そして、伊吹達が堂々と入ってきたのを見て、かーさん達の目が怪しく光り輝いた。
それを、俺は見逃さなかった。
……そうだ、すももたちは小さくて可愛いものに目がないんだった。


「……頑張れ、伊吹」


俺の呟きが、伊吹に届いたかはわからない。
春姫は、すももの趣向を知っているのか、似たような表情をしている。
そして、俺たちにできる事は、ただ伊吹の不幸を嘆くことのみだった。
……伊吹、お前がすももの趣向にジャストミートしたのが悪い。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















「ねぇ、ゆーまくん」


視界は伊吹をしっかりと捉えつつ、俺の方にそそくさと近寄ってくるかーさん。


「なんとなく予想は付くから、少し待って」


すでに、言おうとしていることなんて予想が付いているから、少しだけ待ってもらう。
俺の静止を聞いて、表面上は大人しくしてくれるかーさん。
まるで獲物を狙った猫科の動物のように見えた。


「今入ってきた3人なんだけど、俺の知り合い、ってことになるのかな」


とりあえず、そう紹介すると3人とも頷いて返してくれた。
まぁ、これ以外の言い方っていうと、ちょっとなんて言えばいいかわからないからなぁ。


「式守伊吹だ」
「上条沙耶と申します」
「信哉だ、よろしく頼む」


威風堂々といった雰囲気で名前だけをシンプルに告げる伊吹。
前に教室で聞いたかのような挨拶をする上条兄妹。
この3人のことを何も知らない人が見れば、この挨拶は冷たく感じられるんだろうけど……


「やーん、この子かわいー!」
「可愛いです!」


だが、それも小日向家では通用しなかった。


「な、何をするか!」
「古風な物言いってのもかわいーわー」
「伊吹ちゃんって言うんですね!わたしはすももって言います!仲良くしましょうよ〜」


唐突に、かーさんとすももに抱きつかれ、混乱する伊吹。
すかさず信哉が出てこようとしたが、2人に害意はないので止めておく。


「小日向殿」
「大丈夫だよ、かーさんもすももも伊吹が気に入っただけだから」


そう言ってやると、信哉は一度伊吹達の方を見て、少し考えるような動作をした後。


「ふむ、そうであったか」
「そ、それで済ませちゃうんだ……」


その一言で流した。
春姫も流石に予想していなかったのか、冷や汗が流れているように見える。
納得してしまう辺り、信哉が大物なのかネジがずれているのか……


「かーさん、すもも。お腹すいたから適当に居間に戻ってきてくれよ?」
「はーい」
「わかりました」


未だに愛でられている伊吹をとりあえず視界から外して、俺は春姫達を居間へ案内することにした。
その時に、なにやら伊吹が叫んだような気がしたが、気にしないでおこうと思う。


「こ、こら雄真!この2人をなんとかしていけぇ!!」


うん、気のせい気のせい、俺には聞こえない。
食卓を担っている2人が、伊吹に夢中になっている今、当然机に食事はないわけで。
とりあえず俺は春姫達に飲み物を先に渡しておいた。


「はい、ウーロン茶しかなかったけどこれでいい?」
「うん、ありがとう雄真君」
「かたじけない」
「ありがとうございます」


玄関の方から聞こえる喧騒を耳にしながら、俺たちはのんびり待つ事になりそうだ。


「式守さん……大丈夫なのかな?」
「かーさんもすももも悪気は一切ないから、大丈夫だと思うよ?」


流石に伊吹も一般人相手に魔法なんて使うことはないだろう。
もし使いそうになったら急いで止めてこないといけないが……


「伊吹様の事を知らないとは言え、あのように接してくれた方は初めてです」


上条さんが、不意にそう呟いた。
式守家次期当主であることを知らなくても、伊吹はどこか近寄りがたい雰囲気があるからなぁ。
それだけかーさん達の行動が意外だったって事か。


「でも、悪いことじゃないだろう?」
「うむ、伊吹様にはもう少し語らうべき友があっても良いと思っていた」


語らうべき友って、別に友達って言い方で良いと思うんだけどなぁ。
とても心地良いのんびりとした会話を楽しんでいると、俺に向けて、すごい殺気が飛んできた。


「ゆーうーまー……」


まぁ、言う必要もないだろうけど伊吹だったりする。
視線を向けてみれば、特に衣服には影響は出ていなかったが……


「よぉ、随分ともみくちゃにされたみたいだな?」


銀色をしている伊吹の髪は、いろいろとすごい事になっていた。
そりゃもうぐしゃぐしゃに。


「貴様、家族の面倒くらい見ぬか!それが長兄としての役目であろう!?」
「そうは言ってもなぁ……」


あの状態になったかーさん達に俺が立ち向かえるはずがない。
下手に妨害なんてしたら、俺の晩飯が無くなるかも知れないし。


「はー、満足したわー。とりあえず」
「ですね、お母さん」
「と、とりあえずなのか!?」


至福と言った雰囲気を振りまいて、かーさん達も戻ってきた。
そしてかーさんの口から出た言葉で、伊吹が逃げ腰になっている。
……トラウマにならなきゃいいけど。


「かーさん、すもも、そろそろご飯欲しいんだけど」
「あ、はいはーい、ちょっと待ってねー」
「あ、ごめんなさい兄さん。すぐに準備します」


パタパタと足音を響かせて、かーさん達は厨房の方へ消えた。
それを確認した伊吹が、ようやく落ち着けたかのようにソファーに腰を下ろした。


「お疲れさん」
「まったくだ、貴様とは違う意味で疲れた」


前もって用意しておいた伊吹用の飲み物を渡してやると、叫んでいたからか勢いよく飲み干した。
それをみんなで微笑ましく見ていると、かーさん達が料理をテーブルに並べ始めた。
……お客もいるし、並べるくらいは手伝うか。


「あ、音羽さん、すももちゃん手伝います」
「あら、ありがとー」


そう考えて腰を浮かせようとした所で、春姫がかーさん達にそう言っていた。


「まったく……雄真の関係者は皆このような感じなのか」
「伊吹様、小日向様方に悪気はないのですから」
「わかっておる、それだからこそ性質が悪いのだ」


伊吹を宥めるのに忙しい上条兄妹は仕方ないとして、春姫に気を使わせたくない。
そう思って春姫を止めようとしたが、ニッコリと微笑まれた。
どうやら、俺は手を出さずに座っていた方が良いらしい。


「……あーら、ゆーまくん。もう春姫ちゃんとアイコンタクトできる仲なのね〜?」


それを言われて、俺と春姫の顔が赤くなった。
別にそういうわけでもないんだけど、指摘されると妙に照れる俺と春姫だった。
きっと、はたから見たら初々しいとでも思われるんだろうなぁ……
かーさんのニヤケ顔を見て、そんな事を考える俺だった。























かーさん達が存分に腕を振るった食事は、全員に好評だった。
春姫はすももやかーさんと楽しそうに話をしながら食べ。
伊吹と信哉は黙々と、上条さんは静かながらもしっかりと食べていた。


「それじゃぁ、そろそろ私はお暇します」


そして、食事も終わり、再びのんびりとした時間を過ごしていると、春姫がそう切り出した。


「あら、泊まって行かないの、春姫ちゃん?」
「えー、姫ちゃん帰っちゃうんですか?」


当然の如く、引き止めようとする俺の家族。
……というか、連れてきた初日に泊めようと言い出すのはどうかと思う。


「明日も学校がありますから……ごめんなさい、すももちゃん」
「それじゃぁしょうがないですよね……また今度遊びに来てください」
「うん、その時はお邪魔するね」


聞き分けの良いすももは、すぐに諦めたが……
小日向家最大の障害は、そう簡単に諦める事がない。


「えー、でもでも、まだゆーまくんとの赤裸々な関係とか出会いとか聞いてないー」
「……かーさん、仮にも教育機関で働いている人が我が侭言わないの」
「ぶー、ゆーまくんそう言って春姫ちゃんを独り占めする気なんでしょー」


妙に似合うふくれっ面を見せて、かーさんがとんでもない事を言ってきた。
しかし、さすがに食事中も事あるごとにからかわれれば、流石に多少は慣れる。


「また今度、オアシスにも行くから、今日はいいだろ?」
「約束だからね、ゆーまくん!春姫ちゃん!」
「はい、今度雄真君と一緒にオアシスに会いに行きますね」


なんとか、とりあえず諦めてくれるらしい。
……でも、これからはオアシスに行くのが怖いなぁ。
かーさんと小雪さんのツープラトン攻撃が襲ってきそうだ……


「ならば、そろそろ私たちも帰るとするか」


春姫との話がまとまった時、それを聞いていた伊吹達も立ち上がった。
確かに結構遅い時間になったし、夜は物騒だもんな。
全員で玄関に向かう途中、俺は椅子に置いておいた自分の上着を羽織った。


「それじゃ、送ってくる」


俺の台詞が予想できていたのか、かーさん達はいってらっしゃいと軽い調子で送り出してくれた。
ことごとく、俺の行動はかーさん達には予想されている気がするな。
今後多少は考えて動いて見るか。


「え、でも……」
「夜道に出歩くのは危ないからね」


全員が魔法使いと言えど、信哉以外は女の子だ。
それが美人揃いと来れば、変なヤツが近寄ってくるかもしれない。


「私たちは先に帰る。行くぞ、信哉、沙耶」
「御意」
「それでは、小日向さん、神坂様。ごきげんよう」


まるで邪魔者は退散するとでも言わんばかりに、伊吹達は早々に魔法で消えた。
……一応、全員送るつもりだったんだけどなぁ。
まぁ、行ってしまったのをどうこう考えても仕方が無いか。


「……それじゃ、行こうか」
「……うん、お願いね。雄真君。」


月の出ている夜道を、一緒のペースでゆっくりと歩き出す。
手を繋いだ方が良いか、と考えていると、俺の手に柔らかいものが触れた。


「……春姫?」


春姫が、静かに俺の手を握ってきた。


「……ダメ、かな?」


ダメと言ったら、春姫はきっと悲しそうな顔をして手を離すだろう。
そんな顔は見たくないし、何より手を繋ぐ事のは俺も考えていたことだ。
だから、返事の変わりにしっかりと春姫の手を握り締めた。


「……どきどきするね」
「……あぁ、これは暫く慣れそうにない」


それから俺たちは、言葉は少なく、でも暖かい雰囲気のままゆっくりと春姫を寮へと送り届けた。


「それじゃぁ……また明日」
「うん、また明日ね」


そう約束をして。























      〜 あとがき 〜


フラグとか良いつつ結構簡単に終了させる男。
いや、今はまだフラグ消化の時期じゃないんだ!!
そんな言い訳をした所で、書けなかっただけとかそんなことはない。
ないんだからね!嘘じゃないもん!!


さて、とりあえずこれで日付が変わるので、こっからが正念場。
とかいいつつ、どうなるか俺にもわからない。
よっしゃー、頑張るどー

          ま、とりあえず今回は、このへんで。
          From 時雨


初書き 2008/01/12
公 開 2008/01/20