魔力を持っていかれていた俺が、どの程度戦えるかはわからない……
だけど、誰も失わないと、傷つけないと誓っていたんだ……
母さんを、伊吹を、護国さんや信哉、上条さんに誰も失わずに那津音さんを取り戻すって……
その誓いを、こんな鬼神(バケモノ)なんかに、壊されてたまるか!


「……奪ったもの(伊吹の魔力)……返してもらうぞ」


ゆっくりとティアを構え、俺は目の前の鬼神に向けて静かな怒りと共に告げた。
……鬼神(おまえ)は、俺が打ち砕く!


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















怒りに身を任せてしまえば、俺は一瞬で鬼神にやられるだろう。
だから、俺は冷静に怒らなきゃならない。
冷静さを失った時に待っているのは、最悪の結果だけなんだから。


「母さん、春姫……伊吹と信哉に近づく使鬼を止めてくれ」
「私からもお願いします。どうか、マスターの言うとおりに」


鬼神や、未だ水晶から出てくる使鬼を魔法を使って牽制してくれている2人に頼む。


「……雄真君は?」


俺1人があの鬼神の相手をする事を理解した春姫が、そう声を上げた。
だが、俺は鬼神から外す事なく、母さんと春姫に、もう一度だけ告げた。


「頼む……もうこれ以上、誰も俺は傷つけたくないんだ……」


自分自身の魔力を最大まで回し、ティアにも魔力を注ぎ込みながら告げる。
俺の手は、血が出るほどに握り締められていた。


「……無理しちゃダメよ、雄真君」


納得はしていないんだろうが、俺が何を言っても引かないと解ってくれたらしい。
伊吹たちに寄っている使鬼を魔法で消し去りながら、母さんは伊吹の方へ行ってくれた。
だが、春姫だけは、俺の隣から動こうとしない。


「……雄真君、私も戦う」
「いくら春姫でも、コレだけはダメだ」


さすがに、目の前の存在を相手にして俺がどの程度戦えるかなんてわからない。
だけど、妹のような存在の伊吹を危機に追いやった鬼神(こいつ)を、俺は許せない。


「雄真君が言っても、私は引かないよ」


春姫がそう言うと同時に、鬼神の手がこっちに向かって伸びてきた。


「ディ・ラティル・アムレスト!!」
「―――――■■■■■■!!」


防御魔法を瞬時に構築して、その手を阻む。
……伊吹の次は、俺たちの魔力を奪うつもりか。
いったい、何人の人を苦しませ、悲しませるつもりなんだ。


「私たちが、次は狙われてるみたいだね」


このまま春姫を伊吹たちの方へ向かわせたら、使鬼たちは孤立した春姫を狙うだろう。
そんな危ない目に春姫をあわせたくはない。


「……春姫、俺から離れるなよ」


それならば、俺の近くにいてもらった方がまだなんとかできるかもしれない。


「行くぞ、春姫!」
「うん!」


防御魔法を解除したと同時に、2人でバックステップで距離を取りながら詠唱を始める。


『エル・アムダルト・リ・エルス……』


俺と春姫の同じ詠唱が、同時に紡がれていく。


『ディ・ルテ・カルティエ……』


俺たちを追うように手を伸ばしてくる鬼神。
そいつに向かって、俺と春姫は同時に別々の魔法を放った。


「フォン・クレイシア!!」
「ディ・ラティル・アムレスト!!」


打ち合わせなんてしていないし、そんなことをする暇も無かった。
だが、俺と春姫は申し合わせたかのように、それぞれが攻撃と防御を選んでいた。


「―――――■■■■■■!!」


鬼神の手を春姫が抑え、俺がその隙に魔法を叩き込む。


「ディ・ファルス・ルーエント!!」
「ディ・アストゥム!」


俺が攻撃したかと思えば、春姫が防御に回り。
春姫が攻撃に移る瞬間、俺が春姫を守るために防御魔法を展開する。
それはまるで阿吽の呼吸のように、俺と春姫は連携することができていた。


「―――――■■■■■■!!」


その動きに翻弄されるように、ただ力任せの単純な攻撃をしてくる鬼神。


「春姫!!」
「! うん、わかった!」


このまま攻撃し続けていても、無尽蔵と聞いた鬼神には致命的なダメージにはならない。
そう瞬時に判断した俺は、春姫の名を呼ぶと、魔力を一気にティアへと注いだ。


「ティアも、行けるな!」
もちろんです、マスター(イエス・マイロード)!!」


そして、俺たちは鬼神を左右から挟むような位置まで、一気に駆け抜ける。
俺と春姫、どちらを狙うか迷ったような、鬼神のその隙が最大のチャンスを告げていた。


『ディ・ダ・オルス・リアムギア!!』
「―――――■■■■■■!!」


俺たちが放った魔法は、まるで鎖のような光が地面を走り、鬼神を縛り付けた。
拘束された鬼神が、逃れようと暴れまわる。
だが、俺たちが魔力を注いだこの魔法は、そう簡単に振り払える程弱くはない。


「ティア、どうやれば伊吹の魔力を取り戻せる?」


未だ沸いてくる使鬼を魔法で吹き飛ばしながら、春姫と急いで合流する。
その途中で、ティアが考える、魔力の奪還の手段を聞いてみた。


「鬼神を吹き飛ばしてしまえば、定着しきっていない伊吹さんの魔力は開放されると思います。
 そして、先ほど解析していた結果ですが……あの鬼神が秘宝の本体を司っているように見られます」


式守の秘宝が、今はあの鬼神だっていうのか……
魔法を当ててもすぐに復元してくるその鬼神を吹き飛ばさなきゃいけない……
今の俺で、そんな事ができるんだろうか……?


「雄真君、どうしたら……」


油断なく鬼神を見つめている春姫が、次の手を聞いてきた。
そうだよな、悩んでる暇も、必要もないんだ。
……無理でも無茶でもいい、やってやろうじゃないか。
要は、鬼神(アレ)を吹っ飛ばしたらいいんだろう!


「……春姫、頼みがある」


でも、はっきり言ってしまえば、俺にそんな事ができるかどうかの自信は無い。
あの鬼神を吹き飛ばせるほどの魔力が俺に残っているかもわからない。
……例え残っていたとしても、それを制御できるほどの力が俺にあるのかがわからない。


「……傍に、いてくれないか」


下手をすれば暴走だってありえるような、そんな危険な賭けに春姫をつき合わせたくはない。
だけど……春姫がいてくれれば、不可能も可能に出来るような……そんな気がした。
だからこその……小さく、無謀な願い。


「もちろんだよ。それに言ったでしょ? 私は雄真君と、もう絶対離れたくないって」


俺に向かって笑顔で言ってくれる春姫。


「……あぁ、そうだったな」


少しだけ浮かび上がってきていた不安感は、ゆっくりと消え去った。
もう少しだけ待ってろよ……伊吹。


「ディ・ラティル・アムレスト!」


春姫が防御魔法を使い、この状態でも集中できる空間を作り出してくれた。
そして俺は、ティアを水平に構え、目を瞑って詠唱を始める。


「……エル・アムダルト」


今まで魔法を使っていたせいで、俺自身が感じ取れる魔力はほとんど無い。
だが、俺にまだ秘められた潜在魔力がまだ残っているのなら、目覚めろ!
今、この時に目覚めないで、いったいいつ目覚める時があるって言うんだ!!


「リ・エルス・レイテ」


ドクン、と心臓が大きく鳴ったような気がした。
そしてすぐに襲い掛かってくる、眩暈にも似た強大な魔力の奔流。
まだ、こんなに……眠っていたのか!?


「ウィオール・テラ・ヴィストゥム……」


少しでも気を抜けば暴走しそうになるそれを、必死に制御し続ける。
だが、あまりにも激しいその魔力の流れに、俺の制御が崩れそうになった。


「くっ……」


今、自分が立っているのか倒れているのかが曖昧になっていく。
気分が悪い……まるで世界が回っているかのような錯覚……
くそ……感覚まで、曖昧になって来やがった……
負けるわけには……いかないんだ。


「カル・ア……」


鎖が千切れるような音と、鬼神の咆哮が混濁する意識の中で微かに聞こえた。
しまった……こっちに集中を使いすぎて、鬼神の拘束力が緩んだのか!?
鬼神という巨大な魔力の塊が、俺の方に向かって迫って来るのが感覚でわかった。


「―――――■■■■■■!!」


近づいてくる咆哮を耳にしながらも、今の俺は動く事ができない。
今回避に意識を回したら、俺は身の内にある魔力の暴走を抑える事が完全に出来なくなる。
でもこれ以上、詠唱を続ける事も難しい……絶対絶命か……
そんな絶望感を感じ始めた俺の手に、僅かにだが触れる暖かい感触。


「……強い、でも優しい光」
「はる、ひ……?」


暴走が少しだけ収まり、余裕が出来た俺の目に映ったのは……
俺に手を合わせるようにして、俺を抱きしめてくれている春姫だった。


「昔見た時と、今までと全然変わらない、暖かい光……」


重なる手を通じて、俺の中に穏やかなものが広がっていく。
そして、それに抑えられていくかのように、暴れていた魔力が落ち着いていく。
魔力の制御が……戻って来ている?


「雄真君、私はここにいる……だから、諦めないで」


そうか……そうだよな……
俺の隣には春姫がいてくれる。
俺は、決して1人で戦っている訳じゃない


「……あぁ、もう大丈夫だ」
「……雄真君」


今の俺には……何よりも心強い、心から信頼できる最強のパートナーがついているんだ。
その存在が隣にいてくれる今、この程度の魔力が抑えられないはずはないんだ!!
だから……大人しく言う事を聞けぇ!!


『ラト・リアラ・カルティエ……』


強い想いと共に、再び続ける事が出来た詠唱に、春姫が合わせてくれる。
それに呼応するかのようにティアの宝石が、一気にその光を増していく。
そして……向かってくる鬼神に向かって、俺たちは魔法を解き放った。


「フルパワーで行けます! マスター!!」
『ディ・エル・クォーナ!!』


使鬼たちの目の前に現れた複数の魔法陣。
それを見た使鬼たちの動きが突然止まる。


「――――――■■■■■!!!!」


魔法陣に飲み込まれるかのように消えていく使鬼の群れ。
そして、最後に鬼神の前に魔法陣が集結し合わさると、その巨体が砕け、魔法陣に飲み込まれた。


「…………」


魔法陣が消失すると同時に、目を開けるのも辛いくらいの光が溢れ出した。
その中で、俺たちは目を閉じる事も無く、消失していく魔法陣の行く末を見守り続けていた。


「……終わった、のかな?」
「…………」


全ての使鬼が消え、静寂が戻った空間に呟くような春姫の声が聞こえた。
これで、終わったん……だろうか?


「――――っ! 式守さんは!?」
「!?」


呆然とし掛けたが、伊吹の事を思い出し、みんなのいるであろう方向に春姫と共に駆け出す。
辿り着いた先には、信哉に抱かれるように未だ眠ったままの伊吹がいた。


「……母さん」


秘宝は、鬼神を倒した事で沈黙させる事が出来た。
それでも、伊吹の魔力は取り戻す事が出来なかったんだろうか……
そんな焦りを心に感じながら母さんに向かって問いかける。


「……大丈夫、式守さんは強引に持ってかれた魔力の影響で眠っているだけ」


伊吹の呼吸を確かめるようにした後、母さんは息を1つだけ吐いて安心したかのように告げた。


「では、伊吹様は!」
「もう、大丈夫……後は魔力が回復すれば自然に目を覚ますわ」


その言葉を聞いて、信哉が感極まったのか、涙を流した。
それだけ伊吹が無事だった事が、本当に嬉しいんだろう。


「良かった……良かった……」


腕の中で眠る伊吹を見つめながら、同じ言葉を繰り返す信哉。
……最大の難関は、これでクリアできた。
後は、那津音さんを起こすだけだ……


「良かったな……信哉」


何故か徐々に暗転していく視界の中で、俺は信哉に一言だけ告げる。


「雄真君!?」


心配そうに声をかけてくれた春姫にも答えたかったが、その望みも適う事がなく。
急激に襲い掛かる疲労感と倦怠感に流され、俺は意識を手放した。
























      〜 あとがき 〜


式守の秘宝から那津音さんの魔力奪取に成功!
さて、次で那津音さんが目覚める予定です。
恐らくあと3話ほどでチャプター1は終了するんじゃないかと。

とりあえず、結構疲れたー!
展開が速い?そんなこた知りません。

          From 時雨


初書き 2008/02/24
公 開 2008/03/02