もし俺が聞く必要せいがあるなら、それはティア自身が俺に伝えてくれる。 だからこそ、俺は何も聞かないでおくのがいいんだろう。 「それじゃあそろそろ戻りましょうか、みんな心配してるかもしれません」 「あぁ、そうだね。戻ったらハチが五月蝿そうだけどね」 ワンドから、再びカフス状態に戻したティアを、耳に付ける。 結構な時間が経っているな…… 本当にハチが五月蝿いかもしれない。 「それもそうですね、でも小日向君大丈夫?」 「あぁ、手当てしてもらったおかげで、歩く分には問題ないよ」 「よかった」 今朝感じた、神坂さんの迷いが消えているような気がした。 ……まさかな、きっと柊の魔法の事があったから、考える余裕がないだけだろう。 「あ、そうだ。小日向君」 「え、なに?」 「今日、放課後に屋上に来てもらってもいいですか?」 今日は……特に約束もないし、母さんの所に寄ろうかと考えていたくらいだったか。 なら、問題ないな。 「うん、それはかまわないけど……何かあった?」 「ちょっと、大事なお話があるんです」 そういった神坂さんの表情は、真剣だった。 彼女が、何を思って何を考え付いたのかは俺にはわかる訳がない。 だけど、わからないからこそ、俺は神坂さんの話を受けなければならないような気がした。 「……わかった、放課後、必ず行くよ」 「ありがとう……待ってますね、 「え?」 パタパタと、そう言って神坂さんは先に走り去っていった。 今、彼女はなんと言った? 「……雄真君って言ったのか?」 俺の疑問に答えてくれる存在は、そこにはいなかった。 神坂さんがどうして俺のことを雄真と呼んだのかわからない。 それを考えつつ教室へゆっくりと戻ろうと思っていたのだが。 さすがに、黙り続けている相棒を放っておけなかった。 「……ティア?」 神坂さんにほんの一時預けてから、ティアの様子がおかしいのだ。 いや、おかしいといえば、唐突に俺のことを下の名前で呼んだ神坂さんもそうなんだが。 「……は、申し訳ありません、マスター。考え事をしていました」 「お前が考え事なんて、珍しいな」 「いえ……ですが、今の私は喜ぶべきか、悲しむべきか……わからないのです」 喜ぶべきか、悲しむべきかわからない……? それは、一体どういうことだ? 「恐らく、マスターの疑問は放課後に解決するでしょう」 「神坂さん絡みか……」 まさか、何か魔法で影響が出ているのか…… だとしたら、一度俺の魔力をティアの全箇所に通して、調べる必要があるか。 「先に申し上げますが、妨害系魔法は一切かけられておりません」 「……違うのか?」 「はい、ただ私は一言言われただけです」 「……それは、まだ俺が聞いちゃいけないってことか」 雰囲気から、ティアの言いたいことはなんとなく察してやれる。 これでも、幼い時に鈴莉母さんと共に作り、そこから一緒に歩いてきた相棒だから。 「……はい」 そして、ティアからは予想通りの言葉が返ってきた。 「わかった、それじゃぁ大人しく放課後まで待つよ」 それでわかるのなら、別に焦る必要はない。 もしかすると、前の神坂さんのことも一緒にわかる可能性だってあるんだ。 伊吹や那津音さんの問題とは違う。 答えは少し待てば手に入るというのなら、俺は大人しく待つだけだ。 「もうしわけ……ありません」 「謝る必要はない、ティアだってマジックワンドとはいえちゃんと人格があるんだから」 人格があると俺が認めている以上、秘密にしたいことだってあるはずだ。 なら、俺にできることは、ティアを信じているだけ。 こんな簡単なことなんだから。 「とりあえず、教室に戻るのもなんだかなぁ……」 あんな表情の神坂さんを見てしまったため、なんとなく戻るのが気まずい。 仕方ない……か。 勉強をサボりたいわけじゃないけど、鈴莉母さんの所でも行こう。 「……でも、母さん理由を聞いて納得してくれるのかな」 「……多分、大丈夫……だと、思い……ます?」 そんな疑問系で言われると、とてもじゃないが不安になるんだが…… まぁ、ここで悩んでいても仕方がない。 当たって砕けろともいうし、まずは行動と行きますか。 「あ、ティア……悪いんだけど重力軽減の魔法……頼む」 「あ、はい、了解しました」 今のままでも、歩けないことはないんだけどな。 でも、痛みがあった以上あまり酷使するのは良くない。 ティアに重力軽減の魔法をかけてもらいながら、俺は母さんの研究室に向かった。 「……マスター、 「……お前、俺が魔法を隠してるの忘れてるだろ」 「あ、そうでした」 この頃、ティアは日常とシリアスでギャップが激しいのは、気のせいだろうか。 ……誰に似たんだか
From 時雨 2007/12/28
加筆修正 2007/12/28 |