「みんな、準備はいいわね……?始まったら、後はもう止まる事なんてできないわよ」


俺たちみんなの意見を代弁するかのように、伊吹が高らかに告げた。


「止まる必要などない、那津音姉さまを救うんだ!」


さぁ、始めよう。
幕が開いたこの舞台を、大団円(ハッピーエンド)にするために。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「最後に順序を再確認をするわ」


まず伊吹が秘宝を起動、その時に俺は魔力を伊吹に対して供給し続ける。
信哉はその伊吹をいつでも守れるように待機し、春姫は俺の様子をしっかりと見る。
そして魔力を取り戻した時、小雪さんが持つ龍笛へ魔力を移す。


「もし魔力が暴れ出しそうになったら、上条さんが魔法でそれを縛ってもらう」
「わかりました」


魔力を移し終えたら、秘宝を鎮め二度と発動される事がないように封印する。
これが、俺たちが考えた一連の流れだ。


「もし不慮の出来事が起こった場合、気づいた人がすぐに声を出して指示する事……いいわね?」


この場に年齢や実力はその垣根を無くす。
誰よりも早く反応できた人が、追いつかない人に手を差し伸べる。
そうする事で、どんな事態にも迅速に対応できるようにする手筈だ。


「……式守さん、始めて」


みんながそれぞれの立ち位置についたのを確認した後、母さんは告げた。
一気にその場の緊張感が高まるのが肌で感じられる。
自然と俺の手は、ティアをマジックワンド状態にして、握り締めていた。


「ヴァナ・ダグェル・ヴィナ……」


伊吹の呪文と共に、燐光を発し始める式守の秘宝。
その燐光にあわせるかのようにこの空間の中に魔力が満ちてきた。


「アグドゥル・ゼオス」


伊吹が詠唱していく事に俺から魔力が抜けていく。
それだけ魔力を注ぎ込まなきゃ、発動も制御も出来ないって事か……
そんなふらつきそうになる身体を、春姫が支えてくれた。


「レイム・ボゥ・ド・セル!」


そして、呪文の完成と共に、眠っていた式守の秘宝が発動した。
今のところ、問題はなく制御できているみたいだな。
伊吹へと向ける魔力を調べながら、俺は伊吹から目を逸らさないようにしていた。


「那津音姉さまの魔力よ、集え!」


至る所から湧き上がる靄は全て、純粋な魔力の塊。
これだけの魔力を、式守の秘宝を使って制御していたのか……
魔力の塊は、伊吹の制御の下、徐々に那津音さんの形を作り始めていた。


「くっ……」
「雄真君!」


ふらつきそうになって、春姫に支えられる。
制御に膨大な魔力が必要だと言っていた母さんの言葉を、俺は今実感していた。
……確かに、伊吹1人でこんな事をやろうとしていたら、那津音さん所の話じゃ済まないな。


「集え、形を成せ!」


俺は魔力をフルに活性化させて、伊吹への供給を怠らないようにした。
伊吹も一生懸命制御しているんだ。
俺だけが弱音を吐いている暇なんか無い!


「今よ、高峰さん」
「はい」


完全に那津音さんの形を取った魔力を確認した後、母さんは小雪さんが持つ龍笛の出番を告げた。
持ったまま近づいてくる小雪さんを見て、伊吹がビサイムを構えなおす。


「集いし魔力よ、龍笛に宿れ!!」


伊吹が振るうビサイムにあわせて、那津音さんの龍笛へと魔力が流れ込んでいく。


「幻想詩・第六楽章・調律の雨」


途中で違うところに飛びそうになった魔力を、上条さんの魔法で強引に導いていく。
だが、暴れている魔力が強いのか、抑えている上条さんの顔は苦しげだった。


「タマちゃん!」
「はいなー!」
「ミザ・ノ・クェロ・ルファ・アガルシア!」


上条さんをサポートするかのように、小雪さんの魔法が追加された。
すると、暴れていた魔力はどんどん龍笛に吸い込まれていく。
……あと少しか。


「もう一頑張りだな……ティア!」
「お任せください!ディ・ナグラ・フォルティス!」


普段は魔法を強化するために使っている魔法で、体内にある自分自身の魔力を強化する。
そうする事で、減っていく魔力の自己回復能力を無理矢理高められるはずだ。
後の反動なんて今は気にするつもりはない、今は今できる最善の事をしていくまでだ。


「全て移し終えました!」


魔力が移し終わったのを見届けた小雪さんが、そう言って龍笛を再び袋にしまった。
小雪さんも上条さんも、少しだが息が上がっている。
それだけ、那津音さんの魔力は大きかったって事なんだろう。


「高峰さんと上条さん、先に地上に戻って祠で待機してて」


龍笛がしまわれたのを確認した母さんは、小雪さんと上条さんに先に撤退するように言った。
それを聞いて、少しだけ悩むような動作を2人は見せた。
だが、使える魔力が少なくなったのが解っているんだろう、後はお願いしますと言って去っていった。


「次は、秘宝を鎮めます」


母さんは、矢継ぎ早に伊吹に次にやるべき事を示す。
伊吹は頷いた後、精神を集中するように目を閉じて、自分と俺の魔力を集め、両方を高め始めた。
それに比例して、さらに大量に持っていかれる俺の魔力。


「……ミディア・リ・アムスレイン」


眩暈すら起きそうな状況を耐えている俺に、春姫の優しい魔法が届いた。
これは……前に使ってもらった回復魔法?


「少しでも、力になりたいから」


魔法を維持して、俺へ回復魔法を使い続けながら、春姫は微笑んでくれた。
……少しなんてとんでもない。
この魔法も、春姫の存在自体も、俺にとっては何よりの力になる。


「もう一息だよ、頑張って!」
「あぁ、任せてくれ」


気合を入れなおし、自分の魔力をさらに高めていく。
まだ眠っている潜在魔力があるんなら、それも全部目覚めさせてやる。
だから、いくらでも持っていけ、伊吹。


「ア・グナ・ギザ・ラ・デライド……」


十分に魔力が高まったんだろう、伊吹は再び詠唱を始めた。
そして……その違和感に最初に気づいたのは、信哉だった。


「伊吹様!!」
「―――――っ!!」


空間に響き渡る、悲痛な叫び。
それに驚く間もなく、伊吹へと視線を走らせる。


「あ……あ……ああぁぁぁ!!」


伊吹は、身を掻き抱くように抱きしめ、唐突に叫び出した。
その直後に前触れも何もなく、唐突に途切れる伊吹への魔法の供給。


「なっ!母さん、伊吹への魔力が途切れた!!」
「なんですって!?」


母さんへの報告も短く、俺は魔力の流れを見る事に集中する。
すると、未だ姿かたちこそ見えないものの、伊吹を掴む手のような魔力を見た。


「伊吹さんを秘宝の魔力が拘束しています!そのせいでマスターの魔力が正常に流れていかない!!」


ティアが叫び終わるのと同時に、その存在は顕現した。
青く光る身体を持った巨人。
その姿はまるで……鬼神……


「秘宝が、暴走しているわ!?」


母さんの叫びが、俺たちの耳へと届いた。
アレが、秘宝の力なのか……!
那津音さんの魔力を奪い、みんなを悲しみへと落とした、元凶(モノ)


「はあああ! 風神の太刀!!」


いち早く顕現した使鬼に向かって、信哉が駆け出していた。
だが、魔法を打ち消すその攻撃も、鬼神の身体を通過するだけで、効果が見られない。
信哉の魔法が、効かないのか!?


「くっ、まだまだぁ!!」


だが、信哉は攻撃を止める事なく、鬼神に捕らわれた伊吹を救うために動き続けていた。
俺たちも、ボーっと見ている場合じゃない!


「エル・リアラ・アス・アダファルス!!」
「ディ・アス・リリ・ルーエント!!」


信哉の攻撃に続くように、俺と母さんが同時に魔法を放つ。
その魔法は、それぞれが円盤のように飛んでいき、鬼神の手を断ち切った。
まさか、俺や母さんレベルの魔力量じゃなきゃ、鬼神にダメージを与えられないのか!?


「伊吹様!!」


切り落とされた鬼神の手から零れ落ちる伊吹を、地面に衝突する前に信哉が抱きかかえる。
眼前の鬼神から距離を取るために、一気に俺たちの方へ飛び退いた。


「伊吹様! 目をお開けください、伊吹様!!」


だが、呼びかけても伊吹はなんの反応を示さず、眠っているかのように目を閉じたまま……
呼びかけても……反応が、ないのか……?


「ティア、どうなってる!」


何かがおかしい。
そう思った俺は瞬時にティアに伊吹の魔力を調べるように言う。
俺の台詞を聞いて、すぐに調査を始めたティアから、予想外の言葉が出てきた。


「鬼神の体内に伊吹さんの魔力を感知しました!那津音様の魔力を奪った穴を、強引に伊吹さんで埋めようとしています!!」
「なんだと!」


魔力を奪われた秘宝が、無くなった分を魔力を取り戻そうと発動者である伊吹を狙ったのか!?
くそ……まさかよりにもよってこんな事態になるなんて!


「早く鬼神から魔力を取り戻さないと、伊吹さんも那津音様のように!」


こっちに向かって来ようとする鬼神を、母さんと春姫が魔法で食い止めている。
そこまで効いているようには見えないが、足止めにはなっているようだ。
だが、周囲の変化は、俺たちにもわかる最悪のケースで現れた。


「そんな……複数の使鬼の出現を確認しました!このままでは囲まれます!!」


まるで水晶から這い出てくるかのように、大きさこそ小さいが次々と使鬼が現れて来た。
まだ数は少ないが……防衛してるのが母さんと春姫だけじゃ、すぐに囲まれる。


「……信哉、伊吹の事……頼んだぞ」


恐らく後から出てきた使鬼なら、信哉も近寄らせないくらいは出来るだろう。
鬼神に比べて、その存在を構築している魔力が弱いように感じられた。
それに、今戦力を完全に分散されている状態じゃ、俺たちが飲まれる方が早いだろう。
だったら……一気に片をつけるまでだ!


「雄真殿、何をする気だ」


魔力を持っていかれていた俺が、どの程度戦えるかはわからない……
だけど、誰も失わないと、傷つけないと誓っていたんだ……
母さんを、伊吹を、護国さんや信哉、上条さんに誰も失わずに那津音さんを取り戻すって……
その誓いを、こんな鬼神(バケモノ)なんかに、壊されてたまるか!


「……奪ったもの(伊吹の魔力)……返してもらうぞ」


ゆっくりとティアを構え、俺は目の前の鬼神に向けて静かな怒りと共に告げた。
……鬼神(おまえ)は、俺が打ち砕く!
























      〜 あとがき 〜


と、いうわけで本格的に始まりました。
こっからは那津音さん救出までラストスパート状態で爆走ですよ。
雄真は無事に誓いを果たす事ができるのか!

さぁ、気張っていこうか!!
最大の見せ場だぜぃ!!

と、まぁ、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/24
公 開 2008/02/28