……俺が誰と一緒にいたいのか、それを考えるまでもなく、1人の笑顔が浮かんで来る。
なら……那津音さんの言葉を信じてみよう。
俺の選んだ俺の道を、俺にとっての最善にするために。


「俺、は……――――――」


迷う事はもうしない、信じた道を突き進んで行こう。
だから、俺は……はっきりと母さんに向かって告げる事ができる。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















俺の決意をみんなに伝えてから数日が過ぎ……
母さんから、完全に式守の秘宝の封印が終わったという事を告げられた。
完全に終わりを告げた、1つの事件の収束。
こうして、あまりにも騒がしかった俺の周りも、少しずつ落ち着きを取り戻していった。


「母さん、新校舎の完成……おめでとう」
「おめでとう、鈴莉ちゃん♪」


事件の余波で起きた魔法科校舎の爆破。
その修理も式守家からの援助により、早急に終わり無事に新校舎が出来上がった。
その完成をお祝いしようという事で、俺たちはOasisに集まることにした。


「ふふ、ありがとう、雄真君、音羽」


完成を口々に祝う事件の関係者やハチ、準と言った俺の友人たち。
丁寧にその祝いの言葉に返事を返しながら、母さんは俺に伝えることがあるのか近寄ってきた。


「それから、雄真君の魔法科編入は、秋からになるからね」
「あぁ、わかったよ」


俺があの日病院で出した答え……
それは魔法科へと転入し、魔法使いとしての道を歩む事。


「あーぁ、雄真も秋から魔法科に言っちゃうのね。寂しくなるなぁ」
「スマナイ……」


秘宝事件で起きた出来事、そしてこれからの進路の事。
全てを準たちに話して、それでも俺は魔法科に進む事を決めた。


「うらやましぃ……」
「うぉっ!」


後ろから沸いて出てきたハチに、ついつい蹴りを入れてしまいそうになった。


「ハチさん……本気で泣いてます……」


本気で泣いているハチに、さすがのすもももかける言葉を失っているらしい。
そんなハチを見ながら、俺も呆れたように声をかける。


「泣くほど羨ましがるこたぁねーだろ……」
「羨ましいに決まってんだろぉ!!」


だが、ハチはというとまさに絶叫と言わんばかりに俺の胸倉を掴みながら熱く語りだした。
うわ、冗談抜きで、顔が近いって!!


「美人揃いの魔法科に編入、姫ちゃんと一緒の授業!!これを妬まずして何を妬めと言うのか!!」
「あー、もう……ハチったらしょうがないわねぇ……」
「ぐがっ!!」


さすがに見かねたのか、準が暴走するハチを沈める。
倒れる寸前に、ハチの口から『神様、俺にも魔法の才能を……』なんて聞こえたのは流しておこう。


「ったく、親友の新しい門出も含まれてるっていうのに……」


気絶したハチを、隅っこの方に転がしておく。
そうしている俺に、準が近づいて声をかけてきた。


「ねぇ、雄真」
「ん?」
「明るく振舞ってるけど……あたしだって寂しいんだからね……」


普段は見せないような真面目な顔をする準。
なんて言っていいのかわからなくなり、つまりかけた俺だったが……


「だからぁ、最後に燃えるような熱い想い出をあたしにちょうだい!!」


すぐに元通りの準に戻ったので、俺もまたいつも通りの対応に出る事にした。
っていうか、あの真面目な顔は演技か、こいつ。


「……ほらよ」
「いった〜〜い!」


そんな事をして笑いあいながら、ハチを捨て終わり、みんなの方に戻っていく。
すると、戻って早々俺の背中に隠れる銀髪の少女が1人。


「ゆ、雄真兄様……すももをなんとかしてくれ!!」
「……伊吹?」


腰あたりに隠れるようにしている伊吹を見た後、伊吹が逃げて来た方向に視線を向ければ。
そこには、伊吹を探し回っているすももの姿が見て取れた。
……すももだけじゃない、何故か音羽かーさんまで一緒に混ざっている。


「伊吹ちゃーん、何処行っちゃったんですかー?」
「いーぶきちゃーん、どこぉ〜?」


名前を呼ばれるたびにビクッとしながら、必死に嵐が通り過ぎるのを息を潜めて待っている。
……さすがに、この状態で放り出すのはかわいそうだよなぁ。


「ティア、魔法式起動準備(スタンバイ)
「了解でーす」


状況が状況だけに、かなり緩い反応をするティアに苦笑しながらも魔法式を組み上げる。
ターゲット指定、目標は音羽かーさんとすもも。
効果範囲は周囲2メートルって所か。


「……ミディア・リ・クリア」


詠唱を終わらせ、魔力を纏ったティアを軽くOasisの地面に触れさせる。
すると、光の先がまっすぐに2人の下に伸び、下から光で照らした。


「あれ……私は何をしてたんでしょう?」
「あ、そうだった、お料理まだ作らなきゃ!」


正気に戻った2人が、それぞれのろのろと動きながらも元いた場所に戻っていく。
さて、これで今俺がこの場にいる間は大丈夫だろう。


「ほら、もう大丈夫だぞ、伊吹」
「す、すまない……あの状態のすももはどうしても苦手なのだ」


……大丈夫だ、その気持ちはわからないでもないから。
あの状態になったすももを止められる人間なんてそうそういるはずがない。


「信哉たちの所までいけば、大丈夫かな……」


あそこなら少なからず2人が守ってくれるし、那津音さんもいるみたいだしな。
一応伊吹が後ろに引っ付いたまま、那津音さんや信哉のいる方向に歩いていく。


「そういえば、伊吹?」
「なんだ?」
「なんでまた呼び方が昔に戻ってるんだ?」


さっきはすももたちを抑えるのに頭を使っていたから気づかなかった。
だが、思い出してみれば、伊吹は確かに俺の事を『雄真兄様』と呼んだ。


「……ダメか?」


何故か、伊吹は残念そうな顔をすると、そう聞いてきた。


「いや、ダメじゃないが……今まで呼び捨てだったのにどうしたのかなってな」


別に呼び方にこだわるつもりもないが、突然元に戻った事に興味が沸いただけ。
それを伝えると、伊吹は那津音さんが救われたからこそ、昔のようになっただけだと語った。
それを聞いた俺は、特にそれ以上何も言わず、那津音さんの近くまで歩み寄った。


「わざわざ来ていただいてすいません」
「いいのよ、外を出歩くなんて久々だったし、丁度いいわ」


何故かお酒の匂いを漂わせるグラスを持っている那津音さんに向かって、一礼する。
すると、いつの間に来ていたのか、後ろから護国さんが姿を見せた。


「……護国さん?」
「……ありがとう、雄真君……おかげで、また娘に、会う事ができた」


多くは語らず、護国さんは俺の肩を数回叩くと、鈴莉母さんの方に向かって歩いていった。


「おめでとうございます」


その背中に向かって、小さく一声だけ投げかけると、俺は伊吹を那津音さんに預ける。
那津音さんに抱きつくように甘える伊吹は、年相応に見えた。


「それじゃ、那津音さん。伊吹の事お願いしますね」
「えぇ、それじゃあ後でね、雄真くん」
「はい」


そして、式守家への挨拶が終わり、再び歩き始めようとした時、柊が俺の前に立ちふさがった。
……柊は、一応Oasisのお手伝いをやってるはずじゃなかったかなぁ?


「まさか雄真が魔法使いだったなんてね……」


顔を俯かせ、拳をプルプルとコミカルに震わせている柊。
そして、何故か思いっきり手を一度掲げると、そこから振り下ろすように俺の事を指差した。


「しかも、春姫よりあんた強いって言うじゃない!!」
「いや、強いかどうかってのはいまいち微妙なんだが……」


総魔力量は上回っている俺だが、実戦経験で春姫には劣る。
そう考えると、経験差で状況が覆される事なんて少なくないと聞いたことがある。


「とにかく、あんたも私のライバルよ!!」


こっちの言う事など聞く耳も持たず、なし崩しに俺は柊のライバル宣言をその身に受ける事になった。
……なんで、こんなことに?


「……やれやれ」
「マスター、春姫が呼んでますよ?」
「え?」


ティアに言われ、周りを見渡すと、確かに春姫がこっちに向かって手を振っていた。
それに応えて、俺も手を振り返す。


「魔法科に移ってからも、よろしくね、雄真君!」
「あぁ、俺の方こそよろしくな」


そして、春姫は俺の隣に立つと、笑顔でそう言って来た。
秋からは、今までとは違う新しい生活が始まる。
魔法科の生徒として、俺はいろいろな事を学んでいく。


「ねぇ、雄真君……今、どんな気持ち?」


いつでも俺の隣にいてくれた、春姫と共に……


「うーん……いろんな気持ちが混じって、上手い言葉が浮かばないな……」


感慨にひたって余りあるほど、ここ暫くはいろいろな出来事があった。
それを1つ1つ思い出しても、言葉に出来る自信はなかった。


「ふふ、私も……同じだよ」
「……春姫も?」


問い返すと、春姫は笑顔で頷いた後に、そっと俺に身を預けてきた。
潤んだ瞳が、俺をしっかりと捉えていた。


「ホントにもう……私の中に収まりきらないくらい……」


そして、俺と春姫はみんなが見ていないうちに始めて、軽く唇を触れ合わせた。


「受け取ってくれた?私の気持ち……」


十分すぎるくらいの愛しいという気持ちが、伝わってきたような気がした。
春姫を抱きしめる手の力を、少しだけ強くする。


「今度は、俺がいっぱいになりすぎたから……少しだけ、返すな」
「うん」


遠くから聞こえる、柊の「何してんのよ!」という声。
春姫の満ち足りた笑顔の中に……ようやく、今にぴったりな言葉を見つけられた。


「好きだよ……春姫」
「うん……私も、大好き……雄真君!」


そして、他のみんなの歓声を聞きながら、俺と春姫はもう一度唇を重ね合わせた。
初めてキスした時よりも、一番長く、一番優しいキスを……
新しい生活は……これから始まる。
















Magic Word of Hapiness!
Chapter1. Treasure of Shikimori. END








      〜 あとがき 〜


俺なりに、全速力で駆け抜けた気がします。
ギリギリまで手を繋ぐだけのプラトニックな関係で持ってって、ここで使いたかったんですよ!
その望みがかなったのでだいぶ満足しています。

次は、チャプター2に入っていくわけですが……
これからはのんびりとした日常話を織り成して行く予定です。


それでは、今後ともまじはぴ!どうかお付き合いください。

          From 時雨


初書き 2008/02/25
公 開 2008/03/08