すぐに改良方法が見つかるはずないからな。
後は俺の方でもこれをベースにして考えてみればなんとかなるだろう。


「ただ、何回か試験的に魔法を使う事になるかもしれないから、それだけは頭に入れておいてくれ」
「心得た。雄真殿、苦労を掛ける」
「いや、俺が言い出した事だし、かまわないさ」


信哉の魔法の改良が上手くいけば、式守家へ行くのもだいぶ楽になるだろう。
それに、これで俺も新しい何かが見つけられるかもしれない。
まぁ、やってみなきゃわからないんだけどな。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















魔法による解析で、魔法式や仕組みを見ることは出来たけど、それが理解に繋がる訳じゃない。
結局、信哉の魔法式に関して細かく理解するのに時間がかかってしまった。


「マスター、もう朝ですよ?」
「……あ、もうそんな時間なのか?」


ティアに言われて外を見てみると、すっかりと日が昇り始めていた。
おかしいな、信哉の魔法式を細かく調べ始めた時はまだ日付が変わってなかったと思うんだけど。


「マスターの魔法バカは末期ですねぇ……」
「魔法バカってなんだよ……」
「事実ですよ、新しい魔法書なんて買った日には、寝る間も惜しんで読みつくすじゃないですか」


これといって否定できないのが悲しいのはなんでだろうなぁ……
確かに母さんが出した新しい魔法書とかは、読んでいて面白いから時間が経つのを忘れるけど。


「ま、まぁ……おかげで大体の事は把握できたし、今日中に1回は信哉に試してもらえそうだ」
「……マスターも魔法好きも解ってますが、私の手入れも忘れないでくださいよ?」


俺が魔法書にかかりきりになると、ティアの手入れがおろそかになる。
その度に拗ねるティアの機嫌を治すのが大変だった。


「わかってるさ、とりあえず……どうせ寝る時間なんてないし、ティアの手入れでもしてようか」
「はい!今日は宝石の方をお願いします」


すももが起こしに来るまでの時間、俺はティアの望むとおりに手入れをしながら時間を過ごした。


「そんな訳でさ、結局あんまり寝れてないんだ」
「大丈夫なの、雄真君?」


眠い頭のまま、学園までやって来て、すでに教室に居た春姫とのんびりと話す。
信哉の魔法式の解読が終わった事、ティアがあんまり放置しすぎると拗ねる事。
そんな何気ない話も、春姫は楽しそうに笑いながら聞いてくれていた。


「あ、ごめん……春姫、暇じゃない?」


気付けば、俺だけが話をしているような状態になっていた。
しまったなぁ……
普通科じゃ魔法の話なんてできなかったから、ついつい夢中になってしまった。


「ううん、雄真君が普段どんな風に過ごしてるか聞けて、すっごく楽しいよ」
「えーっと……そ、そうかな?」


なんていうか、ここまで真っ直ぐに言われると、正直に照れてしまう。
赤くなってしまいそうな顔を隠す為に、視線を外へと向けた。


「雄真様、私の話を聞いてくださいますか?」


空を見ながら、少しずつ赤くなった顔を冷まそうとしたら、春姫の背中から声をかけられた。
珍しいな、あんまり自分から喋ったりする事が少ないと思ったんだけど。


「ん、ソプラノ? 珍しいね、どうしたの?」


俺が問い返すと、ソプラノは春姫の背中からふよふよと俺の前まで浮いて来た。
思うところがあるのか、なにやらソプラノからオーラのようなものが見える気がする。


「雄真様の行動は、珍しい事ではございませんよ」
「え、そうなの?」


出てきた言葉は、予想外だった。
珍しい事じゃない……ってことは、春姫も似たようなことがあるっていうのか?


「春姫も、鈴莉様の魔法書を手に入れた時は1日中読んでいますし、さらに……」
「ちょっとソプラノ!何を言おうとしているの!?」


さらに、なんだろうか?
ソプラノが声を続けようとした時、春姫が慌てて止めに入った。
だが、捕まえようとする春姫の手から、巧妙に避けてソプラノは、会心の一撃を放った。


「過去に雄真様の事でも、1日中思索にふけり、私の手入れを忘れた事がありますから」
「……へ?」


俺の事で、1日中考えに没頭していた……?
それは一体いつのことなんだろうか……?


「ち、違うの!前に雄真君が思い出の男の子じゃないかって思ってた時期があって、それを考えてたら気付いたら朝になってたとか、そういう事じゃないの!」


真っ赤になって、取り繕うように言う春姫。
だけど、それって……


「春姫、それって墓穴掘ってるよ?」
「はぅ……」


俺よりも顔を赤くしたまま、春姫は俯いてしまった。
ついつい突っ込んじゃったけど、突っ込まない方が良かったかな……?


「マスターはまだまだ女心の理解が甘いですね」
「……そうなのかなぁ」


少しは言い返してるはずが、さすがにこんな状態だと言い返す言葉もない。
でも、女心を学べって言われても、どうやればいいのかさっぱり検討がつかないしなぁ……


「どいてどいてー!!」
「……ん?」


どうやって春姫を落ち着けようか考えていると、開けてある窓から声が聞こえてきた。
ものすごく、聞き覚えがある声で……それに加えてなにやら嫌な予感が……


「柊様が、こちらの方に飛行魔法で接近中です、そのままいると下敷きにされそうですね」
「……あいつはまた窓から出入りしているのか」


とりあえず、下敷きはゴメンだと春姫と連れ立って窓が開いていない方に移動する。
するとすぐに柊が窓から現れた。


「……もう少し、余裕を持って登校できないのか?」
「うるさいわね、今日はたまたま寝坊しちゃって時間が無かっただけなんだから!」


本当かと思い春姫の顔を伺い見てみれば、苦笑しているだけで肯定も否定もしない春姫。
……この分だと、結構な割合でこういった登校方法を使っているのかもしれないな。


「……パエリアも、前に言ったようにもう少し主人の寝起きくらい躾けてやれよ」
「申し訳ありませんなぁ……目覚ましと同じくお声をお掛けしておるのですが……」


どうやら、目覚ましを止めてそのまま強引に睡眠を継続しているらしい。
よく見ると、パエリアの羽の一部分が欠けているようにも見える。
……起こそうとして、逆襲でも喰らったんだろうか。


「杏璃ちゃん、昨日言っておいた問題、やって来てくれた?」


憐憫を含めた目でパエリアを俺が見ていると、春姫がそう声をかけていた。
昨日言っていた問題か……俺が信哉たちの方に言っている間に課題でも出したのかな。


「えーっと……」


基礎から教えなおすのに、春姫に頼んだのまでは覚えている。
だけど、春姫がどういった問題を出したかなんていうのは知らない。
それでも、柊の反応を見る限り、やってないんだろうなぁと感じてしまった。


「杏璃ちゃん……」
「ご、ごめん!やろうとは思ってたんだけど、ちょっと難しくてっ!」


何故だか、春姫から有無を言わせぬ黒い影が出ているように見える。
あんなに一生懸命手伝いをするなんて、春姫は友達思いだよなぁ……
感心しながら、俺は春姫と柊の会話に耳を傾けるだけの傍観者になる事にした。


「ところで、柊に出した問題ってのはどんなんなのかな……?」


とりあえず、話し相手がいなくなったので、ティアに話しかけてみる。
カフスからマジックワンドに戻ったティアは、俺の目の前に浮かびながら一緒に頭を捻る。


「そうですねぇ……ソプラノさん、ご存知ですか?」


俺たちがいくら考えても何も思い浮かぶはずがなく。
結局春姫が問題を作った時一緒にいたであろうソプラノに聞いてみる事にした。


「基本でありながらも、あまり理解されていない魔法式の穴埋め式の問題です」


基本になり過ぎず、かといって難しくなりすぎない問題を作ったらしい。
そういうのがすぐ出来るから、春姫が学園の才媛と言われる所以になったんだろう。


「へぇ……ちなみに必要学力は?」
「魔法科1年でも15分とかからず解けるはずですが……」


ソプラノの言葉を聞いて、愕然としてしまった。
魔法科に所属していたわけじゃないから、どの程度の事をやるのかはわからない。
だけど、1年が15分で解ける問題を、柊は1晩かけても解けなかったのか……?


「柊の奴、今までどういう原理で魔法を使ってたんだ……?」
「それも、ある種の才能なんでしょうか……?」


そう言ってしまえば確かにそうなんだが……
逆に考えるとすごい危ない事をしていたんじゃないか、柊は。
よく暴走があの程度で済んでたな……


「……とりあえず、良かった。柊の魔法式を見直す事にして」


世界中全ての魔法による悲しい出来事を防げるとは思っていない。
それでも、身近な存在が巻き込まれたりするのくらいは抑えられると思っている。


「は、春姫……何か目が怖いんだけど……」
「気のせいだよ、杏璃ちゃん……」


きっと、このまま柊が魔法を覚えていたら、過去の俺みたいな出来事を起こしていたかもしれない。
俺は運良く乗り越えられたが、柊もそうだとは言い切れない。


「お願いを聞いてくれるって言ってたから……だから、杏璃ちゃんには頑張ってもらわなきゃ……」
「思いっきりそれが原因なんじゃないの!?」


だからこそ俺が協力出来ることがあるのなら、それを惜しまずに協力してやりたいと思う。
それが、俺の目標へ向かう為の確実な一歩だと思うから……


「って、さっきから何を騒いでるんだ、柊?」
「ちょっと雄真!春姫をなんとかしなさいよ!!」


俺が考え事をしている間に、なにやら柊の顔色が悪くなっているように見えた。
春姫の顔色は、後ろ姿しか見えないからわからないが……


「……なんとかって言われても、春姫?」
「なあに、雄真君?」


俺の呼び掛けにこっちを向いた春姫は、別になんの変わりもない普通に見えた。
一体、柊はこの春姫をどうしろっていうんだろうか……?


「おはよう、雄真殿、神坂殿、柊殿」
「おはようございます、みなさん」


よく解らない俺と、ニコニコ笑顔の春姫、そして春姫に怯える柊という、奇妙な空間。
それに終止符を打つ存在が、登場してくれた。


「む……どうしたのだ?」
「あの、私たちが何か粗相でも……?」


きょとんと、俺たちの見回す上条兄妹。
苦笑しながら、俺はそんな2人に声をかける事にした。


「いや、なんでもない。助かったよ、信哉、上条さん」
「よくわからりませんが、お役に立てたようなら何よりです」


安心したかのように胸を撫で下ろす上条さんと、相変わらずわかっていなそうな信哉。
信哉らしいなぁと思いながらも、俺は徹夜して練った計画を信哉に伝える事にした。


「信哉」
「む?」
「一応、1個目の試作が出来たから、昼休みにでも試したいんだけど、いいか?」


昼休みっていうのは、微妙な時間ではある。
だけど、試作を試せれば、放課後までにまた改良方法が見つけ出せるかもしれない。
そう考えての提案。


「あぁ、俺はいつでも構わぬ」
「助かるよ、それじゃ昼休みは……屋上がいいかな」


屋上なら、そんなに多く人がいないだろう。
Oasisでやるよりよっぽどマシだと思う。
……かーさんがいると、見世物にされそうだしね。





















      〜 あとがき 〜


春姫が黒いやー、あははー
おかしいな、黒い春姫は出すつもりなかったはずなんだが……?
まぁいいか、出たら出たって事で、たいした問題でもないし。

さてさて、最近妙に文字を書くペースが落ちてます。
調子が悪いんだろうか……そんなバカな。
きっと、ただ単に書き方を忘れてるだけだと思いましょう、うん。

          From 時雨


初書き 2008/03/23
公 開 2008/03/26