春姫は、母さんの台詞を聞いて、希望が持つことができたんだろう。
だが、それにはその言葉に隠されたものをなんとなく感じ取ってしまった。


「でも、方法が見つかったからと言って、それが実行できるかは別問題なの」
「……危険な、賭けである可能性が高いんだね」
「えぇ……私の見つけた方法、その成功の鍵を握るのは、式守さんと……雄真君、貴方よ」


どうやら、俺がこの一件を預かったのは、正解だったようだ。
詳しくは、内容を聞いてみないとなんとも言えないけどな。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「雄真君の言うとおり、私が雄真君を音羽に預けたのは、那津音を探す方法を探すためよ」


そして、母さんはゆっくりと俺を預けてからの事を語り出した。


「方法そのものは、そんなに時間をかけずに見つけることが出来たわ」


恐らくだが、俺が魔法のことを教わりに、母さんに会いに行った頃には、もう見つけていたんだろう。
そうでなければ、俺が行ったとしても、母さんが魔法を教える余裕を持っていたとは思えない。


「私が見つけた方法は……秘宝を起動して、無理矢理魔力を取り戻すという事だけ」
「……つまり、その起動に必要な存在が伊吹ってことか」


次期当主である伊吹なら、起動する事自体は可能だろう。
そこから制御し、魔力を奪い返せるかという問題を無視すれば。


「えぇ、でも今のままじゃ確実に那津音と同じか……ヘタをすれば式守さんの命が危ない」


伊吹本人も、制御する確実な自信がないと言っていた。
つまり、その他に秘宝を制御するための要因が別に必要になると考えるのが妥当かな。


「推測では、起動に必要なのは術者と強大な魔力だと思っているの」
「……つまり、術者と魔力が必ずしもセットである必要はないって事?」


母さんがわざわざ言い分けたと言うことは、そういうことなんだろう。


「えぇ、秘宝の制御には無尽蔵といえるくらいに魔力を消費するの」
「それじゃぁ、1人で賄えない部分を、他から用意するってことですか?」
「えぇ、神坂さん。そのとおりよ」


なるほど……起動で必要な魔力と、制御に必要な魔力。
その2つが最低でも必要って事か。


「那津音の病室を訪ねたとき、雄真君は魔力を持っていかれかけたって言ったわよね」


母さんの台詞を聞いたとき、春姫が驚いた顔をして俺の方に向いた。


「……もしかして雄真君……前に、疲れてたのって」
「うん、多分春姫が考えてる通りだ、他の人では反応してなかったようだけどね」


少しだけ困ったように笑いかけると、春姫はそれ以上何も言っては来なかった。
きっと、本心では危ないことをしてた事に対して怒ってるだろうなぁ……


「それは、雄真君の保有魔力量が、他の人とは桁違いだからこその現象だと思うの」


もし同じことが、他の魔法使いに起きたとすれば……
あの時に持ってかれた量から考えると、気絶くらいはありえたかもしれないか。
……もしかして、那津音さんは一定以上の保有魔力量の人に反応しているのか?


「確証は持てないし、私は、こんな仮説の為に2人の命を晒すのが怖かった」


きっと、俺なんかが想像できないほど、悩みぬいたんだろう。
俺と伊吹、そして那津音さんを乗せた天秤が、どちらに傾くことも恐れて。
それでも、考え抜いた末に母さんは俺と伊吹の命を取った。


「……だから、その仮説と共に秘宝を封印して別の方法を探そうとしているの?」


だから、秘宝を封印しておいて、別の方法を模索するため。
俺と伊吹の命を賭けることなく、那津音さんの命を救おうとしたんだ。


「……えぇ」


……母さんが母さんのままで良かった。
魔法は人を幸せにするため……そう教えてくれた母さんのままで。


「なら、話は簡単だ」
「……雄真君?」


確かに負うべきリスクは多い。
でも、それを賭けるに値するモノが、結果としてついてくるのなら、俺は迷うことはない。
心配そうに声をかけてくる春姫に笑顔を見せてから、俺は母さんに言った。


「母さんの考えた方法を、やってみよう」
「……とてつもない程、危険な方法よ?」


生半可な覚悟ならば、力ずくでも止める。
母さんの目は確実にそう言っていた。
その目をしっかりと見返しながら、俺は覚悟をのせた言葉を紡いだ。


「那津音さんの魔力を取り戻す、そして俺も伊吹も死なない……俺が、誰一人死なせない」


伊吹には信哉達もついている。
そして、俺にも友達や……春姫がついている。
全員が何も失わないで、最高の結果をもぎ取ってみせる。
それが、俺がみんなを幸せにする魔法使いになると誓った俺の覚悟だ!


「……雄真君はすっかり男の子になっちゃったわね」


俺の顔を見て、これ以上何を言っても無駄だとわかったんだろう。
母さんはため息交じりにそう言ってきた。


「……雄真君、私も頑張るわ!」
「あぁ、頼りにしてるよ、春姫」


春姫を守るためにという考えが、俺が魔法使いとしての一歩を進む力になった。
その春姫が近くにいてくれるのなら、俺は今以上に力が出せると思う。


「放課後、伊吹達も呼んで説明しようと思う。そこに、母さんも来て欲しい」
「……わかったわ。放課後時間を空けておきましょう」
「これはできるだけ、慎重に……でも早い方がいいと思うんだ」


那津音さんがどれだけあの状態のままかわからないが、こういうことは早い方がいい。
でも、急いては事を仕損じるとも言う。
だからこそ、慎重に計画を立てなきゃいけない。


「式守さんの説得もしなきゃいけないね、雄真君」
「あぁ、そうだな」


伊吹は未だ母さんに会うことに抵抗感を見せていた。
その辺もしっかり話して誤解を解いておかないといけないか。


「まぁまぁ、皆様、堅苦しい話はそろそろやめておきましょう」


丁度会話が切れたときを見計らってか、ティアが声をかけてきた。
これ以上俺たちだけで話したとしても、あまり成果は見込めないか。
秘宝の起動には伊吹が必要だし、那津音さんのことも考えなきゃいけない。


「ふぅ……随分と長いこと話しちゃったわね。今お茶を淹れてあげるわ」
「あ、先生。私がやります」
「あら、そう?それじゃ、お願いしちゃうわ」


……秘宝を起動する以上、護国さんの許可を取っておく必要もあるか。
問題は、護国さん以外の頭の固い式守家の人だよな……
伊吹の行動を反対したってことは、これに関しても邪魔が入らないようにしておかないと。


「はい、雄真君」
「あ、ありがとう。春姫」


いけない、随分と考えに没頭しすぎたらしい。
いつの間にか春姫がお盆にお茶を載せて持ってきてくれていた。
そのお茶を受け取り、口をつけようとした時。


「あらあら……そうやってると若夫婦みたいね」
「あ、鈴莉様もそう思いますか?」


母さんとティアが、平然と爆弾を落としてきた。


「ぶっ!」
「な……せ、先生!からかわないでください!!」


口に含んだお茶を噴出しそうになって、ギリギリで耐える。


「でも、春姫も嫌ではないのでしょう?」
「そ、ソプラノ!?」


春姫には追い討ちをかけるかのように、ソプラノがそう声をかけていた。
あぁ……春姫の顔がまた赤くなってる。


「マスター、平然とするフリをしているようですが、しっかり顔に出てますよ」
「……うるさい」
「ふふ、若いって良いわね〜」


心底面白そうな顔をしている母さんは、やっぱり音羽かーさんと友達なんだと納得できた。
……あまり、納得したくないような気もするんだけどな。


「せっかく来てもらったんだし、やっぱり2人の馴れ初めとか聞かせてもらおうかしら」
「……勘弁してくれ」


その後、嬉々として話し出すティアと母さんに巻き込まれてしまった。
その会話が終わる頃には俺と春姫が心底疲れきっていたのは言うまでもないだろう。
……まさか、ソプラノまで話に混ざるとは思わなかったよ。

























結局、午前中の授業は母さんの呼び出しという名目の関係の追求で潰れた。
俺と春姫は、昼休みなる少し前にようやく解放されたのだ。
その疲れた身体に鞭打って教室へと戻り、準たちを連れてオアシスに向った。


「いらっしゃーい、待ってたのよぉ。ゆーまくん、春姫ちゃん!」


そこで待っていたのは、更なる疲労の原因になるであろうお方だった。
そうだよ……オアシスって言えば、かーさんの支配領域じゃないか。
疲れの余り、そのことをすっかり忘れていたらしい。


「あら、杏璃ちゃんもいるじゃない」
「……あれ、かーさん柊のこと知ってたの?」


柊とかーさんに面識が会ったことに驚いていると、柊は何故か自慢げに語り出した。


「そうなのよ、今日からこの杏璃ちゃんはオアシスの新メンバーなのよ!」
「バイト募集してる時に、杏璃ちゃんが来たのよねぇ〜」
「きゃ〜、ホント?杏璃ちゃん!!」


……この店、大丈夫なんだろうか?
騒いでいる準や柊を前にして、そんな失礼なことを、疲れた頭で考えてしまった。
だってなぁ……柊がやることで、周りに被害がなかったことが少ないような。


「そこ!失礼なこと考えてないでしょうね!!」
「だとさ、失礼なこと考えてるなよ、ハチ」
「え、俺ぇ!?」


うっかり心の内を読まれて睨まれかけたのを、ハチに強引に押し付ける。
まぁ、柊に構ってもらえるんだ、ハチとしても本望だろう。


「それじゃ、杏璃ちゃん。奥に着替える場所があるからさっそくお願いね」
「はい、任せてください!」


あぁ、そういえば柊が言ってたオアシスに行くっていうのは、これのことだったのか。


「ゆーまくん達、今日はゆっくりしていってね、記念すべき日だからサービスしちゃうわよ〜」
「……何か記念になるようなものあったっけ?」
(あ、マスター!それ、禁句!!)


きっと、疲れのあまり頭が回ってなかったんだろう。
俺はついついそんな事を口走ってしまった。


「なに言ってるのよ、春姫ちゃんと付き合ってから初めてオアシスに来た日じゃない!!」
(あぁ……だから言いましたのに……)
「…………」
「…………」


俺と春姫は、顔を真っ赤にして黙りこんでしまった。
……迂闊な事を、かーさんの前で口走るもんじゃない。
っていうか、ティア、もう少し早く言ってくれ。


「あ、兄さーん」


鈴莉母さんと同じような、困るくらいのテンションの会話がまさに始まろうとした時。
オアシスの入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえた。


「……ん、すもも?」
「あ、すももちゃん」


その方向に目を向けると、そこにいたのはやっぱりというか、妹のすももだった。
……あれ?
俺の目の錯覚か、隣に見覚えのあるような銀髪の子が見えるような。


「……あれ、式守さん?」
「春姫にも見えてるって事は、錯覚じゃないのか」


すももに腕を引かれ、困ったような顔をしている伊吹がそこにはいた。


「雄真、こやつを何とかしてくれ」
「兄さん!なんと私は、伊吹ちゃんと同じクラスだったんですよー!」


俺たちのところまで来た後、伊吹とすももがそう言ってきた。
伊吹に友達が出来るのはいい事だと思うが……
すももの好き好きオーラのターゲットになったことには素直に同情を感じるよ。


「……俺にどうにかできると思うか?」


とりあえず冷たいように見えるかもしれないが、俺にすももをどうこうする力はない。
と、いうかこの状態のすももに逆らうほど俺はバカじゃない。
その思いを込めて伊吹に言ってやると、諦めたがついたのか、だいぶ大人しくなった。


「ええぃ、わかった。どこにも行かぬからせめて『ちゃん』付けはやめよ」
「えー、可愛いから良いじゃないですかぁ、伊吹ちゃん〜」


……暫くは、この問答が続きそうだな。


「ねぇ、雄真。あっちから来るのって小雪さんじゃない?」


温かい目で妹と妹に思える存在の掛け合いを見守っていると、準が声をかけてきた。
準が指差していた方向は、まるでモーゼの十戒のように、人波が分かれていた。
そしてその先に、小雪さんとタマちゃんの姿がしっかりと見える。


「……本当だな」


……そういえば、小雪さんも那津音さんとの知り合いだったな。
なんとなく、歩いてくる小雪さんの雰囲気が、いつもと違うような感覚を受けた。


「これは、また何かあるかな?」


そんな予感を感じさせるモノを、俺は確かに感じ取っていた。
























      〜 あとがき 〜


龍笛を持つ小雪さん登場。
さりげなく龍笛は俺の中で重要アイテムだったりするかもしれない?
さぁ、どうやって使うかは、後々判明させていきましょ〜
次は恐らく小雪vs伊吹とかになるのかなぁ……?


まぁ、そんな感じの29話でした。
んだば、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/01/29
公 開 2008/02/02