確かに、今まで慣れていた環境とは違うことに不安もある。
だけどそれ以上に、今まで公で触れることが無かった魔法に触れる事が出来る。
その期待の方が、俺の中で大きく膨らんでいた。


「……これからも、よろしく。春姫」
「うん、こちらこそ!」


とりあえずは、現状に慣れて行くことから始めよう。
幸いにも、俺には頼りになるパートナーがいるんだから。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















恐らく、これも母さんが計画した事なんだろうけど……


「……まぁ、悪い事じゃないからいいとしようか」
「そうですねー、いろいろな魔法使いの魔法に触れると言うのもいい経験ですし」


転入したての質問タイムが終わった後、俺たちは魔法服に着替えるように言われた。
春姫が言うには実習らしいんだが……そんなタイミングよく実習になるとは思えない。
やっぱり、母さんあたりが何かを企んでるんだろうなぁ。


「まぁ、さっさと移動しますか」
「でもマスター、着替えるのってどこでやるんです?」
「……あ」


そういえば、俺は魔法科の校舎の中なんてほとんど知らないんだった。
どうしたもんか……そう考えていると、気づけば教室に女子はいなくなっていて……
残った男子が、教室内で着替えを始めていた。


「雄真殿、早く着替えねば遅れるぞ」


あぁ、男子は教室で着替えていいのか。
そう納得していると、学生服から変わらない信哉が声をかけて来た。


「いや、どこで着替えるのか知らなくてさ。今着替えるよ」


カバンの中に入れておいた魔法服を取り出して、着替えを始める。
俺が着替え終わるのを待っていてくれた信哉に連れられて、俺は実習場へと移動した。


「ところで信哉、実習ってどんな事やるんだ?」


その途中、魔法科でやる実習がどんなものなのか知っておこうと信哉に尋ねてみる。
信哉は軽く考えた後、申し訳なさそうな顔をした。


「すまない、俺がこの学園に来た時は普通科からだったから、そこまで実習がなかったのだ」
「……そうだな、信哉もある意味俺と似たようなもんなのか」


と、なると他の人に聞くしかないんだろうけど……
周りを見ても、すでに全員が実習場へ移動してしまったのか、俺たち以外に人影は見えなかった。


「……ま、着けばわかるか」
「うむ」


ティアの事を軽いと言ったけど、案外俺が原因なのかも知れないな。
そんな事を呆然と考えてしまった。


「来たわね、雄真……勝負よ!!」


そして、実習場へと辿り着いた俺たちを待っていた一言が、それだった。
実習場の入り口から入ってすぐの所に、何故か仁王立ちして待ち構えている柊。
その後ろには柊を止め切れなかったのか、春姫が立っていた。


「……勝負って、これからやるのは実習じゃないのか?」


なんとなく、柊の言いたい事もわかっているが、あえてとぼけて返す。
その後に、ひとまず柊は置いておいて、春姫の方へと向かう。


「春姫、今日やる実習ってどういうのなの?」
「えっと、今日やるのは……前に雄真君とやったのと同じのはずだよ?」


前やったのっていうと……魔力球同士をぶつけ合う奴か。
まぁ、それくらいならいいか。


「それじゃ、実習始まったらやってみるか?」


もし知らない内容の練習方法だったら、春姫とやろうと思っていた。
だけど、内容が同じだと言うのなら、別の人とやってみてもいいだろう。


「そうこなくっちゃ!」


春姫に一応ごめんと謝って、とりあえず最初は柊とやってみる事にする。
……さて、柊の実力ってのはどんなもんなんだろうな。


「オン・エルメサス・ルク……」


その後母さんが来て、春姫が言うとおりの練習方法を伝えた。
そして、俺たちは実習場の隅の方に移動して、向かい合った。
俺はすぐに詠唱を始めず、柊の方の様子を窺う事にした。


「アルサス・エスタリアス・アウク」


春姫の実力は、何回か見ているから大体把握していた。
でも、柊の実力はほとんど見たことがないから、どの程度の魔力球を作ればいいかわからない。
だからこそ、俺は柊が作る魔力球の様子を見ていた。


「エルートラス・レオラ」


柊の魔法球が出現したのを確認した後、俺も魔法球を生み出す。
……解析はしてないからわからないが、恐らくそこまで魔力を入れなくてもいいだろう。


「……エルリシア・カルティエ・フォン・クレイシア」


俺の詠唱が終わると同時に柊より少し小さめの魔力球を出現させた。
まぁ、こんなもんでいいだろう。


「……ティア、もしもの時は俺の判断を待たずに魔法を消してくれ」
「了解しました」


完全に準備が整った事を柊に伝えると、1度頷いて魔力球の発射体勢になった。
さて、お手並み拝見と行きますか。


「オーフェンダム!!」


俺への最短距離を、魔力球が駆け抜けてくる。
速度は、なかなかあるな。


「ルーエント」


半分くらいまで飛んできた時に、俺も魔力球を打ち出す。
柊のより僅かに遅い俺の魔力球が、ぶつかり合う直前……


「嘘!?」


柊の驚きの声が上がった。
そういう俺も、驚きの表情をしていたんだと思う。


「ルティア・ロル・ラディス」


ぶつかり合う直前、柊の魔力球は文字通り消えた(・・・)
そして、俺の魔力球は柊の方へと飛んでいこうとしたが、ティアによってすぐに消された。
……今のは、一体どういうことだ?


「ちょっと雄真!魔力球に何の付与効果つけたのよ!!」


すぐに意識を切り替えた柊が、そう言いながら俺の方へと向かってくる。
でも、俺自身魔力球を作る以外の行程は混ぜていない。


「……いや、俺が聞きたいくらいなんだけど」


春姫と同じ事をやった時は、少なからず魔力球の競り合いが発生した。
しかし、今の柊の魔力球は、あたる前に消えた……


「それはね、小日向君の魔力球に柊さんの魔力球が飲み込まれたからよ」


とりあえず叫んでいる柊をスルーしながら、原因を考えていると、横からそう声がかかった。
その方向を見てみると、いつの間に来ていたのか、母さんが立っていた。


「……飲み込まれた?」
「えぇ、込めた魔力量が同じでも魔法式の組み立てで差が出るのはわかるわね?」


そのまま講義を始めた母さんに、頷いて返す。
魔力を最大限に生かすのは、魔法式がどれだけ上手く組み立てられるかにかかっている。
魔法式の構築が単純であればあるほど、魔力をいくら込めたとしても威力はそこまで増えない。
逆に、魔法式の構築がしっかりと出来ていれば、少ない魔力でも威力は上がる。


「柊さんの構築した魔法式が加算のみであれば、小日向君は乗算……これでわかるかしら?」
「なるほど……そういうことなのか」


俺たちが込めた魔力量を 5 とすれば、柊はそれに 2 を足しただけ。
逆に俺は 5 という魔力量に、 2 をかけたと言う事になる。
その結果、込めたものは同じでも、威力に差が出たって言う事なんだろう。


「……それって、要するに柊の魔法式が甘いって事じゃないか?」


隣でうんうん唸っていた柊に、素直に問いかけてみる。
すると、図星だったのか柊は呻いた後大人しくなってしまった。


「…………」


正直、柊が込めた魔力量は大きかったと思う。
それをもっと上手く使う事が出来れば、実力だって制御だって安定するんじゃないか?
そう考えると、何かもったいないような気がして来た。


「春姫」
「どうしたの、雄真君」


母さんが来た後に、俺たちの様子を見に来た春姫がいたので呼ぶ。
そして俺は、春姫を手招きして近くまで呼び寄せると、周りに聞こえないように耳打ちした。


「――――ってのはどうかな?」
「でも――――ってそう簡単に出来るの?」


俺の提案を聞いて、春姫は遠まわしにだが賛成してくれるらしい。
それは無理だとは言わなかったしな。


「――――のも一応改良したいから」
「うん、わかった。私も手伝うよ、雄真君」
「サンキュ、春姫がいてくれると心強い」


俺たちが内緒話しているのを見て、何をしているんだと言う疑問を浮かべている柊。
一方の母さんは、なんとなく俺のやろうとしている事がわかるのか、微笑んでいた。


「えーっと……信哉!手が空いたらちょっと来てくれるか!!」


あたりを見渡して、上条さんと練習していた信哉も呼ぶ。
すると、少ししてから上条さんと一緒に信哉が来た。


「雄真殿、どうしたのだ?」
「小日向さん、兄様が何か……?」


呼ばれたから来てみたという雰囲気の信哉。
兄が何か失礼な事をしたのかと不安そうにしている上条さん。
上条さんには悪い事じゃないと簡単に伝えて、俺は柊と信哉に対して、笑いながら言った。


「今度、魔法式の改良ってのをやってみないか?」


他の人の魔法式を見る機会が増えてから考えていた事。
それは、人のいいと思える魔法式を、自分たちに応用できないかと言うもの。
上手くいけば、個人の実力の向上だって見込める。


「それに、信哉のマジックワンドは空を飛べないみたいだし、あの魔法も改良したらいいと思うんだ」


前に式守本家へ移動する時に使ってもらった移動用の魔法。
片道だけっていうのはやっぱり不便だし、せめて往復くらいは対応させてあげたい。
そうすれば、信哉が迷う回数だって減らせるだろう。


「……俺としてはそれは助かるのだが……雄真殿、手間ではないだろうか?」


自分の方向音痴を少なからず自覚している信哉が、そう言って来る。
これは元から考えていた事だし、俺としては手間には入らないさ。


「それで、柊はどうする?」
「…………」


結局、信哉は上条さんに半ば押し切られる形で参加が決まった。
信哉の方向音痴で苦労していたみたいだから、その説得も力が入っていた。
残った柊は、何かを考えるようにして、黙ったままだった。


「……杏璃ちゃん」


不安になったのか、春姫がそう声をかけると、柊は強い意志を込めた目を俺に向けてきた。
そして、確認するような声で、俺へ質問して来た。


「……魔法式を改良出来れば、春姫や雄真みたいになれるの?」


……きっと、柊は焦っているんだろう。
確かに魔法科で実力者として見られている柊、それでも春姫には及ばないとされていた。
そして、そんな時に春姫より実力があると見られた俺が現れてしまった。


「……それは、柊の頑張り次第だ」


このままじゃいけない……でも、やり方がわからない。
そんな考えが焦りを生んでいき、悪循環が発生する。
だが、今はそれを打破できる可能性が現れた。


「……やるわ。春姫にも、雄真にも負けないんだから!」


ならば、後必要なものは決意だけ。
そして、柊は参加する意思をしっかりと告げてきた。


「あぁ、その意気込みがあれば、大丈夫だ」


さて、これからまた忙しくなりそうだ。





















      〜 あとがき 〜


チャプター2は簡単に言っちゃえば柊育成編。
本編での柊ルートを俺流に書き加えてみようかなーってコンセプトです。
だって、信哉の風神雷神ぶっ飛ばすのを未熟のままに置いとくのもったいないじゃん!

そんな感じで、またちまちま進めていこうかと思います〜
それでは、また次のあとがきにて。

          From 時雨


初書き 2008/03/09
公 開 2008/03/15