どうやら、俺の一番嫌いなパターンが現実のものになってしまったらしい。
母さんや小雪さん、ティアの予想が当たったことに呆れたため息を吐きつつ。
俺は、こんな命令を信哉に言い渡した、式守家の人に対して怒りを感じ始めていた。


「……ティア、思うとおりやれ」


そして、俺はカフス状態のままで待機中のティアに、そう命令を出した。
頭の中では、式守家に対して、どういった手段を講じてやろうかと考えながら。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















ティアにそう指示を出した後、俺は両手をポケットの中に入れた。
そして身体の力を抜き、俺自身は何もする気はないという意思を示す。


「さて、マスターの了解も頂きましたし……信哉さん」


ティアは、俺のその態度が完了したのを見計らって、信哉に対して交渉を開始した。


「……ティア殿か」
「まずは、その風神雷神をお納めください。抵抗する気のない者への適切な対応とは言えませんよ?」
「む、それは確かに……失礼した、雄真殿」


素直に、ティアに言われたとおり、俺の顔の前にあった切っ先を下げる信哉。
……確かに抵抗する気なんてものはさらさらなかったけど、それでも思い切りが良すぎないか?


「では、失礼ながら幾つか質問をさせていただきますが、よろしいですか?」
「む、俺に答えられる範囲でならば、答えよう」
「それで十分です」


何故だろうか……
普段なら間違いなく頼りになる相棒のはずのティアが……
今は一流の詐欺師のように感じられるのは……


「まずは……式守本家からの命令は絶対ですか?」
「無論、上条の男子たるもの、本家よりの命令は命を賭しても守れと育てられた」


信哉の言葉に、また一つ、俺の怒りのボルテージが上がったように感じた。
確かに本家の人間というのは重要視される。
だけど、だからってその下にいる一族の命を無下にしていい訳じゃない。


「では、2つ目ですが……式守本家の命令と伊吹さんでは、どちらが大事ですか?」
「選ぶまでもない、伊吹様に決まっている」


聞いていて清々しいくらいの即答で、信哉は伊吹を選んだ。
ここまで即答してくれる人がいるのか……
ちゃんと伊吹は慕われているようで少し安心した。


「それでは、最後です……もしマスターの行動が、伊吹さんの事を優先して考えた上での行動だとするなら、信哉さんはどうしますか?」


最後のティアの言葉は、俺も予想外だったために、信哉と俺の2人して固まってしまった。
俺は、そこまで考えてなんていないんだが……


「……それは、どういうことだ?」


信哉の疑問も、もっともだと思う。


「考えても見てください、伊吹さんがこちらに出向いた目的は那津音様の救出でしょう?」


――――そして、マスターもまた那津音さんを救う為に活動している。
すなわちそれは伊吹のためである……なんていう理解できるんだかできないんだか。
そう微妙な言い回しをティアは持ってきた。


「なるほど……それならば確かに伊吹様の願いが優先されている」
「あ、信哉はわかるんだ……」


俺にはいまいち理解できなかったが、信哉は信哉なりにしっかりと理解したらしい。
さっきとは打って変わって、俺に対して、頭が地面につくくらい深く土下座した。


「すまぬ、雄真殿!!そこまで考えていてくれたというのに、俺は……俺は!!」
「いや、まぁ、なんかもういまいちわからないんだが……落ち着け」
「いえい、説得成功ですよ、マスター」


確かに、結論だけ見てしまえばティアが信哉の説得に成功したってことなんだろうけど。
……なんでだろうな……ものすごく納得しきれないし、微妙に悲しいのは。


「とりあえず信哉、そう言うことらしいから俺は行くぞ?」


どんな過程を得たとしても、最終的にはやらねばならないことがある。
だからこそ、強制的に意識を切り替えて俺は式守本家へ連絡を取ろうとした。


「待ってくれ、俺も、連れて行ってはくれまいか?」
「……一応、まだ式守本家に行くって決まったわけじゃないんだけど」
「恐らく、電話で連絡を取っても護国様には繋がらん」


信哉が言うには、護国さんへの連絡を全て管理して問題ないのだけを通す。
そんなことをやっているらしい。
なるほど……それなら俺が連絡を入れたとしても途中でもみ消される確立が高いか。


「やっぱり、直接出向くしかないのか……」
「本家は他者が入る場合には手間がかかる故、俺が一緒に行けばその手間も省略できよう」


確かに、信哉は式守家にゆかりのある上条の人間だ。
その信哉がついてくれば、その手続きは飛ばせる可能性が高い。


「なるほど……仕方ない、それじゃあ信哉、頼むぞ」
「心得た」


学校を出た後すぐに、一応試しに電話をかけてみた。
だが、信哉の言うとおり止められているんだろう。
護国さんの所在を聞いてみたとしても、出掛けているとしか言われなかった。


「護国様が外出なさる事は限りなく少ないはずだ」
「……んじゃ、やっぱり乗り込むしかないか」


細かい位置までは覚えてないが、そこはティアのサポートがあるから大丈夫だろう。
そう考えて、ティアに乗ろうとした。


「雄真殿、式守家へ向かうのならば、飛んでいくより俺の方が早いぞ」


そんな俺に向かって、信哉はそう告げた。


「……信哉って、方向音痴じゃないのか?」


上条さんから前に聞いたが、信哉は極度の方向音痴だったはずだ。
その信哉に任せて、早くつく方法なんてのはあるんだろうか?


「さすがに、本家に遅れるわけには行かない時があるのでな、こうしているんだ!」


そして、信哉は持っているマジックワンドを構えると、何もない空間を切り裂いた。
……簡易転送魔法の一種か?


「これが、式守本家入り口まで繋がっている」
「一方通行ってことか」
「……うむ」


こんな方法があるなら、学校にも迷わず来れるだろうと思って問いかけてみれば。
予想通り、この手段が使えるのは片道のみらしい。


「それじゃ……行くか」
「うむ」


今度時間ができたら、魔法式を教えてもらって往復できるように改良してやろう。
とりあえず、そんな事を考えてしまった。

































「……こりゃまた、ずいぶんな歓迎だな」
「……すまぬ」


信哉の作った道を通って出てきた俺たち2人を待っていたのは、式守家の魔法使いたちだった。


「信哉が悪いわけじゃないさ……」
「恐らくは、護国様の所まで行ければ何とでもなろう」
「……まずは、俺に任せておいてくれ」


そう信哉を制して、まずは俺に任せてもらう。
いつでも攻撃してきそうな式守家の魔法使いの前に、無防備に歩き出す。


「雄真殿!それではあまりに無防備すぎるのではないか!!」


慌てて止めに来ようとする信哉を、目だけで止める。
信哉はいつでも俺の前に出てこれるよな体制を取ったまま、俺の動向を見守っていた。
その信哉の心遣いに感謝をしつつも、俺は歩きを止めない。


「あまり、使いたくない手段なんだけどな……」


俺がやろうとしている事は、ごくごく単純な事と言ってもいい。
恐らく、その効力は見るまでもなく絶大なものだとも確信している。
だけど、それを大々的に使うことには、抵抗感があった。


「仕方ありませんよ、マスター」


そう悩んでいると、ティアがそう言って来た。


「マスターは魔法を一切使わず、争いを生み出さずこの事態を収拾しようと考えています」
「…………」


これでもし、強行突破を選んだとすれば、少なからず魔法を使用しなきゃならない。


「そのために使える手段を講じるのは悪いことでは悪いことではありません」


でもそれは、俺が目指す目標の姿とは違う気がした。
だからこそ、魔法を使わないで護国さんの所に行く方法を、俺は選ぶ。


「そう、だな……」


いつでも、ティアは俺の考えをわかってくれる。
そして、それが正しい時は迷うことなくその道を進めと教えてくれる。
俺は、覚悟を決めると、目の前に待ち構えている魔法使いたちに、声も高らかに告げた。


「私の名は御薙鈴莉が嫡子、御薙雄真!式守家現当主、式守護国氏にお目通り願いたい!!」


御薙鈴莉と言う名前を聞いた瞬間、魔法使いたちに動揺が走ったのがわかった。
魔法使い大家に対しても強い影響力を持つ、それが母さんだ。
既存概念を破壊し、新たなる魔法式構築を見出した人物。
母さんはその功績で、魔法使い大家からも重要人物として認識されている。


「何故誰も動かないのですか」


動揺するだけで、動きのない目の前にいる全員を見渡して告げる。
そして、後ろの方にいた数名が、屋敷の中に走っていくのを確認した。


「……雄真殿」
「……あんまり、使いたくはなかったけどね」


構えていたマジックワンドを収めて、信哉が俺の方に歩み寄ってきた。
苦笑してそれを迎え入れると、苦虫を噛み潰したかのような辛そうな表情をされてしまった。


「式守家の事には、少なからず俺も責任がある……すまない」


まるで自分の事のように辛そうな顔をする信哉。
俺のせいでそんな顔をさせ続ける訳にもいかない。
そう思って、俺は信哉の肩を軽く叩いて言った。


「攻撃された訳じゃない、だから気にする必要もないさ」


お互い、何も言うことができなくなり、暫く無言で佇んでいると、奥のほうからざわめきが聞こえた。
そのざわめきは、徐々にこちらの方に移動してきているようにも見える。


「マスター、これまでとは違った魔力量を感知しました、恐らくお見えになったのかと」


目の前に待ち構えていた全ての魔法使いに、そのざわめき徐々に広がった。


「静まりなさい」


そして、奥から静かだが、しっかりと通る声が響き渡った。
その声に律されたように、ざわめいていた人たちが静まり、あたりに静寂が戻った。


「私を訪ねてきた者に用がある、道を開けなさい」


奥から聞こえた声が、そう言うと、その声の前に立ちふさがっていた全ての人達が避けるように、道を生み出していった。


「……来た、か」


そして、目の前にあった人垣が割れ、その奥から1人の男性が姿を見せた。
宮司のような服装をした、若いとも言える男性だった。
目の前まで歩いて来た男性に、信哉はすかさず臣下の礼を取った。


「……雄真君、だね?」


その信哉に頭を上げるように言った後、その男性は俺の事を見て、そう言って来た。


「えぇ、お久しぶりです。護国さん」


そして俺は、式守本家現当主、式守護国と対面した。
さて、ここからが重要になってくる。
気を引き締めて行かなきゃならないだろう。
























      〜 あとがき 〜


結局、理不尽な暴力無しで進めてみました。
自己嫌悪も良いけど、それは余分になりそうな気がしたので。
でも、信哉あたりが戦うところ書きたい気もするんだけどなぁ……?

さて、護国さんと対面したわけですが……
確かこの人公式にイラストなかったよね?
……どういう人物像を当てはめようかなぁ?

とりあえず、、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/06
公 開 2008/02/13