「……本当だな」


……そういえば、小雪さんも那津音さんとの知り合いだったな。
なんとなく、歩いてくる小雪さんの雰囲気が、いつもと違うような感覚を受けた。


「これは、また何かあるかな?」


そんな予感を感じさせるモノを、俺は確かに感じ取っていた。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「こんにちは、皆さん」


俺たちのところまで歩いてきた小雪さんは、表面上はいつも通りの笑顔を見せた。
だが、その視線は、確実に伊吹の方に向けられていた。


「おはようございます、小雪さん。どうかしましたか?」


そして、伊吹もまた小雪さんに対して警戒しているように感じられた。
そんな2人の間にさりげなく立ち、その雰囲気を霧散させようとしてみる。


「いえ、みなさんがこちらで集まってらっしゃったので、挨拶にお伺いしようかと」
「よーぅ、小日向のあんさん。元気でっかー」
「うん、それなりに元気だよ」


みんなが口々に、小雪さんに対して挨拶をしている間に、こっそりと伊吹が抜け出そうとしているのを視界の隅に収めた。


「伊吹」
「あ、伊吹ちゃん〜どこに行くんですか〜?」
「ぬ……は、離せすもも!」


俺が声をかけると、伊吹の身体は一瞬止まった。
その止まった隙をついて、すももが再びしっかりと伊吹を捕獲していた。


「まぁ、行こうとした理由はなんとなく予想は付くんだけど……すもも、しっかり抑えててくれ」
「はーい、伊吹ちゃんは私がしっかりと捕まえておきますね!」
「こ、こら!どこに掴まっている!離さぬか!!」


伊吹をすももに任せ、小雪さんの方に再び向き直る。
俺の行動で事態が把握できたんだろう、春姫が俺の隣の方に来てくれた。


「小雪さん、来てもらって悪いんだけど、話があるんだ」
「私に……ですか?」
「うん、できるなら今、少し時間をくれないかな?」


恐らく、小雪さんはNoとは言わないだろう。
先見の血筋である小雪さんが、この事態を予見していたかどうかはわからない。
だけど、少なからずイレギュラーな存在である俺の介入によって、未来は変動したはずだ。


「悪いみんな、少しだけ席外すな」
「おう、みんなのことは俺に任せろ!」
「いってらっしゃい、ハチのことは見ててあげるわ」
「頼む、準」


ハチを準に任せ、小雪さんを連れて、中庭の方へと移動を開始しようとする。


「……あ、春姫」


だが、その前に一言かけておこうと、春姫のことを呼んだ。
春姫の独占欲の強さは前にわかっている。
なら、少しでもそれが弱くなるような気遣いはしてあげた方がいいだろ。


「すぐ戻る、待っててくれな」
「あ、うん、いってらっしゃい。雄真君」


俺がそう言うと、春姫は笑顔で送り出してくれた。
本当はついて来たいと思っているはずなのに、待っていてくれることに感謝をしながら。
そして、中庭の隅の方に移動すると、小雪さんが何を言う前に防音の障壁を張ってくれた。


「すいません、お手数おかけします」
「いえいえ、私の方の雄真さんにお聞きしたいことがありましたから」


普段の温和な雰囲気ではない、真剣な表情で張り詰めた雰囲気をもつ小雪さん。
その表情を真正面から受けながら、俺はとりあえず小雪さんの一言を待った。


「何故、雄真さんは那津音様のことをご存知なんですか……?」


そして、紡がれて出てきた言葉は、俺の予想していた通りの言葉だった。


「その前に、お礼を言わせてください」


小雪さんの疑問に答えてからでもいいが、俺はまず先に小雪さんにお礼が言いたかった。
あの時、ほんの短い時間とはいえ、占いの言葉がなければ、俺は諦めていたかもしれない。


「小雪さんのおかげで、俺の誓いは果たせました。ありがとう、ございます」


そういって、俺は頭を下げた。
小雪さんは、予想外の俺の行動に、慌てているような雰囲気が伝わってくる。


「ゆ、雄真さん、頭を上げてください」
「すいません、困らせるつもりはなかったんですが」


そこまで困られるとは思っていなかったから、ついつい頭をかいてしまった。
そのまま少し時間を置くと、小雪さんは落ち着いたのか雰囲気が元に戻った。
それを見計らって、俺はゆっくりと口を開いた。


「それでは……小雪さんの疑問にお答えします」


まず最初に言ったのは、俺という存在のこと。


「俺の本当の名前は、御薙雄真。魔法使い、御薙鈴莉の実子です」


そして、幼い時に鈴莉母さんに連れられて式守家に行った事があるということ。
そこで、那津音さんや伊吹に会ったということ。


「小雪さん、那津音さんの現状はご存知ですね?」
「……えぇ、病院で未だ目覚めぬ眠りについていらっしゃると」


小雪さんも那津音さんの現状を知っていると予測していたが、どうやら正解らしい。
なら、話が早い。


「近々、俺は那津音さんを救う為に行動を起こします」
「っ!那津音様を救えるのですか!?」


俺の一言に、珍しくも驚きをあらわにする小雪さん。
もしかすると、小雪さんも那津音さんを救うために活動していたのかもしれないな。


「救えるか、じゃない……救うんです」


那津音さんを救うために努力をしてきた人がいる。
その人たちの努力を、想いを無駄にしちゃいけない。


「……雄真さん」


小雪さんは、俺の言葉に何かを考えるように目を閉じた。
そして、どれだけ時間が経っただろうか。
ゆっくりと目を開くとどこからとも無く布に包まれた何かを出し、俺に差し出してきた。


「……これは?」
「那津音様からお預かりしたモノです。もし、伊吹さんが危険な行動に出ようとしたら、コレを渡して欲しいと」


開けてもいいかと目で聞くと、小雪さんは頷くことで答えてくれた。
紐で縛られている口を開き傾けると、中から出てきたのは……和笛だった。


「……これは、那津音さんの龍笛?」


龍笛を見た瞬間、記憶の中から那津音さんがそれを吹いている映像が浮かんだ。
そして、そのすぐ近くで、聞き入っている伊吹と……俺。


「那津音様は信じた方にならば預けても良いと仰いました。ですから、私は雄真さんにそれをお渡しします」


龍笛を見つめ続ける俺に、小雪さんはそう言った。


「……俺で、良いんですか?」
「はい、雄真さんならば間違った使い方はしないでしょう」


どうしてそう簡単に言えるのか、小雪さんは笑顔でそう言った。
だが、何故だろうか。
俺は素直にこれを受け取るわけにはいかないように、思えた。


「……すいません、どうやらこれを持つべきなのは俺じゃないみたいです」
「……何故、ですか?」


俺がこの龍笛を持って、過去の映像が見えたのはほんの一瞬だった。
その一瞬以外で浮かび上がったもの、それは全て笛のが持つ、伊吹に対する記憶だった。
きっと、この龍笛は俺じゃなく、伊吹が持つことを望んでいるんだろう。


「どうやら、伊吹の方が良い見たいです」


苦笑しながら、龍笛を袋へと戻し再び紐でしっかりと口を縛る。
そして、俺はその袋を小雪さんへと返した。


「小雪さんと伊吹が今、何かが原因ですれ違っているかはわかりません」
「…………」
「ですが、知り合いなら……仲良くしていた方が、楽しいでしょう?」


龍笛の入った袋を、しっかりと抱きしめ、小雪さんは俯いていた。
それ以上、俺は何も言わず小雪さんからは目を外し、近くの茂みに声をかけた。


「……そろそろ、出てきていいぞ」


ついつい、呆れが混じってしまったのも仕方がないだろう。
なぜなら、途中からではあるが、そこにはOasisで待っているはずのみんなの姿が隠れているんだから。


「あらら、バレちゃったわね〜」
「ご、ごめんね雄真君。止めようとしたんだけど、準さん達が止まらなくて……」


相変わらず、すももに掴まった伊吹の姿もそこにはあった。
……伊吹が自分から来たのか、すももに連れられて来たのか興味があるな。


「まぁ、準やハチをまとめて止められる人間なんてそうそういないからなぁ……」


ハチだけなら簡単に止められるが、なぜか準が混ざるとその瞬間に難易度が上がる。
瑞穂坂学園で有名なオカマは、いろいろと不可思議な存在なのだ。


「……さて、どうしたもんか」


一気に増えた人数を見ながら、俺はお昼はどうしようかな、なんて現実逃避を始めそうになった。
しかし、俯いていた小雪さんが顔を上げ、伊吹の方に向かって歩き出した瞬間。
今まで緩んでいた空気に一気に緊張が走った。


「……式守伊吹さん」
「…………」
「こちらを……」


先ほどまで俺の手の中にあった龍笛、それを静かに伊吹に向かって差し出す小雪さん。
そして伊吹は、震える手でそれを受け取ると袋を開けて、龍笛を取り出した。


「すもも、こっちにおいで」


隣にいたすももが、何かを伊吹に言おうとしたが、その前にこっちに呼び寄せる。
今、この時だけは誰もあの2人の間に入ってはいけない、そう思った。


「兄さん、姫ちゃん……」
「大丈夫、すぐにいつもどおりになるさ」
「雄真君がそう言ってるんだから、大丈夫よ、すももちゃん」


不安そうに寄ってきたすももの頭を撫でてやると、それで少しだけ落ち着いてくれたらしい。
春姫もまた、すももを安心させるかのように、隣に立っていてくれた。


「ありがと、春姫」
「ううん」


微かに聞こえるかどうかの声量でお礼を言ったつもりが、どうやらしっかり聞こえていたらしい。
言葉をしっかりと返されてしまった。


「……無粋な真似はやめとこうか」
「そうね」


これ以上は、俺たちが関わるべきじゃない。
そう思った俺たちは、覗き見しに来た連中を引き連れると、Oasisへと戻る事にした。
……あの2人は、もう大丈夫だろう。
なにせ、那津音さんの龍笛がついているんだから。


「雄真、手間をかけたな」


俺たちがOasisへ戻って、暫くすると、少しだけ目を赤くした伊吹と小雪さんが戻ってきた。
それを突っ込むほど野暮じゃない。


「いいや、とりあえず……仲直りはできたみたいだな」
「ふん、仲直りなど……そもそも仲違いなどしておらぬ」
「……そういうことにしといてやるか」


伊吹の肩にかかっていた力が、いい感じで抜けたように見える。


「伊吹ちゃーん」


そして、戻って早々、すももに掴まった。
……暫く離されてたからか、反動でさらにべったりくっついてるように見える。


「ぬ……す、すもも」
「ほらほら、早くご飯にしましょ〜!」
「わ、わかったから引っ張るでない!」


こりゃ、当分離れないな。
そんな予感を立てながら、俺は小雪さんがこっちを向いているのに気づいた。


「…………」


特に何も言わず、ただ静かに頭を下げる小雪さん。
それを目だけで応えると、俺もみんなが騒いでいる方向に、足を向けた。


「……良かったね、雄真君」
「あぁ……」


今回、いい感じに力が抜けたように見える。
これでいつ行動に移しても伊吹はしっかりやれるだろう。
残る問題は、式守本家と……那津音さんに魔力を戻す方法か……


「次は、式守家の方に連絡をいれてみるか……」


忙しくなってきたけど……やり甲斐はある。
なら、思う存分頑張ってみようじゃないか。
























      〜 あとがき 〜


若干省略しまくる男、時雨登場。
小雪と伊吹の対決はどっちかぼろぼろになるのでやりません。
でも、いずれ違う機会でなんかそういうの書けたらいいかなぁ。


そして若干のネタバレ。
御薙が物騒で、信哉が結構出てきてます。。


……きっとそんな感じのお話。
んだば、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/03
公 開 2008/02/06