一部の興奮が冷めやらぬまま、目にクマを作った数名……
まぁ、ハチだったり、ハチだったり、緊張してたのか何故か信哉もだったりしたんだが。
大体の連中は落ち着いた様子で、集合場所だった駅前に朝から集合していた。

「……いや、落ち着いて見えるだけか?」

落ち着いて見えるだけで、恐らく俺もきっと気分が高揚しているんだろう。
だからこそ、同じような状態にある人を見ても落ち着いているように見えるんだ。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















「楽しみですね〜、伊吹ちゃん!」
「あぁ、そうだな」

すでに仲良しこよしというか、伊吹はすももが腕に絡み付いてくるのを気にしていないようだ。
前ならつかみ掛かってくるすももから必死に逃げようとしていただろうに。

「沙耶、抜かりはないか?」
「兄様……その台詞はもうすでに10回目です」

信哉が背負ったボストンバックを見ながら、上条さんにそう聞いている。
それに答える方は、ため息をこぼしながら何度目かの同じ返事を返していた。
……なんていうか、信哉がああなるとは思っていなかったなぁ。

「それにしても、春姫に小雪先輩は荷物が少ないわね……?」
「一泊二日だから、そこまで多くの荷物はいらないんじゃ……」
「私は、エプロンがあれば大体は大丈夫ですから」
「柊の姉さんの荷物が多すぎなだけや〜」

信哉に負けないサイズのボストンバックを担いだ柊と、そこまで大きくないカバンを手にした春姫。
そして、やっぱり手ぶらにも見えるが、四次元エプロンは持ってきている様子の小雪さん。
タマちゃんの突っ込みもしょうがないと思う。
明らかに柊は荷物が多すぎるように見えるし。

「準、手配は?」

滂沱の涙を止め処なく、目から垂れ流し状態のハチから目を背けつつ、準へと問いかける。
やはり付き合いの長さからか、俺の言いたい事を理解していた準は手に切符を人数分取り出して笑って見せた。
さて……準備も完了しているとするなら、後は出発するだけなんだけど……
未だ取りとめのない話で盛り上がりを見せるメンバーを見て、俺はため息が零れた。

「……これは、俺が纏めないないといけないのか?」

何故か、この小旅行の幹事というか、まとめ役に俺が選ばれてしまった。
……なんでだろうなぁ?

「まぁ、それが雄真の役目だからじゃない?」
「俺より、お前とか小雪さんの方が適任だと思うんだけどな」

自前のファンクラブを持っているだけあって、準の集団統率能力は割りと高いと思う。
そんな準がいるのに、なんで俺がやらなきゃならないんだ。

「私じゃ無理よぉ、やっぱり雄真じゃないとね」

その根拠を是非とも教えてもらいたいが、電車の時間は刻一刻と迫ってきている。
……仕方が無い、とりあえず電車に乗る事、まずはそれからだ。

「おーい、そろそろ電車に乗り込むぞぉ!」

完璧に遠足に行くようなノリで、俺たちはゾロゾロと連れ立って行動を開始することになった。
……なったのはいいんだが。

「……準、車両を間違えてないか?」

俺達が改札を通ってすぐ、何故か駅員に付き添われてあり得ない車両へと来た。
……グリーン車、所謂富裕層が乗るような座席が広く、快適な旅を保障してくれる車両。
一般人が乗る所よりも高い車両へと、俺たちは案内されていた。

「おかしいわねぇ……これ、雄真のお母さんから貰ったんだけど」
「それは、どっちの母さんだ……?」
「あぁ、ゴメンゴメン。音羽さんじゃない方よ」

音羽かーさんもやろうと思えばやってきそうだからこそ、俺はどっちのと聞いた。
どうやら、今回のコレに関しては鈴莉母さんが犯人らしい。

「普通、学生の旅行でグリーン車なんて使わせるか……?」
「兄さん、兄さんのお母さんからこれ預かってたんですけど……」

俺が呆れた表情を隠す事なく見せていると、すももがテケテケと寄ってきて、手紙を差し出してきた。

「兄さんが列車について呆れた顔をしたら渡して欲しいって」

差し出された手紙を読んで、俺の肩がさらに沈んだのは言うまでもないだろう。
手紙の内容を要約するとこうだ。
式守、高峰両家のお嬢さんを一般車両に乗せるのは良くないだろう。
ついでに言うと、ギリギリまで隠してた方が俺の驚く顔が面白そうだから。
そう言うことらしい。

「わざわざ俺の驚く顔を見たいが為に、こんな金のかかる事をするのか……」

大丈夫なんだろうか、世界が注目する大魔法使いがこんな愉快犯で。
俺のそんな考えも知るはずがないメンバーは、それぞれが電車へと乗り込み始めていた。

「雄真君、早くいこ?」

……まぁ、折角高い席を貰ったんだ、ラッキーだと思っておこう。
そう思考を無理矢理切り替えて、俺は春姫に促されるまま、列車へと乗り込んだ。



























快適な列車の旅。
そうなるハズだったのに、なんで今はこういう事になってるんだろうか?

「動くんじゃねぇ! 全員大人しくしてろ!!」

列車が走り出して少し立つと、妙に後続車両が騒がしくなった。
そして、車両の間の扉を荒々しく開け放つと、目差し帽をを被った男が乱入して来た。
その男が言った台詞が、今の通りだったりする。

「どう考えても、コレは列車強盗……だよなぁ?」
「ゆ、雄真君。どうしてそんなに冷静でいられるの!?」

抵抗する事無く、男の言うとおりに行動を始める俺を見て、春姫が焦ったような小声を出した。
ここで大声を張り上げないあたり、春姫も割りと冷静だと思う。

「んー、まぁそこまで焦る必要もないと思うんだ」

そうは言いつつも、俺はカフス状態のティアへと念話を飛ばす。

『相手に魔法使いはいそう?』
『そうですねぇ……魔法使いはいなさそうですが、人数が10人前後。内2人は機関手を抑えてるみたいです』

と、なると他の車両もそれぞれ見張ってるのがいるのか。
一応冷静に状況を考えてはいるが、俺としてはそこまで気を張っていなかったりする。

「すももと準、あとハチはあいつらの言うとおりに大人しくしておいてくれ」
「任せとけ! すももちゃんには指一本触れさせねーぜ!」
「まぁ、ハチはああ言ってるけど、一応気をつけるわ」
「兄さんも、気をつけてくださいね?」

……何故なら。

「杏璃ちゃん、行けるよね?」
「もっちろんよ、春姫!」

今この列車には……

「ふん、折角の興に水を差すとは、無粋な輩だ」
「伊吹様、ご命令を」
「命あらば、この風神雷神で即座に斬って捨てましょう」

そんじょそこらの魔法使いが裸足で逃げ出すような……

「タマちゃん、行きますよ」
「あいあいさー」

無駄に豪華なメンバーが揃っているんだから。

「それじゃ、他の乗客に被害が出る前に、やっちゃおうか」

俺の号令の元、その列車強盗が瞬時に制圧されたのは、言う必要もないだろう。
特に柊と信哉が対応した強盗には、哀れと言うしかない。
……合唱。



























哀れな列車強盗の後、取り分け騒動が起こる訳でもなく、俺たちは楽しい旅行を続けた。
準が持ち込んだカードゲームをやったり、ハチがあからさまな下心を見せた王様ゲームでハチばかりが辛い目にあったり。
あそこまで小細工を使っておいて一度も王様になれなかったあたりはハチらしいと思う。

「ひぇ〜、これが伊吹ちゃんの家ですか?」
「うむ、式守本家だ」

そして、時間にして昼近く、やってきました式守本家前。
俺は何度か見ているから知っているが、始めてみる事になるすももや柊たちは、その門の大きさにあんぐりと口を開けている。

「おかえりなさい、伊吹。そして、いらっしゃい、雄真君とそのお友達の方々」

俺たちが来たのを理解しているかのように、ゆっくりと扉が開いていく。
そこには何故か式守家当主の護国さんと那津音さんという式守家のトップが揃っていた。

「ただいま、那津音姉さま!」
「どうも、2日ほどお世話になります」

那津音さんが姿を見せると、伊吹が目に見えて嬉しそうに駆け寄っていった。
そんな伊吹に苦笑しながらも、俺は全員を代表する形で護国さんへと頭を下げた。

「あぁ、自分の家だと思ってゆっくりして行ってくれ。何かあればこちらから用意しよう」

俺たち全員を見渡して、護国さんはそれだけを言うと歩いて行った。
その姿を見送った俺たちは那津音さんの案内の下、今回泊まりに使わせてもらえる離れへと案内されていく。

「……雄真、俺の感覚がおかしいのか? 離れと言うより、普通の一軒家に見えるんだけど」

式守家という存在に馴染みのないすももや準、ハチと言った面々がさらに目を丸くしている。
まぁ……確かに小日向家に相当する建物を離れと称するような世界は、縁がないだろうからなぁ……
俺もこいつらと同じ立場なら、恐らく同じような反応をしてただろうし。

「それだけ、式守家ってのはでっかいって事だ。ほら、さっさと中に入ろうぜ」

呆然としているハチの背中を軽く押しながら、案内された離れへと入る。
そこには予想通りというか、全員が泊まっても余りある広さの居間が出迎えてくれた。

「話で聞いていたからちょっとは覚悟してたけど……すごいね」

当たり前に部屋に入る俺や伊吹たち、小雪さんを余所に、さすがの春姫も感嘆の声を上げた。
内装だけでも、高級旅館とタメを張れそうだからなぁ……

「男の子の部屋は1階、女の子のお部屋は2階になってます」

ここまで付いてきてくれた那津音さんが、それぞれの泊まるべき部屋を教えてくれる。
あと、オマケとして調度品は壊さない方がいいという事を冗談交じりに言われた。
値段を聞いた瞬間、触ろうとしていたすももが手を引っ込めたのに笑いそうになったけどな。

「一応大部屋という形で用意してありますけど、個室がいいのでしたら部屋を区切りで分ける事もできますから」

俺たち男連中はそういうのを気にしないが、理由があった時用に女の子の部屋は分けれるらしい。
ここら辺の気遣いは、さすがとしかいいようがない。
信哉たちは自分の部屋があるが、どうやら俺たちと一緒にここに泊まるようだ。
各々が荷物を部屋に置き、居間でひとまずくつろいでいる時、誰かわからないが可愛らしい音が聞こえた。

「……あ、あははは」

音がしたであろう方向へと顔を向けると、顔を赤くした春姫と杏璃がおなかを押さえながら苦笑していた。
それを袖で口元を隠しながら上品に笑う那津音さん。

「それでは、お食事にしましょうか」

そして、再び那津音さんに案内されながら、俺たちは豪華な昼をその胃袋に収めた。
料理の味は、日の打ち所がないくらい美味かった。
さすが式守家、素材そのものから違うなぁ。





















      〜 あとがき 〜


列車での旅を長く引っ張るツモリがなかったので、割とさくっと進みました。
列車強盗はオマケ的要素ですけど、哀れでならないなぁ……
あのメンバーと対峙して、成功率なんざ天文学的なレベルまで落ち込むだろうし。

屋敷の方ではいろいろ書きたいから、こっちで何ぼか使うかもしれない?
いやまぁ、雄真と春姫が熟年夫婦みたいな事しそうな気もしますがー
アッチ方面の直接的記述はする気はないが、まさかあり得るのか!?
……まっさかー?
ふははは、さぁて何やらかそうかなー!

          From 時雨


初書き 2009/01/26
公 開 2009/01/27