恐らく、俺たちに見つからないような場所で、すももの好き好きオーラの餌食になっている事だろう。
少しその様子を見てみたい気もするが、故人が偉大なことわざを残してくれている。




それ即ち。




触らぬすももに崇りなし。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















日付も変わって、俺が春姫に頼んでいた柊の基礎的な部分の復習が終わったらしい。
春姫からそう聞いたんだけど……妙に柊がやつれて見えるのは何故だろうか?
教室に入ってくるなり、机に突っ伏した柊を見てそんな感想を抱いてしまった。

「……あんたは知らないからそう言うこと言えるのよ」

どうやら、春姫は春姫で何かの野望に燃えているかの如くスパルタ形式で叩き込んだらしい。
……もしかして、それほど叩き込む勢いじゃなかったら柊のレベルが追いついてなかったのか?

「まぁ……なんにせよ、基礎を学び直したんなら自分の欠点がよく見えるようになっただろ」
「……まぁね、先生やあんたに言われてた加算や乗算の意味はわかったわ」

それが解ってるなら、多少は魔法式の作り方も変えられるだろう。
それでも、多少の手助けになりそうなことはするんだけどな。

「雄真殿」
「ん、あぁおはよう信哉」

珍しくもまだ姿を見せない春姫よりも先に、信哉が俺の所に来た。
どうやら、前に改良した魔法をさらに改良して自分に合う形が出来上がったらしい。

「それで、物は相談なのだが……」
「相談……?」
「実は、護国様と那津音様より雄真殿に式守家に遊びに来て欲しいとの言伝を頼まれたのだ」

どうやら、式守家への移動が信哉の魔法によって楽になったために遊びに来て欲しいようだ。
……まぁ、別に遊びに行くくらいならいいんだけど。
なんでだろうか、微妙に嫌な予感がするのは。

「マスター、式守家へ行くとするならば、次の日が休みである事を確認した方がいいかと」
「……と、言う事は日帰りで帰れるような日程は組めないって事か」
「……恐らくは」

学校で会おうと思えば会える伊吹や上条兄妹とは違って、気軽に行けないという理由はある。
魔法で飛んで行けば簡単といえば簡単だが、あまりそういうので魔法を多用する気はない。

「……仕方が無いか、今度連休があったらその時にお邪魔するって伝えて貰えるか?」
「うむ、心得た」

大げさな頷き方をした後、信哉は自分の席に戻って恒例となっている瞑想を始めた。
瞑想を始めると、ちょっとやそっとの事じゃ信哉は反応しなくなるんだよな。
周りがどれだけ騒いだとしても、まるで耳に入ってないみたいだし。

「……おや。マスター、春姫が来たようですよ?」

特にやる事も無くなって、ボーっと空を眺めていたら、ティアからそう声をかけられた。
空から視線を春姫が入ってくるだろう入り口に向けると、タイミングぴったりに春姫が入ってきた。
普段より遅かったからか、慌てて来たんだろう、息が少し上がっているように見える。

「おはよう、春姫。今日は遅かったね」
「おはよう、雄真君。ちょっと探し物してたら出るのが遅くなっちゃった」

しっかりしている春姫が探し物なんて珍しいな……
そう思ってついつい春姫の事を見ていたら、俺が言いたい事がわかったのか、照れたような顔をして遅れてきた理由を教えてくれた。

「えっとね、いっつも使ってるヘアピンが見当たらなくて、いろんなところ探しちゃった」
「まったく、だから物はいつも同じ場所に片付けなさいって言ってるでしょう?」
「だって、杏璃ちゃんの復習が終わったからちょっと気が抜けちゃっただけなんだよ」

やれやれと言いたげな感じで話すソプラノに、慌てながらも墓穴を掘っている春姫。
そんな会話を聞きながら、俺の視線は自然と春姫の髪を押さえているヘアピンに向かっていた。

「…………」

そういえば、春姫はほとんど同じヘアピンを使ってるなぁ……
もしかして、昔俺がヘアピンを貰ってしまったせいで選択肢が減ったのか。
……ヘアピン……か。

「なんとなく、マスターの考えている事が流れてきているんですけど」

どうやら、短い時間とは言え、ティアに考えが流れてしまったらしい。
でも、ティアならいい意見をくれるかもしれない。

「なぁ、ティア。考えが流れたならわかるよな、どう思う?」
「いい考えだとは思いますが、唐突ですね、マスター」

そりゃあ思いついたのは唐突だけど、別に悪い事じゃないよな。
……でも、問題があるとすれば。

「俺が、その手の店を知らないってのが一番問題なんだよなぁ……」
「そうですねぇ……私もマスターと行動を共にしている以上お店はわかりませんし」

どうせなら、春姫に内緒にして、サプライズ的に渡してあげたいよなぁ。
と、なると春姫と繋がりが深い柊に聞くのは却下。
そもそも柊が秘密を守り通せるとは考えにくい。

「後は、小雪さんや上条さん……伊吹とかか」
「わざわざ会いに行く事で、春姫に感づかれる事が予想されますが……」
「だよなぁ……」

独占欲が強い春姫が、俺のそんな行動を見抜かないとは思えない。
そうなると春姫の機嫌を治すのに一苦労するのが目に見えるな。

「……と、なるとすももが一番か」
「確かにすもも様ならわかるでしょうが……どうせなら直接春姫を誘ってみたらいかがです?」
「春姫と一緒に……?」
「えぇ、サプライズもいいですが、どうせなら春姫が気に入った物を贈るのが一番でしょう?」

確かにセンスがいいかわからない俺が一人で選ぶより、春姫が気に入ったのを贈った方がいいか。
じゃぁ、今度の休みにでも誘ってみようか……

「はい、それじゃぁ席について。授業を始めるわよ」

考えがまとまった時に、丁度よく母さんが現れてその件は後回しになった。
まぁ、別に焦る事でもないし、後で春姫にそれとなく話を聞いてみようか。

「じゃぁ、教科書の145ページを開いて」

教科書を開きながら、俺は少しだけワクワクしたような高揚感を感じていた。
そういえば、春姫と二人で出掛けようとするなんて初めてかもしれないな。




















昼休みになり、いつものメンバーで昼食を取っている時。

「さて、とりあえず柊は復習が終わった事を前提として……」

完全に身になったかはわからないが、それを確認する意味も含めて、簡単な問題を作ってみた。
春姫に教わった事がしっかりと理解できていれば、すぐ答えられるだろう。

「なによ、折角春姫に渡された問題全部終わったっていうのにまた問題なわけ?」
「まぁ、どの程度理解してるか、俺の方でも確認してみたいからな」

不承不承という感じで問題を受け取った柊だが、それに反して手は淀みなく動いていた。
さすがに基礎の基礎程度の問題なら簡単に答えられるようになったのか。

「……うん、正解だ。それじゃ、次の宿題だな」
「春姫のスパルタに比べれば、この程度ちょろいわよ」

胸を張って自信満々に答える柊。
それじゃぁ、次に出す宿題は……

「一週間時間をやるから、今まで使っていた魔法式を紙に書いて、それの何処がまずかったのか訂正した物を作ってきて貰おうかな」

これも復習の一貫だと思って貰っていいだろう。
基礎を踏まえた上で、今までの式を見たら、いかに自分が簡単な魔法式で魔法を使っていたか解るだろう。
それを自分自身で作って理解する事が次のステップだ。

「それって、全部ってこと?」
「一週間あれば、大体書けるだろう?」

柊がいくつ魔法を持っているかわからないが、それこそ数百を超えるような数ではないだろう。
それくらいなら、じっくり時間を使って書いたとしても余るくらいだと思うし。

「……わかったわよ」

――――春姫並のスパルタじゃない。
柊がそう呟いた気がしたが、やる気自体はあるのか、すぐに自分の机に向かってペンを取っていた。
いくら一週間あるとは言え、訂正箇所まで記述するのなら時間がかかると判断したんだろう。

「さて、柊の方はこれでいいとして……」

今まで俺と柊の会話を苦笑しながら聞いていた春姫に向き直る。
春姫を誘うのはいいが、なんて言って切り出せばいいんだろうか。
こういうのの経験はまったくと言ってないから、どう言えばいいのかわからない。
準がいれば、それとなく聞けるんだけどな……

「とりあえず、お疲れ様、春姫。ごめんな、仕事押し付けちゃったみたいで」

誘う方法を考えてばかりで、肝心な事を言っていなかったことに気づいた。
改良の言いだしっぺの俺が、柊の面倒を見れず春姫に押し付けてしまった事を謝っていない。
それに、独学が大半の俺では、きちんと理解できる教え方は出来なかっただろう。

「ううん、杏璃ちゃんもやる気だったし、飲み込みが早くて苦労とかは……あんまりなかったから」

その微妙な間の空き方が、多少なりとも苦労を滲ませて、一瞬涙が出そうになった。
……そこまで基礎がガタガタだったのか、柊は。

「ところで雄真君」
「ん、何?」

元凶が近くにいるとは言え、面と向かって言う事など出来るはずもない俺は、空を仰いでいた。
現実逃避が混ざり始めた頃、名を呼ばれ顔を戻すと、そこには何故か顔を赤くしている春姫がいた。

「どうしたんだ、顔が赤いよ?」

さっきまで普通だっただけに、この変化はどうしたんだろうか。
まさか、柊の面倒を見た疲労が今になって出てきたのか?

「んーっと、熱は……ないみたいだな」
「ゆ、雄真君!?」

特に何も考えないで、気付けば俺は春姫の熱を測っていた。
しかも、手を当てるんじゃなくて、おでことおでこをあわせるやり方で……

「マスター……無意識なのは構いませんけど、時と場合と場所を考えた方が……」
「あ……ご、ごめん」

慌てて距離を取ったが、顔が赤くなっていくのがわかってしまった。
ついつい深く考えないで行動してしまった……
春姫も顔を赤くしているし、周りの連中は微笑ましいと言いたげな表情で俺たちを見ている。

「えーっと……と、ところで春姫、何か言いかけてなかった?」

強引だなぁと思いながらも、無理矢理話題転換をしてこの空気を打破しようとしてみた。
春姫も同じ気持ちだったのか、俺に合わせるように両手をぽんっとあわせながら言葉を続けた。

「そ、そう、雄真君、杏璃ちゃんに教える時にお願いを聞いてくれるって言ってたでしょ?」
「うん、何か思いついた?」

よっぽど無理な事でなければ、大抵の事は聞くつもりだ。
すると春姫は、少しだけ言いよどみながらも、俺に聞こえるくらいの声で小さく言った。

「あのね、今度のお休み、一緒にお出かけして欲しいなって……ダメかな?」

不安そうな表情で聞いてくるが、それくらいなら全然構わないと俺は笑顔で頷いた。
俺の顔を見た春姫が、何故かまた顔を赤くしたが、何故だろうか?

「まだ、自分の威力を理解してないんですね、マスター……」

ともあれ、今度の休みは春姫と二人で出掛ける事が決定した。
俺の目的も叶えられるし、一石二鳥だろう。
そっちに考えが持ってかれていた俺は、気付けなかった。
近くで、聞き耳を立てている金髪のツインテールがいたことに。





















      〜 あとがき 〜


知っている人は知っている、あのイベントへのフラグです。
当然、JとAが暗躍したりもします。
違う事といえば、すでに雄真と春姫がカップルとして成立してるくらいでしょうか?

とりあえず、本編やりなおしながら書いていけたらなぁ。
時間もちょくちょく出来てるし、何とかして行こうと思うだす。

          From 時雨


初書き 2008/08/04
公 開 2008/08/19