自業自得だから同情するつもりもないけど……


「うぁぁぁ……ゆ、雄真ぁ……」
「……せめて安らかに眠れ、ハチ」
「そ、そんなぁ……ガクッ」


この光景を見ている限り、極力春姫は怒らせないようにしようと心に誓う俺だった。
……俺も電撃は、嫌だからな。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「どうだ、痺れは治まったか?」
「うん、もうそろそろ大丈夫みたい」


あの後、春姫の電撃トラップに引っかかったクラスメイトを介抱するのに時間を取られた。
魔法で一気にやれれば楽だったんだけど、さすがに他の連中がいる前で使うのはなぁ……


「とりあえず、教室に戻るぞ」


まだ痺れの後遺症が残っているのか、緩慢な動作で戻っていくクラスメイト達。
デバガメなんかしなければ、五体満足でいられたものを……
そんな考えが頭によぎったが、言っても無駄だろうと気にしないことにした。


「あ、そうだ春姫」
「なに?」
「今日の昼なんだけど、恐らくオアシスに行かないとまずいと思うんだ」


前にかーさんを説得するのに、オアシスに行くと言う条件を出してしまった。
そんなに早く行く必要があるのか、とも思うが、相手はあのかーさんだ。
出来るだけ早く条件の消化はしておいた方が賢明だろう。


「あ、うん。音羽さんの所ね?」
「そういうこと、準やハチ、柊はどうする?」


なにぶん賑やかなのを好むかーさんだ。
準たちが来るのなら、それはそれで歓迎してくれるだろう。


「あ、行く行くー」
「もちろん、俺も行くぜぇ!」


特に考える素振りも見せずに参加の意思を示す2人。
だが、予想外な事に柊だけはなにかを考えているように見えた。


「柊は、都合が合わないのか?」
「あ、ううん。そういうわけじゃないんだけど、あたしも一応オアシスには行くわよ?」


……なんだ、随分と回りくどい言い方だな?
他に先約でもあったのか?


「まぁいいや、それじゃあ昼休みになったらオアシスに移動って事で」


柊の言葉に何かを感じつつも、俺たちはチャイムの音を聞いて、慌てて教室に戻った。
さすがに、こんなことで遅れるわけにはいかないからな。


「おぉ、ギリギリであったな。小日向殿」
「ん、信哉。そういえばお前は来なかったんだな?」


教室に戻ると、信哉と上条さんがすでに自分の机に座って次の時間への準備を終わらしていた。
さっきもこの2人は見てなかったな。


「小日向殿と神坂殿の間柄の事ならば、先日すでに聞き及んでいるからな」
「それに、わざわざお2人のお邪魔をするのも悪いかと思いまして……」


……この2人みたいな思考回路が、他の連中にもあればなぁとしみじみ思ってしまった。
日本人の美徳は気遣いにある、と昔なんかで聞いた覚えがあるんだけどなぁ。
クラスの連中を見渡してみて考えてみた。
だけど、思春期たるこの年代に、そんな言葉は無駄かと結局はため息一つで諦めるしかなかった。


『生徒の呼び出しをします。普通科、小日向雄真君、魔法科神坂春姫さん。御薙鈴莉研究室の方へ来てください。繰り返します……』


いざ、授業が始まるという時に、唐突に放送で呼び出されてしまった。
鈴莉母さんの研究室……?
なんでだろう、物凄く悪い予感しかしない。


「お、雄真なにやったんだよ?」


何故か嬉々としてハチがそう声をかけてきた。
何も悪いことはしていない。
だけど、母さんが喜びそうな出来事は起こった記憶があるなぁ……


「ハチじゃあるまぃし……雄真がそんな事悪いことするわけないでしょ?」
「おいおい、この気遣いの紳士たる八輔様がそんなことをするわけ……」


ハチが何かを言っているようだが、この際いつも通りのスルーで十分だろう。
まぁ、母さんが呼び出した事に関しては予想が付いてるし、行くだけ行くしかないだろう。
……どっちにしろ、俺からも聞かなきゃいけない用事があるしな。


「ま、とりあえず行ってくるよ。春姫、行こう」
「あ、うん」
「はーい、いってらっしゃーい」


準の言葉を背中に受けて、俺と春姫は母さんの研究室へと向かうことにした。


「ねぇ、雄真君」
「ん?」


向かっている途中、春姫が声をかけてきたので、後ろを振り返る。
そこにいる春姫は、何故かおずおずと言った雰囲気で俺に質問をしてきた。


「先生が呼んだのって、もしかして秘宝の……?」
「あー……春姫はそっちで考えたのか」


確かに、俺も春姫も秘宝に関しては話を大体理解している。
でも、それは昨日の時点では母さんが知りえない事実だ。
それを知らない春姫が違うことを心配するのも仕方がないか……


「いや、恐らくそれは違うよ。それだったら信哉たち関係者も呼ばれるはずだし」
「それじゃぁ、なんで先生は?」


……簡単に言ってしまえば、職員と言う名の職権乱用だろうなぁ。
昨日かーさんにバレた時点で、母さんにも情報が通っているだろうし。


「まぁ……着けばわかると思うよ……悪い意味で」
「……?」


結局俺の考えは予測でしかない。
例えその内容がほぼ確実に正解だったとしても。


「失礼します、小日向雄真です」
「失礼します、神坂春姫、入ります」


程なくして着いた母さんの研究室。
ノックをしなきゃ池に落ちるという恐ろしいトラップが仕掛けられているこの部屋。
何回ノックを忘れて落ちかけた事か……


「いらっしゃーい、待ってたのよ」


開けた扉の前には、満面の笑みの鈴莉母さんがいた。
その笑みを見た瞬間、思わず扉を閉めようとしてしまったのも許してもらいたい。
アレは……音羽かーさんと同種のニオイがする危険な笑みだ。


「あら、唐突に閉めようとするなんて、雄真君ひどいじゃない」


だが、俺の起死回生の行動もあえなく阻止されてしまった。
……母さん相手に出し抜けるなんてどうせそんなこと考えてないさ。


「聞いたわよー、2人とも」
「……やっぱり、それだけの為に呼び出したのか?」
「え、え?」


一言で理解した俺と、未だ理解しきれていない春姫。
そんな俺たちにお構いなく母さんは1人でマシンガントークを繰り広げていた。


「もー、音羽に聞いた時はようやくかぁって思ったわぁ。さ、さ、早く2人の馴れ初めを聞かせて?」
「お忙しいところすいませんでした、それじゃ失礼します」


引き込まれて数秒で、俺はまた回れ右して春姫を連れて逃げようと試みた。
しかしガシッと掴まれた俺の肩が、その逃走劇が失敗したことを物語っていた。


「……そんな事の為にわざわざ校内放送を使わないでよ」
「そんな事じゃないわよ、雄真君の母親として、将来の娘の事を聞きたいのは当然じゃない」


……いったい、俺の母さんの脳内ではどこまでストーリーが進んでいるんだろうか?
結婚とか以前に、俺と春姫は付き合いだしてまだ1日も経っていないんだけど。


「あら、でも神坂さんは乗り気みたいだけど?」


呆れた目を母さんに向けていると、さらにそれに呆れ返すかのような目で俺の方を見て言った。
その言葉に反応して、横を向いてみると春姫が顔を赤くして、両手で頬を押さえていた。


「そ、そんな……結婚だなんて」
「……マスターより、春姫の方がノリノリですね」
「あー……うん、新しい一面発見。って事にしておこう」


まぁ、優等生って言われている春姫より、なんかこっちの方が親近感が沸くから良いとしておこう。
別に、細かく考えるのを放棄したとかそんなわけじゃない、決して。


「で、雄真君」
「……なに?」


若干の現実逃避もどきをしている所、少しだけ真面目になった様子の母さんに声をかけられた。
そして、母さんを見ると、その口からはさらに斜めにぶっ飛んだ台詞が出てきた。


「もう、キスはした?」
「――――っ!?……ゲホッゲホッ!」
「……その様子じゃ、まだ見たいね」


な……な、キスって!?
そもそもそんな事を面と向かって息子に聞くもんなのか!?
それに、春姫とは手を繋ぐのだってまだドキドキするのに!?


「……マスター、落ち着いてください。それじゃ鈴莉様の思う壺ですよー?」
「……はっ!?」
「あらあら、反応がやっぱり初々しいわねぇ」


……このままだと非常にやばい。
母さんに遊ばれ続けてたら、あることないことがストーリーとして発生しそうだ。
隣にいる春姫はキスって言葉だけでもう顔をこれ以上ないくらいに赤くしている。


「……キス……雄真君と……キス?」


……これは、早々に話を変えないと、俺より春姫が先にダウンしそうだ。


「……ゴホン。母さん、話は変わるけど聞きたい事があるんだけど?」
「あら、無理矢理話を変えたわね」


母さんの最後の足掻きを聞かなかったことにして、俺は話を変えることにした。


「単刀直入に言う……那津音さんを救う方法を、母さんは考えているんじゃないのか?」
「……なぜ、そう思うのかしら?」


俺の台詞を聞いた後、目に見えて母さんの動きは固まった。
……どうやら、俺の予想は当たっていたってことか?


「那津音さんと母さんは、俺の勘違いでなければ親しい友達だったはず」


その友達を見捨てて、平気でいられるような人ではないと俺は思っている。
そう信じているからこそ、母さんが何も考えずに秘宝を封印するとは考えられない。


「伊吹の話から見て、俺が音羽かーさんに預けられた時期と大体一致する」


俺がかーさんに預けられた理由、それが那津音さんの救出方法を探すためだと仮定しよう。


「つまり、母さんは那津音さんを救う方法を模索するために、俺を預け魔法に従事した」


そう考えるなら、俺が預けられた理由にも納得がいく。
この考えが違うというのなら、俺は……目指す道を違えた母さんを許すことはできない。
幼かった俺に、魔法はみんなを幸せにするものだと教えてくれた母さんが……
悲しみを生み出すのを我慢できるはずがない。


「…………」
「先生……」


深く、何かに耐えるように俯き、片腕を押さえて黙っている母さん。
俺もこれ以上言うつもりもない。
だからこそ、母さんの解答を待つことにした。


「そう、ね……方法を思いつかなかったわけじゃ、ないわ」
「……先生、それって」


春姫は、母さんの台詞を聞いて、希望が持つことができたんだろう。
だが、それにはその言葉に隠されたものをなんとなく感じ取ってしまった。


「でも、方法が見つかったからと言って、それが実行できるかは別問題なの」
「……危険な、賭けである可能性が高いんだね」
「えぇ……私の見つけた方法、その成功の鍵を握るのは、式守さんと……雄真君、貴方よ」


どうやら、俺がこの一件を預かったのは、正解だったようだ。
詳しくは、内容を聞いてみないとなんとも言えないけどな。
























      〜 あとがき 〜


からかってー真面目になるーそんなお話でした。
なんだかんだで真面目すぎると重たくなるような気がするので、上げ下げしてます。
あと、鈴莉母さんはそこまで悪役にする予定もありません。
なので鈴莉ファンの方、ご安心を(ぁ


そんな感じで。
次回に続く。

          From 時雨


初書き 2008/01/29
公 開 2008/01/30