ティアなら恐らく大体の道はわかるだろうが、徒歩だとどうしても時間がかかる。
春姫が待っているかもしれない以上、そんなに移動に時間はかけたくない。
と、なると残された手段と言うのは少ないわけで……


「むさ苦しい事この上ないですねー」
「……ティア、それを言うな」


乗せる側のティアのその台詞が、非常に痛く感じた。
事が片付いたら、信哉の魔法式の改良を優先しよう。
そんな、変な決意を新たにする俺だった。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















信哉を乗せて、新幹線より速い速度で空を飛ぶ。
方向はティアに任せて、俺は浮遊の魔法とベクトル操作の魔法に集中するだけでよかった。
そのおかげか、大した時間をかけることなく、瑞穂坂学園にまで戻ってこれた。


「ふぅ、意外に距離があったな」


さすがに学園内に降りるわけがいかなかったので、学園裏の林の中に着陸する。
自分以外を乗せて飛ぶことなんて少なかったから、案外気疲れしたな。


「信哉さん〜、着きましたよ〜?」


何故か到着してから一切の動きを見せない信哉に、ティアがそう声をかけた。
だが、相変わらず信哉は動く気配を見せなかった。


「……信哉?」
「……雄真殿、乗せてもらったのは感謝するが……できればもう少し速度を落として欲しかった」


ようやく信哉が喋ったかと思えば、ふらふらとしながらそう言って来た。
……そんなに、飛ばしたかな?


「……すまん、人を乗せて飛んだ事がなかったから勝手が分からなかった」


信哉の様子を見る以上、人を乗せて飛ぶならもう少し速度を制限した方がよさそうだ。
まぁ、人を乗せる機会が今後あるか分からないんだが。


「大丈夫そうか?」
「うむ、もう大丈夫だ。雄真殿は神坂殿を待たせているのであろう、先に行ってくれ」


まだ少しふらふらとしながら、信哉はそう言ってくれた。
だけど、さすがに俺が原因なんだから置いていくわけには……


「ふむ、本家に行ったという割には早かったな?」


俺が悩んでいると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ってみれば、やっぱりというか伊吹と上条さんがそこに立っていた。


「……伊吹に上条さん。なんでここに?」
「なに、空から見覚えのある姿が飛んでくるのが見えたのでな」


どうやら、気づく人には気づかれたらしい。
今後、空を飛ぶときは隠蔽の魔法でも重複して使っておこうか。


「兄様は私が見ますので、小日向さんは行ってください。神坂さんが待っていますよ」
「……すまぬ、沙耶」


俺の横を通り、上条さんは信哉を支えてそう言った。
やっぱり春姫は教室で待っているらしい。
だとしたら、信哉の面倒を見てくれる人も来たし、急がなきゃな。


「あぁそうだ。伊吹」


教室へ向かって駆け出そうとして、俺は護国さんと話してきた内容をまだ伝えてない事を思い出した。
これで大体の準備は整ったわけだ。
そうなると、伊吹としてはすぐにでも那津音さんを救いたいと思うだろう。


「護国さんからも許可を貰って来たから、こっちの準備が完了次第那津音さんを救うぞ」
「本当か!」


俺の台詞を聞いて、目に分かるほど嬉しそうな表情を見せる伊吹。


「あぁ、伊吹は嫌かもしれないが……後で鈴莉母さんの研究室の方に顔を出してくれるか?」


後は母さんの方と連携して、秘宝の発動とその制御のためのやり方を聞かなきゃいけない。
それと、関係者を一同に集めるなら、屋上とかより母さんの研究室の方が機密性が高い。


「……那津音姉さまを救う為ならばそれくらいはやむを得まい」
「それじゃ、また後でな!」


まだ多少の抵抗感が残っているのか、本当に仕方がないと言った雰囲気の伊吹。
それに苦笑しながらも、俺は春姫がいるであろう教室に向かって駆け出した。


「……はぁはぁ……春姫!」


急いで教室まで戻りドアを開けると、魔法書でも読んでいたんだろうか、春姫が顔を上げた。
そして、俺の姿をしっかりと確認した後、春姫は笑顔で嬉しい事を言ってくれた。


「おかえりなさい、雄真君」
「……うん、ただいま」


春姫のところに歩きながら、俺も笑顔で返す。
すると、横から予想外の声まで聞こえてきた。


「あー、熱い熱い、ねぇ準ちゃん。熱くない?」
「そうねー、杏璃ちゃん。雄真ったらホントに春姫ちゃんしか見てないわねー」
「くぞぉ……俺も姫ちゃんに笑顔で『お帰り』なんて言われて見てー!!」


……準の言うとおり、俺は春姫しか視界に入れてなかったんだが。
どうやら全員が俺の事を待っていたらしい。


「……あー、すまん」


事実が事実だけに、言い訳する事などできず、俺はただ謝るだけが精一杯だった。


「ま、ちゃんと走って戻ってきただけでも良しとしてあげようじゃない」
「ふふ、そうね」


どうやら、これ以上追求される事はないようだ。
良かった……準やハチあたりに無理難題でも言われるかと思った。


「それで、雄真君。式守さんの家の方は……?」


おずおずと言った感じに、春姫がどうだったかを聞いてきた。
それに頷いて答えると、俺は今後の予定を伝えることにした。


「あぁ、なんとかなったよ。この後、母さんの研究室に行く」


突然、俺と春姫だけで話が進み始めて、他の3人は頭の上に疑問符が浮かんでいるように見えた。


「雄真、何の話?」
「あれ、音羽さんって研究室なんて持ってるの?」


俺と春姫の表情から、ただ事じゃないという事を感じ取った準。
そして、鈴莉母さんとの関係を知らない柊がそれぞれ違う事を尋ねてきた。


「……ごめん、今は言えないんだ」


答えたら、こいつらの事だ、自分も行くと言うかもしれない。
だけど、そんな危険にみんなを巻き込むわけにはいかない。
だからこそ、俺は謝り、内容が話せない事を伝えた。


「……雄真」
「…………」
「それって、『あの事』が絡んでるの?」


柊はまだ、俺が魔法を使える事を知らない。
だからこそ、準はその事を濁して、聞いてきた。


「あぁ」


相変わらず柊は、何がなんだかわからないという表情をしているが、こればっかりはまだ言うつもりはない。
もし柊に教えることがあるとすれば、この事件が終わったあとになるだろうな。


「俺たちに言えないって事は……危険なんだな?」


今まで黙っていたハチが、ようやく口を開いて出てきた言葉はそれだった。
普段バカをやっている時の表情とは違う、俺の返答次第では止めるという意思が見える表情だった。


「……あぁ、危険だ。だけど、これはやらなくちゃならないんだ」
「そうか」


ハチの表情を真っ向から受けて、俺は自分の意思を伝える。
少しだけ考えるような仕草をハチはしたが、すぐにいつも通りの笑顔に戻った。


「俺が出来る事なんて応援しかねぇが……しっかりやってこい!」


そして、思いっきり背中を叩いてそう言ってくれた。


「あぁ、絶対。やり遂げてみせる」


俺たち2人の会話を聞いて、準も止めるのが無駄だと分かったんだろう。
あまりにも仲間はずれされすぎて、今にも噛み付いてきそうな柊を抑えてくれていた。


「杏璃ちゃん」


そんな抑えられている柊に向かって、春姫が声をかけた。
いったい、何を言うつもりなんだろうか?


「終わったら全部話すから、今は我慢して欲しいの」
「……今は、どうやっても言えないってことね」
「……ごめんね」


春姫の一言で、納得したわけじゃないだろうが柊は落ち着きを取り戻した。
まぁ、こんなところで話を出した俺が迂闊だったんだ。
事が終わった後なら、伝えても問題はないだろうしな。


「春姫、そろそろ行こう」


そろそろ母さんの所に伊吹たちが行くかもしれない。
そう思った俺は、春姫に声をかけた。


「あ、うん。それじゃ、行ってくるね」


そして、俺たちは母さんの研究室に移動を開始した。


「頑張ってね、雄真」
「お前なら出来るぜ、雄真!」
「今度ちゃんと教えなさいよ!!」


そう、みんなの声を背中に受けながら。
言われなくても、やってやるさ。
俺の、全力をもってな。





























「母さん、入るよ」
「失礼します」


ノックをして、研究室への扉を開ける。
中にはすでに母さん、伊吹、信哉、上条さんが待っていた。
……それはいいんだけど。


「……なんで小雪さんが?」


どういうわけか、小雪さんとタマちゃんまでがその場にいた。
俺、今集まるって事を小雪さんには一言も言ってないと思ったんだけどな。


「占いで、那津音様に関わる重要な出来事があると出ましたので」
「なんやにいさん、内緒なんて人が悪いなー」


どうやら、俺に対しては不幸な結果しかでない占いも、他の事ではちゃんとした結果が出るらしい。
……どうせなら、俺の時ももう少しいい結果が欲しいよなぁ。


「まぁ……小雪さんも部外者って訳じゃないからいいか」


高峰の家も、式守に並ぶ魔法使いの大家だ。
それに那津音さんと小雪さんはどうやら知らない間柄じゃないみたいだしな。


「それじゃ、母さん。秘宝の発動と制御について教えてくれ」


とりあえず、来てしまった以上、もう小雪さんは巻き込むしかないだろう。
そう結論付けて、俺は母さんに本題に入ってもらうように頼んだ。


「そうね……まずは秘宝のある場所から始めましょうか」


そして、母さんの口から式守の秘宝がある場所、発動方法、制御のために必要な事が語られた。
さっき俺が戻ってきた時の林の奥に、どうやら結界で隠されていたらしい。


「……そんな結界魔法の反応なんて、感じられなかったんだけどな。」
「結界の効果範囲はホントに一部に限定しているから、その場に触れない限り、雄真君でもわからないでしょうね」


どうやら、外部に漏れないように限定を強くしてあるからこそ、俺には探知できなかったらしい。
なるほど……周りに気づかれないようにするには、そういう方法もあるのか。


「秘宝の発動は、式守さんにやってもらいます」
「当然であろう、私は式守の次期当主なのだからな」


発動させるための適正は、伊吹に勝る人間はここにはいないだろう。
でも、危険な役目である事には変わりない。


「その時、式守さんと雄真君には、この指輪をつけておいて欲しいの」


そう言って母さんが取り出して来たのは、似たような模様が刻まれた指輪だった。
……見た事がない魔法式だな。


「その指輪の効果は、魔力の方向性の制御と、その制御された魔力を回収するためのものよ」
「なるほど、それを伊吹様と雄真殿がつけることによって、魔力の不足を補うのか」
「えぇ、その通り。でも、まだ実験段階の魔法式だから、今試して欲しいの」


俺と伊吹に、それぞれ指輪が渡された。
それを受け取った俺は、カフス状態だったティアをマジックワンドに戻して、解析を頼む事にした。


「……ティア、一応解析しておいて」
「了解しました」


母さんの魔法式は、ちゃんと覚えておいて損はない。
もしエラーが発生するのなら、それはティアが修正してくれるだろうしな。


「鈴莉様、こちらの記述ですが……」
「あら……ホントだわ、じゃぁこれをこうして……」


早速何かを見つけたのか、ティアが母さんに何かを聞いていた。
とりあえず、指輪は母さんとティアに任せておけば問題ないだろう。
……俺の方の問題と言えば。


「……えーっと、春姫?」
「ん、なぁに、雄真君?」


戦慄が走るくらい凄まじくいい笑顔な春姫を、宥めなきゃいけない。
……これが一番の問題な気がするんだけど、どうしたもんかなぁ。


「ふふ、雄真さん。不幸ですね?」


……小雪さん、勘弁してください。
























      〜 あとがき 〜


さて、スランプ脱出した予感がするのでペースが上がりそうな時雨です。
でもほんとにペースが上がるかはわかりません、気分屋なので(ぁ
とりあえず、次回は黒い春姫をちょこっと出します。
独占欲爆発の予感ですよぉ?

はたして雄真はどうやってこの窮地を脱するのか!
そんな雄真に、小雪と伊吹の意地悪が炸裂するかもしれない!
なんていう若干ギャグテイストを混ぜようか考えてます。

とりあえず、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/17
公 開 2008/02/18