少しばかり雰囲気が和らいだかと思ったが、伊吹がそう切り出した瞬間にまた緊迫したものになった。 その雰囲気に不安を感じたのか、春姫がゆっくりと俺の手を握ってくる。 それに答えるように、俺はしっかりと春姫の手を握り返した。 そして、伊吹の口からゆっくりと、これからの事が語られ始める。 「私が式守の秘宝を求める最大の理由は……那津音姉さまの魔力を取り返すためだ」 だが、その内容は、予想を遥かに超えたモノだった。 「魔力を……取り戻す?」 一体、それはどういうことだ? 二次創作 はぴねす! Magic Word of Happiness! 「説明しても構わぬが、先に式守の秘宝から教えてやろう」 「……頼む」 結局、秘宝とやらが危険なものであるとしか俺には認識できていない。 それがどういった代物で、どういう効果があるのかなんて、全然知らないからな。 「伊吹様、ここからは私が」 「ふむ、よかろう……信哉、任せたぞ」 「御意」 伊吹が説明を始める前に、信哉がそう言って前に出てきた。 信哉も伊吹と繋がりがある以上、知っていて当たり前か…… 「この地に眠る使鬼を鎮めるため、式守家の当主だけが持つことを許された魔法の品、それが式守の秘宝」 「……使鬼」 「そして、その名の通り、式守の正当な後継者である事の証だ」 正当な後継者の証……ね。 使鬼っていうのがいまいちまだわからない。 だが、それを持つ事が、式守家の当主として認められるってことか。 「その使鬼っていうのは、なんだ?」 「使鬼とは、この地に眠る魂たち……大まかに言ってしまえば魔力の塊だ」 俺の質問に信哉が答える前に、伊吹がそう言って来た。 「魂……?」 「死した者の魂はこの地にある使鬼の杜に還り、魔力へと変わる。それを操るのが、式守の秘宝」 「……それと那津音さんの魔力にどう関係がある?」 秘宝を、魔力として操るための魔法具だと考えるとする。 それならば、那津音さんの魔力を取り戻すと言った理由になっていない。 「私がいけないのです……」 「上条さん?」 何かを伊吹が言いよどんだ風に感じたが、代わりに答えるように、上条さんが前に出てきた。 「私達兄妹は、幼い頃母を亡くしました……そして、それを何時までも引きずり泣いていた私に、父が言ったのです。母に会わせてくれると」 「そして、父上は式守の秘宝を無断で使い……命を落しかけた」 「なっ!?」 その秘宝を使おうとしただけで、なんで命を落す危険が発生する? いや、待てよ…… 今、亡くなった母親に会わせると言ったのか……? もしかして、その秘宝って言うのは。 「もう、予想は付いてきたのだろう、雄真」 「……完全に秘宝を操る事ができるのなら、死者ですら蘇らせる事ができるのか?」 「その通りだ、しかしそれを扱える実力があるのは式守家の者のみ」 つまり、上条さんたちの父親は、無理矢理その秘宝を使おうとして…… 「魔力を……持って行かれたのか」 「その通りだ、小日向殿」 魔法使い……いや、人間にとって魔力の枯渇は死に至る。 制御不可能な魔法具を使用しようとして亡くなったという話は聞いた事がある。 ……少しだけど、話が見えてきたな。 「そして、上条さん達の父親が死ぬ前に、助けたのが那津音さんか……」 人一人の魔力を枯渇させるような代物を、途中で肩代わりしたのか。 那津音さんの魔力があってこそ、死こそ免れたものの、いまだ目覚めない眠りについた。 「……そして那津音様は知っての通り、病院で眠られております」 強引に奪われた魔力を回復させる方法は少ない。 一つは、奪われた先から奪い返すこと。 そして、もう一つは……違うところから魔力を手に入れる。 「……那津音さんの病室で俺があった出来事は、そういうことか」 那津音さんの意識があるのなら、そんな方法は取らないだろう。 だが、今現在那津音さんの意識はなく、生きているだけでも精一杯という状態。 そんな状態だからこそ、無意識のレベルで生きるための魔力を探しているんだ。 「伊吹、お前はその秘宝を扱える自信があるのか……?」 那津音さんですら生き残るのが精一杯だった代物。 いや、そういう状況だったからこその咄嗟だったせいかもしれないが。 それでも、伊吹にその代物が扱えるんだろうか? 「正直に言ってしまえば、ある……とは言い切れんな。那津音姉さまですら手に余る代物と聞いている」 「だったら何故、今ここに来た」 伊吹の魔法使いの実力があるのは、戦った俺だからこそよくわかる。 今焦らなくても、将来的に扱えるようになるかもしれない。 なのに何故、自信があると言い切れない状態でここに来たんだろうか。 「雄真、貴様も同じ立場になって考えてみよ!」 「…………」 「何時までも那津音姉さまをあんな状態にして、放って置けるのか、貴様に!!」 普段の不遜な態度とは違い、心の底からの伊吹の想い。 本当に那津音さんを慕い、想っているからこその行動。 「私はそんなのは嫌だ!だからこそ那津音姉さまを助けるためにここに来たのだ!!」 状況を知らない人が聞いたのなら、子供が何を、と一笑にするかもしれない。 だが、俺は那津音さんも、伊吹のことも知っている。 そんな俺が、この真剣な思いを笑い飛ばせるはずがない。 「……もういい、お前の気持ちはわかった」 泣きそうにも見える伊吹の肩に手を置く。 そして、もう片方の手で、伊吹の頭を優しく撫でてやる。 少しでも、張り詰めた心が余裕を取り戻せるようにと心を込めて。 行動はそのままに、俺は信哉の方に視線を向けた。 「……信哉、お前に聞きたい事がある」 「なんだ」 「伊吹のこの行動は、式守本家からはどう見られている?」 式守次期当主と、伊吹は自分のことをそう言っていた。 式守家からすればそんな危険な代物に伊吹が関わることは阻止する行動を取る可能性がある。 「…………」 「よい、信哉……ありのままに申せ」 気持ちが少し落ち着いたのか、信哉が言いづらそうにしている事を伊吹が促した。 「……伊吹様の行動は常に本家の監視下にある。そして、もし万が一の事が起こりうる時は……」 そしてまた信哉は言いよどんだ。 古いしきたりに囚われそうな家が考えること。 それくらい、俺にも想像がつく。 「……お前らが、命を賭して伊吹を助けろって所か?」 「……その通りだ」 伊吹達が苦渋を滲ませた顔をしたのを、俺は見逃さなかった。 ……やっぱり、自分たちの置かれている状態をわかっている上でここに来たってことか。 そして、それだけの決意を持って、那津音さんを助けに来た。 「俺が掴んだ情報だと、御薙鈴莉の手によって秘宝が永久に封印されるという話があった」 「だからこそ、封印される前に私は秘宝を取り戻そうとここに来たのだ」 「……母さんが?」 確かに、危ないものだとわかった以上、母さんがそう考えても不思議ではない。 人の手に余るモノを、人は二度と扱えないように破壊してしまうか、永久に封印してしまう。 だが、封印されてしまっては、那津音さんを助ける機会も失われる。 伊吹達がこの時に現れたってのは、それも関係しているのか。 「……なるほど、な」 伊吹達の考えは大体わかった。 那津音さんを救えるのなら、俺はそれに賛成する。 だけど、伊吹がそれを制御しきれる自信がない以上、このまま何事もなく通すわけにはいかない。 「……母さんにももう一度話を聞く必要があるか」 本当に母さんが秘宝を封印しようとしているのなら、その理由を確認しておいた方がいい。 しかし、母さんほどの魔法使いが何故、那津音さんを助ける手段を考えない? ……いや、考えていても実行できない理由があるって考えたほうがいいのか。 「……雄真君」 「ん、どうしたの春姫?」 俺が思考に入りかけたそのとき。 今まで黙って話を聞いてくれていた春姫が、静かにそう声を上げた。 「私は、式守さん達ともほとんど面識がないし、関わりがないかもしれない……」 ゆっくりと紡がれるその言葉は、隠された決意が聞いて取れた。 「でも……私は、式守さんに協力してあげたい。だって、私が目指す魔法はみんなを幸せにするための魔法だもの」 幸せにするための魔法…… 「私は……魔法のせいで、誰かが悲しむのなんて見たくないの!」 まさか、俺の誓いと同じ事を春姫が考えているなんて思いもしなかった。 「……春姫には適わないなぁ」 「……雄真君?」 隣にいた春姫を、優しく抱きしめる。 すごく嬉しかったから。 同じ事を考えてくれている人が、すぐ隣にいてくれる事が嬉しかったから。 「伊吹」 「……なんだ」 抱きしめた春姫をゆっくりと放して、しっかりと伊吹達を見つめる。 「その話、一度俺に預けてもらう」 「なに?」 俺の一言を、怪訝な目をしながら伊吹が見てくる。 だけど、俺は譲らない。 伊吹達を見逃せば、危険な目にあうかもしれない。 逆に止めてしまえば、那津音さんは目覚めないかもしれない。 「秘宝の事も、那津音さんの事も……全てまとめて俺が預かる」 だからこそ、俺はどちらも諦めない。 俺に出来ること……いや、俺にしか出来ないことがあるかもしれない、そう思った。 そう思ったからこそ、俺がどうにかしてやる。 「それをはいそうですか、と認めるとでも?御薙鈴莉の息子である雄真、貴様を信じるとでも?」 最初の、伊吹が俺に冷たい目を向けていた理由が、なんとなくわかった。 母さんが秘宝を封印しようとしている以上、伊吹達にとって俺は敵と変わらない。 だからこそのあの態度だったんだろう。 「御薙とか息子とか、そんなものは関係ない」 でも、それは間違いだ。 俺は俺であって、母さんじゃない。 母さんが違う方法で解決させようとしても、俺は俺なりの解決方法を見つけてみせる。 「伊吹、お前の知り合いとしての……御薙でもなんでもない、 その想いを込めて、伊吹達を見る。 どのくらい時間が過ぎたんだろうか。 長くも短くも感じる時間が流れて、静かに喋りだした人がいた。 「……伊吹様」 「……なんだ、沙耶」 上条さんに呼びかけられ、俺から視線を外す事無く上条さんの台詞を待つ。 俺自身も伊吹の目を見続け、その言葉の続きを待った。 「私は、小日向さんを信じてみたいです」 「俺も、同意見です、伊吹様……」 「沙耶……信哉……」 信哉と上条さんが、控えめに俺に委ねると答えてくれた。 その言葉を聞き、驚いたように振り返った伊吹は、二人の顔を見た後、諦めたかのように俺の方に向き直った。 「まったく、私もお前たちもどうかしている……」 「……伊吹」 「那津音姉さまを助けるとき、本家の人間には反対され、私だけで……と思っていたのだが」 反対されたと言っていたが、恐らく生半可なことじゃなかったんだろう。 それだけ、式守家も伊吹が危険だとわかっていたんだ。 「そんな私が……お前に頼ることになるとはな……雄真兄様」 「……その呼ばれ方は、久々だな」 昔、わずかな期間だけ呼ばれていた呼び名。 見知らぬ存在だった俺を慕い、呼んでくれた伊吹の呼び方。 「那津音姉さまを……助けてくれ」 伊吹が、俺を信じてくれる以上、俺は絶対にやり遂げなきゃならない。 みんなを幸せにする魔法使いとして、短い間でも伊吹に兄と呼ばれた者として。 「あぁ、もちろんだ」 それに答えるように俺は、しっかりと頷いて、伊吹に答えた。 此処に約束は成された、俺は、全力を持ってその想いに答えよう。 〜 あとがき 〜 そろそろ本編からかけ離れ始めました、まじはぴ!22話です。 まぁ、もとから那津音さん生存+伊吹と知り合いな時点でいつかは離れる運命でしたが(笑 と、まぁとりあえず最大の見せ場はやっぱり伊吹が雄真を兄様って言うことでしょうか? いや、これは思いつきで入れたようそなんで見せ場とも言い切れませんが(ぁ 秘宝については俺が捏造した割合の方が強いです(ぁ ホントはこうだ!ってのあったら教えてくださいw それなりに文章書き直すつもりなんでー とりあえず今回は、このへんで。 From 時雨
初書き 2008/01/06
公開 2008/01/06 |