今のままでも、歩けないことはないんだけどな。
でも、痛みがあった以上あまり酷使するのは良くない。
ティアに重力軽減の魔法をかけてもらいながら、俺は母さんの研究室に向かった。


「……マスター、飛翔(フライ)系の魔法で飛べばいいのでは?」
「……お前、俺が魔法を隠してるの忘れてるだろ」
「あ、そうでした」


この頃、ティアは日常とシリアスでギャップが激しいのは、気のせいだろうか。
……誰に似たんだか



















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!



















「あら、雄真君、こんな時間にどうしたの?」


鈴莉母さんの研究室、そこに着いた俺とティアを待っていたのは……


「あー、母さん。理由ちゃんというからその右手に集めてる魔力は勘弁してください」
「す、鈴莉様、私からもお願いします!だ、だからその魔力は……」


笑顔の素敵な母さんの、右手に篭もった魔力だった。
ぱっと見で天蓋魔法クラスの威力があったような気がする。
そんな魔力を貯めれる母さんを尊敬しつつも、やっぱり怯える俺とティアだった。


「で、怪我までしてるようだけど、どうしたの?」


ひとまず、話を聞いてくれるように頑張って説得したおかげで、母さんの魔力は霧散した。
そこでやっと気づいたのか、母さんは俺の足を指差してそう聞いてきた。


「あぁ、これは余剰魔力の暴走のせい。ティアに重力軽減かけてもらってるから問題ないけどね」
「でもティアの魔力も無限っていうわけじゃないでしょう。ほらここに座りなさい」


ペシペシと、近くの椅子を叩いて、ここに座るように促される。
言われた通りに椅子に腰掛けると、母さんが右手を俺の足に掲げた。


「エル・アムダルト・リ・エルス……カルティエ・アムシア」


母さんの右手から発せられた光が、俺の足を優しく包み込むと痛みと腫れがどんどん引いていった。
母さんからは、聞いたことない魔法だったな……回復魔法、か。


「ティア?」
「もちろん、記録しました、マスター」
「そうか、サンキュ。母さんもありがとう、すごい楽になったよ」


ティアに頼んでいた重力軽減を解除してもらっても、問題ないくらいに歩ける。
やっぱり、鈴莉母さんの魔法はすごいな。


「それで、雄真君がまだ授業中であるにも関わらずここに来た理由を教えてもらおうかしら?」
「あぁ……うん、それなんだけど……」


理由を話すとは言ったけど……どう説明すればいいんだろうか。
柊の魔法に巻き込まれて、手当てを受けて戻る途中だった。
……これなら、ここに寄る理由がない。
神坂さんに、放課後まで会うのがなんとなく気まずい。
……これも、いまいち理解されないだろうなぁ。


「どうしたの、雄真君?」
「いや、ちょっとどう説明すればいいのかなぁってね」
「……もしかして、それって女の子が絡んでたりするのかしら?」


ギクッと、焦る必要はないはずなのに、俺の鼓動が一瞬だけ激しくなった。
なんで、母さんがそんなことを言い出したんだろうか。


「本人がどう言っていいものか言いよどむ場合、それが自分の子供だったりしたら結構恋愛的要素が絡んでたりするのよね」
「……なんていうか、随分と嫌な統計だね」
「というか、それって統計学として見ていいんでしょうか……?」


さぁ、それは流石にわからないけど、でも母さんが言ったことはある意味的を得ていた。


「……ふぅ、確かにここに来たのはそういう理由もあるよ」
「あら……それ以外にもあるのかしら?」


そう言って俺の方を微笑みながら見てくる母さん。
それに対して俺は、肩をすくめるような反応を見せた後、用件を切り出した。


「一応ね、母さんが言った理由もあるけど、ついでだから聞きに来たんだよ」
「何を聞きに来たのかしら?」
「……那津音さんのことさ」


那津音さんのことを出すと、今まで微笑んでいた母さんが一気に魔法使いの顔へと変化した。
ここら辺の切り替えの速さはやっぱり俺より何倍も早いな。


「那津音さんの病院に行ったのは知ってるだろうけど、その時に変な出来事があったんだ」
「変な出来事?」


首を傾げる母さんに、頷きを返しながら、俺は先日あった出来事を思い出して、ゆっくりと言った。


「病室に入ろうとした瞬間、強引に魔力が持ってかれた」
「――――なっ!?」
「その様子だと、母さんはなんともなかったみたいだね」


普段の母さんが見せることのない驚愕。
つまり、俺の魔力だけに反応して、あの出来事は発生したと言うことか。


「それで、雄真君は大丈夫だったの?」
「一時的に魔力が少しなくなったけど、神坂さんのおかげで回復はしたよ」
「……そう、だから変な報告が入ったのね」


……変な報告?
俺が那津音さんの病室に尋ねたのは知っていてもおかしくないが、他になにかあったろうか。


「電話でね、小日向っていう男の子が魔法使いを立ち入らせないようにして欲しいって言ったって聞いたのよ」
「あぁ……そのことか」


自分でも出過ぎた真似をしたんじゃないか、という思いはあった。
だけど、もしかしたら俺と同じように魔力を略奪される人がいるかもしれない。
そんな人を放っては置けないから……
思い出して自己嫌悪しそうになっていると、気づけば母さんの手が俺の頭を撫でていた。


「いい判断をしたわね、雄真君」


俺も単純だなぁと思う。
母さんにそう言われ、撫でられるだけで悪い気分がしなくなるのだから。


「……マスター、嬉しそうです」
「そりゃあな、母さんに褒められてイヤなわけないだろう」


――――マスター、私も頑張ってます!褒めてください!!
なんてティアに言われて、ちょっと気が抜けそうになったのは秘密だ。


「それで、雄真君はこれからどうするのかしら?」


少しばかり、ティアと戯れていたが、母さんが両手を叩いて、そう聞いてきた。
俺がどうするのか……とりあえず、今決めていることを母さんには話しておいた方がいいか。
出来るだけないようにはしたいが、もしかしたら母さんの協力が必要になるかもしれない。


「那津音さんには申し訳ないけど、原因がわからない以上後回しにさせてもらおうと思う」
「そうね……魔力が奪われるなら下手に近付くと危険だものね」
「これは俺の勘なんだけど、伊吹が答えを知っているんじゃないかって思うんだ」


俺が那津音さんの事を知ったのも、伊吹が瑞穂坂に現れてからだ。
もしかすると、伊吹は何かを知っていてその解決方法を求めてここに来たのかもしれない。


「あ、あとは……母さん、式守の秘宝って何か知っているかな?」
「……秘宝」


気のせいではないだろう。
秘宝と言う言葉を聞いた瞬間、母さんから表情が消えた。


「……その様子だと、知っているみたいだね」


もしかすると、ワザとこういった態度を取っているかもしれない。
だけど、今回に関しては違うんじゃないかと思えた。


「えぇ……那津音が、今の状態になった原因だもの」


……原因、か。
那津音さんほどの魔法使いをあんな状態にできるほど危険な物っていうことか。
……だとしたら、なぜ伊吹はそれを話題に出したんだ?
何をするかはわからないけど、下手したら那津音さんと同じことになるだろう。


「……秘宝のことを教えてくれたのは伊吹、その伊吹が瑞穂坂にいる」


その式守の秘宝は、瑞穂坂に近い所にあるって事か。
この仮定が正しい場合、そういった危険性があるマジックアイテムが保管される場所。
……つまり、瑞穂坂学園か。


「母さん……この学園にその秘宝があるんだね?」
「……すっかり聡明になったわね、雄真君は」


出来のいい生徒を褒めるような母さんの物言い。
だけど、これだけじゃまだ正解を導き出してはいないんだろう。


「ここからは俺の予想だけど、おそらくその秘宝の管理者は母さんだね?」
「なぜ、そう思うのかしら?」
「一つは秘宝の危険性」


那津音さんですらあんな状態にするものだ、他の魔法使いじゃ管理しきれないんだろう。
そこで抜擢される可能性が高い人物。
一人はこの学園の理事長でもあり、先見の第一人者である高峰ゆずは学園長。
そして、もう一人は大魔法使いの御薙鈴莉。
ゆずはさんが学園長という職についている以上、管理者に適するのは教師と言う肩書きだけである母さんになる。


「二つ目は母さんが前に言ったこと」


自分の口からは話せない、伊吹から聞いて欲しい、そして止められることなら止めて、と。
俺は前に母さんにそう言われた。
自分は関係者であることを示唆するようなことも言っていたな。
もしかすると母さんは那津音さんがああなった時の現場にいたのかもしれない。
そして、そうなることを止められなかった。


「……参ったわね、どうしてそこまで考えが回るようになっちゃったのかしら」
「まぁ、おかげさまで最近は考えることが多くてね」


考えることが増えたには増えた。
でも、それに比例して集中力と共に、頭は回るようになったと思う。


「最終的なことまではわからないけど、伊吹がやろうとしていることに秘宝っていうのが関わっている、そしてそれは危険なことだって感じか」


伊吹が何をしようとしているのか、それは伊吹本人に問いかけて見ないことにはわからないだろう。
でも、少しでも危険だと言う事がわかった今、俺はそれを黙って見ているつもりはない。


「うん、だいぶやるべきことが見えてきたな」


少しずつだけど、足りなかったパズルのピースが埋まっていく感覚。
未だに見えないところもあるけれど、それでも間違いなく進んでいる。


「ところで雄真君」


これからの俺の活動方針を考えていると、母さんが話を変えてきた。
さっきまでの真面目な雰囲気じゃぁないけど、なんだろうか?


「ん、なに?」
「ここに来た理由って、何かに悩んでたからじゃないのかしら?」


……あ。
そうだよ、どうしよう!?
放課後に神坂さんに呼ばれてるんだった!


「えっと、マスターが混乱し始めてしまったようなので、私からご説明致します」
「うん、お願いねティア。雄真君、ティアを借りるわよ?」


っていうか、どうして彼女は俺のことを名前で呼んだんだろう!?
そもそも、俺に話しってなんだ?
神坂さんと知り合ってそんなに時間が経ってないよな。


「……で、これが……というわけで……になりまして、こうなってます」


やっぱり俺が魔法を使っていることで何か問題があったんだろうか?
前にティアがトラウマがどうのこうのって言ってたけど、怪我はないって言ってたよな。


「……へぇ、っていうことは……で、……でしょ?」


やっぱり怪我はしなかったけど、なにかまずかったっていうことだろうか?
あぁ、もう、考えても考えても答えが出ない!


「って、母さんとティアは何を話しているんだよ」
「んー、ちょっとした現状の説明と、世間話よね」
「まぁ、およそそんな感じです」


いつの間に持っていったのか、気づけば母さんの手にあるティア。
そのティアから何を聞いたのか、母さんの笑みは深くちょっとだけ嫌な予感を滲ませるものだった。


「……ちなみに、何を聞いたの?」
「雄真君が、神坂さんと放課後に待ち合わせしてるのと、それに対するティアの考察かしら?」


まぁ、神坂さんとの待ち合わせに関しては、事実だからいいとして。
考察って……なんだよ。


「……ティア、何を言った?」
「マスターには、放課後になればわかる、とすでに言ってあります。それまで聞かないって約束してくれました」
「……それを言われると、聞けないじゃないか」


確かに、俺は待つとしっかり言ってしまった。
そうなると放課後まで待たないと俺は自分で言ったことも守れない人間になるわけか……
そんな人にはなりたくないよなぁ……


「ま、聞いた感じ悪いようにはならないから、雄真君は安心していってらっしゃい」
「……その笑顔を、今ほど不安に思ったことはないよ」


俺に出来ることは、時間まで大人しく待っているしかないって事か。
……あぁ、腹痛くなってきた。


「マスター、ファイトです」
「……おー」















From 時雨  2007/12/26