そして季節は秋。
俺が普通科から魔法科へと移り変わる日。


「噂になっているから知っているでしょうけど、転校生がいるわ」


先に教室へと入った母さんが、静かだった教室に活性剤を落とす。
それと同時に、ざわめきが教室の中に生まれてくるのが解った。


「いよいよか……」
「初魔法科ですね」
「……それじゃ、入ってきて」


感慨深く呟く俺と、それに同意してくれるティア。
そして、教室の中から俺に対してお呼びがかかった。


「普通科から転入しました、小日向雄真です。よろしく」


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















ハチの言うとおり、魔法科というのは女子の比率が圧倒的に高い。
そんなクラスの中に春姫や柊、信哉と上条さんがいるのは心強いと思う。
知らない人だけだと、いろいろと分からない事を聞くのにも大変だしな。


「……ところで、なんで睨まれてるんだろうなぁ?」


クラスの中に多いとは言えないがしっかりと存在している男子。
何故かその数少ない男子の視線は、かつての準との一騒動を思い出させるくらい冷たかった。
……俺、こっちでは名前なんて知られてるはずないんだけどな?


「……まぁ、マスターならそう言うでしょうけど」


ティアの呟いた声に、妙な実感が込められていたのは気のせいだと思いたい。
一応、目立たないように生活して来ているハズ……だよな?


「それじゃ、今日の1時間目は質問タイムとかにしておきましょうか」


母さんは、みんなの反応に苦笑しながら、そう言った。
どうやら、1時間目を俺への質問タイムへと当てることにしたらしい。
まぁ……下手に授業に集中できなくなるよりはマシなんだろう。


「あ、かあさ……御薙先生、その前に俺の席は?」


ついつい母さんと言いかけた所を、喉の途中で押し留めて質問しておく。
立ったままでも辛くは無いけど、一応自分の席くらいは知っておきたいし。


「それもそうね……神坂さんの隣、確か開けてあったわよね?」


クラスに確認を取るように母さんがそう言うと、みんなは頷いて返していた。
そんな都合よく春姫の隣になるとは思えないし……母さんが何か仕組んだな。


「わかりました」
「それじゃ、質問のある子は手を挙げてちょうだい」


なんていうか、擬音が聞こえて来そうなほどの勢いで手が上がった。
……なんで、半数以上が手を挙げてるんだろうか。


「それじゃ……まず叶君から」


最初に母さんが指名したのは、数少ない男の生徒だった。
そして、ゆっくりとした動作で立ち上がると、その生徒は少し考えるような後、質問してきた。


「はい、小日向君は普通科にいたそうですが……何故魔法科へ?」


確かに、こんな時期に普通科から魔法科に移動する事はまずあり得ない。
そんなケースが聞いたことが無いからこその質問だろう。
さて……どうやって答えたらいいものか。


「えーっと、俺は元から魔法が使えたんだけど……個人的事情で隠してたんだ」


その個人的事情が解決したからこそ、魔法使いとしての道を歩む決心がついた。
そう答えてやると、個人事情まで聞く気がないのか素直に質問を終わってくれた。


「それじゃ、他には?」
「はい!」


次の質問に移ると聞いた瞬間、見覚えのあるツインテールが勢い良く手を挙げた。
……まぁ、柊がこういう話題に食いつかない筈がないよな。


「じゃあ、柊さん」
「ゆう……じゃかった、小日向君はマジックワンドを持っていないように見えるんですが」


一瞬、いつものように雄真と言いかけた柊が、無理矢理言いなおして聞いて来る。
そういえば、柊にはマジックワンドを直接見せた事がないのか。


「俺のマジックワンドは……ここにあるんだ。ティア」
「はーい」


耳につけたカフスを触り、ティアをマジックワンド状態に戻す。
みんなは、一瞬何処から取り出したのかわからなかったのか驚いたような顔をした。
まぁ、一部例外もいるわけだけど……


「これが俺のマジックワンド、名前はティアって言う」
「ティアと申します、どうぞお見知り置きを〜」


大変な事件を乗り越えたせいか、はたまたただ単に気を抜いているだけか。
この頃のティアの台詞は微妙に気が抜ける。


「これでいいか?」
「ええ、解ったわ」


とりあえず、マジックワンドの細かい追求は後回しにするつもりなんだろう。
今は見るだけでいいだろうと言った雰囲気の柊は席に座った。
それを見届けた俺は、とりあえずティアをカフスに戻す。


「あんまり質問攻めにするのも可哀想だし、次で最後にしましょうか」


元から多くは質問を受け答えさせるつもりが無かったのか、母さんはそう締めくくった。
その言葉を聞いて、さらに手の上がるスピードが上がる。


「それじゃ、最後は皐月さん」
「はい、それでは……風の噂で、神坂さんとの事を聞きましたが、その真偽はどうなのですか?」


……いよいよ来たか、と純粋に、そう思った。
こんな絶好の質問チャンスに、この手の質問が出てこない訳が無いだろうし。
そもそも普通科の方ではバレてるんだ、こっちに伝わっていない方がおかしいだろう。


「えーっと……」


それにしても、どうやって答えようかまでは考えていなかった。
素直に答えるのが一番良いんだろうけど、それはそれで波乱が起こるような気がする。


「マスター、隠そうとしてもバレる時はバレるんですし、スパッと言っちゃったらどうです?」


隠す気はないんだが、こういう場で言うとなるとやっぱり恥ずかしいという気持ちがある。
とりあえず、助け舟でも出してもらえないだろうかと知り合いの顔を見てみたが……


「……無理だな」


春姫は真っ赤で俯いているし、柊はニヤニヤとこっちを眺めている。
信哉は目を瞑っているから、恐らく瞑想でもしているんだろう。
上条さんはおろおろとしているが、助け舟を出せるような性格じゃなさそうだ。


「……はぁ」


ついついため息が出るのも仕方が無いだろう。
少しくらいは、協力的な姿勢でいてくれてもいいと思うんだけどなぁ。


「えーっと、皐月さんでしたね……俺と春姫ですが、噂の通りだと思ってくれて構いません」


こうなったらヤケだと言わんばかりに、そう宣言してしまう。
俺ので、何人かの女子が残念そうなため息をついたのは一体何故なんだろうか?


「こんなんで、いいですか?」


顔が赤くなりそうになるのを精神力で強引に笑顔を作って耐える。
柊のニヤニヤ笑いが強くなったし、上条さんですら真っ赤な顔をしている。
春姫が、どこか惚けたような顔をしているが、まだ嬉しそうに見えるからそれが救いか。


「あ……はい、ありがとうございます」


あまりにもはっきり宣言したせいなんだろうか、質問して来たはずの皐月さんまで顔が赤い。
……やっぱり、言わなきゃ良かったんだろうか。


「マスター、すっかり立派になって……」


ご丁寧にもおよよと言う台詞までつけて泣き真似をするティアには、後で制裁を与えよう。
なによりもまず、そう心に誓う俺だった。


「はい、それじゃ小日向君も座ってね」
「わかりました」


母さんの顔が、音羽かーさんと同類に見える。
これは……絶対後でからかわれるな。
気分のせいで重くなりそうになる足を動かしながら、春姫の隣の席へと移動する。


「大変だったね、雄真君」
「あぁ……出来れば、金輪際こういうのは遠慮したいよ」


席に座ると、惚けていた状態から帰ってきた春姫が、そう言ってくれた。
あんまり目立ちたくなかったけど、これで否応なしに目立つ事になるだろうなぁ。


「……でも、実習とかが始まったらもっとすごいことになるんじゃないかな?」
「……忘れてた」


今の質問タイムでは出てこなかったから、別に自分から言うこともしなかった。
俺が鈴莉母さんの実子である、と言う事はまだこのクラスには知られていない。
実習になったら、同じ詠唱をしている以上、絶対その事を疑問に思われるだろう。


「まぁ、今はいいよ。質問されるってのは疲れるしね」
「ふふ、お疲れ様」


ぐでーっと机に身体を預けたくなるのを我慢して、母さんが伝えている連絡事項を聞く。
そんなみっともない姿を、早々に晒すのもなんか嫌だしな。


「春姫、ソプラノさん、マスターがわからない事があったらお願いします」
「うん、任せて。ティア」
「えぇ、誠心誠意努力しましょう」


耳元でされる会話を聞きながら、俺は少なからず実感というモノを感じ始めていた。
今、クラスにいるのは全員が全員、魔法使いだ。


「……やって来たんだなぁ、魔法科に」


窓から見える、普通科とは違う光景。
それを見ながらも、呆然と呟く。
再建築されたこの校舎も、よく見てみれば魔法対策というものが随所に見て取れる。


「……ティア、解析よろしく」
「はいはーい」


ついでだし、こういうのは覚えておいても損は無いだろう。
どんな些細なことからでも、応用っていうのは見つかるものだから。
ティアに解析を頼んだ後、そのままボーっと外の風景を眺めて見る。


「不安……?」


そんな俺の様子を心配してくれたのか、春姫がそう心配そうに声をかけてくれた。
窓の外から視線を移し、苦笑交じりで笑いかけながら俺は首を横に振った。


「不安って言うよりは、期待……かな」


確かに、今まで慣れていた環境とは違うことに不安もある。
だけどそれ以上に、今まで公で触れることが無かった魔法に触れる事が出来る。
その期待の方が、俺の中で大きく膨らんでいた。


「……これからも、よろしく。春姫」
「うん、こちらこそ!」


とりあえずは、現状に慣れて行くことから始めよう。
幸いにも、俺には頼りになるパートナーがいるんだから。





















      〜 あとがき 〜


チャプター2スタートになります。
こっからは魔法科学園編スタートですよー
どんな風になっていくかは俺にもわかりませんがっ

それでは、最初はこの程度で。

          From 時雨


初書き 2008/03/02
公 開 2008/03/13