1名以外は、みんな祝福の言葉をくれたあたり、春姫の言うとおり認めてくれたんだろう。
なんだかんだで昨日の時点ですももやかーさんにも認めてもらえたようだし。


「とりあえずは、難関はクリアしたって言うところかな?」
「ふふ、お疲れ様、雄真君」


できるなら、これ以上春姫とのことで騒がれないことを願おう。
……無理かもしれないが。

















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!
















俺の見通しは、つくづく甘いとしか言いようがないのかもしれない。
俺と春姫が付き合いだしたという一報は、瞬く間に瑞穂坂学園に浸透した。
恐らくこの原因は、女に見える男とオアシスで働いているかーさんが間違いなく関与しているだろう。


「……さすがに、朝からずっとって言うのは疲れた」
「大丈夫、雄真君?」


朝のあの一件以来、どういうわけか休み時間になるたびに俺たちのところに訪れる人が耐えなかった。
同じクラスの奴らは大人しかったが、他のクラスからもなぜか俺に噂の真偽を聞きに来るくらいだ。


「……なんで、他のクラスの連中とか、違う学年の人まで来るんだ?」
「あら、雄真は知らなかったの?」
「……何をだ?」


史上最強のオカマ……準が意外という表情で現れた。
それにしても、何を知らないというんだろうか……?


「春姫ちゃんにファンクラブがあるっていうのは知ってるわよね?」
「あぁ、一応そんな話は聞いたことがあるな」


春姫はその姿、性格、実力からして素晴しい魅力の持ち主だ。
そのために瑞穂坂学園の普通、魔法科問わずにファンがいるっていうのは聞いたことがある。


「……でも、それじゃぁ女子まで聞きに来る理由にはならないだろう?」


そう、俺の方にはひっきりなしに男が。
そして春姫の方には何故か様々なクラスから女生徒が押しかけて来ていたのだ。
春姫にファンクラブがあって、未練を断ち切れない男が俺の方に来るのはまだ納得できる。
でも、春姫の方に女生徒が行く理由は、さっぱりだ。


「まぁ、雄真ならそうでしょうね〜」
「どういうことだ?」


俺の問いかけに、準は嫌な予感をよぎらせる笑みを深くした。
……なんだろう、この先は聞いたらいろいろと俺の身が危険なような気がする。


「雄真にも、一応ファンクラブっていうか似たようなのがあるってことよ」
「あ、それはあたしも聞いたことあるわ」
「……は?」


一瞬、準が何を言ったのかはわからなかった。
……俺の、ファンクラブ?


「なんだそりゃ……?」
「雄真って確かに魔法が使えないけど、見た目だけはそこら辺の男に負けてないもの」
「過去に普通科のカッコいい男の子ってランキングが魔法科であったのよね」


クラスでの会話だから、準は俺に気を使って魔法を使えないと言ってくれた。
その気遣いには、感謝しておくが……
それよりも、横から現れた柊が言った台詞が、耳に残った。


「……ランキング」
「そ、ランキング。それで雄真が確か上位にいたと思ったけど?」


俺の気のせいだと信じたい。
だが、どうにも俺の横から何かが切れる音が幻聴として聞こえている。


「……ちなみにそれを春姫は知っているのか」


もし、前もって春姫がそれを知っていたのなら、今聞こえている幻聴は気のせいだと思える。
だがもしも……春姫がそれを知らないのだとしたら……


「多分、知らないと思うわよ?その時は確か春姫は先生の所に行ってたはずだもの」


俺の儚い望みは、一瞬のうちに絶たれた。
つまり、春姫のところに俺たちの関係の噂の真偽を聞きに来た子は、そのランキングを知っている魔法科の生徒ってことだろう。


「へぇ〜、魔法科ってそんな面白そうなことやってたのね。杏璃ちゃん、今度その結果見せて〜」
「いいわよ〜、今度持ってきてあげるわ」


準や杏璃のテンションが上がっていく一方、俺の気持ちは確実に下降していっていた。
ああ、また何かが切れる音が聞こえる……


「お、俺の名前って出てた!?」
「ないわ」
「ないでしょうね」
「ショック!!」


そんな俺の気持ちを知るはずもない準たちは、刻一刻と俺の寿命を縮めるような会話をしていた。
もはや、ハチが即座に切り捨てられたことも気にならないくらいに。


「……雄真君」


ゾクッと、背中をナイフで撫でられているかのような悪寒が走った。
急いで振り向いてみると、そこにいたのはさっきまで俺のことを心配してくれていた春姫ではなく……


「ちょっと、お話があるんだけど、いいよね?」


例えるのなら……そうだな、修羅か鬼神母人とでも言っておこう……
とりあえず、回れ右をして猛烈ダッシュで逃げ出したい雰囲気を纏った春姫が、笑顔で立っていた。


「あぁ〜姫ちゃんの笑顔はやっぱ綺麗だなぁ〜」


俺も、ハチと同じ立場だったらもしかすると似たような感情を持ったかもしれない。
だがしかし、現状で当事者になってしまっている俺としては、見惚れるよりも恐れる方が強かった。


「それじゃ、いきましょ。雄真君」
「……了解」
(マスター、へたれです)


ティアのその一言が、鋭い角度で俺の胸に突き刺さった。
できれば、その台詞は言わないで欲しかった。


「雄真君は、知ってたの……?」


春姫に問答無用で連れられて来たのは、普通科校舎の屋上だった。
前に春姫から告白された時に座ったベンチに二人で並んで座り、少し経った頃に春姫はそう切り出した。


「ファンクラブの存在ってことなら、知るはずもないよ。むしろ今日はじめて知ったくらいだ」


知っていたからといって、俺がどうこうできるわけでもないが、知らないよりはきっとマシだっただろう。
でも、時すでに遅し。
俺はその存在を知らなかったし、春姫も今さっき知ってしまった。


「……そう」


極端な話を言ってしまえば、俺に非はないと言える。
でも、今こうして春姫を悲しませてしまったことは事実だ。
だからこそ、俺は春姫が言うことを全て受け止めなきゃいけない。


「雄真君は……本当に私で良かったの?」


隣り合って座っていた春姫の手が、俺の手を静かに握った。
春姫の表情は下を向いているからうかがい知る事はできない。
でも、微かに震えているその手が、春姫の感情を如実に表しているように感じた。


「良いも悪いもないさ……俺は、神坂春姫っていう女の子を好きになったんだから」


震えていたその手を、しっかりと握り締め俺は春姫の方を向いてしっかりと告げた。
その言葉を聞いて、春姫はふせていた視線を俺の方に向けてくれた。
春姫の瞳は、微かに潤んでいた。


「……雄真君」
「大丈夫……俺はこの先も春姫といる」


こんな事を言うのは、恥ずかしいことこの上ない。
でも、春姫が不安に襲われている今、俺はしっかりと告げなきゃいけないはずだ。


「春姫、安心してください」
「……ティア?」


春姫がまだ何かを思いつめているような雰囲気を感じさせている時、俺の耳元からティアが春姫に話しかけた。


「考えても見てください、今まで思い出の女の子に再会することだけを考えていたマスターが、浮気なんて器用な真似ができると思いますか?」


……時間が、止まったような気がするのは、恐らく俺の気のせいじゃない。


「……ぷ……あはは!」
「……ティア、お前はいつからそんなことを言うようになったんだ」


止まっていた時が動き出したきっかけは、春姫の笑い声だった。
そのおかげで、俺もようやく動き出せたわけなんだが……
もう少しくらい違った言い方をしてくれても良いんじゃないかと思うんだけどな。


「ですが、事実です。マスターには浮気なんてそんな甲斐性はありません」
「2度も言うな、2度も」


おかしいなぁ……昔はここまで砕けた雰囲気は無かったような気がしたんだけど。
いつからティアはこうなった……?


「ふふ、そうだよね。雄真君にそんな甲斐性はないもんね」
「その通りです、ですから春姫は春姫らしくしているのが一番ですよ」


結果的には、春姫を励ましてくれたことになるんだが……
どうにもその結果に喜べないのはなんでだろうなぁ……


「ありがとう、ティア」
「いえいえ」


ティアのおかげか、すっかり春姫からは不安の色は消えた。
その笑顔を見ていると、結果よければ全て良いかという感じになるから不思議だ。


「それにしても、春姫って……独占欲強い?」
「えっ?そ、そんなことないと思うけど……」


俺の唐突な疑問に、顔を赤くして否定する春姫。
……んー、これは俺の気のせいか?
そんな雰囲気が感じられたんだけど。


「例えば、俺が黙って女の子と遊びに行ったら?」


そう言えるほど、俺には女の子と遊ぶような機会があまりないんだけどな。
……考えてて自分が悲しくなってきた。


「相手にもよるけど……多分怒ると思う」
「それじゃぁ……電話は?」


これもかかってくる相手は大抵準やハチなんだけどな。


「それくらいなら、後で誰からの電話かさえ確認させてくれれば」
「じゃぁ、物の貸し借り。辞書忘れたから貸してくれ〜って」


これくらいなら、あり得ないこともない。
忘れ物なんてしないようにはしているけど、たまにうっかりってこともあるし。


「やだなぁ、雄真君。辞書なら私が貸してあげるよ。席も隣なんだし、他の人から借りる必要なんてないでしょう」


どうやら、俺の気のせいではなかったらしい。


「メチャメチャ独占欲強いじゃん」


ついつい春姫の回答がおかしくて、笑いながら言ってしまった。
これで独占欲が強くないっていうのなら、ほとんどの人が独占欲なんてないようなものだろう。


「え〜っ!?普通だよ普通〜!!」


赤かった顔をさらに赤くして、春姫が言った。
まぁ、でも、そんなにも思ってくれているのは嬉しいもんだよな。
なんかこう、ちゃんと信頼されてるっていう感じがするし。


「わきゃ!」


のんびりと話をしていると、校内へ続く扉の方から何か声が聞こえた。
というか、ものすごく聞き覚えがある声だった気がするんだけど……
柊あたりの声に似てたような……


「あ、いけない!」
「春姫……?」


何を思い出したのか、春姫は突然扉の方へ駆け出していた。
何があったのかいまいちわからなかったが、とりあえず春姫についていって見ることにした。


「ディ・ルティアス」


扉に辿り着いた春姫は、短く何か魔法を唱え、その扉を開けた。
何かを解除しているようにも見えたけど……


「……扉に何かしてたのか?」
「えっと……邪魔されたくなかったから、ちょっと魔法を……」


春姫が開けた扉の先に見えたものは……


「うあああ、し、痺れるうぅぅぅ……」
「きゅぅ……」


クラスメイトと言う名の死屍累々だった。
ハチや柊、準までもが廊下に倒れ付していた。
……微妙にハチが焦げているように見えるのは気のせいだろうか。


「えーっと、見た感じ電撃系か火炎系のトラップかな?」
「うん……取っ手に触ろうとすると電撃が走るようなトラップなの」
「で、この連中はデバガメしに来て見事に玉砕されたと……」


自業自得だから同情するつもりもないけど……


「うぁぁぁ……ゆ、雄真ぁ……」
「……せめて安らかに眠れ、ハチ」
「そ、そんなぁ……ガクッ」


この光景を見ている限り、極力春姫は怒らせないようにしようと心に誓う俺だった。
……俺も電撃は、嫌だからな。
























      〜 あとがき 〜


さてさて、次からまた秘宝系のお話に軌道修正するとしますかぁ。
これ以後にすとろべり〜な関係にするのは秘宝終了後のお楽しみにしたいところです。
オアシスに移動させて、音羽さんと小雪さんのペアタッグにぼこぼこにして貰って〜
で、鈴莉母さんの所に移動って感じでしょうかねぇ?


よーし、計画は立ってきたし、頑張るとしますかぁ。
目指せ連載完結!

んだば、今回は、このへんで。
          From 時雨


初書き 2008/01/25
公 開 2008/01/25