「……神坂春姫さん」
「……はい」


だから、胸を張って伝えよう。


「俺も、君が好きです」


この想いを、君に。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















「雄真君!!」


そう俺が伝えた直後、春姫が抱きついてきた。
……え、抱きついてきた!?


「わ!」


唐突過ぎる抱擁。
それについていけなかった思考が、ものの見事に混乱した。


「……ようやくマスターにも春が……私は嬉しいです!」
「……無事に終わってよかったですね、ティアさん」
「えぇ、マジックワンド冥利に尽きるとはこのことですね、ソプラノさん!」


横で、そんなことを話しているティアたちのことを頭に入れる余裕すらなかった。
……とりあえず、この現状をどうすればいいんだろうか?


「あ、ご、ごめんなさい」


俺がどうしていいのか悩んでいるのに気づいてくれたのか、春姫は自分から離れてくれた。
……よかった、あのまま抱きつかれたままだと、俺は何もできなかったかもしれない。
でも、柔らかくていい匂いがしたな……


「あ、いや……気にしないで」


違う、何を考えているんだ。
まだ思考が冷静さを取り戻しきれていないらしい。
妙なこと、口走らなければいいんだが……


「うん、でも……嬉しかったから」


本当に嬉しいという気持ちを前面に出して微笑んだ春姫。
その笑顔に危惧していたことなど忘れて心を奪われた。
流石に、そのことを悟られると恥ずかしいような気がした。
そう考えている自分とは裏腹に、自然と身体は動いていた。


「えっと……その……これからも、よろしく」
「こちらこそ、よろしくね、雄真君」


握手を求めるかのように、前に出してしまった手。
自分でも何をやっているんだろうか、と疑問に思う前に、春姫がその手を握り返してくれた。


「…………」
「…………」


なんて言えばいいのか……とてもじゃないが妙に気恥ずかしい。
今までこんな空気を感じた事がなかったっていうのもある。
だからこそ、当事者になったために、どういう反応をすればいいのかわからない。


「えへへ……雄真君」
「えっと……どうしたの?」


何が嬉しいのか、俺にはわからないが、春姫はとても嬉しそうに俺の手を両手で包んだ。
まるで壊れ物を扱うかのような、優しい手つき。
そして、春姫は俺の手を、顔の前に近づけると、ゆっくりと目を閉じていった。


「ようやく、掴まえた……私の、初恋の男の子」


閉じられていた目が、ゆっくりと開く。
まぶたの奥に隠されていた、春姫の綺麗な瞳が、俺の姿を確かに捕らえた。


「そして、いつの間にか私が大好きになっていた男の子」


しっかりと俺を見つめ紡がれた言葉が、俺の思考を麻痺させる。
麻痺する思考とは別に、春姫の一言一言で満たされていく自分の心。
……やっぱり、俺の思いは間違っていなかった。
俺は……神坂春姫という女の子を、愛しいと感じている。


「雄真君……」


春姫の、しっかりと俺を捕らえるその瞳から、涙が一筋零れ落ちた。
麻痺していた思考が、ゆっくりと動き出す。


「春……姫……」
「雄真君に何を言われても、もう離れたくない……離したくないの」


思い出に残る男の子を十数年探していた春姫だ。
きっと、不安に思う事だってあったんだろう。


「雄真君と一緒にいたいの……絶対に、離れたくない……」


その思いが、きっと今の春姫をこの行動に移させている。
なら、俺ができることはなんだ。
春姫が、少しでも安心できるように、今の俺にできることは。


「……春姫」


微かに震えている、重ねられた春姫の手。
優しく、重ねられていた手に俺のもう片方の手を重ねる。


「……雄真君?」
「大丈夫……俺は、ここにいる」


ゆっくりと、春姫の中にある不安を消せるように思いを込めて。
俺の、精一杯の……気持ちを込めて。


「もう、不安に思う必要はない……心配しなくていい。だから……」


だから……もう、泣くことなんてない。
笑って欲しい……笑顔を、見せて欲しい。


「だから、安心してくれ。な、春姫……」
「……うん」


春姫の身体を、しっかりと抱きしめる。


「あ、雄真君」
「俺は……春姫のことが好きだ」


俺には、自分の思いを伝える方法が、これ以外思いつかない。
だからこそ、俺が思いつく方法で、春姫への思いを伝えるしかできない。


「……うん、私も……大好き」


春姫も、静かに俺のことを抱きしめ返してくれた。
その触れ合った部分から、静かに伝わってくる確かな感触。


「……暖かい、な」


幼い頃から守り続けてきた、俺の二つの誓い。
その一つは、未だ遥か長い道のりだけど……
今、この腕の中にあるこの温もりで、俺の誓いが一つ果たされたのを実感できた。


「……うん、暖かいね」


俺は……今、新たに自分に誓おう。
この温もりを守ると言うことを……
そして、長く俺のことを探していてくれた……
春姫を、大切にすると言うことを。






























「……マスター、大変申し訳ないのですが」


春姫の温もりを感じている時、ティアがおずおずといった雰囲気で声をかけてきた。


「どうした?」
「すいません、お邪魔なのはわかっているんですが……」
「……仕方がないさ、何か反応があったんだろう?


確かに、このままのんびりとしていたい気持ちもあった。
だけど、そういった気遣いができるティアが声をかけてきた以上、何かあるんだろう。
名残惜しさを感じながら、俺は春姫を抱きしめていた腕を緩めた。


「反応って……そういえばティアさんは一人でも魔法使えるの?」


春姫の方も名残惜しそうに離れながら、先の戦いで見ていたのか、そう疑問を口にした。


「あぁ、ティアは理由はわからないけど、最初から一人である程度魔法が使えるみたいなんだ」


鈴莉母さんも、一緒にティアを生み出した時驚いていたからなぁ。
そういえば……ソプラノが単体で魔法を使っているところを見た事がない。
マジックワンドが単体で、魔法行使が可能になるのはそれだけ稀ってことなんだろう。


「すごいんだね、ティアさんって」
「どうぞ神坂様、私のことはティアと呼んで下さい」
「え、でも……」


唐突なティアの提案に、春姫が困ったような視線を俺に向けてくる。
そんな春姫に俺は春姫に笑顔を見せながら頷いた。


「ティアが、そう言ってるんだ、そう呼んであげてくれないか?」
「神坂様はマスターの大切なお方、マスターの大切な方は私にとっても同じですから」


その言葉を証明するかのように、優しく光るティア。


「えっと……それじゃ、私のことは春姫って呼んで欲しいな、ティア」
「……わかりました、春姫。今後ともマスターをよろしくお願いします」


俺が持っていたティアを撫でながら、楽しそうに話す二人。
それを見ていると、春姫の背中からソプラノがゆっくりと俺の方に近付いてきた。


「ソプラノ?」
「春姫を、よろしくお願いします」


ただ一言、ソプラノはそう言って来た。
きっと春姫とソプラノも俺たちと同じなんだろう。
大切なパートナーだからこその一言。


「あぁ、もちろんだ」


そのソプラノに答えるように、しっかりと頷いて答える。
その反応に満足したのか、ソプラノは春姫の背中に戻っていった。


「……それで、何かあったのか?」
「あ、はい、まだ距離はありますが式守の魔力反応を感知しました」


どうやら伊吹達がこっちに戻ってくるくらいの時間が経っていたらしい。
時間を忘れるくらい、春姫といるのが良かったって事なのか。
そう考えると、少しだけ恥ずかしいような気持ちになった。


「式守さんって……さっきの子?」


一瞬、背中に悪寒が走ったような気がした。
……なんだろうか?


「うん、そうだよ……って、春姫?」
「なぁに、雄真君?」


さっきまで見惚れるくらいの笑顔だったはずなのに……
なのに何故、今は背中に冷や汗が流れるような感覚を感じているんだろうか。


「なんか……怒ってないか?」
「そんなことないよ?ただ、雄真君とさっきの子の関係を教えて欲しいなぁ」


俺の五感が全てを持って告げている。
今の春姫に逆らうなと。


「さっきの、伊吹っていうんだけど……式守家の知り合いって言えばいいのかな」
「式守って……あの有名な魔法使いの?」
「そう、伊吹はその次期当主。昔ちょっと知り合った……すももと同じ妹みたいな感じかな」


昔は雄真兄さんって俺と遊んだりしていたけど。
今じゃそんな風に呼んでくれそうもなかったな。


「そっか……妹みたいな存在なのね……」


そう呟いて、安心したかのように息を吐く春姫。
……どうしたんだろうか?


「マスターの朴念仁」
「何を失礼なことを言うんだ、ティア」
「女心を理解してくださいと、私が昔から言っていたじゃないですか!」


女心を理解してくれと言われても……
それがどういうことなのか全然わからないんだけどな。


「……ティアさんも苦労しているのですね……」
「わかってくれますか、ソプラノさん……」


そんな俺の感情を知ってか知らずか、マジックワンド同士はそう話していた。
確かにティアに苦労をかけたこともあるけど……
なんとなくティア達の言っている苦労の意味が違うような気がする。


「雄真君」
「ん、どうしたの?」
「浮気しちゃ、ダメだよ?」


とても素晴らしいニッコリ笑顔で春姫がそう言ってくれた。


「もちろん、それに俺はそんなにモテないよ」


春姫以外の相手に浮気するなんて、そんなことがあるはずがない。
それだけ春姫という存在は、俺にとって大事なんだから。


「……無自覚なのね」
「マスターはやっぱり朴念仁です……春姫、頑張ってください」
「うん、頑張るよ。ティア」


……そこ、ティアと二人でなんでため息をつくんだ。
仲良くなってくれたのはいいんだけど、俺が悪いのか……?
そんな腑に落ちない感情を持っていると、俺でも感知できるような魔力が近付いてきた。


「……ふむ、逢瀬は終わったのか?」


来て早々茶化してくる伊吹。
それから少し遅れて、信哉と上条さんが来た。
信哉が木刀を持っていないところを見ると、戦う気はないようだ。


「では、聞かせて貰おうか、那津音姉さまの病室への立ち入りを制限した理由を」
「あぁ、俺が先日那津音さんの病室に行った時の事だ」


なぜか俺にだけ反応し、魔力の略奪が起こったこと。
そして、最悪の事態を想定して、魔法使いは極力足を踏み入れないように頼んだことを伝える。


「と、言うわけだ」
「……私が見舞いに行った時は、そのような事が起きなかったが」
「あぁ、鈴莉母さんが行った時も同じだったらしい……どうやら、俺に反応したみたいだな」


伊吹は、何かを考えるような仕草をして、呟くように言った。


「何故雄真が?」
「それは、俺が聞きたいところだな」


本当にそう思う。
お見舞いに行って命の危機に瀕するなんて事は、できれば金輪際あって欲しくない。
そのためにも、俺は伊吹がやろうとしていることを聞かなければならない。


「式守の秘宝のことも、少しだが母さんから聞いた」
「……御薙鈴莉か」
「やっぱり詳しいことは教えてくれなかったけどな」


そう肩をすくめて見せる。


「でもな、伊吹」
「…………」
「お前が何を考えてそれを求めているのかわからないが……危険なものであるのは解った」


真剣な目で、伊吹を見つめる。
俺のこれから言う言葉が、嘘偽りないということを証明するために。


「それで、貴様はどうするつもりだ?」
「事と次第によっては、止めるよ、お前を」
「そんなこと……」
「出来ないとは言わせない、一応これでもお前と同等くらいの力は持ってるつもりだからな」


さっきの戦いで、それがわかったからこそ、伊吹は言葉を続ける事ができなかった。
まぁ、俺もさっき始めてあそこまで魔力を使った戦い方ができたわけなんだけどな。


「……ふぅ、まったくお節介な所はかわらんな、雄真」
「伊吹様?」


唐突に、伊吹が肩の力を抜いたように感じた。
それを同じく感じ取ったんだろう、信哉と上条さんも驚いたような表情をしている。


「そうか?」
「あぁ、まったく変わらんよ」


俺自身そこまで変わったつもりもないから、そう言われてもわからないが。
いったい何がおかしいのか、伊吹の表情には笑みがこぼれている。
そんな伊吹が珍しいのかなんなのか、信哉は普段の鉄面皮からは想像もできないくらい驚いていた。
……っていうか、そこまで驚くようなことなんだろうか?


「久々に、笑った顔を見たな」
「ふん、式守時期当主というのはそれだけ重いということだ」
「そうみたいだな、後ろの信哉がものすごい驚いた顔をしているくらだし」


信哉の方を指差して言ってやると、伊吹はバッと振り返って信哉の事を睨んでいた。
あら……言ったらまずかったか?


「こ、小日向殿!?」


信哉自身も、なぜか慌てている。


「別に、悪いことじゃないだろう、信哉だってお前が笑ってくれた事が嬉しいみたいだし」


一応、フォローになっているかはわからないけど、フォローはしておこう。
俺のせいで信哉が睨まれるっていうのは、あんまりいい気がしない。


「……まぁいい、今回は不問としてやろう」
「……ありがたき幸せ」
「どうやら、いい感じに力が抜けたみたいだな」


こんな雑談をしていたからだろうか。
最初に会った頃に比べて、随分とトゲある雰囲気が取れてきた。


「貴様と話していると、いつも最終的には貴様のペースになるな」
「そんなつもりは、俺としてはないんだけどな」


同意を求めて、隣にいる春姫を見てみる。
だが、返ってきた反応は苦笑だけというなんとも言いがたいものだった。
……俺って、そんなに自分のペースに巻き込んでいたんだろうか。


「良いだろう……貴様のペースに乗って話してやる、ここに来た目的をな」


少しばかり雰囲気が和らいだかと思ったが、伊吹がそう切り出した瞬間にまた緊迫したものになった。
その雰囲気に不安を感じたのか、春姫がゆっくりと俺の手を握ってくる。
それに答えるように、俺はしっかりと春姫の手を握り返した。
そして、伊吹の口からゆっくりと、これからの事が語られ始める。


「私が式守の秘宝を求める最大の理由は……那津音姉さまの魔力を取り返すためだ」


だが、その内容は、予想を遥かに超えたモノだった。


「魔力を……取り戻す?」


一体、それはどういうことだ?
























      〜 あとがき 〜


とりあえず書きあがりました、まじはぴ21話でした。
さてさて、とりあえずこれからですが。
春姫には適度にデレてもらって、さらに恒例のアレをお願いしましょう。
やっぱりアレがあるほうが面白い気がしますしね。

次はとりあえず式守の秘宝についての云々かんぬんを書いていこうかと。
あとは、狙っているすももと伊吹の話も……w
やっぱり伊吹はすももには適わないというのが俺の考えになりそうです。

          とりあえず今回は、このへんで。
          From 時雨


初書き 2007/12/30
加筆修正 2008/01/04