今だ疑問符を頭の上に浮かべているすももやハチに合流し、俺たちは瑞穂坂学園へと向かった。
今度、みんなで遊ぶ為の計画をみんなで考えながら。

「雄真様、少しお話があります」

玄関先ですもも達と別れ、魔法科の教室へと入った俺を待ち受けていたのは、妙な迫力をかもし出しているソプラノだった。
……俺、何かしたかなぁ?


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「えーっと……どうしたんだ、ソプラノ。妙に、迫力があるんだが……?」

まるで待ち構えていたかのごとく、ソプラノは俺が来ると目の前まで来て、その一言を発したのだ。

「どうかしたの? ソプラノ……」

春姫も普段見たことがないくらい、ソプラノに迫力があったんだろう。
怪訝そうな顔をして、春姫もソプラノへと視線を向けていた。

「話というよりも恨み言です。心して聞いてください」
「恨み言って……俺に、か?」
「他におりません」

ソプラノに恨み言を言われるような理由が、思いあたらないんだけど……
一体何を言われるのかと思い、少しばかり緊張している俺の耳に、ティアのため息が聞こえてきた。

「ソプラノさん、心中お察しします……」
「む……ティアはソプラノが言いたい事がわかるのか?」
「まぁ、なんとなくですが……」

春姫はどうかと視線を向けてみたが、春姫自身も何を言うのかはわかっていないらしい。
可愛らしく小首を傾げられてしまった。

「ティアさん、お心遣い痛み入ります。雄真様、春姫にプレゼントしたふくろうの置物を覚えていらっしゃいますね?」
「あぁ、昨日の今日で忘れる事はないけど……」

あのふくろうが、何か問題でもあったんだろうか……?
変哲もないただの置物だったと思うんだけど。
疑問が顔に出ていたのだろうか、ソプラノは一呼吸置いた後、鬱憤を晴らすかのように続けて言った。

「春姫ったら昨日帰った後はそればかり可愛がって、毎日してくれていた私の手入れを怠ったのですよ?」
「……はぁ?」

とりあえず、俺は反応を返せただけまだマシだったかもしれない。
だが、頭の中ではいまいち今言われた事を理解し切れてはいなかった。

「ソプラノさん、羨ましいです〜。毎日お手入れして貰ってるんですねぇ〜」
「ティアさんは毎日ではないのですか?」
「本腰を入れたお手入れは、毎日とは行きませんけど、それ以外でしたら毎日してもらってます〜」

マジックワンド同士の会話を呆然として聞いていると、我に返った春姫が顔を赤くしながら声を荒げた。

「へ、変なこと言わないでよ、ソプラノ! その事は今朝謝ったじゃない!」

落ち着け、落ち着こう、俺。
今まで手には言ったキーワードを整理して、状況を考えるんだ。

「…………」

つまり、俺が昨日あげたふくろうの置物。
春姫はいたくそれを気に入ってくれたんだろう。
それで、ついついそれに夢中になり過ぎて、ソプラノの手入れを怠った……で、いいのか?

「謝ったからといって済むものではありません。ゆう君ゆう君って貴女は……」
「ちょ、ちょっとソプラノ! どうしてそれを言っちゃうの!?」

思考の渦に入りつつも、春姫たちの会話をしっかり聞いてしまった俺は、ついつい一言声が漏れてしまっていた。

「……ゆう君?」

ゆう君ってのは、一体なんだろう。
会話から判断すると、ふくろうにつけた名前っぽいんだけど。

「あ、ち、違うのよ! 雄真君に貰ったから嬉しくてつい『ゆう君』ってつけちゃっただけなんだからね! それ以外に深い意味はないんだよ!」
「あぁ、ゆう君ってのはやっぱりふくろうの名前か」

普段あまり見ない春姫の慌てっぷりに、さすがの周りも興味津々でこっちを見始めていた。
そろそろ止めてあげた方がいいかもしれない。

「とりあえず、春姫。落ち着こう、周りが何事かと思ってこっちを見てるよ?」
「あ!」

今だ興味を示してくる奴らに、俺は片手を振ってなんでもないと告げる。
なんでもない訳が無いんだろうが、こっちを見ていた連中がとりあえず視線を外してくれた。
春姫はというと、恥かしそうに顔を伏せたまま目をこっちに向けた。
本人は無意識の行動なんだろうが、思いっきり上目遣いで見られて少しばかり俺の顔も赤くなってしまったかもしれない。

「ほ、本当に深い意味はないんだからね……」
「まぁ、春姫がそんなに慌てたように言うのは驚いたけど、それだけ気に入ってくれたなら何よりだよ」

ホワイトデーのお返しとしては、つりあわないかもしれないと思っていたが、予想以上に気に入ってくれていたらしい。
今だ赤い顔をした春姫に笑顔を向けて、純粋に喜びを表す。

「それじゃ、これでこの話はおしまい、かな?」

これ以上ふくろうの事を言っていたら、春姫の顔から火が出てしまうかもしれない。
そう思って、俺なりに気を使って話は終わりという風に切り出してみた。

「え……えぇ、おしまいね!」

どうやら、俺の気遣いは正解だったらしい。
春姫が笑顔でそれに乗って、終わりになったかと思ったら……

「雄真様! 私の話はまだおしまいではありません!!」

ソプラノの猛抗議によって、綺麗に幕を閉じることに失敗した。

「……やれやれです」

ティアのその一言が、妙に耳に痛く残った。
……っていうか、これって俺が悪いのか?









学生の大半が心待ちにしているであろう昼休み。
柊もどうやら今日はバイトがないとの事らしいので、みんなを誘って屋上で食べようという話になった。

「よう、今朝ぶりだな、準、ハチ、すもも」

魔法科の方が先に授業が終わったんだろう。
俺達が屋上についてから少したって、普通科のメンバーが顔を覗かせた。

「あ、兄さん」
「お待たせ〜」
「あぁ、姫ちゃんや杏璃ちゃんと一緒に飯が食えるなんて……!」

俺たちの姿を見つけると、一目散に駆けてくるすもも。
それに続きながら、準とハチが俺たちに合流した。

「……それにしても、ここまで揃うと結構な人数だよな」

魔法科で言えば、俺や春姫、柊に上条兄妹、そして学年が違うが伊吹。
普通科は準にハチ、すもも。
合計九名という、なかなかの人数のグループになっていた。

「ふむ……少ない方がよいのなら俺は席を外すが?」
「私も、兄様共々席を外しましょうか?」

俺の発言を悪い意味で取ったのか、上条兄妹がそう提案してきた。
それに対して、そうじゃないよと前置きしてから俺はそう思った理由を話した。

「魔法の事を隠して普通科にいた時は、精々俺や準、ハチの三人だけだったからさ」

去年の事ではあるが、一年で変われば変わるものだと本当に思う。
一時期は敵対していた伊吹たちが、同じグループにいるからこそ、そう感じるのかもしれないが。

「春姫たちと会って、すももが瑞穂坂に入学して、伊吹たちが来て……」

長いような短いような、そんな想いを込めてゆっくりと言葉にしてみる。
それを聞くみんなも、少なからず同じ事を考えているような表情をしていた。

「と、まぁ慣れない感傷は置いといて。さっと食べようか」

そう笑顔で言った時、俺とティアの魔力探知に強い魔力反応が引っかかった。
瞬時に思考を切り替えて、ティアをマジックワンドに戻すと俺は魔法を詠唱した。

「ディ・ラティル・アムレスト!」

驚いた表情をするみんなを他所に、俺は比較的本気で防御障壁を展開していた。
そして、その障壁と丸い緑色の物体が激しく音を立ててぶつかり合った。

「……小雪さん、誘わなかったのは申し訳ないですけど、その自己主張はどうかと思いますよ?」

暫くの拮抗の後、その物体は跳ね返るように飛んで行き、小雪さんのワンドの先に納まった。
あえて言う必要もないだろうが、緑色の物体とはタマちゃんである。

「みなさんお揃いなのに、私だけ呼んでいただけないのは寂しいです」
「あんさん、また力をあげたんやな〜。さっきのワイには結構な魔力が篭ってたんやけど〜」

まるで攻撃した事を悪びれる様子も無く、拗ねたように言う小雪さんとタマちゃん。
いつもの事なので苦笑しながら、小雪さん達も一緒にどうぞと言って俺は輪の中に誘い入れた。

「それじゃ、改めて……いただきます」

すももから受け取った弁当を開いて、何故か俺が最初の一言を言う事になっていた。
別に誰が言ったって変わらないはずなのに、みんながみんな、俺の方を向いて待っているんだから困った。

『いただきまーす』

いざ俺が弁当に手をつけようとした時、春姫はバスケットを出して開いた。
そこにはいろんな種類のサンドイッチが詰まっていた。

「へぇ〜、春姫のうまそうだな……」

食とは、目から入るとも言われるが、まさしく春姫の弁当はその言葉どおりだった。
色鮮やかなサンドイッチを見て、自然と俺の口がそう言っていた。

「食パンが余ってたから結構一杯作っちゃったの。雄真君も食べる?」

言った後に自分でも卑しかったかと思ったが、春姫は気にした風もなくサンドイッチの詰まったバスケットを差し出してくれた。

「いいの? それじゃあ一つ貰っていいかな?」
「うん、雄真君の好きなの取っていいわよ」

バスケットの中のサンドイッチを一切れ貰って、俺は口へと運んだ。

「ん……! 美味い」
「ふふ、ありがと」

すももの弁当も美味いが、それとはまた違う美味さだった。
やっぱり、作る人によって微妙な味の違いとかがあるんだろう。
俺の中で、すももの弁当と差がつけられないくらい美味しく感じた。

「さすが春姫だな。本当に美味しいよ、これ」
「もう、サンドイッチなんて誰が作っても変わらないって」

そう言いながらも嬉しそうに、照れた笑いを見せる春姫。
お世辞じゃないと言いつつ、俺が貰ったサンドイッチを味わって食べていると……

「ほっほーう」

柊からそんな不穏な台詞が聞こえてきた。
それだけじゃなく、周りからも何やら不穏な空気が漂っている。
な、なんなんだ……?





















      〜 あとがき 〜


ソプラノの話はやらなきゃいけない気がしていた。
これも所謂使命感。
とりあえず、ソプラノはあれくらいはっちゃけることが少ないからこういうところで出さないと。
何故か、話が予想より斜め上に突き進みそうです。
また、ちょっと長くなるんかなぁ……?

まぁいいか、それも一つの楽しみということで。

          From 時雨


初書き 2008/10/21
公 開 2008/11/05