春姫に手を貸して、立ち上がらせる。
春姫はついた土を払った後、もう一度マジックワンドを構えた。


「雄真君、もう一回!」
「あ、あぁ……わかった」


どうやら、春姫も柊に負けず劣らずの負けず嫌いなのかもしれない。
意気揚々と魔力球に魔力を注いでいる春姫を見て、俺はそんな事を考えてしまった。
……確かに、この練習方法は意欲向上にいいのかもしれないな。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















あの後、俺も少しだけ力加減と言うものを覚えた。
そして春姫に、魔力の密度を上げる効率のいい方法なんかを教わったりもした。


「……そろそろ、一度戻った方がいいかな?」


気づけば、かなり早くに家を出てきていたはずなのに、すでにいつもと変わらない時間になっていた。
それだけ、春姫とやった魔法の練習が面白かったと言う事かな。


「あ……うん、そうだね。ごめんね雄真君、こんな時間まで……」
「いや、俺も学ぶ事が多かったから」


さすがに学年1位と言うだけあって、春姫の魔法式の構築は綺麗で無駄がない。
俺が独学で生み出した魔法式の粗を探して、こうしたらいいという改善策まで教えてくれた。


「……後は夜までしっかりと準備して、だね」
「そうだな……」


いよいよ、今日の夜に那津音さん救出の為に動く。
例えどんな事があったとしても、失敗は出来ない。
その賭けには、那津音さんや伊吹、みんなの命が掛かっているんだから。


「それじゃ、私も一度寮に戻るね」
「あ、送っていくよ」


春姫がソプラノに乗ったところで、俺は送っていく事を告げた。
だが、春姫は今日は大変になるから、少しでも休んでと言葉を残して、空高く浮き上がっていった。


「……それくらいなら、平気なんだけどな」
「それだけ、マスターの事を考えてくれてるんですよ」


……そうだな。
春姫が見えなくなるまで見届けた後、俺もティアに乗って家へと戻る事にした。


「兄さん、起きてますか?」
「あぁ、おはようすもも」


家に戻り、服を着替えた所で丁度よくすももが入ってきた。
さすがに今日は、寝ているフリはする必要はないだろう。


「あ、今日は早いですね。下にご飯できてますよ」
「わかった、ありがとうな」
「いえいえ〜、でわ私は先に行ってますね」


パタパタという足音を響かせて、すももは下へと降りていった。
……さて、今日も1日頑張るとしますか。


「あら、雄真?」
「お、ホントだ」


いつも通り、学校までの道をすももと歩いていたら、準たちにそう言われた。
とりあえず、その言葉をスルーして、普通に挨拶を返す。


「おはよう、準、ハチ」
「おはようございます、準さん、八輔さん」


2人とも、俺がいるのが予想外だったのか、少しだけどもりながらもおはようと言ってくれた。
まぁ、昨日の今日で普通に登校して来ていたら、どもるのも仕方がないか。


「雄真、昨日の言ってた事は終わったの?」


準がさりげなく俺の隣に来て、そう聞いてきた。
それに首を横に振るだけで、俺は答えを返す。


「そ、じゃぁまだ教えてもらえないのね?」
「あぁ……明日には、必ず教えるよ」


ふーん、とそれだけ言って準はいつも通り他愛もない話を始めてくれた。
こういう時、理解の早い友人がいるのは助かるよな。


「えっと……どういうことですか?」


だが、会話の内容を知らないすももが、頭の上に疑問符を浮かべながら聞いてきた。
……すももには、どう説明したもんかなぁ?


「まぁまぁ、すももちゃん。雄真たちの事よりさ、昨日のテレビで……」


すももの会話に割り込むように、ハチがそう言って話題転換してくれた。
割り込む一瞬の間に、俺に対して任せろと言いたげな目を送ってきてくれていた。
……すまんハチ、助かる。


「あ、それって昨日の―――――」


しっかりとそのハチの誘導に釣られ、少し前までの話題は綺麗さっぱり無くなったらしい。
こうして、のんびりと歩きながら、俺たちはいろいろな無駄話を続けた。


「おはよう、春姫」
「あ、おはよう、雄真君」


校門の所で待っていた春姫に、声をかけると読んでいた魔法書から目を外して、挨拶を返してくれた。
そして、新たに春姫も混ぜて、俺たちは瑞穂坂学園へのと入った。


「雄真さん、お借りしますねー」


そして、その瞬間俺は小雪さんに拉致された。


「ゆ、雄真君!?」
「神坂さんも後で着替えてついてくるようにお願いします〜」


いち早く俺が拉致された事に気づいた春姫が、俺の事を呼ぶ。
だが、小雪さんは春姫にそう一言だけ伝言を残すと、その速度を上げた。


「……ティア」
「もちろん、すでに対風冷魔法使用済みですよー」


速度が上がると言う事は、それだけ風が冷たく感じられる。
拉致られた瞬間、ティアはどうやら俺の命令より早く魔法を使ってくれていたらしい。


「……タマちゃん、大丈夫か?」


てっきり小雪さんに襟元を掴まれたと思っていたんだが……
俺は今、タマちゃんにくわえられて宙に浮いているらしい。
どうりで、タマちゃんが静かなわけだ。


「ふも、ふもふもふも、ふもっふ」


タマちゃんが何かを言いたそうだが、俺をくわえている為によくわからん。
……とりあえず、このままくわえられているってのもあまりいい気分じゃないな。
そう考えて、ティアをマジックワンドに戻す。


「よっと」
「ぷはぁ、堪忍なぁ、小日向のあんちゃん」
「いやいや、今までご苦労さん」


一応ここまで運んで貰ったと言う事を考えて、お礼を言っておく。


「で、小雪さん。どこまで行けばいいんです?」


そして俺は、小雪さんに目的地を尋ねた。
小雪さんが向かった先は、どうやら秘宝が管理されている林らしい。


「今朝、御薙さんが学園側に今回の事を報告したのですが、どうやら学園側は雄真さんの実力が信じられないようでして〜」


……どうやら、学園にも保守派と言える人材はいたらしい。
その一部の人が、普通科にいる俺が事件の一端を担うというのが不安でしょうがないようだ。
その為に、実力を見せる必要がある、ということだ。


「……人前で、まだ明かしたくはないんだけどなぁ」


それはつまり、教員の前で魔法を使用しなきゃいけないということになる。
それがバレた時に、俺の扱いがどうなるのかが、不安だった。


「鈴莉さんも現場にいられるようですし、大丈夫ですよ。雄真さん」
「……そう、ですね。なるようになりますか」


これからやる事を考える以上、学園にしっかりと支持してもらわなきゃならない。
その為に、俺が魔法使いである事を明かす必要があるっていうのなら、甘んじてそれを受け入れよう。


「それじゃ、待たせるのも悪いですし、急ぎましょうか」


事前に連絡して貰えなかったってのが、少しだけ辛いが、昨日の今日なら仕方がない。
とりあえず、早く目的地に着くことが先決だろうと思い小雪さんに声をかける。


「はいー、それでは……タマちゃん、ゴー!」
「あいあいさー」


すると小雪さんは、下手したら亜音速くらいは出ているんじゃないだろうかと言う速度で、飛んでいった。


「……はっや」
「負けられませんね!!」


呆然と小雪さんが飛んでいくのを見ていたが、なにやらティアが唐突に対抗心を燃やし出した。


「は?」


そして、俺の疑問の言葉を置き去りにし、マジックワンド2体によるデットヒートが始まってしまった。
……対風冷魔法、使っておいて貰ってよかった。
それがなかったら、今頃俺は凍っているだろう。


「雄真君、来たわね?」


余り長い距離ではなかった為に、どうやらデットヒートは引き分けという結論に至ったらしい。
なにやらタマちゃんとティアの今度こそ決着を付けます!なんて声が聞こえたが、俺は黙殺した。
巻き込まれるのは遠慮したい。


「高峰さんもありがとう」
「いえいえ、お気になさらず」


俺たちが辿り着いた場所、そこには数名の魔法科の教師であろう人たちがいた。
こちらに聞こえないように何かを相談しているようにも見えるが……


「それじゃ雄真君、さっそくで悪いんだけど」
「あぁ、別にいいよ。で、俺は何をすればいい?」


どうせ俺が飛んできた事で何かを言っているんだろう。
それより、俺が何をしなければならないかというのが重要だ。


「雄真君!」


俺たちから遅れて、春姫もここに来た。
あぁ、そういえば……小雪さんがついて来て欲しいって伝えてたな。
春姫は、一度寮に戻ったのだろうか、服装が今朝と同じになっていた。


「そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ」


きっと大慌てで来たんだろう、春姫の髪の毛は風の影響でか少しだけ乱れていた。
その髪を、手で申し訳ないが、軽く整えてあげる。
それが恥ずかしいのか、春姫は顔を赤くしながらも俺のしたいようにさせてくれた。


「さて……それじゃ雄真君にやってもらう事なんだけど……」
「春姫が、ここに一緒に来たって事は……春姫と模擬戦でもやれって事かな?」


まぁ、それ以外に春姫を呼ぶ理由なんて思いつかないわけなんだが。
学年1位の春姫を倒せるくらいの実力があるとすれば、教員たちも黙るしかないって事なんだろう。


「えぇ、その通りよ」
「え?」


遅れて来た上に、なにも説明されていない春姫がそう声を上げた。
とりあえず、春姫には簡単に説明をしておく。
すると納得してくれたのか、春姫は模擬戦を受けてくれるらしい。


「朝の続きみたいだね」


母さんがフィールドを張って、その中に春姫と2人で入る。
そして、ソプラノを構えながら、嬉しそうに春姫がそう言った。


「そうだなぁ、まぁやる事は少し変わるけどね」
「でも、やる以上は全力で行くよ?」


そうでなくちゃ、この模擬戦の意味が無くなる。
だからこそ俺もティアを構えると、真剣な顔で春姫に向き直った。


「それでは……始め!」


そして、母さんの合図と共に、俺と春姫は同時に詠唱を始めた。
最初は、真っ向からの力勝負とでも行きますか!!
























      〜 あとがき 〜


さっさと那津音さん救えよ。とか言われそうですね(笑
でもなんていうか、学校側に影響出るかもわからんわけですからねぇ。
必要事項とでも思ってくださいまし。

とりあえず、雄真が魔法使いである事がまず教員にバレます。
まぁ、鈴莉の息子って事は、次あたりで書くかも?

まぁ、とりあえず、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/20
公 開 2008/02/24