そうでなくちゃ、この模擬戦の意味が無くなる。
だからこそ俺もティアを構えると、真剣な顔で春姫に向き直った。


「それでは……始め!」


そして、母さんの合図と共に、俺と春姫は同時に詠唱を始めた。
最初は、真っ向からの力勝負とでも行きますか!!


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「……先手は春姫に出てもらうか?」
「……そうですね、まずはその程度はこなせる所を見せて印象付けてしまうのがいいかと」


マジックワンドを構え、詠唱を同時に始めつつも、俺はティアとそう相談をしていた。
確かに、すでに小雪さんと一緒にここまで飛んで来た事で、インパクトは与えられたと思う。
でも、それだけで俺の実力を看破できる人がいるかはわからない。


「本気で行くよ、雄真君!……ルテ・エル・アダファルス!!」


言うとおり、本当に手加減無しでやるつもりなんだろう。
春姫が注ぎ込める魔力の限界まであるんじゃないだろうかと思える火球が俺に向かって飛んでくる。
それを正面から見つめながら、俺はティアを振ると、自身も魔力を解放した。


「……ディ・ラティル・アムレスト」


火球と防御魔法がぶつかり合う音が、フィールド内に鈍く響き渡っている。
だが、そのままそれを続けるつもりは俺も春姫も、どちらもない。


「ディア・ダ・オル・アムギア!」
「ディ・アストゥム」


詠唱が完成するのは、ほぼ同時だった。
春姫が放った束縛魔法を、ティアに跨り空中へと逃げる事で回避する。


「ディ・アス・ルーエント!」


空中へとただ逃げるだけでなく、浮き上がる瞬間に春姫目掛けて俺も火球を生み出して放つ。
俺を追撃しようとしていた春姫は、やむなく詠唱を中断して、防御魔法を展開した。


「……ふぅ、さすが春姫だな。気が抜けない」
「そうですね、マスターももう少し本気で行かないとこのままでは押されますよ?」


あの短い攻防で、俺が春姫と同等と見られるかもしれない。
しかし、実際は俺の方が押されかけている。


「……でも、素直に負ける気もない。そうだろ?」
「もちろんですよ」


当たり前とも言えるかもしれない。
俺と春姫では、圧倒的に対人の実戦経験に差が出る。
魔法科で、他の人と共に魔法を練磨して来た春姫と、大半が独力の俺。
使う魔法が同じにしても、その魔法式の構成手順の速さで俺の遅れが目立つ。


「どうしたの、雄真君……それで終わりじゃないよね?」


油断なくソプラノを構えた春姫が、そう笑いかけて来た。
どうやら、俺がまだ力を出し切っていない事がわかっているらしい。
そして気づけば、俺は純粋にこの模擬戦を楽しみ始めていた。


「あぁ、もちろんだ」


母さんが張ってくれているフィールドだ。
恐らく、強度もかなりのものになるだろう。
なら……今朝開拓が成功した領域まで、使ってみるか。


「……行くぞ、春姫」
「いつでもいいよ……」


アイドリング状態だった魔力に活を入れて、一気に活性化させる。
それと同時に、今まで使っていた魔力が回復し、さらに身体に魔力が満ちていく。


「エル・アムダルト・リ・エルス……」


その魔力を、ティアを媒介にして注ぎ込んでいく。
その影響なのかはわからないが、ティアの雫型の宝石色が変わり、徐々に蒼く光り始めた。


「ディ・ルテ・エルリシア……」


……宝石を基点に、魔力が高まっていくのが解る。
もっとだ、もっと……さらに強く輝けっ!!


「……カルティエ・フォン―――――」


最初は薄い燐光だった光も、強く眩しいくらい蒼く光り輝いていた。
ティアを握る手に、力を強く込める。
そうでもしないと、自分で溜めた魔力に弾かれそうだった。


「受け切れなかったら、避けてくれよ!春姫!!」


発動させる直前、前にいる春姫に向かって大きく声を張り上げる。
それだけ、俺の魔力を余す事無く注ぎ込んだと実感があるからこその忠告。


「クレイシア!!」


最後の詠唱と共に、出現した火球。
その色は、まるで宝石の色をそのまま持ってきたかのような綺麗な蒼色をしている。
そして、俺はその火球を春姫に向かって解き放つ。


「―――――ディ・アストゥムっ!!」


火というのは、基本的に温度が高くなればなるほど、青白く見えるという。
つまり、俺が放った火球は今までの比じゃないくらい、温度が高まっているということになる。
その青い火球を、防御魔法で耐えることに集中している春姫。


「……ディ・フィルス」


その間に俺は魔法で重力を軽減させ、火球を目くらましに春姫の後ろに回りこんだ。
春姫の後ろに回りこんだ俺は、春姫の手に自分の手を添えながら、ティアに命令を出す。


「ティア、全力で行くぞ!!」


一瞬、驚いたような顔を春姫はしたが、すぐに火球を防ぐ事に意識を集中させた。
自分で撃ったとは言え、それで春姫を傷つける気は、毛頭ない!!


「もちろん!……ルティア・ロル・ラディス!!」
「ディ・ラティル・アムレスト!!」


春姫の防御魔法に俺とティアの、2重の防御魔法を重ねた。
そして火球はさすがにその3重の防御魔法を貫く事ができず、姿を消した。
防御魔法を通して伝わってきた熱が完全に引いたのを確認した後、俺たちは防御魔法を解いた。


「……ふぅ」
「予想以上の威力でしたね」


いつの間にか流れていた汗を手の甲で拭う。
ティアの言うとおり、自分で放ったのが信じられないくらいの威力があった。
それを少しとは言え、1人で抑えていた春姫はすごいな。
しかし、春姫は完全に防御魔法を解除した後その場に座りこんでしまった。


「大丈夫?」


こんな事、朝もやったような気がしつつも、春姫に手を差し出す。
春姫も同じ事を考えていたのか、少しだけはにかむ様に笑いながら、俺の手を取って立ち上がった。
立ち上がってすぐ、春姫は力が入らないのか俺に寄りかかった。


「ご、ごめんね雄真君……力、ちょっと入らなくて」
「いや……考え無しに撃った俺も悪いから」


重くない?と聞かれたのに対し、春姫は軽いから大丈夫だよと言って返す。
この返し方はいけなかったんだろうか、春姫は顔を赤くして俯いてしまった。


「お疲れ様、雄真君、神坂さん」
「こんなもんでいいのかな?」


春姫を支えて様子を見ていると、俺たちを包んでいたフィールドが消えた。
労いの言葉をかけながら近寄って来る母さんに振り向きながらそう聞いてみる。
すると、母さんは笑いながらも頷いて答えてくれた。


「えぇ、十分よ」


さりげなく母さんが指差した方向を見れば、唖然とした顔で立ち尽くしている教員がいる。
面白そうにしている母さんの反応を見る限り、結構序盤からこんな感じだったんだろうか……?
途中から、模擬戦に夢中になっててあんまり意識にいれてなかったからなぁ。


「ふふふ、大変良い物を見せていただきました」
「それじゃ兄さん、また後でなー」


音もなく後ろから、タマちゃんに乗った小雪さんがそう言って来た。
振り向いた時にはすでに、小雪さんは高く浮き上がって学園の方に飛んでいってしまった。
……そういえば今、ティアの感知にも引っかかってなかったよな?


「雄真君」
「あ、何?」


この先も小雪さんに同じ近づかれ方をするなら、感知の仕方を新しく考えなきゃなぁ……
そんな事を思っていたが、母さんに呼ばれた事でそっちの方に視線を戻す。


「後は私の方でやっておくから、神坂さんと一緒に私の研究室に行ってくれないかしら?」


そう言いながら、母さんは研究室の鍵と何かが書かれたタグを俺に渡してくれた。


「研究室に?……わかった、先に行ってるよ」


さっと目を通しただけだが、どうやらそれは鍵と一緒にかけてある魔法の解除の呪文らしい。
……これを貰わずに部屋に入ろうとしたら、どんなトラップが待っていたのやら。


「それじゃ、行こうか春姫」
「うん」


隣にいる春姫に声をかけて、いざ歩こうとしてみる。
だが、春姫は未だ力が入らないのか、少しふらふらしていた。


「……ホントに大丈夫?」
「大丈夫だよ」


そう笑ってくれるが、よく見ると膝がまだ少し笑っている。
……ソプラノに運んでもらえるならいいんだけど。
割と頑固な春姫が自分からソプラノに、素直に乗ってくれるとは思えなかった。


「先に謝っておくよ。ごめん、春姫」


恐らく母さんの事だ。
教員たちが呆然としている間に、今日の夜に関しての許可を取り付けるつもりなんだろう。
さすがにどんな手段を使うかまではわからないけどな。


「え?……きゃっ!」


だけど、俺たちに先に研究室に行ったのはそういう理由もあるはずだ。
だから俺は、春姫の背中と膝の裏に手を回してお姫様だっこをした。


「ティア、行くぞ」


今の俺の顔は、恐らく真っ赤だろう。
そんな状態になるならやらなきゃいいって思われそうだけどな……


「了解です」
「……ディ・アムフェイ」


母さんは、ほぼ確実に笑いながら俺と春姫の事を見ているだろう。
そう予測がつくからこそ、母さんの方は一切見ないで、俺は母さんの研究室に向かってゆっくりと飛び上がった。
……腕の中にいる春姫の顔も、俺に負けないくらい赤くなっていた。




























「……貴様らは、毎回毎回そのような場面をわざわざ私たちに見せているのか?」


そして、研究室の中に入った俺たちにかけられた言葉がソレだった。


「……伊吹達……なんでいるんだ?」


呆れたような顔を隠そうともせず、俺たちを見ている伊吹。
顔を赤くしながらも、極力こちらを見ないように気を使ってくれている上条さん。
相変わらず、何を考えているかがよく分からない信哉。
学園の方に戻ったかのように見えた小雪さん。
今日の夜の那津音さん救出のための関係者が、勢ぞろいしていた。


「何故も何も、御薙鈴莉に呼ばれたのでな、来てやっただけのこと」


どうやら、思いつきでやってしまった事を後悔しなきゃいけないらしい。
よりにもよって、こんなところを見られるとは思わなかったよ。
……もしかして、母さん、コレを予想していた?


「……それで、伊吹たちはなんて言われて集まったんだ?」


もう大丈夫だと言う春姫を下ろしながら、平静を装って聞く。
すると伊吹は少しだけジト目になったかと思うと、呆れたようにため息をついた。


「話を逸らしたか……決まっている、那津音姉さまの事でだ」
「そうか」


打ち合わせでもやるものだと、てっきり俺は思っていたわけなんだが……
まさかな……あんな事になるなんて思ってもいなかったさ。
その時だけ俺は確実に、神様という存在を呪っていた。
























      〜 あとがき 〜


みんな気づいていない所で、伏線を1つ張ってみる。
さぁ、これに気づける人はいるんだろうか?
気づいた人がいたら、その人はすごいと思います、純粋に。

まぁ、これの次で分かる事なんですけどね。
気づいた人は個人的に賞賛します。
ははは、何人気づけるのやら。

とりあえず、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/23
公 開 2008/02/25