不安そうな表情で聞いてくるが、それくらいなら全然構わないと俺は笑顔で頷いた。 俺の顔を見た春姫が、何故かまた顔を赤くしたが、何故だろうか? 「まだ、自分の威力を理解してないんですね、マスター……」 ともあれ、今度の休みは春姫と二人で出掛ける事が決定した。 俺の目的も叶えられるし、一石二鳥だろう。 そっちに考えが持ってかれていた俺は、気付けなかった。 近くで、聞き耳を立てている金髪のツインテールがいたことに。 二次創作 はぴねす! Magic Word of Happiness! 「さて、待ち合わせの時間は……十時半だったよな」 出掛けると約束した春姫との約束。 前日まで、簡単な話をしながらも待ち合わせの時間はしっかりと覚えておいた。 「準だったら、遅刻したらどんな目に合わされるかわかったもんじゃないからなぁ……」 「準さんでしたら、最悪マスターは女装すらさせられたでしょうね」 ティアが呟くように言った言葉が、準の場合冗談ですまないからこそ性質が悪い。 さすがに、春姫との待ち合わせに遅刻する気は全然ないんだけどな。 「さて、そろそろ出たら何分くらい前に着く?」 「春姫の性格上時間ギリギリという事はないでしょうから、丁度いい時間ではないでしょうか?」 「よし、それじゃあのんびり向かうとするか」 いつも通り、ティアをカフスの状態にして身につける。 着ていく服に悩んだが、そんな外行き用の服なんて持っている訳じゃない俺は、結局母さんから貰った魔法服で代用する事にした。 「……服、買った方がいいかなぁ」 「そうですね……外行きとはいいませんが、もう少しくらいレパートリーを増やすのはいいかもしれません」 家を出る時、かーさんとすももがカメラを持ってきて写真を撮ろうとしたのは、ちょっとした余談だ。 断固として拒否したけどな。 「んーっと、春姫は……まだ来てない、かな?」 「周囲に春姫の魔力反応はありませんね」 準たちとの待ち合わせによく使っている商店街のオブジェ前。 予定の時間よりも数十分早く着いた俺は、春姫の姿を探してみたが、まだ春姫は着いていないようだ。 「……まぁ、焦る事はないか」 「待つのも男の甲斐性ですよ、マスター」 オブジェに背を預け、少しばかりボーっとしながら雑踏に目をやってみる。 いろいろな人が歩いている雑踏は、単純な風景のはずなのに見ていて何故か飽きなかった。 「……気のせいか、なんか俺、見られてないか?」 時間にしても極めて短時間であるはずなのに、何故か俺は何度も視線を感じていた。 最初こそ、気のせいだと思っていたんだが、ここまで続くと不安になってくる。 ……もしかして、この服装、そんなに似合ってないんだろうか? 「相変わらず、ニブニブですね、マスター……」 ティアが何かを言ったように聞こえたが、少しばかり気が焦っていた俺には聞こえなかった。 『こちらJ。目標Uを確認したわ、どうぞ』 『こちらA、了解。こちらは現在目標Hが目的地へ接近中、どうぞ』 妙な居心地の悪さを感じていると、不意にその視線が薄れ、今度は違う方向でざわめきが起こったように感じた。 そのざわめきは、主に歩いている男たちから沸きあがっているようだが…… 『こちらJ、了解。それでは十秒後に作戦を開始します』 『こちらA、了解。カウントダウン始め』 『十…………五、四、三、ニ、一、零っ……作戦開始』 その方向に目をやってみれば、なるほどと納得できる光景が広がっていた。 まるでモーゼの十戒のように、男連中が道を開けるその先、そこには春姫がいた。 よほどご機嫌なんだろう、いつもの笑顔が何割か増しに見える。 「あ、雄真君!」 俺の姿を確認した春姫は、歩いていたスピードを速め、小走りに俺の方に近寄ってきた。 その姿に、軽く片手を上げて答えると、俺も春姫の方へと歩き出した。 「ごめんなさい、待たせちゃったかな?」 周りで春姫の事を見ていた男たちは、俺と合流したのを見た瞬間に恨めしそうな顔をして散り散りになっていった。 それと同時に、薄れていた視線も完全に感じなくなった。 「いや、そんな事はないよ。それより春姫、おはよう」 「おはようございます、春姫」 「おはよう。雄真君、ティア」 この時、ティアにもう少し範囲を広げて周りの状態を調べておいてもらえば、後にあんな騒動は起きなかったんだろうなぁ…… 『目標Uと目標Hの合流を確認、これより尾行を開始する』 『了解』 『うふふふふ……』 『うふふふふ……』 視線の中に、妙に感じなれた物があった気がするが、まぁ考えてもわからないだろう。 そう思考を切り替えて、俺はひとまず春姫とのこの後の予定を確認することにした。 「えーっと、服と雑貨……後面白そうなのがあったら映画、だよね?」 「うん。あ、でも……雄真君、女の子の服なんて見てもつまらない……よね?」 これで、相手が準だというのなら、即答でつまらないと答える所だけど…… 相手が春姫なら、不思議とそういう気持は浮かび上がってこなかった。 「たぶん、大丈夫だと思う。元々、春姫のお願いは聞くって約束だからね」 片目を閉じながら、冗談めかして言ってみた。 似合わないと指摘される事を覚悟でやってみたんだが、どういう訳か、春姫は顔を少しだけ赤くして固まってしまった。 「……春姫?」 「……っ! え、えっと、それじゃあ今日はよろしくね、雄真君!」 「あ、あぁ」 目の前で手をひらひらとさせると、春姫は無事に再起動を果たし、焦ったように言葉を並べた。 ……どうしたんだろうな? 「まったく……無意識もここまで来ると罪といいますかなんというか……」 「その意見には、私も同意します……ティアさん」 マジックワンド二人の声が、俺を非難しているように聞こえるのは何故だろうか。 「ふふ、雄真君って意外と涙もろかったんだね〜」 「な、泣いてなんかいないぞ!」 その後、映画を見に行って不覚にも涙を拭う決定的瞬間を春姫に見られ、あくびだと必死に誤魔化してもまったく信じて貰えなかったり。 「それじゃ、何か食べに行くか、食べたい物ある?」 「えーっと、それじゃあ……」 と、何を食べるか相談している時に、春姫のお腹が可愛らしく鳴き。 「く、くくく……すぐに何か食わしてやるから、あまり鳴かずに我慢してくれよ?」 「な、鳴いてないってばぁ!」 それを先程のお返しとばかりにからかって見たりと、そんなに長い時間ではないというのに、とても楽しい時間を過ごしていた。 『あら〜、予想より楽しそうねぇ……羨ましいなぁ、春姫ちゃん』 『まったく、春姫ったら普段より明るいじゃない……』 そう、過ごしていたんだが…… さすがに、ここまで時間が経つと、俺たちの後に付いて来ている存在に気付かないはずが無い。 最初は敵対する意志でもあるかと思って警戒はした物の、敵意がないから放っておいたんだが…… 「……春姫、気付いてる?」 「えーっと……杏璃ちゃんたちにつけられてる事、かな?」 表面上は、楽しそうに会話をしているふりをしながら、隣を歩く春姫に声をかけてみる。 すると春姫は、俺と同じように会話をしているふりをしながらも、予想通りの返事をくれた。 「うん、正解。準がいるのがいまいちわからないけど、大方柊が教えたんだろうな」 改めて考えると、教室で春姫と予定を話をしている時、まったくと言っていいほど柊が近寄って来なかったのはおかしいんだよな。 そのくせ、予定の話が終わると同時にこっちの会話に混ざってきていたんだから。 「……さて、どうしようか。予定もまったく消化出来てないし」 つけて来るぐらいなら、強引に混ざってくる方があいつららしいと思うんだが…… 恐らく、俺や……いや、違うな。春姫に気を使っているという所か。 「このままお買い物を続けても、尾行され続けるかもしれないし……」 「どうする?」 「後をつけられたままお買い物するのも嫌だし……逃げちゃおうか?」 あいつらがすんなり諦めるとも思えないし、何より俺もつけられたままってのは遠慮したいな。 いくら俺の行動パターンを知り尽くしている準がいるとは言え、あいつが知らない所も俺は知っている、か。 「それじゃ、二人から逃げようか。準備はいい?」 「うん、雄真君は大丈夫?」 「あぁ、まかせとけ……って言いたい所だけど、下準備くらいはしておこうか」 「え……?」 さすがに空を飛んで逃げる訳には行かないから、走って逃げる事になるのは確定事項だ。 動きやすい魔法服の俺はいいとしても、私服の春姫は走るのが辛いかもしれない。 「ティア、やる事はわかってるな?」 「もちろんです。ディ・ルテ・アストリアウス」 さすが俺の相棒、まるで以心伝心のように、ティアはすぐさま魔法を詠唱した。 俺と春姫の二人を、薄い魔力が包んだ瞬間、体が普段より軽くなったような感覚が起こった。 「え、これって……?」 「ティア特製重力軽減魔法だよ。これで、走っても靴擦れとかは起きないと思うけど……」 少なくとも鍛えている俺には別にいらなかったんだが、生真面目なティアの性格がよく現れているってところかな。 足の調子を簡単に確かめた後、俺は春姫に向かって手を差し出した。 「それじゃ、準備はいい?」 「あ……うん!」 最初は差し出した手をぽかんと見ていた春姫だが、すぐに笑顔になって俺の手を取ってくれた。 そして、俺と春姫は一斉に駆け出した。 「あっ!」 「逃げたわ!」 後ろから、驚いたような準と柊の声を聞きながら、俺たちは笑いながらスピードを上げた。 「まずはこっちっと」 「ええ」 路地裏を混ぜながら、縦横無尽に街中を駆ける。 「雄真君、次はこっち!」 「オッケー!」 継続してティアに頼んだ探索には、懸命にも着いてこようとする二人の反応があった。 だけど、こっちは魔法まで使った反則技だ。 追いつけるはずがないだろう。 「あった、あそこに隠れよう!」 「え、あ、うん!」 計画性なく走り回っているように見えるが、実は俺はある場所を目的にして走っていた。 そして、その建物は準を連れてきた事が無い。 だからこそ、あの二人を撒くのには最適だろう。 「ふぅ、ここまで来れば大丈夫だろ」 魔法のおかげで、結構走り回ったにも関わらず、疲れと言うのはそんなに感じなかった。 少しだけ大きく息を吐いて、力を抜くと、春姫もそれを真似するかのように力を抜いた。 「それにしても、こんな所にこんなお店があるなんて知らなかったな」 「あぁ、ここは普通の人が来るお店じゃないからね」 「え……?」 俺の台詞に驚いたような表情をする春姫。 それを見て、笑いを堪えつつも店の説明をしようとした時、奥から声がかけられた。 「おやまぁ……騒がしいから誰かと思えば……御薙の所の坊ちゃんじゃないかぇ」 〜 あとがき 〜 本編と大筋同じにしてやろうかとも思ったけど、ついでなんでオリジナルを混ぜ混ぜ。 やっぱり雄真と言えば独学と鈴莉さんの力で魔法を学んだ。 そんなわけだから、それっぽいのを入れなきゃなぁとね。 と、言うわけで次回に続くフラグを残した第53話でした。 一体、Chapter2はどこまで続くんだろうねぇ。 深く考えないでChapter2を書いてるから、予定は未定だったりっ! From 時雨
初書き 2008/10/03
公 開 2008/10/09 |