昼休みっていうのは、微妙な時間ではある。 だけど、試作を試せれば、放課後までにまた改良方法が見つけ出せるかもしれない。 そう考えての提案。 「あぁ、俺はいつでも構わぬ」 「助かるよ、それじゃ昼休みは……屋上がいいかな」 屋上なら、そんなに多く人がいないだろう。 Oasisでやるよりよっぽどマシだと思う。 ……かーさんがいると、見世物にされそうだしね。 二次創作 はぴねす! Magic Word of Happiness! 昼休みに信哉に試してもらうとは言え、適当なものを試してもらうわけにはいかない。 かといって、それにばかり気を使い過ぎて、授業が疎かになっては本末転倒だ。 「……ここの式は、これを組み込むか」 だが、幸運な事が一つあった。 俺が独学と鈴莉母さんの協力によって学んできた魔法学。 それは、すでに現在学んでいる事にまで至っていた事だ。 「……次の魔法式の問題を、小日向。解いてみろ」 「はい」 黒板に記された問題は、マジックワンドによって魔法式のどの領域がサポートされるかと言うもの。 例として上げられているのは、魔法使いに普及している一般的な防御魔法だった。 「その場合だと、マジックワンドの役割は発動魔法の維持と被弾箇所の補修です」 「そうだ、よく出来たな」 すでに学んでいた事は、そこまで難しいとは言えない。 ただ、鈴莉母さんの授業だけは、本当に油断はできない。 俺がもし違う事に意識を走らせていたのなら、学んでいた事でも応用しなければ解けない問題を出してくる。 「雄真君、今の問題見てなかったよね?」 座っていいと言われ、席に座ったところで、春姫がこっそりと声をかけて来た。 春姫が言うとおり、俺は問題を見ていない。 「あぁ、黒板は俺が違う事をやってたらティアに見てもらってるんだ」 ティアとの念話が可能だからこそできる芸当。 「問題を解くのがティアには無理でも、問題さえ教えてもらえれば答えられるから」 「便利だけど……ちょっとズルいね」 解ってはいるけど、さすがに面と向かって言われると、ちょっと罪悪感が沸くな。 でも、今だけは見逃してもらおう。 「おし……魔法式の理論はこれで間違いないかな」 後半になって、春姫がジト目になり始める頃。 俺が組み上げていた、信哉への空間移動型魔法式の実験版が完成した。 これで、昼休みには信哉に試してもらえるだろう。 「……後は、もし失敗した場合を考えたフィールドの形成と、不測の事態の対処方法か」 フィールドを張ってしまえば、魔力の暴走だけは防ぐ事ができる。 だが、空間を越える信哉の魔法は、フィールドの影響を受けるかはわからない。 もしも空間を渡る途中で、俺が組み上げた魔法式が崩れたらどうなるか…… 「それだけは、絶対に防がないとな」 俺の予測にしか過ぎないが、魔力が暴走した時に被害が行く先。 それは恐らく、空間移動をしている信哉自身と、移動先である式守家に行く。 フィールドが張ってないとは思わないが、それは俺の勝手な考えに過ぎない。 「……電話で連絡を取って、出現予定ポイントにフィールドを張っておいて貰うか」 人に頼るのは申し訳無いが、安全性を考える以上、これは仕方がないとも言える。 ただ、その仕方がないという言葉を、免罪符にはしたくなかった。 「……ふぅ、魔法式の改良だけならまだしも、やっぱり考える事がおおいな」 気付けばノートの一ページが、俺の考えうる対策方法で真っ黒に塗りつぶされていた。 それでも、空間を渡る信哉自身の安全策は、思い浮かばなかった。 「雄真君、ちょっといいかな?」 「ん、どうしたの?」 腕を組んで、ジッとノートを見つめ続ける俺に、春姫が声をかけて来た。 春姫の表情から、自分の目が厳しくなっていた事に気付かされる。 「思いつめても、きっといい事は浮かばないよ?」 「うん、解ってるんだけどね……こればっかりは力を抜くわけにはいかないから」 そう俺が言うと、春姫は雄真君の考えも解るよ、と言ってくれた。 「それで、雄真君のノート、横から見させてもらったんだけど……」 「ん?」 春姫が、俺が持っていたシャープペンを持つと、ノートのまだ白い部分に、綺麗な文字を書き始めた。 「雄真君の魔法式だと、場所から場所へ移動する時、亜空間とも呼べる場所を通ってるよね?」 A と B と書かれた丸を線で繋ぎ、その間を黒い線でなぞる。 確かに、俺の考えた魔法式だと信哉はその亜空間と呼ばれる場所を経由する事になる。 そして、その下に春姫は続けて新しく文字を書いた。 「もし、この二つの場所の距離を零にできる方法って、ないのかな?」 「……つまり、この魔法を発動させたら、擬似的に空間同士を結びつけるって事?」 確かに、それなら下手な空間を通るよりも、確実だと言えるかもしれない。 ただ、莫大な距離を零にする方法が、あっただろうか……? 「うん、無理……かな?」 俺の考え込む表情から、自分の案は難しいのではと不安になった春姫の顔に、どんどんかげが降りてきた。 「マスター、春姫の案は悪くないと思いますよ?」 かけるべき声を失いかけたとき、救いの船は、俺の背後から現れた。 ティアが、俺の背中から浮き上がり、春姫と俺の間に浮かびながら移動してきたのだ。 「……どういうことだ?」 「マスターは小難しく考えすぎなんですよ、たまには簡単に考えて見ましょうよ」 「どういうことなの、ティア?」 そして、ティアが教えてくれた方法は、俺たちが考えもしなかった応用方法だった。 なるほど……それなら、信哉への危険性はだいぶ減るだろう。 「助かったよ、春姫、ティア」 さて、これで準備は整った。 とりあえずは、昼休みまでは少し頭を休めよう。 ティアの言うとおり、俺は考えに没頭しすぎて、難しく考えすぎていたらしい。 まさか、あの魔法でそんな事をやろうなんて言い出すとは思わなかった。 「それで、雄真殿。俺は一体何をすればよいのだ?」 昼休みになると、昼食ついでに俺たちは屋上の片隅に陣取った。 購買で買ったパンを食べていると、信哉がそう聞いてきた。 「あぁ、信哉にはまずこれの説明しないとな」 授業時間も余す事無く使って書き上げた魔法式。 人に見せれるように余分なところを消し、見やすくなった物を信哉に渡す。 「……ふむ」 「兄様、私も見てよろしいですか?」 俺の書いた魔法式を見て、黙り込んでしまった信哉を見かねてか、上条さんが紙を受け取った。 そして、紙に書かれた魔法式を見ると、驚いたような顔を見せた。 「小日向さん……これは……」 「マスターでは難しくなりそうですので、私の方から説明しますね」 上条さんの疑問に俺が答える前に、ティアがみんなの中心に浮かんできた。 それを見て、柊が訝しげな視線を俺に送ってきた。 「あれ、雄真が説明するんじゃないの?」 「俺は、小難しく考えすぎるらしいから、ティアの方がわかりやすいってさ」 疑問に対して、苦笑しながら答えてやった。 すると、柊はそういうものなのねと言いながらティアの説明を待つことにしたらしい。 「今回、信哉様の魔法式の改良ですが、使った物は単純にベクトル操作の魔法のみと言っていいでしょう」 「ですが、ティアさん。それですと空間に干渉は不可能なのでは……」 確かに、ベクトル操作の魔法が使われるのはマジックワンドで空を飛んだりする時が多い。 だが、ティアが言ってきたのは、ある意味俺たちの今までの概念を覆すものだった。 「えぇ、空間に干渉する為という理由ではベクトル操作は不可能です」 「ふむ、この魔法式だと空間への関与はほとんど見られぬな?」 ようやく、魔法式を見終わったのか、信哉が言ってきた。 そして、信哉が言うとおり、今回作り上げた魔法式には空間……亜空間への干渉が一切無い。 「その通りです、これは空間にではなく、距離に対してのベクトルを操作するのを基本とした魔法式になります」 「距離って……どういうことなの、春姫?」 すでに理解の範疇を超えたのか、柊は春姫へと助け舟を求めた。 それがくるのを予測していたのか、春姫はどこからか取り出した新しい紙に、絵で説明を始めた。 「例えば、学校から式守さんの家までの距離をこの線だとするでしょ?」 「学」と「式」という字の間に、春姫が直線を引いた。 「それで、ティアが今回やるのは、この線をこうやって歪める物なの」 その紙を持ち上げ、直線が消えるように折り曲げると、「学」と「式」が隣同士になった。 こうやって考えると、距離という概念が存在しなくなる。 「……それって可能なの?」 「それを、これから試すんだよ」 聞いている限り、そんなSF理論が通じるのかという疑問が沸いて来るのも当然だろう。 だが、下手に亜空間なんかを経由させるより、よっぽど安全性が高い。 「一応式守家の方に連絡を入れて、門の前あたりにフィールドの形成を頼んである」 昼休みに入ってすぐ、式守家へ連絡を入れて、護国さんから協力を貰った。 どうやら、護国さんと那津音さんの二人がフィールドを張ってくれるらしい。 「こちらの方では、マスターがフィールドの形成を行ないますので、信哉様は魔法の発動に専念なさってください」 ティアの説明が終わると同時に、他の人の邪魔にならないようにフィールドを張る。 そんなに大掛かりな魔法じゃないから、そこまで大きく張る必要もないだろう。 「よし、それじゃ始めてみてくれ」 完全にフィールドの形成が終わった後、信哉に向かって言う。 信哉はそれに頷いて答え、風神雷神を構えた。 「助力、忝い」 「気にするな、俺から言い出した事だしな」 笑っていってやると、呼吸を整えるように目を閉じた信哉。 徐々に、信哉の魔力が風神雷神に伝わっていく。 「柊、よく見ておけよ。飛ぶ事のできない信哉のマジックワンドでも、式がしっかりとしていれば、こういう事が出来るって事を」 信哉から目を離さないようにしながら、春姫の隣にいる柊に声をかける。 柊がどういう反応をしたかはわからない、でもきっと柊は一瞬たりとも見逃さないようにしているだろう。 「行くぞ……風神の太刀…… そして、信哉が上段に構えた風神雷神が、強く振り下ろされた。 〜 あとがき 〜 うはー、すっげぇ久々に書き上げた気がします。 難産したわけじゃないんですが、時間が取れなかったのが敗因ですね…… これからは、少しずつ時間取っていけると思うのですが。 杏璃強化計画のはずなのに、なぜか序盤は信哉が強化されてます。 まぁ、信哉は個人的に気に入っているのでよしとしよう。 柊もやっぱり本編くらいまでは強化したいよなー From 時雨
初書き 2008/04/09
公 開 2008/04/12 |