そう言いながらも嬉しそうに、照れた笑いを見せる春姫。
お世辞じゃないと言いつつ、俺が貰ったサンドイッチを味わって食べていると……

「ほっほーう」

柊からそんな不穏な台詞が聞こえてきた。
それだけじゃなく、周りからも何やら不穏な空気が漂っている。
な、なんなんだ……?


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「……な、なんだよ」

ニヤニヤ笑っている柊と、それと同じくらいのニヤっとした笑いを見せる準。
その二人の空気に押されながらも、そう問いかけた俺に、二人が答えた言葉は……

「ふふーん、らぶらぶ?」
「らぶらぶ」

そう言われ、俺は自分の行動が名実共にノロケになると気付いてしまった。
瞬時に、顔に熱が集まってくるような感覚。
傍から見れば、俺の顔はさぞ赤くなっているだろう。
隣を見れば、春姫の顔もまた赤くなっていた。

「な……ラブラブだけで会話をするな。お前らラブラブ星人か!」

照れを誤魔化す為に、自分でもよく分からない事を口走っていた。
そんな俺を愉快そうに見ながら、からかってきた二人はさらに言葉を続けた。

「だってぇ……『今日は雄真君のためにサンドイッチを作ってきたの。食べてくれる?』」
「『ありがとう春姫。それじゃ、あーん』」
「『はい、あーん。ふふ、何だか恥ずかしいわね……』」

と、まぁ即席の癖に妙に息のあった寸劇を見せてくれましたとも。
何より、寸劇はまぁ百歩譲っていいとして……

「見てるこっちが恥ずかしいわ! つーか、勝手に変なやりとりを捏造するんじゃない!」

誰もそんな事は一切してないだろうが!
その想いを十二分に込めて怒鳴ると、準と柊は笑いながら怖―いと言いながら逃げるフリをした。
一方、大人しく寸劇を見ていたかのように思えた他のメンバーはと言うと。

「くそぉ……雄真めぇ……羨ましいぞぉ……」

血の涙を流し、本気で悔しそうにしているハチと。

「うむ、仲良き事は美しきかな」
「同感です、兄様」

合っているような、合っていないような事に頷いている信哉。
それに同意して微笑ましそうな顔をしている上条さん。

「貴様らは……病室でもやっていたがワザとではあるまいな?」
「まぁまぁ、伊吹さん。雄真さん達がそんな器用な事をできると思いますか?」
「あの二人は純度百パーセントの天然やでぇ」
「フン、無理であろうな」

俺たちを見て呆れた視線を隠そうともしない伊吹。
それに火に油と言わんばかりな事を言ってくれる小雪さんとタマちゃん。

「いーなー、姫ちゃん」

そして、純粋に羨ましそうにしているすもも。
そんな混沌としてしまった場を治める手段を、俺は持ち合わせていなかった。
せめて味方を……と、春姫の方へ視線を向けると、俯いたまま何かを考えるような仕草をしていた。

「……春姫?」

呼びかけてみても、反応が無い。
珍しいなと思いつつ、様子を窺っていると、唐突に春姫はその顔を上げた。

「ゆ、雄真君!」

そして、相変わらず赤い顔のままだが、何かを決意した雰囲気で俺の事を呼んだ。
そのあまりの唐突さに、ついつい俺も居住まいを正してしまった。

「な、なんでしょう?」

一体春姫が何を思いついたのか解らないために、とりあえず春姫の言葉を待ってみる。
すると、少しモジモジとしたかと思えば、バスケットからサンドイッチを一つ摘み上げると、俺の方へと差し出して……

「あ、あーん……」

そう、新たな爆弾を投下してくれました。

「ひゅ〜、春姫、やっる〜」
「わぁ、春姫ちゃんったら大胆ね〜」

真っ赤な顔をしたまま、こちらを見ないでサンドイッチを差し出したままの春姫。
これを、どうしたものかと冷や汗が背中に流れるのを感じつつも、救援の手はないかと周りを見てみたが。

「兄さん!ちゃんと答えてあげなきゃダメですよ!」
「マスター、ここはビシっと決めてください!」

どうやら、俺の味方はこの場には存在しなかったらしい。
こうなった以上、春姫は俺が本気で嫌がらない限り止めてくれないだろうし、そもそも俺が春姫を嫌がる理由がない。
そうなると、残された道は一つしかない訳で……

「お前ら、後で覚えてろよ……」

最後の悪あがきとも言える一言を残して、俺は意を決した。

「あ、あーん……」

そして、俺は春姫が差し出したままのサンドイッチをその口へと入れた。
はっきり言って、恥ずかしすぎて味なんて解らなかった気がする。








一騒動あった昼食も終わり、授業が始まるまでの時間をのんびりと過ごしていた俺たち。
ちなみに、俺をからかってくれた柊には基本魔法式のレポートを提出するように言い渡してやった。
準たちはもう慣れた物で、俺が何を言っても効果がないからな……

「そうだ! 花見のシーズンはとっくに終わっちまったけど、みんなで紅葉でも見ないか!?」

うな垂れている柊を見て、多少気が晴れたのを感じたその時、ハチが何かを思いついたのか急に提案してきた。
そう言われて、この場にいるメンバーに目を向けてみる。
そういえば、ここにいるのは伊吹達以外は前に花見で一緒にいたメンバーだったな。

「あら、ハチにしてはいい案じゃない! 校舎が直って魔法科のみんなと会う機会も減っちゃったし、いいかもしれないわね!」

ハチの提案を受けて、準の目が怪しく光ったのに気付いてしまった。
恐らく、また何か思いついたんだろう、準が両手をパンっと合わせながら立ち上がった。

「今度、みんなで紅葉を見ながら集まらない?」

全員を見回すようにして言ったその言葉を、否定する人物はこの場にはいなかった。
逆に、それは名案だとばかりにとんとん拍子で話が盛り上がっていっている。
伊吹まで、この話に乗ってくるとは予想外だったが、さらに予想外の言葉が伊吹から放たれた。

「ならば、私が場所を提供しよう」
「伊吹が……ってことは、式守家か?」
「うむ、もうじき紅葉が見頃になる時期だったはずだ」

那津音さんが助かってから、目に見えて伊吹からはあの時の険しい雰囲気が消えていた。
だからだろうか、自然と伊吹がこういう事を言えるようになったのは、嬉しいと思う。

「ですが、移動手段はどうするのでしょう?」
「魔法使いの小雪姐さん達は飛んでいけるんやけど、普通科の人たちは飛べへんからなぁ〜」

俺たち魔法使いは、制御に難があるのがいたり、飛べないマジックワンドを持ってたりするが……大体は空を飛んで行ける。

「そうねぇ……やっぱり電車とかかしら?」

だけど、どうせみんなで集まるのなら、一緒に行動した方が楽しいと思う。
考えている事は同じなんだろう、だからこそ俺たち魔法使いはあえてその事を言わずにいた。
まぁ、タマちゃんの言葉はある意味正論だから、それを責めている訳じゃない。

「情緒などを一切破棄するのであれば、俺の魔法ですぐに行けない事はないが……」
「どうせなら、一泊二日みたいにした方が面白いわよねぇ……」

どんどん話が飛躍している気がする。
もしかして準は、その一泊二日を式守家に頼るつもりなんだろうか?
何故か、俺の脳裏にあっさりと許可を出す那津音さんの姿が浮かび上がった。
……まだ現当主は、護国さんのはずだよな?

「本家の方には、私から言っておこう。信哉、沙耶構わぬな?」
「はっ」
「お心のままに」

そして、なし崩しだった企画がいつの間にか、本格的な計画として動き出していた。

「それじゃ、伊吹ちゃんに式守家への連絡はお願いして……オッケーが出たら今度の土日にみんなで行きましょう〜!」
『おー!』

なんていうか、男女比率がおかしい気もするが、これはこれでありなんだろうか……?
すでに状況に流され始めている俺を置いて、準を筆頭に話が盛り上がっていた。

「いやぁ……伊吹も随分馴染んだよなぁ……」

とりあえず、俺が言えたのは的外れなその一言だった。

「楽しみですね、伊吹ちゃん!」
「ん、あぁ……そうだな」

これもまた、すもものお陰なのかもしれない。

「えぇ、構わないですよ。楽しみにお待ちしてます〜」

ちなみに、式守家からは予想通りあっさりと許可が出た。
那津音さんから。
……それでいいのか、式守家。

「……ま、いいか」

結局、今度の土日の予定が一泊二日の小旅行として埋まった。
それまでは、各自思い思いの準備をするように。と言って、企画進行の準が話を纏めて昼休みが丁度よく終わった。

「……そうだ、柊」
「何よ?」

教室へと戻る途中、俺はある事を思い出して、柊に声をかけた。

「小旅行、楽しみたいのならレポート前日までに提出な」

出来れば旅行の二日前くらいが採点する側としても助かるが、そのくらいの苦労は問題ないだろう。
さっきの報復の意味も込めて普段あまりしないような意地悪な笑顔を向けると、柊は顔を青くしてレポート作成を始めていた。
ま、採点はそんなに厳しくはしないつもりだけどな。

「雄真殿」

珍しく信哉から声をかけられた。
どうしたのかと思い、振り返ってみると何故か信哉は困ったような顔をしていた。
同じく上条さんも、どこか困ったという雰囲気を見せている。

「ん、どうした?」
「小旅行と言うのを、俺はした事が無いのだが、何を持っていけば良いのだろうか?」

―――――準殿の言う準備というのが、俺にはわからないのだ。
真面目すぎるほど真面目な顔をしてそんな事を言うものだから、悪いとは思いつつも、ついつい笑ってしまった。

「そうかたく考える必要はないさ、式守家ってのは信哉たちの家もあるんだろ?」
「あぁ、離れの方に住む場所を頂いている」
「なら、実家に帰る程度の準備をしていけばいいさ。遊ぶ道具とかは準やハチが用意するだろ」

笑いながらそう言ってやると、納得が言ったのか頷いてお礼を言って来た。
それに手を振りながら答えながら、俺は一言だけ言っておこうと思った。

「信哉、上条さん」
「む?」
「なんでしょうか?」

春姫にアイコンタクトを送ると、俺の言いたい事を理解してくれているのか、笑顔で頷いてくれた。
何を言うのかと、真剣な表情で見てくる二人に俺たちは、声を合わせて言った。

『折角の旅行、楽しもう』





















      〜 あとがき 〜


というわけで、斜め上に進んでいく話がいつのまにか紅葉見学小旅行に。
まぁ、せっかく那津音さんが生きてるのに出番がないのも可哀想だしねぇ?
あと、春姫のあーんは諸事情により、時雨の捏造を織り込みました。

……悪いか! 春姫が可愛くて仕方が無いんだ畜生!
ここでやらにゃ俺が俺じゃないだろう!?

さて、落ち着こう俺。
ビークール、ビークール。

          From 時雨


初書き 2008/10/21
公 開 2008/11/22