その火球を打ち消している上条さんの魔法を見て、俺はそんな事を考えていた。
『幻想詩』……か、魔法自体は真似できないけど、応用くらいは見つけられるかな。


「今日の出来事が終われば、試してみますか?」
「そうだな……とりあえず信哉のあの魔法の改良も含めていろいろやってみようか」


那津音さんを救い出せば、伊吹たちも瑞穂坂学園で普通に暮らせるかもしれない。
そうなるようにするんだ、と考えながら、俺も再び練習に戻る事にした。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















気づけば熱中していた魔法の練習。
それの終わりを告げたのは、練習場に顔を出した母さんの一言だった。


「あら、みんな揃ってたのね……準備はいいかしら?」
「あぁ、いつでも」


休みを入れながら練習をしていたから、疲れと言うものはほとんどない。
むしろ、得る物の方が大きかった。


「それじゃあ……行きましょう」


そして、母さんの先導の下に、俺たちは移動を開始した。
……いよいよ、那津音さんを救うんだ。
しかし、みんなが母さんに歩いてついて行く中、俺だけが進めなかった。


「……足、が」


意思に反して、身体がまったく言う事を聞かない。
足を踏み出そうとしても、俺の足はまったく反応すら示してくれなかった。


「……マスター」


ティアが、不安そうに声をかけてくる。
俺の心情を察してくれているティアだ、恐らく今の俺の状態もわかっているんだろう。


「…………」


みんな、そんな俺の様子に気づかないように練習場の扉の向こうへと姿を消していった。
そして、俺1人だけが、歩き出す事もできずに立ち止まったままだった。


「情けないよな……伊吹たちにはこの件を預かるとか言っといてさ……」


みんなに気づかれる前に、俺も合流しなきゃいけない。
不安って言うものは、周りに広がっていくものだ。
俺のせいで、他のみんなを不安にさせるわけにはいかない。


「……マスター」


無理矢理動こうとしてみても、変わらず動き出さない俺の身体。
不安に潰れそうになる心を、目を瞑り、歯を食いしばって耐える。
……こんな事で、負けてたまるか。


「くそっ……動け……動いて、くれ……」


伊吹に誓った、母さんや護国さんと約束した。
必ず那津音さんを救うって……絶対、みんなを救うって……
だから……動けよ、俺の身体!!


「雄真君」


不安に耐える俺の耳に、優しく響く声が聞こえた。


「……春姫?」


声と共に、握り締めていた手に感じる、優しい温もり。
目を開けて見れば、みんなと一緒に行っていたはずの春姫が、そこにはいた。


「なんで、ここに……?」


掠れた様な声が、俺の喉からは出てきた。
心配そうに俺の事を覗き込んでくる春姫に、自嘲を込めた言葉を零す。


「……やっぱり、覚悟はあるけど怖いな」


俺には、成功させるという強い意思も、覚悟もある。
だけど、やっぱりもし失敗したらっていう恐怖感が芽生えてくる。
……考えないようにしようとしても、やっぱりダメなもんだな。


「身体がさ……動かないんだ……」


『もしも』っていう仮定の話が、頭にこびりついて離れない。
その『もしも』が怖くて、俺の身体は動く事すら出来なくなっていた。


「……大丈夫だよ、雄真君」
「…………」


そんな俺に、優しく言い聞かせるかのようにゆっくりと語る春姫。


「雄真君1人でやるわけじゃない」


目を閉じ、思い返すかのように紡がれていく言葉。


「先生や式守さん、高峰先輩、信哉君に上条さんもいる」


言われて、次々にその人たちの顔が浮かんでくる。
俺を信じてくれて、この件を任せてくれたみんな……
その想いを、俺は……裏切りかけていたのか……


「それに……力になれないかもしれないけど私もいるよ」


力になれないなんて、そんな事はない。
春姫がいたから、俺はいつだって頑張っていられる。


「雄真君が頑張ろうとしてるの、みんな解ってるよ」


春姫に言われただけで、芽が出ていた不安感が、小さくなっていくように感じる。
……俺も、結構単純みたいだなぁ。


「……春姫」


気づけば、緊張に震えていた手が治まっていた。
握り締めていた手も、ゆっくりと春姫によって解かれていく。


「だから、雄真君は大丈夫。だって、雄真君はみんなを幸せにする魔法使いになるんでしょ?」


そして、全て解かれた俺の手を、春姫の手が優しく包んだ。
……優しくて、暖かい。


「……あぁ、そうだな」


出来もしないと決め付けて、怯えているだけなら誰にだって出来る。
俺の目標は遥か遠い……でも、届かないと思い、諦めたことはない。
だから今回も、諦めたりくじけたりする必要なんか、どこにもないんだよな。


「ありがとう、春姫」


いつでも、春姫にはきっかけを貰ってばかりだな。
いつまでもこんな事じゃ、目標に届くようになるのはいつになるやら。


「……行こうか」
「うん!」


今までまったく動く気配を見せなかった足が軽い。
不安は今でも心の中にある。
でも、俺はもうそんなものに屈したりはしない。
隣には、俺を信じてくれる大切な存在がいるんだから。


「……助かりました、春姫」


微かにティアが、そんな事を言った。
だけど、俺はあえて聞こえないフリをしておいた。
春姫にしっかりと届き、笑顔を浮かべてくれているだけで、十分だ。


「遅かったな」


練習場の扉をくぐってすぐに、声をかけられた。
その声に驚いて顔を向けて見れば、先に行ったはずのみんなが待っていた。
そして、伊吹が腕を組みながら、何故か俺の前に仁王立ちしていた。


「……なんで?」


呆然としながらも、かろうじて聞く事はできた。
俺の台詞を聞いた伊吹は、鼻で軽く笑った後。


「恐怖に打ち震えている姿など、神坂春姫以外、他の誰にも見られたくなかろう?」


そう言って来た。
……なんだ、みんなにはとっくにバレてたのか。


「……心配かけたけど、もう大丈夫だ」


春姫の言ったとおり、俺にはみんながついている。
なら俺はいつも通り、みんなのために力を出し切ればいいんだ。


「雄真君、大丈夫?」


母さんが最終確認のように聞いてきた。
それに力強く頷くと、母さんはようやく安心したかのように笑顔を見せてくれた。


「今度こそ、行きましょう」


俺たちは、今度こそ式守の秘宝へと向けて、移動を始めた。
もう、俺の足が重くなることは無かった。
































「……ここよ」


母さんに案内され、辿り着いた先には祠のような場所があった。
……今まで、こんなのがあるなんて気づかなかったな。
やっぱり範囲を限定されると察知できないんだな。


「この中の魔方陣で、式守の秘宝が眠っている空間まで飛びます」


言ったとおり、祠の奥には魔方陣があった。
そして母さんが魔法書のようなものを取り出すと、一気に魔方陣に光が満ちた。


「アス・リリ・ラティア」


短い呪文の後、俺たちは祠から、巨大な水晶が存在する空間へと移動した。
……これが式守の秘宝、なのか?


「…………」


母さんと伊吹、信哉と上条さんの4人は、この秘宝に思う事があるんだろう。
複雑そうな顔をしながらも、式守の秘宝を見つめていた。


「雄真君と式守さんは、あの指輪をしてちょうだい」


少しの間、沈黙の時間が流れたが、母さんの一言で時が動き出した。
俺と伊吹は、母さんから預かっていた指輪をそれぞれつける。


「高峰さんは那津音の龍笛を持っていて」
「わかりました」


伊吹から龍笛を預かり、大事そうに持って少し離れた場所で待つ小雪さん。
小雪さんと龍笛を守るために、その傍で待機する上条さん。


「上条君は式守さんの援護を」
「御意」


言われるまでも無いというかのように、伊吹の少し後ろに控える信哉。
そして、秘宝を睨みつけている伊吹。


「神坂さんは、雄真君の傍にいてあげて」
「はい、わかりました」


母さんに言われ、春姫が少しだけ不安になったのか、俺の服の裾を掴んで来た。
その手を裾から離し、しっかりと握り締めると俺は笑顔を見せた。


「大丈夫、春姫にもみんなが……頼りないかもしれないけど、俺が、ついてるから」


絶対に、誰も失わないし傷つけさせない。
それが俺の誓い。
みんなを幸せにする魔法使いになる事を目指している……俺の。


「みんな、準備はいいわね……? 始まったら、後はもう止まる事なんてできないわよ」


俺たちみんなの意見を代弁するかのように、伊吹が高らかに告げた。


「止まる必要などない、那津音姉さまを救うんだ!」


さぁ、始めよう。
幕が開いたこの舞台を、大団円(ハッピーエンド)にするために。
























      〜 あとがき 〜


と、いうわけで本格的に始まりました。
こっからは那津音さん救出までラストスパート状態で爆走ですよ。
雄真たちは無事に那津音さんの魔力を取り戻す事ができるのか!

さぁ、気張っていこうか!!
最大の見せ場だぜぃ!!

と、まぁ、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/24
公 開 2008/02/27