「……どきどきするね」 「……あぁ、これは暫く慣れそうにない」 それから俺たちは、言葉は少なく、でも暖かい雰囲気のままゆっくりと春姫を寮へと送り届けた。 「それじゃぁ……また明日」 「うん、また明日ね」 そう約束をして。 二次創作 はぴねす! Magic Word of Happiness! 「……これは、どういうことだ?」 朝、いつものとおりに魔法の練習を始めて、すぐに違和感に気づいた。 「……魔法制御が、安定しているのか?」 前に伊吹たちと戦ったとき、天蓋魔法が使えたから、少しくらいは制御が安定しても不思議じゃない。 でも、俺が予想したよりも魔法の制御が安定し過ぎている感じがあった。 「……どういうことだ?」 魔法制御が安定するのは悪いことじゃなく、むしろ良いことだ。 純粋に喜んでも良いんだろうけど、要因がわかれば今後さらに魔法の腕が上げられるかもしれない。 そう考えてしまい、どうにも純粋に喜んでもいられなかった。 「マスター、私の推論でよければお話しますが」 自分なりに要因を考えようとしていると、ティアが声をかけてきた。 断る要素はどこにもないので、その推論を聞くことにした。 「マスターの魔力制御安定の理由は、気持ちの問題ではないかと」 ……気持ちの問題だって? 今までとは、特に変わりはないとは思うんだけど。 「気持ちと言っても、恐らくは無意識下のことになります」 「何か魔法制御が不安定になるようなことを無意識に考えていたってことか?」 それにしても、見当がつかないんだが…… 「はい。そしてその原因として、春姫が絡んでいるのではないかと」 「……春姫が?」 俺の魔法制御の不安定さに春姫が絡むようなことはあっただろうか? 「マスターは誓いを果たすことを目標に今まで魔法の特訓をしていましたよね?」 でも、春姫が思い出の女の子だとわかったのは昨日の事だ。 それだとしたら、その要因はおかしいだろう? 「あぁ」 「もし、マスターの心の中で「もしかしたら再会できない」という考えが発生していたとすれば……」 確かに、不安感っていうものは、自分が思っているより抱えやすい。 そういった不安が蓄積して、無意識に影響が出るってことはありえるという話を聞いたことがある。 「……なるほど、無意識下の不安感が俺の魔法制御にブレが生じるのか」 ……ということは、今までの制御が不安定だった理由はそれなのか? 「すべては推測に過ぎませんが、マスターの魔法制御が安定した理由にはなり得るかと」 「理屈は通るな……じゃぁそれだとしたら……」 もし、俺の魔法制御が安定し始めているとするのなら…… いろいろとやってみる価値はあるか。 「ティア、いくぞ」 「了解」 ティアを構えて、意識を集中させていく。 「エル・アムダルト・リ・エルス……」 今までの俺は、12面体のキューブ1つしか使っていなかった。 ……いや、使えなかった。 さすがに、複数個キューブを用意して制御するほど魔力制御が上手くなかったから。 「ディ・ルテ・カルティエ……」 どの程度、魔法制御が安定しているのか試してみたくなって、キューブを2つに増やしてみる。 これが上手くいくのなら、ClassB になるのに必要な能力は補えているってことになる。 「……エル・アダファルス」 そして2つのキューブは、安定して俺の前で浮き上がった。 本当に、前とはぜんぜん違うくらいの安定感がある。 ……これは、ティアの推測があたっているってことかもしれないな。 「……マスター、そろそろ帰宅しないとすもも様がいらっしゃる時間が近くなってます」 「もうそんな時間か……?」 ティアに言われて、時計を見てみれば、確かにすももが俺を起こしに来る時間に近かった。 せっかく調子がいいし、もう少しやっていきたいところではあるけど…… 俺がいないとすもものやつ、大騒ぎしそうだからなぁ。 「仕方ない、戻るか」 「そうですね」 「ディ・アムフェイ」 ティアに乗り、俺は家へ向かって少しだけ急ぎ気味で飛び上がった。 すももが俺の部屋に来る前には、なんとか間に合った。 窓から戻ったと同時にすももが入ってきたせいで、ものすごく焦ったが…… よかった、窓から出入りしているのがバレなくて。 「あれ、あれって姫ちゃんじゃないですか?」 ゆっくりとすももと登校していると、そうすももが言った。 そして俺も、すももが指差した方向に目を向けてみる。 「あぁ、本当だな」 そこには校門に寄りかかるように、春姫がいた。 何か本を読んでいるように見えるが、それが気にならないくらい上機嫌に見える。 「おはようございます、姫ちゃん」 「あ、おはよう、すももちゃん」 俺を置いて、いち早くすももが春姫の方に歩き出して挨拶していた。 まったく、そんなに急いで向かうことも無いだろうに。 しかし、なんていうか……微妙に恥ずかしい感覚があるのはなんでだろうか。 ただいつもどおりの朝の挨拶をすればいいだけなのに。 「……おはよう、春姫」 「うん、おはよう。雄真君」 普段どおりにやろうとしたけど、結局声が小さくなってしまった。 それでも春姫は、とても嬉しそうに挨拶を返してくれた。 その笑顔にまた、俺は照れてしまう。 「ほら、兄さん。どうしてそんなに恥ずかしがってるんですか」 そんな俺を見かねたように、すももが声をかけてきた。 俺自身も、こんなになるとは思ってもみなかったくらいだ。 「……そうは言ってもな」 「まったくもう、兄さんはここ一番で逃げ腰になるんですね」 「そういうわけじゃないんだが」 だらしないとでも言いたそうな雰囲気で、すももに怒られてしまった。 さすがに、普通に挨拶できるくらいには慣れないとな。 「それじゃぁ、兄さん。私は教室行きますね」 下駄箱で靴を変え終わると同時に、すももとは別れた。 教室がある場所が違うから当然なんだけどな。 「あぁ、頑張ってこいよ」 「またね、すももちゃん」 「はい、兄さんをお願いしますね、姫ちゃん」 妹に対して、そう言葉を投げかけてやると、お返しに余計なことを言われた。 ……すもも、その言い方は兄として少し悲しいぞ。 「それじゃ、いこ、雄真君」 すももを見送った後、春姫が少しだけ俺に近づいてそう言った。 ここで時間を潰していても意味がないしな、さっさと教室に行くか。 「そうだね、それじゃ行こうか」 まだ少しだけ離れている春姫に、俺の方から近寄り、隣同士で歩き出す。 さすがに、学校で手を繋ぐなんてことはまだできないけどな。 そして、教室に着き、ドアを開けた瞬間、俺たちを囲むように人だかりが出来上がった。 「な、なんだ?」 唐突のことに、慌てた声を出しつつ、隣にいる春姫を守れるように構えてしまう。 だが、想定した襲撃はなく、周りに集まったクラスメイトは一定の距離を保っていた。 「ほらね、やっぱり雄真を待ってたんじゃない」 「決まりよ決まり」 その人ごみの間から、準や柊が笑顔で近づいてきた。 ……あの笑顔は、俺にとってロクでもないことを考えている笑顔にそっくりだ。 「……この騒ぎは何だ?」 なんとなく先が予想できるが、とりあえず聞かなきゃいけないだろう。 若干の諦観を混ぜて、目の前まで歩いてきた準たちに聞いてみる。 「決まってるでしょ」 「記者会見よ」 ……準たちの答えは、俺の考えが正しいことを如実にあらわしていた。 そもそもなんだ、記者会見っていうのは…… 「雄真、俺の目を見て正直に答えてくれ……」 どこから現れたのか、ハチが俺の目の前に出現した。 あまりに唐突で、ハチのことを殴りそうになったのはあえて言うまい。 「姫ちゃんと一緒なのに、深い意味なんてないよな?」 そう言うハチの目は、気持ち悪いくらいに燃えていた。 「偶然、校門のところで会って、偶然、一緒に教室に来ただけなんだよな?」 「あー……」 ハチの言ったことで、俺は柊が記者会見と言った理由がわかった。 確かに、これだけのギャラリーがいて、こういうことを聞かれれば確かに記者会見ともいえるか。 「なんでだぁ!なんで言葉を濁すぅ!!」 別に濁したつもりじゃなかったんだが、どうやらハチの耳はそういう意味で聞き取ったらしい。 実際、春姫と一緒なのに深い意味はあったりするんだが…… このハチの剣幕を前にすると、意味も無く焦ってしまう。 「ま、待て、落ち着けハチ」 「あれ、雄真……唇になにかついてるわよ?」 ハチを落ち着けようとしていると、準が唐突にそう言い出した。 何もついていないのは自分でもわかっていたはずなのに、反射的に手が唇を拭っていた。 「あ……」 「ふーん」 謀られたと、気づいた時にはすでに時は遅く、準と柊はにやにやとしながら、俺の方を見ていた。 助けを求めようと春姫の方に目を向けると、春姫も同じように唇を隠していた。 ……春姫、君もか。 「はぁ……わかったよ、正直に言えばいいんだろう?」 そもそも隠す気もなかったし、しっかり春姫とのことをみんなにも言っておかないとな。 春姫は学園で一番人気があるから、ヘタに声をかけられても俺が嫌だ。 「まぁ、大方予想がついてるんだろうが……春姫と付き合ってるよ」 実際、開き直って言うとなると、やっぱりまだ少しだけ照れるな。 それでも、一応平静を装うくらいはできたはずだ。 「うそだ……はは……嘘だよな、雄真……嘘だと言ってくれ」 それを証明するかのように、どこか燃えつきかけた雰囲気で、ハチが言った。 ……トドメを刺すのは忍びないか。 「……ごめんね、これは本当のことなの、高溝君」 そう考えて続きを言わないつもりだったんだが…… それが悪かったのか春姫の手でハチにトドメが刺された。 「!!!」 目に見えて、ハチは固まって崩れ落ちた。 ……すまん、ハチ。 「よかったわね、雄真」 「やっぱりそうなったのね〜」 自分のことのように嬉しそうに、準が祝福の言葉をくれた。 柊は、予想していたつもりなのか適当なことを言っている。 「はぁ、もういいだろ?」 ため息が出るのも仕方が無いだろう。 だけど、ある意味クラス中にまとめて知られたのは良いことだったのかもしれない。 これ以上恥ずかしいことなんて早々無いだろうと、俺は開き直ってしまった。 「ほら、道を開けてくれ」 人垣を掻き分けて、自分の席の方に向かう。 途中で女の子にいろいろと聞かれて困った顔をしている春姫を救い出すのを忘れない。 「……やれやれ、暫くはスキャンダルの発覚した芸能人の気分だな」 「でも、みんなに認めてもらえたみたいでよかった」 1名以外は、みんな祝福の言葉をくれたあたり、春姫の言うとおり認めてくれたんだろう。 なんだかんだで昨日の時点ですももやかーさんにも認めてもらえたようだし。 「とりあえずは、難関はクリアしたって言うところかな?」 「ふふ、お疲れ様、雄真君」 できるなら、これ以上春姫とのことで騒がれないことを願おう。 ……無理かもしれないが。 〜 あとがき 〜 次あたりで、春姫の独占欲話題でも出そうかなぁ。 それとなんかおまけで話を作ろうかな〜 あとこなさなきゃいけないのは、オアシスと、小雪さんか。 那津音さんとの話に、小雪さんは混ぜないといけないもんねぇ。 後は何だろう? どうやって式守の秘宝編終わらせようかなぁ? 今回は、このへんで。 From 時雨
初書き 2008/01/19
公 開 2008/01/24 |