戦慄が走るくらい凄まじくいい笑顔な春姫を、宥めなきゃいけない。
……これが一番の問題な気がするんだけど、どうしたもんかなぁ。


「ふふ、雄真さん。不幸ですね?」


……小雪さん、勘弁してください。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「えーっと、春姫」
「ううん、仕方がない事だもんね、私は全然気にしてないよ、雄真君」


ものすごく、声を大きくして嘘だ!と言いたい。
でも、今の春姫にそんな事を言うほどの勇気は、俺にはなかった。
笑いたければ笑ってくれ、どうしていいかわからないんだよ。


(マスターのヘタレー)
(……ティア、覚えてろ?)


恐らく母さんと魔法式の改善をしている時に、聞いていたであろうティアからの野次が飛んできた。
……なんかすっかり性格変わってないか、ティア。


「そうかりかりするな、神坂春姫」
「……式守さん」


俺の救いの手は、予想外のところから差し伸べられた。
指輪を一度母さんに戻した伊吹が、俺たちの方に向かって来ながらそう言った。


「少なくとも私はそなたと同種の感情を雄真に対しては抱いてはおらん」


まぁ、俺からしても伊吹は恋愛対象ってより、もうすももと同じ妹って感じだもんなぁ。


「でも、伊吹さんは雄真さんの事、嫌いじゃありませんよね?」


伊吹の一言で、落ち着きを取り戻しかけた春姫が、小雪さんの一言でまた再燃した。
……余計な事、言わないでください、小雪さん。


「……雄真君」
「小雪さんの言う事を真に受けないでくれ、俺と伊吹はすももとの関係と変わらないって!」


ゆらりと、不気味なくらいゆっくりと春姫がこっちの方に向いたので、慌てて弁明を試みる。
なんとか押しとどめることに成功したのか、暗いオーラはそのままだが、表面上は落ち着いたように見える。


「……ほんとに?」
「うん」


春姫の質問に、即答する。


「……小雪よ、わざわざ火に油を注いで楽しんでおろう?」
「あ、バレちゃいました?」
「誰でもわかるわ、そのような顔をしていれば」


俺のあたふたする様が面白いのか、小雪さんは嫌なくらいにっこりと笑っていた。
くそう……絶対遊ばれてる。


「ふむ、このまま見ているのもまた一興ではあるが……神坂春姫よ」


未だ春姫に詰め寄られている俺を見かねたのか、伊吹が春姫の事を読んだ。
そして、2人して何故か会話が聞こえないくらい離れると、何かを話しているように見えた。


「……小雪さん、頼みますから俺で遊ばないでください」
「いえいえ、雄真さんが不幸に嘆いていらっしゃる表情がとても素敵なもので」


……それは、理由になってません。


「雄真殿、心中お察しする」
「小日向さん、元気を出してください」
「ありがとう、信哉、上条さん……」


上条兄妹2人の励ましが、とてもありがたく感じた。
そんなこんなしている間に、春姫はどうやら伊吹に言いくるめられたらしい。
こっちに戻ってくる頃には、春姫の黒いオーラは跡形もなく消えていた。


「わかったわ、ちゃんと我慢する」
「うむ、事が終われば必ずそなたにやろう」
「……一体、何を言ったんだ、伊吹」


なにをあげるのかが気になって、聞いてが2人は意味深な笑いをするだけで答えてくれなかった。
……まぁ、春姫が落ち着いただけで良しとしておこう。


「ありがとう、ティア。おかげで大体修正が終わったわ」
「いえいえ、私としても協力できて何よりです」


どうやら、いつの間にか母さんとティアの会話も終わっていたらしい。
さっきより若干書かれている魔法式が変わった指輪を俺と伊吹に母さんは渡してきた。


「それじゃ、それをつけてみて」
「……母さん、これどの指でもでかそうなんだけど?」


貰った指輪はどの指でも簡単に入るくらい大きかった。
……これ、つけるのはいいけどすぐ落としそうだなぁ。


「大丈夫よ、つけたら自動的にその指のサイズに変わるわ」
「へぇ……物質変化の記述も書いてあるのか」


よくこんな細かい記述ができるなぁと感心しながらも、右手の人差し指に指輪をつける。
すると、母さんの言ったとおりに指輪は俺の指にぴったりのサイズに変化した。


「2人とも、つけたわね?それじゃ式守さん、魔力球を作ってみてもらえる?」
「ふむ、特にやる事はないのか?」
「えぇ、自動的に雄真君の魔力を借りられるようになっているわ」


どうやら、俺が何か魔法を使うという必要は今のところないらしい。


「よかろう……ア・グナ・ギザ・ラ……」


伊吹が詠唱を始めると同時に、俺の魔力が指輪を通して放出され始めたのが感じ取れた。
……仕方がないとは言え、やっぱり魔力が持っていかれる感覚ってのは嫌なもんだな。


「……デライド・ア・ルサージュ」


魔法が完成したと同時に、俺の魔力が今までよりも多く一気に持っていかれた。
瞬間の虚脱感のせいで、少しだけふらついてしまい、春姫にもたれかかってしまった。


「だ、大丈夫、雄真君!?」
「あー、うん。なんとか」


唐突に大量に持っていかれると、さすがの俺でも立ちくらみくらいは起こす。
……っていうか、今の持っていかれ方は半端なかったよな。


「……伊吹、お前最後かなり無駄に魔力込めただろう?」
「ふ、悪戯心というやつだ」


恨みがましい視線を伊吹に向けてやると、いけしゃあしゃあと言ってきた。
やっぱりな……どうりで出来上がった魔力球の密度が随分と高いと思ったよ。


「どうやら、実験は成功みたいね」
「あぁ、ちゃんと魔力は伊吹の方に流れてるみたいだね」


すぐに立ちくらみも治まり、軽く頭を振った後に母さんに告げる。
本番はもっと持ってかれる可能性があるんだ、気を抜かないようにしないとな。


「それで、雄真君。今の状態で魔法は使える?」
「どうだろう?ティア、魔法式起動準備(スタンバイ)
「了解です、マスター」


伊吹の魔力球が未だ存在している状態で、ティアを呼び戻して精神を集中させる。
使う魔法は……いつもの練習用のでいいか。


「エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ・カルティエ・エル・アダファルス」


いつもより少しだけ小さな光の球が生まれた。
なるほど、伊吹に魔力を回している分、俺の方で使えるのが少ないのか?


「……大丈夫見たいね」
「あぁ、普段より少しだけ小さいけどね」
「それは雄真君自身が自分の潜在魔力量を理解してないからよ」
「……どういうこと?」


母さんが言うには、俺の潜在魔力量は、伊吹に回したとしてもなんの影響でないくらい大きいらしい。
今、俺の魔法が小さくなっているのは、その認識が魔力の使用に影響しているためということだ。


「ってことは……ごめん春姫、ちょっと支えてもらっていいかな?」
「あ、うん。これでいい、雄真君?」


春姫に頼んで、立ちくらみがもし起こったとしても倒れないようにしてもらう。
……さて、それじゃやってみるか。


「ティア、詠唱補助(サポート)よろしく」
「ディ・ナグラ・フォルティス」
「ディ・アス・ルーエント!」


普段は自分が意識していない場所を、意識的に使うのは難しい。
だが、自分が無理だと思っている、さらに一段階上の魔力を無理矢理搾り出そうとしてみる。
すると、予想よりあっさりと魔力が供給され、光の球が倍以上の大きさになった。


「……大丈夫、雄真君?」
「……すごいな、全然問題ない」


春姫に支えてもらっていたが、それがなくても平気なくらいの余裕があった。
これが、俺の潜在魔力量ってことか?


「はい、もういいわ。2人ともありがとう」


母さんの合図で、俺と伊吹は2人同時に魔法を解除した。
確かに、普段より魔力を使ったはずなのに、全然苦にならない。


「これで、発動と制御に必要な魔力はなんとかなりそうね」
「後は、那津音さんの魔力をどうするか、だね」


発動と制御がなんとかなりそうになった以上、次に考えなきゃいけないのは魔力をどうやって那津音さんに戻すか、と言う事になる。


「それが問題なのよね……」


那津音さん本人をその場に連れて行き、直接魔力を送り込むという方法もある。
だが、それをやるとしたら、俺はその場にはいけない。
俺が近づく事で、強制的に那津音さんに魔力が持っていかれる可能性があるからだ。


「後考えられる方法としては……何か媒体を用意するとか?」
「……那津音ほどの魔力を保有できる魔法具なんて、さすがにもってないわ」
「そうなんだよなぁ……」


並みの魔法使い程度の魔力なら、それを保存しておける媒体は存在する。
でも恐らく、那津音さんの魔力量は、普通の魔法使いよりも多い。
それを移しておけるような物を、実行するときまでに考えなきゃいけない。


「……それは、これでは無理か?」


どうしたものか、そう考えていると、伊吹が布に包まれたものを取り出した。
……あの布は、那津音さんの龍笛か?


「……確かにそれなら、可能かもしれないわね」
「その龍笛は那津音様が幼い頃より持っていらした物ですね」


小雪さんが那津音さんに会ったときには、すでに龍笛を持っていたらしい。
それなら、那津音さんの魔力に耐え切れるかもしれないな。


「でも……式守さん、下手をしたらそれが壊れてしまうかもしれないわよ?」


母さんが真剣な顔をして伊吹に言った。
そうだよな、耐えれるかもしれないが、耐えれない可能性もあるんだ。
そうなったら、恐らく龍笛は直すのが難しくなる……


「構わぬ、那津音姉さまの命の方が大切だ」


だが伊吹は、あっさりとそう言った。
……それだけ、那津音さんを救いたいって気持ちが自然と感じられた。
これは、絶対失敗するわけにはいかないな。


「わかったわ……それじゃ、明日の夜、式守の秘宝を発動させましょう」
「明日?今日じゃないの?」


何故か母さんが言った実行日は、明日だった。
準備が整った以上、早ければ早い方がいいんじゃ?


「明日までは、みんなそれぞれ準備をして欲しいの」


俺は潜在魔力をしっかりと引き出せるようにするために。
伊吹は、式守の秘宝に関して、一度本家で護国さんと話をするために。
そのために母さんは明日と言う時間を選んだらしい。


「私の方も、秘宝を発動した事で出る影響を学園側に伝えなきゃいけないのよ」


学園に秘宝がある以上、もしかしたらの可能性も考えなきゃいけない。
その準備をするための時間を、母さんも欲しかったって事か。


「わかった、それじゃ明日の夕方にまたここに来るよ」
「えぇ、それまでしっかりと準備をしてきてね」


みんな口々に了承の返事をして、母さんの研究室から出て行った。


「雄真君は、しっかり神坂さんを送ってあげてね」


春姫も帰ろうとしたのを見て、母さんが俺に言ってきたが、もちろんそのつもりだった。


「でも、近いから大丈夫だよ?」


春姫は明日大変になると分かっているからこそ、遠慮ているんだろう。
だけど、日取りが決まった以上下手に緊張するのはよくない。
だったら、好きな人と一緒にいて、少しでもリラックスできるようにした方がいい。


「大丈夫だよ。行こうか」


俺が笑いながらそう言って手を出すと、春姫は嬉しそうにその手を取ってくれた。
そして、2人で並んで母さんの研究室を出た。


「……いよいよだね」
「あぁ、明日は気合を入れてかからないとね」


いよいよ、那津音さんを救うために動く。
……決戦は、明日だ。
























      〜 あとがき 〜


さて、いよいよ那津音救出作戦が本腰入れて発動します。
まぁ、そう簡単に那津音さんを救わせるつもりもないんですが(ぁ
それは今後の俺の書き方次第って感じですかねー
やっぱり盛り上がりは大事にしないとね!

相変わらず俺の頭の中で春姫との合同詠唱がリストアップされ続けてます。
それのためにどうやろうかなーみたいな感じですね。

まぁ、とりあえず、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/17
公 開 2008/02/20