伊吹が、俺を信じてくれる以上、俺は絶対にやり遂げなきゃならない。
みんなを幸せにする魔法使いとして、短い間でも伊吹に兄と呼ばれた者として。


「あぁ、もちろんだ」


それに答えるように俺は、しっかりと頷いて、伊吹に答えた。
此処に約束は成された、俺は、全力を持ってその想いに答えよう。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















「とりあえず、伊吹達は普通に生活していてくれ」


下手に動いて式守家からちょっかいを出されると、事態が変わる可能性がある。
それなら、今と変わらないように動いていれば、少なからず式守家が動くことはないだろう。


「まぁ、そうするしかあるまい」
「何か動きがあったらすぐ知らせてほしい、俺からもそうするから」


連携をしっかり取っておかないと、不測の事態に対処できなくなる。
そうならないように、連絡手段は伝えておかないとな。


「有事の際には信哉達に報告させる、それでよいな?」
「あぁ、十分だ」


信哉達は幸いなことに同じクラスだ。
それなら、ほぼ確実に連絡が取れる状態だと見て問題ないだろう。


「一応俺の方から護国さんに伝えておくか……」


式守家現当主、式守護国。
那津音さんの実父であり、伊吹にとっては義父だ。
一応、那津音さんと知り合った時、俺も護国さんには会っている。
あっちが覚えているかは……まぁ、なんとかなるだろう。


「あとは……春姫、君はどうする?」


式守家と、俺……御薙の問題なのは間違いがない。
極端な話をしてしまえば、春姫は部外者という扱いになってしまう。
話の内容を知ってしまった以上、完全な部外者とも言えないが……


「私は……」


悩み始めた春姫を見て、それも仕方がないと思ってしまう。
自分も同じ立場だとしたら、悩まずにはいられないだろうから。
気持ちとしては手伝いをしたい……でも、自分が関わっていいものかわからないのだから。


「……式守さん」
「なんだ、神坂春姫」


俺の問いかけに答える代わりに、春姫は伊吹へと向き直っていた。


「私が、お手伝いに混ざったとして、力になれると思いますか?」


これは、間違いなく、春姫の本心なんだろう。
確かに春姫の魔法使いとしての実力は高い。
でも、それは瑞穂坂学園というカテゴリに収まった上での成績でしかない。


「……正直に言ってしまえば、足手まといであろうな」
「……そうですよね」


俺や伊吹のような、魔法使いの家系と比べてしまえば春姫の実力はそこまでとは言えない。
伊吹の言い分は、間違ってはいない……
だけど、それを俺は認めたくなかった。


「……伊吹」
「だがな、神坂春姫よ」


それを言おうとしたが、伊吹によってそれは遮られた。
一瞬だけ俺の方に向けられた伊吹の目。
この場は任せろと、そう言う様な目だった。


「お主のような存在がいても、私は悪くないと思っている」
「……え?」


春姫が、驚きの声を上げた。
これは、俺からしても予想外の答えだ。
伊吹が、遠まわしな言い方をしていても、春姫がこの件に関わることを認めたのだ。


「そこにいる男はな、人の為になると昔からとてつもない力を出す」


そう言いながら伊吹が俺を見た。
……そんな風に言われる程、俺は伊吹の前でなにかやっただろうか?


「それに、お主と雄真は恋仲になったのであろう?」
「――――っ」
「そう赤くなることもあるまい。そのお主が近くにいれば、雄真も本来以上の力を発揮できよう」


……どうやら、昔の呼び方をしてくれるのはあの時だけのようだ。
そんな風に考えて思考をズラそうとした。 だが、堂々と指摘された春姫と恋人という言葉に顔が熱くなるのを感じた。
まさか伊吹にこう言われるとはなぁ。


「普段の私ならばこんな風には思わぬ所だが……雄真を信じることにしたのでな」


――――その雄真が選んだ存在なのだ、お主も信じよう。
伊吹は、そう言い切った。
……どうやら、少しばかり心に余裕が出来たみたいだな。


「……できる事は少ないかもしれない、けど、私もお手伝いしたい」
「それならば、私から言うことは他にはない」
「ありがとう……式守さん」


伊吹との会話が終わって、春姫はしっかりと決意を込めた目で、俺を見た。
もう、言われなくても春姫の思いはわかった。
それなら、俺はしっかりと春姫も守り抜くだけだ。


「雄真君、私もお手伝いする」
「……そっか、ありがとう。すごい心強いよ、春姫」


春姫がいてくれるだけで、きっと何倍も頑張れる。
俺自身もそう思っているからこそ、春姫にはそれだけを伝えた。


「ところで雄真君」
「ん?」
「魔法使いであることを隠したまま、動くの?」
「なんだ、雄真。魔法使いであることを隠していたのか?」


あぁ……それをどうしようかなぁ。
俺自身に誓ったことの一つは、長い歳月がかかったけど果たされた。
あの女の子が春姫であるとわかった以上、俺が魔法使いであることを隠している理由がなくなる。


「信哉、沙耶。お前たちは知っていたのか?」
「いえ、魔法使いであることは一度戦った身ですので知ってはおりましたが、魔法使いであることを隠している事は知りませんでした」
「私も同じです」


まぁ、学校じゃ魔法の使えない学生で通しているからなぁ。
準やハチは一応俺が魔法を使えることは知っているけど。


「ふむ、隠していた理由はわからぬが、私と戦える以上相当の実力はあるだろうな」
「……戦って強いとは思ったけど、伊吹ってClass はどのくらいなんだ?」


春姫がClass B だというのは学校でも有名な話なので知っている。
それを基準に考えて、伊吹は一体どのClassに入るんだろうか。


「伊吹様はClass A、その中でも上位に入るお方だ」
「私と兄様はClass B です」
「じゃぁ、雄真君はClass A の実力があるのね」


……そういう単純な話でいいんだろうか?
Class C から B に上がるには集中力や魔法制御が見られるはずだったような。
魔法制御がまだそこまでしっかり安定していない俺が、Class B になれるかもわからない。


「小日向殿とは、本気で一度手合わせ願いたいものだな」
「あぁ、俺としても魔法使い同士での模擬戦ってのはやったことがないからな、お願いしたい」


実戦に勝る経験はない、というくらい実戦で得られるものは大きい。
だが、模擬戦だって真剣勝負であるならば実戦に近い経験は得られる。
今まで魔法を隠していたために、母さんくらいとしか魔法戦はやったことがないからな。


「あ、そういえば……雄真君、まだ聞いちゃいけないのかもしれないけど……」


いつの間にか雑談になっていたが、唐突に何かを思い出したかのように春姫が切り出した。
まだ聞いちゃいけないって、なんのことだろう。


「雄真君が魔法使いであることを隠していた理由、聞いてもいい?」
「あぁ、あれか」


いつだったか、公園で春姫と準にした約束。
俺が抱えていた誓いを果たせた時、隠していた理由を教えるっていうもの。


「雄真君の目標がわからないから、言えないならいいんだけど……つい気になって」
「いや、大丈夫。目標の一つっていうのはもう達成したから」


そうだ、あの時した約束を守らなきゃいけないよな。
目標が達成された今、理由を話しても問題ない。


「まぁ、ついでだし、伊吹達も聞いてくれ」


俺が隠していた理由が気になるんだろう。
伊吹達も興味があると言った表情をしていたので、先に声をかけておく。


「俺が目標にしていた事ってのは……思い出の女の子に再会すること」
「え……?」
「そして、貰ったヘアピンをマジックワンドにしてしまったことを謝ること」


魔法を隠していた理由、それは俺の小さなプライドだったのかもしれない。
思い出の女の子である春姫に再開できるまで、俺は魔法を使わないことを決意した。
そうすることで、安易に魔法を使わないように自分を戒めたのだ。


「……雄真が魔法を使っていたのは、その出来事の前だったのか」
「那津音さんに言われて魔法を使って見せたあの時の後のことだからな」


式守の家に母さんに連れられて行った時、那津音さんに出会い、魔法を見せてと言われた。
今にして思えば、あの時は那津音さんがフィールドを張ってくれていたんだろう。
だから問題なく魔法が使えた。


「そして、俺はその思い出の女の子に再会する事ができた。それが春姫」
「なんと、小日向殿たちはそのような劇的な再会を果たしていたのか」
「素敵なお話ですね……」


再会できたからこそ、俺はちゃんと考えなければいけない。
このまま、魔法使いであることを隠して生活するか、魔法使いの道を歩むか。


「実際の所、悩んでる。このままでも俺のもう一つの目標は目指せるからな」
「そのもう一つの目標って、聞いてもいい?」


そんなに気になるのだろうか、春姫がそう聞いてきた。
うーん、言っても問題ないんだけど、春姫のあの台詞を聞いた後だと恥ずかしいなぁ。


「マスターが言い渋っているので、代わりにお答えしましょう」
「な!ティア!?」


予想外のところから、声がした。
今まで何も反応もしなかったティアが、唐突にそう言い出したのだ。


「雄真のマジックワンドか」
「はい、式守様、上条様。ティアと申します、以後お見知りおきを」
「ふむ、それでティア。雄真の目標とはなんだ?」


平然と挨拶を済ませて、勝手に話題を進めていく連中。


「はい、マスターの最大の目標は『みんなを幸せにする魔法使いになること』です」
「え、それって……」
「春姫が言った事と、同じ事をマスターは目指していらっしゃるんですよ」


そう、春姫が同じ事を言っていたからこそ、同じ事を言うのが恥ずかしい気がしたんだ。
考えている事が一緒なのは嬉しいけど、それをみんなに言うっていうのはね。


「ふ……ふはは、なんとも雄真らしいな」
「うむ、立派な心がけだと思うぞ、小日向殿」
「……勘弁してくれ、なんか妙に恥ずかしい」


ただでさえ子供の頃に掲げた目標で、それを今に目指しているんだ。
人によっては笑われそうなもんだが、逆に褒められると照れる。


「そんな、素晴らしい事だと私も思います」
「上条さんまで……」


純粋に、そう思って言ってくれているのがわかる分、余計に恥ずかしかった。


「そっか……雄真君も同じ事を考えてたんだ」
「……春姫?」


ふと、反応が何もない春姫の方を見てみると、何かを春姫は呟いていた。
その呟きもすぐに終わり、春姫は花が咲いたような笑顔で俺の方を向いた。


「なんか、嬉しいね。同じ事を考えていたなんて」
「……うん、そうだね」


その笑顔に見惚れ、ついつい返事が遅れてしまった。
だけどそんなことを気にした様子もなく、春姫の機嫌は上がる一方だった。


「コホン……それで、雄真。それで貴様はこれからどうするつもりなのだ?」


途中で、伊吹がわざとらしい咳払いをして、話を元に戻した。
そうだった……とりあえず俺がこれからどうするかを考えなきゃいけないのか。
表立って魔法使いとして活動を始めるのか……


「やっぱり、それが問題なんだよな」


表立って動くようになれば、自然と魔法科に編入を薦められるだろう。
魔法科に入れば、春姫たちとはいつでも会える。
でも、準やハチ達と何かをする機会が減ってしまうかもしれない。
……一体、どうしたらいいんだろう。
























      〜 あとがき 〜


伊吹達のClassは捏造です、信じないように(ぁ
とりあえず、調べたけど見つからなかったので適当に配置しました。
いやぁ、もうちょい上げてもいいかなぁとか思ったんだけどね。
妥当っていったらここら辺かなぁと。

さてさて、今後の雄真はどういう方針で行くのか。
それは俺にっても悩み物。
とか言いつつ書くのが俺だったりしますが。

          とりあえず今回は、このへんで。
          From 時雨


初書き 2008/01/06
公 開 2008/01/12
加筆修正 2008/01/13