年相応の表情で、喜びを表している伊吹を見ながら、俺は小さくそう呟いた。
俺の声が聞こえたのだろうか、伊吹は俺の方に顔を向けた。
嬉し涙で濡れたその顔を隠す事無く、伊吹は掠れるような声で告げた。


「ありがとう……雄真兄様……」


その笑顔を見て、俺は肩の荷が1つ、下りたような感覚を感じた。
……よかった……ちゃんと大団円(ハッピーエンド)を迎えられたみたいだ。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















長い間眠りについていたはずの那津音さんだったが、意識ははっきりとしているようだ。
周りを見渡しながら、伊吹を撫でながらも鈴と響く声を紡ぐ。


「久しぶりですね、伊吹、鈴莉、小雪ちゃん」
「おはよう、那津音」
「お久しぶりです、那津音様」


涙を拭い、笑ってみせる母さんと小雪さん。
伊吹は再び那津音さんに顔を押し付けるようにして、嗚咽を流していた。


「……信哉くん、沙耶ちゃんは大きくなったわね」
「ご無沙汰しておりました、那津音様……」
「お久しぶりです、那津音様……」


臣下の礼を取り、那津音さんに向かって頭を下げる信哉と上条さん。
そして、その2人に頷いて応えると、那津音さんはゆっくりと俺の方を向いた。


「そして……大きく、強くなったみたいね。雄真くん」
「いや……まだまだ俺は弱いよ、那津音さん」


お互いの顔を見合わせ、小さく笑いあう俺と那津音さん。
そして那津音さんは、俺の後ろにいる春姫に気づいたようだ。


「雄真くん、その子はどなた?」


さすがに指を示して聞いてこないあたり、育ちの良さが伺える。
当の春姫はというと、あたふたとしながらも、何かを言おうとしているようには見えた。
……慌てる春姫も、なんか新鮮で可愛いなぁ。


「紹介するよ。神坂春姫、那津音さんを起こすのに協力してくれた、俺の……大切な人だよ」
「……そう、その子が雄真くんの探していた?」
「あぁ、ようやく会う事ができたよ」


那津音さんは幼い時に俺の夢を教えた事がある数少ない人の1人。
だからこそ、この短い会話で言葉の真意は全て伝わっていた。


「始めまして、春姫さん。式守那津音と申します」
「は、はい!始めまして、神坂春姫です!!」


柔らかく挨拶する那津音さんとは対照的に、緊張してますという感じの春姫。
それを見た那津音さんは、袖口で口元を隠しながら、クスクスと笑っていた。
笑われていることに気づいた春姫は、顔を赤くして俯いてしまった。


「……皆さん、この度は私のせいで大変なご迷惑をお掛け致しました」


笑いもそこそこに、真面目な表情を見せた那津音さんが、俺たちに向かって頭を下げる。
ゆっくりと顔を上げていくと、春姫とはまた違う、澄んだ笑顔で言った。


「そして……ありがとうございます。式守那津音、皆さんのおかげで戻って来る事ができました」


笑顔は全員へと移り渡り、みんなが笑顔になった。
その後、何故か俺が代表して言う事になった。


「あぁ、お帰りなさい。那津音さん」


……こういうのは、普通なら母さんか伊吹の役目なんじゃないのか?
そう思ったりもしたが、本人たちが俺に言えと視線で言って来た以上やるしかないんだろう。


「……それにしても雄真くん、どうして車椅子に乗っているの?」


まるで今気づいたと言わんばかりに、那津音さんは俺が車椅子に座っていることを聞いてきた。
事の顛末を話して、最終的に俺が使いすぎた魔力が回復していないという事を伝える。


「あらあら……良く見てみると疲れが残ってらっしゃる子が多いのですね」


俺だけでなく、周りまでを見渡して伊吹や母さんからも疲れを感じたのだろうか。
那津音さんは頬に手を当てながらそう言った。
……今の一瞬で、全員の調子を解析したのか?


「伊吹、私の龍笛はあるかしら?」


解析速度の速さに驚いている俺の事を知ってか知らずか。
那津音さんは伊吹に龍笛の場所を聞いていた。


「はい、那津音姉さま。……ここに」


そして、ニコニコ笑顔のまま、伊吹から龍笛を受け取った那津音さんは静かに龍笛に口をつける。


「……久々で失敗しなければいいのですが……独奏曲・白夜・第九楽章・豊穣の慈母」


龍笛からゆっくりと流れ出した旋律は、瞬く間に病室にいる俺たちを薄い光で包み込んだ。
染み入るようにその光が体内に入って来て、身体からどんどん痛みが消えていった。


「……ふぇ!?」


そして、旋律が止まるのと同時に耳元から、ものすごい間抜けな声が聞こえてきた。


「ティア?」
「はっ、マスター!おはようございますです!!」


那津音さんの回復魔法のおかげなんだろう。
どうやらティアが喋り出すのに十分な魔力が戻ってきたようだ。
だけど、妙に寝ぼけたような対応になっているのはなんでだろう……


「ティア、お久しぶり」
「ふぇ、な、那津音様!?」


懐かしそうにティアに声をかける那津音さんに、これまた驚いたように声を返すティア。
そして、ニコニコと笑う那津音さんと、あうあう言っているティアという妙な構図が出来上がった。


「……よっと」


すっかりと身体の痛みも取れて、試しに立ち上がってみたら予想通りすんなりと立てた。
驚いたような顔をする春姫に、笑顔で返して、俺は那津音さんの方へと近づく。


「はい、那津音さん」
「あら、ありがとう。雄真くん」
「な、ちょ……え、マスター!?」


ティアをマジックワンド状態に変形させて、那津音さんに直接手渡す。
まぁ、暫くぶりの再開なんだし、那津音さんに言いように弄られててくれ。
俺をヘタレと言った報復もまだやってないしな。


「本当に大丈夫なの、雄真君?」


ティアを渡した後、軽く屈伸とかをして身体の調子を試す。
うん、動くにはすっかり問題ないかな。
春姫は未だ心配そうに俺の事を見てきたが、力コブを作って見せる。
それだけ元気があると見せて、ようやく安心してくれたらしい。


「よかった……雄真君!!」
「は、はい!?」


と、思ったら何故か思いっきり名前を呼ばれ、ついつい直立姿勢を取ってしまった。
よく分からないが、今の春姫にはそうしてしまうくらいの強い強制力を感じる。
周りのみんなも、何事かと俺たちの方へと視線を向ける。


「仕方が無いのはわかってたけど……もう二度と、あんな無茶はしないで……お願いだから……」


春姫は、俺の事をジッと見続けていたかと思うと、ぽろぽろと涙を流し始めた。
余りに唐突で、どうしていいかわからなくなった。
ゆっくりと俺に身体を預けてくる春姫をどうやったら落ち着かせられる……?


「……ごめんな、心配かけて」


そう考えたのも少しの間で、俺は春姫を優しく抱きしめると、あやすように背中を叩いた。
少しでも泣いている春姫が落ち着けるようにと、限りなく優しく。
ただ、少しだけ勘弁して欲しかったのは……


「またそなたたちか……」


ここは、みんながいる病室であって。


「あらあら、雄真くんったらすっかり男の子なのですね……」
「あら、やっぱりそう思う?那津音」


つまり、みんながずっと俺たちの事をみているというわけで。


「ふふふ、雄真さん、大胆ですね」


すっかりと見世物になってしまっていたのが、少しだけ辛かった。
……これ、後で絶対からかわれるよなぁ。


「まぁ、雄真君をからかうのは後回しにして……」


微妙に生暖かい視線を向けてくる場の意識を、母さんが強制的に集めた。
……っていうか、やめるんじゃなくて後回しなのは確定なんですね。


「雄真君に、聞かなくちゃいけない事があるの」
「……俺に?」


聞き返して頷いて見せた母さんの表情から、俺は言いたい内容がわかってしまった。
……そう、か。
解決したからこそ、俺はこれからの進み方を考えなきゃいけないのか……


「雄真君は、これからどうするつもりなのかしら?」
「…………」


那津音さんを救い出すための、秘宝の件は解決する事ができた。
それならば、俺は元通りの生活に戻ってもいい。
だが、母さんはあえてどうするのか、と聞いた。


「今のまま普通科の生徒として魔法を隠していくのか、魔法科に編入して魔法を学ぶのか」


普通科を選べば、今までの生活は戻ってくるだろう。
だが、それは魔法科の校舎が復活した時に、春姫たちと離れなければならなくなる。
魔法科を選んでしまえば、ハチや準たちと馬鹿話をする機会も少なくなるだろう。
きっと、本格的に魔法使いを目指すという事で、ガラリと生活も変わってしまう。


「……俺、は」


今の俺が魔法科という存在に、魅力を感じているのも事実だった。
春姫や、みんなとやった魔法の練習。
今まで感じた事のないくらいの満たされるような充足感があった。


「すぐに答えは出さなくていいわ……答えが出たら、教えてちょうだい」


そして、母さんはそう言って話を締め括った。
誰もが何も言えなくなり、奇妙な静寂が病室を包みそうになった時。


「1つだけ、いいかしら?」


那津音さんがそう言って、声をかけてきた。
みんなが那津音さんに向かって視線を動かす。
優しい笑顔を見せた那津音さんは、ゆっくりと言葉を選ぶように話し出した。


「雄真くんが何を悩んでいるのか、私にはわかりませんが……」


言葉と共に差し出されたティアを受け取ると、カフス状態に戻して耳につけ直す。
そんな俺の様子を見ながら、那津音さんの言葉は続く。


「何か理由が欲しいと思っているのなら、春姫さんのため、というのを理由にしては?」


そう言われて、自然と顔を春姫の方に向けていた。
春姫もまた、俺の方に顔を向けている。


「……でも、それは動機的に不純じゃないか?」


それもありか、と一瞬考えてしまったが、頭を振ることでその考えを否定する。
そして、那津音さんに向かってそう言葉を返した時、予想外の所から言葉が返ってきた。


「それを言われたら、瑞穂坂を代表する優等生なんて、不純の塊だよ?」
「……ふふ、それはそうね」


春姫の言葉に、母さんが苦笑交じりに答える。
あ、そういえば……
春姫は思い出の男の子、つまりは……俺に会いたいと思ったのが魔法を始めたきっかけだったんだ。


「例え動機が不純であろうと、雄真くんが信じた1つの道が、貴方に取っての最善になると思うの」


そう締め括り、那津音さんは結局は俺次第だと冗談めかして告げ。
そして、それ以上の事を語ろうとはしなかった。
俺が信じた道が……俺の最善になる……


「…………」
「……雄真君」


……俺が誰と一緒にいたいのか、それを考えるまでもなく、1人の笑顔が浮かんで来る。
なら……那津音さんの言葉を信じてみよう。
俺の選んだ俺の道を、俺にとっての最善にするために。


「俺、は……――――――」


迷う事はもうしない、信じた道を突き進んで行こう。
だから、俺は……はっきりと母さんに向かって告げる事ができる。
























      〜 あとがき 〜


次回、チャプター1のグランドフィナーレ!
やっぱり物語ってのはハッピーエンドでなんぼですよ。
っていうか、俺は頑張ってそんな物語を作っていくわけですが。

さてさて、それでは最後はもーやっちゃいましょーか。
れっつごーぅ。

          From 時雨


初書き 2008/02/24
公 開 2008/03/07