前よりも来る回数の増えた母さんの研究室。
その近くに作られていた魔法練習場。


「……ふぅ」
「……行くぞ、雄真殿」


再び母さんにフィールドの形成を頼み、その中で俺と信哉は向かい合っていた。
その空気は、歪みが見えそうな程緊迫している。


「……勝負だ、信哉」
「望むところ!」


そして、俺と信哉は瞬間的に駆け出した。


















二次創作 はぴねす!
Magic Word of Happiness!


















無事に那津音さんを救い出し、背負う物が減った伊吹たち。
ふと思い出した、前に頼んでいた信哉との模擬戦を申し出たところ、快く承諾してくれた。
そして、母さんにも協力を要請し、場所を借り受けたわけだが。


「エル・アムダルト・リ・エルス……」
「破っ!!」


俺の詠唱を妨害しようと、信哉が風神雷神を上段から振り下ろしてくる。
それをサイドステップで回避しながら、俺は1つ目の呪文を放った。


「ディ・ダ・オル・アムギア!」


魔力で出来た複数の蔦が、信哉を拘束しようと地面を走る。


「風神の太刀!」


だが、その魔法は風神雷神に魔力を這わせ強引になぎ払われた。
そして、攻撃の手を緩める事無く再び俺に向かってくる。


「……足止めにもならないのかっ」


まさか1撃で蔦をなぎ払うとは思っていなかった。
信哉の攻撃を、今から回避をするには、少しばかり無理な体勢と判断した。


「ディ・ラティル・アムレスト!!」
「雷神の太刀!!」


鈍い音を立てて、俺と信哉の魔法がぶつかり合った。
そして巻き起こる余剰魔力による魔力風。
だが、それも短い間で、俺の防御魔法にヒビが入り始めた。


「……対魔法武装(アンチマジック)ってのは伊達じゃないな」


信哉の持っているマジックワンド、風神雷神は対魔法の効果を持っているらしい。
その為に、状況に合わせた風神と雷神の太刀で魔法使いの天敵とも言える戦い方をしてくる。


「……やり辛い事この上ない」
「ですが、効果範囲が絞られてますから、対策は取れます」


ヒビが入った部分に、魔力をさらに注ぎ込み強引に持ち直す。
魔法使いとして戦っている俺が、接近戦の信哉を倒すために考えられる方法は……


「1つ目、行くぞっ!」
「了解!ディ・ナグラ・フォルティス!」


防御魔法を展開しつつ、ティアの宝石の部分に魔力を注ぎ込んでいく。
ティアの宝石の色が徐々に蒼く発光していく。
1つ目の方法、それは信哉の風神雷神よりも強い火力で強引に押し進む!


「……エルリシア・カルティエ・フォン・クレイシア!!」


自分の防御魔法の中から、信哉に向かって青い火球を放つ。
それが放たれたと同時に、俺たちは大きく後ろに距離を取った。


「まだまだ!アス・ルーエント・ディ・アダファルス!!」


距離を取ったのなら、こっちからすれば好都合だ。
俺は追加詠唱で火球を複数個に分裂させ、それの動きを変則的に操り信哉を狙う。


「はああああ!風神の太刀!!」


驚くべき事に、立体的に迫る火球を信哉は全て切り落としていた。
だが、俺もそれを手をこまねいてみているだけだと思うなよ!!


「カルティエ・エル・フォルス!!」


未だ火球との格闘を続けている間に、ティアに這わせた魔力を地面へと流す。
爆発範囲は信哉を中心として5メートル、威力は中、非殺傷!


「……っ!」


信哉は俺が何かを仕掛けたのに気づいたんだろう。
致命的な火球以外はほぼ無視する形で俺に突っ込んできた。
……くそ、そこまで思い切りがいいのか!


「雷神の太刀 奥義!武御雷(たけみかづち)!!」


分散させたために火球の色は赤くなっているが、少しでも掠るだけで火傷は免れないだろう。
それなのに怯む事無く、信哉は俺への最短距離を突っ切ろうとする。


「正気か!信哉!!」


だが、火球が当たる寸前、信哉の姿が霞むように消えた。


「マスター、防御を!!」
「―――――っ!ラティル・アムスティア・エル・アムレスト!!」


そして、信哉が消えると同時に俺の脳内に流れた、切り裂かれる明確な幻視(ヴィジョン)
それに一瞬怯んだが、ティアの声と共に俺はとっさに生み出した新たな防御呪文を紡いだ。


「ふんっ!!」


複数の回転している輪、俺の周囲に展開された。
声が聞こえたかと思うと、俺のすぐ目の前で信哉は防御魔法とのせめぎ合いを再び行っていた。


「く、やるな雄真殿……この場で新たな魔法とは」
「……信哉こそ、これが思いついてなかったら、俺の胴体は真っ二つだよ」


ギギギと、せめぎ合いながらも軽口を交わす。
俺も信哉も、お互いが額に汗を滲ませていた。


「だが、これを受けきれるか、雄真殿!!」
「――――っ!?」


受け流されるかのようにわざと風神雷神を地面の方に滑らせる信哉。
そして、不敵に笑うとその魔法を放ってきた。


「風神の太刀 奥義!昇・風神閃(しょう・ふうじんせん)


地面に向かう風神雷神の切っ先を返し、斬り上げるような下からの斬撃。
瞬時に反応した輪が、信哉の攻撃を防ごうとした。


「マスター、下がって!!」


だが、それよりも早く聞こえたティアの声に、俺は大きく後ろに飛び退いた。


「はぁ!!」


ガラスが割れるような音と共に、切り裂かれ砕け散る俺の防御魔法。
……かなりの魔力を注いだあの防御を貫くとは、さすがに思っていなかった。


「ふむ……雄真殿判断力は素晴しいの一言に尽きるな」
「ティアの声がなかったらヤバかったけどな……」


お互い、予想以上に魔力を使いすぎて軽く息切れに似た状態になっている。
こと接近戦に関しては、やっぱり信哉の方に分があるな……
それに、俺はつくづくティアに助けられている。


「ティア……2つ目、行くぞ」
「了解です」


強引に押し切る方法は、信哉が相手では分が悪すぎる。
魔法に対してかなりの効果がある風神雷神を吹き飛ばすのは、経験に乏しい俺にはまだ辛いだろう。


「……ディ・ダ・オル・アムギア!」


だからこそ俺は、もう1つの手段を取る事にした。
それは、信哉の手から風神雷神を離す事!


「それは効かぬのは分かっているだろう!!」


再び風神雷神で蔦をなぎ払っていく信哉。
効かないのなんて知ってるさ、俺の狙いは……ここからだ!


「ディ・フィルス!」


ティアに重力を減らす魔法をかけて貰い、思いっきり地面を蹴って信哉に向かって走る。
さっきの信哉とまではいかないが、それでも一般人には出す事もできない速度で駆ける。


「―――っ!狙いはそれか!」


俺の突撃に気づいた信哉が、一気に蔦を切り払い風神雷神を構える。
やはり信哉は正面からの真っ向勝負を選んで来たか。


「破っ!!」


俺に向かって振り下ろされてくる風神雷神。
それを確認した後、俺は目を閉じた。


「な、雄真殿、何を!」


わざわざ攻撃を目の前にして目を瞑るというのは、愚かな行為だと言ってもいい。
だが、俺が考えも無く目を閉じるわけが無いだろう!


「カルティエ・エル・アダファルス!」


訓練で使っていた光の球を生み出す魔法を、光の強さを最大にして俺は解き放った。
一瞬で視界を塗りつぶす光、目を瞑っている俺は問題ないが、信哉の方はどうかな!?


「――――くっ、目が」


一瞬で光を消し、再び目を開く。
目前に迫っていた風神雷神を瞬時に横に飛び退いて避け、休む事無く次の魔法を詠唱する。


「アス・ルーエント!」


握りこぶしくらいの大きさの魔力球を生み出し、信哉の手に向かって放つ。
直撃した魔力球の衝撃に、未だ目が復活していない信哉の風神雷神は弾かれた。
そして……コレでラストだ!!


「ディ・ダ・オルス・リアムギア!!」


防ぐものがなくなった信哉に対して、今度は威力の高い拘束魔法を放つ。
さすがに風神雷神が無くなって抵抗する手段がない信哉は、複数の光の鎖に絡め取られた。


「……俺の、勝ちだな。信哉」


鎖に巻かれ倒れた信哉にティアを突きつけて告げる。


「……くっ、無念」


ようやく目が正常に戻ったのか、俺の方を見ながらも信哉は悔しそうに告げた。
それをしっかりと聞き届けた後、俺は魔法を解除してその場に座り込んだ。
実戦で、ここまで精神力を使うとは思っていなかった。


「……はぁ、すごく疲れた」


ここまで疲れるなんてことは、1人で魔法の練習をしている時にはなかったしな。
座るだけで飽き足らず、背中から倒れるように大の字になる。
信哉もかなり疲れていたんだろう、俺と同じように起き上がる事無く、地面に寝転がったままだ。


「……さすがに式守を護る上条の人間だけあるなぁ、信哉」
「雄真殿こそ、それで対人に慣れてないとは信じられぬ」


お互いの口から出てくる事は、今の戦いでのお互いの反省点。
俺はティアに頼りすぎている所がある為に判断が遅れる事があるということ。
信哉は風神雷神が手から離れた後の魔法に対する対抗策の少なさ。


「課題はやっぱり山のようにあるなぁ……」
「だが、今回の事は俺にもいい勉強になった」


寝転がったまま器用に頷いている信哉。


「あぁ、それは俺もだよ。ありがとな、信哉」
「此方こそ、また頼みたいくらいだ」


俺の方としてもその提案は願っても無い。
信哉のような接近戦の使い手なら、俺にとってもいい練習になる。


「……で、雄真君に上条君、いつまで寝ているつもりかしら?」


唐突に、俺たちの上から声がかかり、その方向を向く。
するとしゃがみ込んで俺たちを見ている母さんが、半分呆れたような顔をしていた。


「……えーっと、母さん。なんでそんな顔を?」


信哉と顔を見合わせ、とりあえず実子である俺が疑問を口にする。
すると母さんは表情に笑顔を貼り付けると、俺と信哉にデコピンをした。


「いたっ!」
「まったく、魔法の模擬戦で倒れて動けなくなるまでやるなんて貴方達が始めてよ」


どうやら、俺たちがぶっ倒れて動けなくなるまで模擬戦を続けたのが問題だったらしい。
呆れながらも母さんは回復魔法を俺と信哉に使ってくれた。


「……すいません」
「……申し訳ない」


ゆっくりと立ち上がりながら、俺と信哉は同時に頭を下げた。


「私はいいんだけどね……あっちにいる子たちに謝って来なさい」


母さんは呆れた顔から少しだけ笑った顔に変えると、練習場の入り口を指差した。
俺たちが模擬戦をしてるっていうのは、母さんくらいしか知らないはずだけど……?


「あっち……?」


その方向を見て、瞬時に理解して、後悔した。
そこには、サンバッハを構えて怒っていますという表情をした上条さん。
やっぱりビサイムを構えて、信哉と俺を睨んでいる伊吹。
そして、とてもいい笑顔なはずなのに何故か黒いオーラが見える春姫がいた……


「……信哉、お互い……頑張ろうな」
「……抵抗するだけ、無駄であろうな」


ゆっくり歩いてこちらに来ているだけのはずなのに。
ズンズンという擬音が聞こえてきそうな3人を見ながら、俺と信哉は最後にそう言葉を交わした。
その後、無理をした事を怒る3人を宥めるのに、模擬戦より苦労したのは言う必要もないだろう。


「ちょっと、聞いてる!雄真君!!」
「は、はい!聞いてます!!」


……正座3時間ってのは、やっぱりキツイなぁ。
























      〜 あとがき 〜


本編解決より先に書いてたりします。
まぁ、もとから書く気だったから問題ないんですけどね。
やっぱりなんていうか、もう少し戦闘関連の描写技術が欲しい気もします。
まだまだ甘いんだよなぁ、俺。

さて、そんな訳でやりたかった信哉との魔法模擬戦が終わりましたー。
いやぁ、書いてて楽しかったなぁ、この2人(ぁ
はぴねす!に出てる魔法使いで信哉以上の接近戦の人っていないですよね?
遠距離対近距離、やっぱりこういうのは楽しまなくちゃ。

あと、信哉に対して秘宝編でその技使えよって突っ込みはなしでお願いします(笑
あの時はテンパってて出来なかったとかそういう感じでw

とりあえず、今回はこの辺で。

          From 時雨


初書き 2008/02/23
公 開 2008/03/09