途中で、伊吹がわざとらしい咳払いをして、話を元に戻した。
そうだった……とりあえず俺がこれからどうするかを考えなきゃいけないのか。
表立って魔法使いとして活動を始めるのか……


「やっぱり、それが問題なんだよな」


表立って動くようになれば、自然と魔法科に編入を薦められるだろう。
魔法科に入れば、春姫たちとはいつでも会える。
でも、準やハチ達と何かをする機会が減ってしまうかもしれない。
……一体、どうしたらいいんだろう。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















「小日向殿」


悩んでいても答えが出ないような気がしている時、信哉に呼ばれた。


「ん?」
「現在魔法科と普通科は合同授業を行っている故、焦らずともよいのではないか?」
「兄様の言うとおりかと思います」


確かに、今は魔法科の校舎の都合で、合同授業という態勢を取っている。
急いで結論を出す必要はない……か。


「春姫は、どう思う?」


それでもまだ残る俺の迷い。
迷いを多少でも無くせないかと思って、春姫に声をかけてみる。


「私は……」


声をかけられた春姫は、自分のことのように真剣に考えてくれている。
……俺が出さなきゃいけない答えなのに、人に頼ってしまうなんてな。


「……私は、雄真君が魔法科に来てくれると、嬉しいな」
「……春姫」
「いずれ魔法科の校舎が出来上がったら、雄真君とは離れ離れになっちゃうから……」


――――離れたくない。
春姫は俺にそう言ってくれた。
そして、俺もまた春姫と同じように思っている。
春姫と、離れたくないと思っている。


「……そっか」


準たちの事がなければ、俺としては魔法科に編入を拒む理由はないだろう。
それだけ、春姫とは違う意味で、俺のウェイトをあいつらが占めているってことか。


「とりあえず……答えを出すのは、事件を解決させてからにしようと思う」


普通科とか魔法科とか、春姫達や準たちの事。
考えることは一杯あるけど、今の俺ができる精一杯の返事。


「うん、今はそれでいいと思う」
「ごめんな、春姫」
「ううん、準さんたちとの関係も、大事だってわかってるから」
「ありがとう」


後回しになってしまうけど、こればっかりはすぐに決めれない。
そう結論付けて、思考を切り替えようとした時、俺の携帯が震えた。


「……ん、かーさんから?」


電話の主は、なぜか音羽かーさんだった。
……一体、なんの用事だろう?


「ごめん、ちょっと電話に出る。……もしもし?」
『ゆーまくん!遅くなるなら連絡しないとダメでしょー!!』
「つぁ……」


耳元で、大音量が響けば誰だって俺と同じ行動を取ると思う。
それだけ、かーさんの声の音量はでかかった。


「ごめん、かーさん。ちょっと友達と話してたら連絡するの忘れてた」
『あら、お友達って準ちゃん達?』


準たちと遊んでいることが多いから、かーさんのその考えもわからなくはないけど。
何かあったらとりあえずそっちに結びつけるのはそろそろ止めてくれないかなぁ。


「いや、それとは別」
『へぇ〜、それじゃゆーまくん。その子達、ウチに連れてらっしゃいな』
「は……?」


突然、かーさんにそう言われて思考が停止しかけた。
ただでさえ突飛なことを言うかーさんだが、とりわけ今回のはすさまじいな。


「なんで……?」
『こんな時間まで引き止めて、どうせご飯だって食べてないんでしょ?』


そこまで遅いというわけじゃないが、これから帰って準備するには少しだけ辛いかもしれない。
春姫みたいに寮で自活しているなら、買い物とかもあるかもしれない。


「いやまぁ、そりゃあOasisとかはもう閉まってるしね」
『それなら、これからすももちゃんと準備してあげるから、人数教えて〜』
「ちょっと待って、こっちで大丈夫かどうか確認するから」


とんとん拍子で進んでいくというか……うまくかーさんに乗せられているような気がする。
いや、相手はあのかーさんだ、考えるだけ無駄かもしれない。


「とりあえず、みんなに聞きたいんだけど。これからウチ、来るか?」
「ウチって……先生の家?」


そういえばそのことを説明した記憶がないな。


「いや、俺が今住んでいるのは小日向家。音羽かーさんの家だよ」
「すももちゃんの?」
「うん、そう」


伊吹とすももは、確か同年代だったと思ったし、もしかしたら仲良くなれるかもな。
それに、かーさんはみんなでご飯を食べるのを楽しんでいるから、来たら来たで喜ぶだろう。


「えっと、お邪魔してもいいのかな?」
「かーさんが良いって言ってるし、大丈夫だと思う」
「それじゃ、すももちゃんにも会いたいし……」
「春姫はオッケーで……伊吹達はどうする?」


伊吹達の方に視線を向けると、なにやら悩んでいるように見える。
……式守家次期当主なんてのをやってると、家に呼ばれるなんて事は少ないのかな。


「私は遠慮して……」


伊吹が何かを言おうとした時、そのお腹からキュウ、と可愛らしい音が聞こえた。


「……伊吹?」
「な、なんでもないぞ!」


真っ赤な顔をして、どもる伊吹。
……それじゃぁ、誰の音か自分から教えてるようなもんだと思うんだけど。


「申し訳ありません、小日向さん。私達も御呼ばれ頂いてよろしいでしょうか」
「沙耶!?」


上条さんが苦笑して、伊吹が何かを言う前にそう言った。
そして、信哉は止めようとする伊吹をやんわりと押し止め、何かを言っていた。


「伊吹様、申し訳ありません。俺も、少し腹が空いてしまいました」
「……信哉がそういうのなら、仕方あるまい」


上条兄妹にそう言われ、渋々ながらも行くことに賛同したらしい。


「それじゃ、全員だな」


伊吹の態度の変化が面白くて、ついつい笑いそうになるが、それは一応堪えておく。
隣の春姫を見てみれば、俺と同じ事を考えているのか、笑いを堪えているように見える。
このまま笑いを堪えていたら、伊吹に睨まれそうだったので、とりあえず電話の方に話を戻す。


「もしもし、かーさん?4人増えるけど、大丈夫?」
『はいはーい、4人ね?わかったわ、作っておくから早く帰ってきてね〜』
「うん、わかった。それじゃ」


電話を切り、また視線をみんなに戻す。
相変わらず伊吹は少し赤い顔をしていたが、落ち着きはしたらしい。


「全員行くって伝えておいたから、さっさと行こうか」
「うむ、そうと決まれば行くぞ、信哉、沙耶付いて参れ」
「御意」


恥ずかしさを隠すためなのか、伊吹がそう行って一番先に動き出した。
でもな、伊吹……お前、俺の家知らないだろ?


「それじゃ、行こうか……春姫」
「ふふ、そうね。行こ、雄真君」


春姫と並んで、ゆっくりと歩き出す。
手でも繋げれば良いのかもしれないけど、今の俺にはまだ恥ずかしくて出来そうもない。
隣に春姫がいて、一緒に歩いているだけでドキドキしているんだから。
この感覚は、暫く慣れそうにない。























「ただいま」
「いらっしゃーい」


家に着いて早々に、かーさんが玄関先で待ち構えていた。
……もしかして、ずっと待っていたのか?


「おかえりなさい、兄さん」
「あぁ、ただいま、すもも」


かーさんから少しだけ遅れて、すももがパタパタとやってきた。
恐らく洗い物でもやっていたんだろう、手をエプロンで軽くふいている。


「お邪魔します」
「あー、姫ちゃん!」
「こんばんは、すももちゃん」


俺の後ろにいた春姫に気づいたすももが、そうやって声を上げた。
そんなすももが面白かったのか、春姫は笑顔ですももに挨拶している。


「ま、ゆーまくんが女の子を連れてくるなんて。もしかしてもしかするの?」


かーさんが言いたい事はなんとなくわかる。
……わかってしまうのが若干悲しいような気がするけど。


「かーさんにはまだ紹介してなかったよな」


でも、それは間違っていないし、しっかりと周りに認めてもらうために、言わなきゃいけない。
これは、春姫からじゃなくて俺から言わなきゃいけないことだ。


「同じクラスの、神坂春姫さん。……それで、えっと……俺の、彼女です」
「きゃー!ゆーまくん、やっぱりなのね!」
「ほ、ホントですか、兄さん!姫ちゃん!!」


かーさんは純粋に喜びを、すももは驚きを見せて詰め寄ってきた。
春姫といえば、俺の宣言に顔を赤くして俯いている。
……それが可愛いと思ったのは、俺だけの秘密だ。


「うん、そうなの……すももちゃん」
「そっか……わかりました。姫ちゃん、兄さんをお願いします!」
「ありがとう、すももちゃん……」


かーさんに詰め寄られている俺とは別に、春姫はすももと何かを話していた。
あぁ……だめだ、俺にこの状態を収拾する力はない。
小日向の女は、強い……


「雄真、何時まで私たちを待たせるつもりなのだ」


そんな現実逃避をしそうになっていると、後ろから声が掛かった。
あぁ、そうだった。
春姫の他にも紹介しないといけない人たちがいるんだった。


「かーさん、すもも。もう3人紹介したい人たちがいるんだが」
「ふぇ、誰ですか、兄さん?」
「あらら、言ってたゆーまくんのお友達?」


俺は春姫を促して先に玄関に上がり、後ろについてきていた伊吹達を呼んだ。


「邪魔するぞ」
「お邪魔致します」
「失礼する」


そして、伊吹達が堂々と入ってきたのを見て、かーさん達の目が怪しく光り輝いた。
それを、俺は見逃さなかった。
……そうだ、すももたちは小さくて可愛いものに目がないんだった。


「……頑張れ、伊吹」


俺の呟きが、伊吹に届いたかはわからない。
春姫は、すももの趣向を知っているのか、似たような表情をしている。
そして、俺たちにできる事は、ただ伊吹の不幸を嘆くことのみだった。
……伊吹、お前がすももの趣向にジャストミートしたのが悪い。
























      〜 あとがき 〜


すももvs伊吹フラグ(ぁ
やっぱり本編でも使われている伊吹好き好きオーラは使うべきだよね。
まさにこれぞ有効活用。
……意味が全然違う気がするけど気にしない。


さてさて、こっからどうやって秘宝の話を進めて行こうかなぁ。
どうせだから、やりたいだけやって雄真最強伝説の幕開けに……
うん、無理だ。
力で勝っても、春姫に頭上がらない気がする。

          ま、とりあえず今回は、このへんで。
          From 時雨


初書き 2008/01/06