どうやら、思いつきでやってしまった事を後悔しなきゃいけないらしい。
よりにもよって、こんなところを見られるとは思わなかったよ。
……もしかして、母さん、コレを予想していた?


「……それで、伊吹たちはなんて言われて集まったんだ?」
「話を逸らしたか……決まっている、那津音姉さまの事でだ」
「……そうか」


打ち合わせでもやるものだと、てっきり俺は思っていたわけなんだが……
まさかな……あんな事になるなんて思ってもいなかったさ。
その時だけ確実に、俺は神様を呪っていた。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「みんな、集まってるわね?」


暫く雑談して過ごしていたが、母さんがようやく研究室に顔を出した。
……でも、なんで結構大きいトランクを持ってるんだろうか?


「今日は何の用だ、御薙鈴莉」


みんなの意見を代弁するかのように、伊吹が母さんに告げる。
すると母さんは何故か悪寒を感じさせるような笑顔を見せるだけで明確には答えなかった。


「……ねぇ、春姫」
「うん、なぁに、雄真君?」
「今すごい悪寒が走ったんだけど、気のせいかな?」


同じ笑顔を見ていた春姫に、俺の悪寒が気のせいであると思いたくて問いかけてみる。
だが、春姫は何も感じなかったらしく、どんどんこの悪寒が確信へと変わっていた。


「まずは今日の夜実行に移すわけなんだけど……雄真君?」
「な、何かな?」


母さんは特に何を言うわけでもなく、トランクを俺へと差し出してきた。
……開けろって事か?


「式守さんたちはちゃんと持っているみたいだけど、雄真君は魔法服なんて持ってないでしょう?」
「あぁ……うん、そういえばそうだね」


言われて考えてみれば、俺は今まで魔法服っていうものを所持したことがない。
練習も普通に私服でやっていたし、学校で魔法服を着るなんて事はなかったしなぁ。


「式守の秘宝は強力よ……その魔力の余波の影響を受けないためにも、魔法服は必要なの」


確かに、私服のままで行ってしまえば、予期せぬ出来事が発生する可能性もあるか……
だが、それで納得はできるんだけど……


「なんでみんなまでいる必要が……?」


魔法服を渡すだけなら、俺1人がいれば十分だと思う。
なのに何故わざわざ全員を呼び出したんだろう……他に、呼んだ理由があるのか?


「雄真君の始めての魔法服をお披露目しようと思っただけよ?」


母さんの口から出た言葉は、俺たち数人を固めるのには勿体無いほどの威力だった。
……本当に、これだけのために関係者全員を集めたのか?


「……本当に?」
「嘘言ってもしょうがないでしょ。ほら、雄真君あっちの部屋で着替えて見せて」


半ば押しやられるかのように部屋の移動を強制された俺。
その時向けられた、伊吹や信哉、上条さんの目が優しくて泣きたくなった。


「まぁ、着替えるしかないかと思いますが」
「……そうだな、着替えるか」


恐らく、着替えるまで俺は母さんに解放されないだろう。
そんな事で無駄に時間を使うより、早く着替えて母さんを満足させてしまえばいいだろう。
とりあえず、扉の向こうから聞こえる数名の妙にハイテンションな声は聞こえないことにする。


「……良かった、服はまともだ」


トランクを開けてみると、意外としっかりとした服が入っていた。
……タキシードとかで用意されてるんじゃないかって不安になっていたのは内緒だ。


「うわ、一式用意されてる」


取り出してみると、上は上着から下は靴まで、防御の魔法式が組み込まれた服が出てきた。
……これ、全部着ないとダメなんだよな。


「黒いタートルネックに黒のジャケット、黒いスラックスに黒い靴。見事に黒尽くしですねー」
「……コレって、母さんたちの趣味?」


なぜか、この服を選んでいる鈴莉母さんと音羽かーさんの映像が浮かんできたのは。
2人でわいわいと服を選び、選び終わった後母さんが魔法式を入れているような絵が。
一応魔法服とは言え、これなら外で普通に着ても問題なさそうだな。


「……深くは考えないようにしよう」


とりあえず制服を脱いで、用意されていた服を着ていく。
いつの間に調べたんだろうか、見事に俺のサイズにぴったりだった。
そして、全てを取り出したトランクの底には、シルバーアクセサリのネックレスが入っていた。


「……ティア、解析できるか?」
「ディ・シルフィス」


全てを手に乗せて、ティアに解析を頼む。
そして解析結果が頭の中にどんどん流れてきた。


「……流動と制御の応用、か?」


夜につけることになるあの指輪と同じような効果が、シルバーアクセサリには記述されていた。
……そんなにあれを見せてもらってから時間は経ってないよな?


「そうですね、マスターの魔力の循環効率が上がりそうですが」
「まぁ……悪い事じゃないからつけるか」


十字架と、その中心に青い宝石がついたネックレスをつけて見る。
十字架についている青い宝石がつけたと同時に、薄く柔らかい光りを放った。


「……さすが鈴莉様ですね、つけただけで循環効率が20%程上昇しました」


常に俺の体内の魔力を調べてくれているティアがそう言った。
20%って……かなり効率上がってるな。


「これで、着替え終わったな」


部屋にあった鏡を見て、服装におかしいところが無いか確認してみる。
よし、ちゃんと全部着てるな。


「母さん、着替えたよ」


脱いだ制服はとりあえずたたんでトランクにしまっておいた。
脱ぎ散らかすのは、小日向家では厳しい罰則が待っているからな……
すももコロッケ禁止とか、晩御飯抜きとか……


「あら、さすが私や音羽が見立てただけはあるわね」
「……やっぱり母さんたちか」


出てきた俺を軽く見た後、母さんは笑顔でそう言った。
その時にあっさりと母さん2人がこの服を選んだ事を暴露してくれた。


「動きにくかったりはしない?」
「うん、丁度いいサイズだし大丈夫かな」


腕を回したり、軽く飛び跳ねたりして見せながら違和感が無い事を伝える。
……そういえば、春姫たちが妙に静かな気がする。


「……春姫?」
「…………」


さっきまで声が聞こえていたから、恐らくみんなで話をしていたんだろう。
そのはずなのに、春姫は顔を赤くして、ボーっとして視線が定まっていなかった。


「……おーい、春姫?」
「え、あ、雄真君!?」


目の前に行って、手を軽く振ってやると、ようやく気づいたのか慌てたように後ろに下がった。


「ふふふ、神坂さんは照れてますね」
「……そうなんですか?」
「えぇ、そうですよ。雄真さん、お似合いですね」
「ありがとうございます」


何故か小雪さんも頬が少し赤いが、春姫を見ながらそう言って来た。
小雪さんの一言で、さらに顔を赤くする春姫。


「ふむ、馬子にも衣装というやつか」
「……伊吹、それは褒めているのかけなしているのかどっちだ」


似合っている、と言ってくれた信哉と上条さんに笑顔でありがとうと答えながら、俺はどっちかわからない曖昧な事を言った伊吹の方に向く。


「ふふ、さぁな」


だが、伊吹は軽く笑うだけで、結局答えてはくれなかった。
うーん、他の人は似合うって言ってくれてるが、似合ってないんだろうか?


「貴方達は今日は授業には出なくてもいい事にしてきたから、19時にまたここに来て頂戴」


伊吹の真意を測ろうと、首をひねっている俺やみんなに向かって母さんはそう告げた。
今日はもう今のうちから準備を始めるつもりらしい。


「それでは、私は占い研究部の方で少しやる事がありますので〜」


タマちゃんに乗った小雪さんが、窓を開けながらそう言って去っていった。
俺は時間までどうしようかなぁ……


「私も失礼する。那津音姉さまのところに顔を出しておきたいのでな」
「私たちも、失礼します」
「では、また後でな」


伊吹や信哉、上条さんは那津音さんのお見舞いに行くつもりらしい。
3人で連れ立って母さんの研究室から出て行った。


「春姫はどうするんだ?」


俺も那津音さんのお見舞いに行ければいいんだけど、魔力をもって行かれる危険がある。
その為に特にやる事がなくて、とりあえず春姫に問いかけてみた。


「えっと……一応、先生に練習場を開けて貰えるから、夜まで魔法の練習をしておこうかなって」


どうやら、教員の前でやった模擬戦で俺にあっさり負けたのが悔しかったらしい。
足手まといにならないために、少しでも自分の力を高めておくと言う事だ。


「それじゃ、お邪魔じゃなかったら一緒にやってもいいかな?」


1人で教室に戻ってもいいかもしれない。
だが、それだと柊あたりが余計な詮索をしてくるような気がした。
準やハチとバカをやれないのは少し悲しいが、今日1日我慢すればいいだろう。


「うん、もちろんだよ!」


俺の申し出を、春姫は嬉しそうに承諾してくれた。
春姫の魔法式の組み立て方は、見ているだけでも十分勉強になるからな。


「それじゃ、母さん。また後で」
「先生、失礼します」
「鈴莉様、また後で伺います」


母さんに一声かけると、いってらっしゃいと言って送り出してくれた。
そして、貰ったばかりの魔法服のまま、俺と春姫は練習場に向かう事にした。


「えっと、それじゃあ今朝と同じやり方でいい?」
「うん、俺は何でもいいよ」


練習場について、何をしようかと考えていた。
だが、春姫が今朝と同じで良いんじゃないかと言ってきたので、俺もそれでいいと頷いて返す。
そして、再び2人で魔法を作り出すと、お互いの改良点を探しながら、俺たちは魔法の練習を続けた。


「雄真君、ここはこうした方が―――――」
「うん、そうだね。でも、春姫はこうした方が―――――」


いつの間にか伊吹たちも参戦して、気づけば全員で全員の魔法の改良点を調べることになっていた。


「神坂春姫よ、そこで魔力を流さず発動の寸前まで溜めよ、その方が威力も上がる」


さすがに式守次期当主というだけあって、伊吹の指摘することには納得させられる事がある。
言われた通りにやってみた春姫の火球の威力が、それが事実だという事を物語っていた。


「上条さんの防御魔法、俺の方で応用できないかなぁ……」


その火球を打ち消している上条さんの魔法を見て、俺はそんな事を考えていた。
『幻想詩』……か、魔法自体は真似できないけど、応用くらいは見つけられるかな。


「今日の出来事が終われば、試してみますか?」
「そうだな……とりあえず信哉のあの魔法の改良も含めていろいろやってみようか」


那津音さんを救い出せば、伊吹たちも瑞穂坂学園で普通に暮らせるかもしれない。
そうなるようにするんだ、と考えながら、俺も再び練習に戻る事にした。
























      〜 あとがき 〜


さてさて、考えている事のためにも、次のお話に着々と取り掛からねば。
チャプター1が終わったら、当然次はチャプター2なわけですからw
まぁ、1ほど硬いお話っていうのはそうそう……ない、かも?

まぁ、書いて見なきゃわからんのは相変わらずなんですけどねw
さーて、張り切っていこうかー!

まぁ、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/23
公 開 2008/02/26