放課後には宇宙人や未来人、超能力者が一堂に会する謎の空間。 そこに、嵐は部室に舞い降りた! 「やーやー!キョン君!ちょろんと困ったことが起こってね、助けて欲しいっさ!」 なにはともあれ、唐突ですね、鶴屋さん。 「あ、鶴屋さん」 「やー、みくる!今日もメイド姿がめがっさ似合ってるねっ!」 唐突に入ってきて、最初の一言があれだったにも関わらず、次の瞬間には違う話題に突入している。 そんなハイテンションを保ったまま朝比奈さんに挨拶しているのは、朝比奈さんの親友の鶴屋さんだ。 「で、どうしたんですか、鶴屋さん。俺に助けて欲しいって」 「そうだったっさ!いやぁ、これが実はちょろんと困ったことになってねっ!鶴屋にゃんの友達、あ、ちなみにみくるじゃないにょろよ?みくるはここにいるからねっ!それで、その友達の男の子がいたらしいんっさ!それでねっ!」 以下、長いので要約してお答えしよう。 どうやら、鶴屋さんの知り合いの友人の男、その人が文化祭で鶴屋さんに一目ぼれをした。 だがしかし、鶴屋さんは申し訳ないが付き合う気はミジンコほどもない。 それを伝えたが、鶴屋さんがフリーであるということから諦めず、一度会うだけでもしてもらえないかとなった。 相手が諦めてくれないことに困った鶴屋さんは、そこで、誰かに代理で彼氏役を頼もうと思いついたらしい。 その白羽の矢が立ったのが、何故か俺ということらしい。 「と、言うか、なんで俺なんです?鶴屋さんなら他にもその役を引き受けてくれそうな人なら一杯いるでしょう?」 「そりゃ、鶴屋にゃんがキョン君を好きだからっさ!好きでもない人にこんな役は頼めないにょろよ!」 そりゃそうだ、と納得した反面、とてつもなく凶悪な視線と、物静かで、謎の圧力を感じさせる視線が俺の背後に突き刺さった。 言わなくても察してもらえるだろう、その視線の原因の片方は、団長席に座るハルヒからだ。 その隣にいた朝比奈さんは、ハルヒの出す雰囲気に負けてオロオロしている。 しかし、もう1つの視線は、なんだったんだ? まさか長門か……いや、だが本から視線が動いたような感じはなかったんだが。 「ど、どうしたハルヒ……」 「なんでもないわよっ!」 どうやら、ご機嫌は最悪のようだ。 幻覚だと思うが、ハルヒの周りに謎の力場が発生しているように見える…… ピリリリッピリリリッ ……古泉の携帯の音がやけに大きく聞こえた。 なんとなく内容が読めるあたり若干の申し訳なささを感じる。 「……すいません、アルバイトがあるのでこれで失礼します」 やりたくないが、男同士でアイコンタクト。 内容は、 ――――逝ってきます…… ――――すまん。 古泉の目が泣きたそうに見えたのは間違いじゃないらしい。 いつものニセスマイルだが、確実に内心では売られていく子牛な様相だろう。 正直に思う、スマン。 「で、鶴屋さん一応詳細教えてもらえます?」 「おぉ、引き受けてくれるのかぃっ!そりゃめがっさ助かるさっ!!」 「えぇ、まぁ鶴屋さんの頼みですから、無碍にもできないでしょう?一応名誉顧問ですし……」 あえて名誉顧問ということを強調しておく。 そうすれば、砂漠で落としたダイヤを見つけるくらいの確立でだが、ハルヒの不機嫌が直ることを祈っていたのだが…… 「…………みくるちゃん!お茶!!」 「は、はいぃ!」 効果は見込めなかったらしい、むしろさっきより不機嫌の力場が強大化している気がする。 せ、選択を間違ったかっ!? 古泉に続いて、朝比奈さん、申し訳ない。 「それじゃぁ、よろしく今度の日曜の11時、駅前の喫茶店に集合ってことで、ひとつ頼むっさ!」 「わかりました」 「彼氏役ってことだけど、ホントに彼氏になってくれてもいいにょろよ?キョン君なら鶴屋にゃんも大歓迎っさ!そうすればキョン君と妹ちゃん両方ゲットにょろよっ!!」 ピシッ! 「ひっ!」 朝比奈さんの悲鳴ももっともだろう。 俺だって泣きたい ケラケラと笑いながら、とんでもないことを言ってくださった。 比喩でも冗談でもなく、世界が止まった気がする。 いや、事実止まったんじゃないだろうか、局地的に、この文芸部室の時間が。 ヴィーヴィー! その止まった空間を動かしたのは、またしても携帯の音だった。 今度は俺の携帯か……なんだ? 着信……古泉か。 「すいません、ちょっと電話が来たみたいで、外出ますね」 「わかったにょろよ、とりあえずもう少し打ち合わせしたいからみんなと待ってるっさ!」 急いで文芸部室から出て、電話に出る。 こいつが電話してくるなんて、普段じゃあり得ないからな。 ハルヒに聞かれないように注意しながら受話部分に耳を傾けた。 『へ、閉鎖空間の展開速度、それに付随した神人の強さが異常です!涼宮さんに何かしたんですかっ!?』 普段の古泉からはあり得ないくらいの焦った声だった。 「いや、実は鶴屋さんがな……」 状況を簡潔に説明してやった。 そうすると、古泉は諦めたかのようにため息を吐いたらしい。 受話器から聞こえた状況から察するに、だがな。 『そういうことですか……事態はわかりました、できればこれ以上閉鎖空間が巨大化しないように取り繕ってください、下手をすれば世界が消失します』 プツッ……ツーツーツー また閉鎖空間に行ったのだろうか。 かなり切羽詰った雰囲気の古泉からの電話が切れた。 しかし……これ以上機嫌を悪くさせるなと言っても……どうすればいいんだ。 頭の痛い問題が増えたが、こうしていても埒が明かないので、部室に戻ることにした。 「なんだ、あんたまだいたの……?」 「す、涼宮さぁん……」 「何よ、みくるちゃん」 戻って早々、キッツぃ一言をいただきました。 ハルヒ、朝比奈さんをそんな目で睨むんじゃない、気絶してしまうぞ。 「やーやー、キョン君。待ってたっさ!それで、当日はどうするにょろ。彼氏彼女の設定とか、お互いの呼び方とかっ!」 鶴屋さん、なぜにそんなに楽しそうですか。 ハルヒ、頼むからそんな象でも殺せそうな目で俺を睨むな。 朝比奈さん、その小動物がおびえているかのような震え方はやめてください、正直たまりません。 長門、少しくらいは現状をよくする手段を教えてくれ。 「呼び方も何も、今のままで問題ないでしょう?」 「そうかい?キョン君がそう言うならきっとそうなんだろうねっ!それじゃ問題はもうないかなっ!?」 「多分、大丈夫だと思いますよ?」 と、言うか。 鶴屋さんには申し訳ないが、これ以上会話を続けるのは危険だと判断させて頂こう。 いつまた核爆弾級が落とされるかわかったもんじゃない。 「了解っさ!それじゃぁ当日、よろしくにょろよっ!!」 にょろろ〜んっと、謎の笑い声を残して鶴屋さんは去っていった。 台風一過とはまさにこのことだろうか…… とてつもなくこの短い時間で疲れた…… 「よかったわね〜、キョ・ン。日曜に鶴屋さんとデートで・き・て!!」 俺の苦労は、まだ終わっていなかったらしい。 次の相手はラスボス、ハルヒだった。 「デートと言ってもフリだろう……」 「とかいって、内心じゃどう考えてるかわかったもんじゃないわね」 まぁ、嬉しくないといったら嘘にはなるな、鶴屋さんは美人ではあるからな。 「…………」 「な、なんだ……?」 「鼻の下、伸びてるわよ」 なにっ! 慌てて手で隠すが、見られた後ではなんの意味もないことに気づいた。 「……ばかっ!あんたなんて鶴屋さんと仲良くやってればいいのよっ!!あぁもうムカつく、今日はもう解散!!」 バンッ!! けたたましい音と共に、ハルヒは部室から出て行った。 いったいなんなんだ、ハルヒの奴…… ただ単に、俺は頼まれごとで彼氏役をやるだけだろうに……? 「あの、キョン君……」 「……?なんですか、朝比奈さん」 先ほどまで小動物のように震えていた朝比奈さんが、いつになく真剣なまなざしで俺のほうを見ていた。 なんだ、どうしたんだ? 「涼宮さんを追いかけてあげてくれませんか?」 「ハルヒを?」 「涼宮さん、泣いてました……」 ハルヒが、泣いていた……? そんなまさか、今さっきだってよくわからないが怒って部室を出て行っただけじゃないのか? 「……涼宮ハルヒが泣いていたのは事実」 今まで部室の空気と化していた長門から唐突に言われ、俺はさらに困惑した。 なぜハルヒが泣いた……? 俺が原因か? だが、ハルヒが泣く理由が思いつかない。 「……涼宮ハルヒは貴方に好意、恋愛感情と呼ばれるものを抱いている」 「ずっと前から、キョン君のことを無意識に目で追ってたんですよ、気づいてなかったですか?」 「…………」 ハルヒが、俺に恋愛感情を抱いている……? 目で追っていた? そんなバカな。 「……全て事実」 「キョン君は……涼宮さんをどう思っていますか……?クラスメイト、団長と団員、ただの知り合い……それのどれにも当てはまらない感情はありますか?」 ハルヒをどう思っているか…… クラスメイトで……大抵のことはなんでもこなして…… わがままな団長で……意地っ張りで…… でも、実は心が弱くて…… 近くにいなきゃ落ち着かない…… 「……ハルヒを追います」 「っ!キョン君?」 「上手く表現できませんが……なんとなく、言わなきゃならないことができたみたいなんで」 考えてみたら些細なことだった。 俺がハルヒをどう思っているかなんて、あの日の夜、閉鎖空間の中で出ていたんだからな。 「……頑張ってくださいね!」 朝比奈さん会心のロイヤルスマイルを背中に受け、先に出たハルヒを追って部室を出ようと駆け出した。 しかし、あいつが行きそうな場所なんて想像がつかんぞ! 「……教室」 「……長門?」 「……涼宮ハルヒは現在そこにいる」 「スマン、恩に着る」 さすがだ、万能宇宙人、長門。 見当もつかなかったから助かるぞ。 さて、待ってろよハルヒ。 教室の扉を開けると、長門が言ったとおりハルヒはそこにいた。 だが、何故か自分の座席じゃなく、俺の座席に座っている…… まったく、強情な奴だ……さて、行きますか。 とりあえず、ハルヒの隣に立つ。 「…………何しに来たのよ」 「そうだな、忘れ物を取りに来たっていうのはどうだ?」 「……ばっかじゃないの?それが目的ならさっさと忘れ物を持ってどっかいきなさいよ」 すっかりへそを曲げているらしいな。 出会ったころのハルヒとおんなじ喋り方をしている。 「そうかい、ならさっさと用件を済ますとしますか」 まぁ実際のところ忘れ物なんてしてもいないが、取ったフリをして、その場を立ち去ったフリをする。 「じゃぁな、ハルヒ」 「…………っ!キョンっ!!」 ガバッという擬音を付けてもいいんじゃないかという勢いで、ハルヒが立ち上がった。 きっと、俺がどこかに行くんだと思ったんだろう。 はたから見ればアホっぽいが、ただ単に去ったフリのリアリティーを追求するためにその場で足踏みまでしたんだからな。 「なんだ、ハルヒ?」 ハルヒの瞳は、赤くなって両目一杯に涙が溜まっていた。 なんだこいつ、泣いてたのか…… 「っ!な、なんでもないわよ!」 「っと、ちょっと待った」 「わぷっ!」 泣きはらした顔を見られたのが嫌なのか、俺の横をすり抜けてまた逃げようとしたハルヒの腕を掴んで少しだけ強引に胸の中に収める。 「ちょっと!離しなさいよ!!」 「こら、暴れるな!ちょっとさっき言い忘れたことがあってな、そのままでいいから聞いてくれ」 そういうと、観念したのか、聞く気になったのか。 腕の中で暴れていたハルヒが大人しくなった。 「確かに俺は鶴屋さんの頼みを聞いた、それで彼氏役をするわけだが」 彼氏、という単語のところでハルヒの身体がビクッと震えたのがわかった。 くくっ……わかりやすいな、案外。 「ところでだ、俺には今好きな奴がいるんだが、誰かわかるか?」 「……そんなの知るわけないじゃない」 「まぁ、そうだろうな」 「……なによ、バカにしてるの……?」 そんなつもりはまったくない。 だが、普段あれだけいろいろやらされてるんだ、これくらいの役得はあってもいいだろう? 「そいつはな、わがままで、強引で、人の話なんかちっとも聞きやしない」 ホントに、少しくらいは俺の話も聞いて欲しいもんだ。 ハルヒはまだ黙って聞いている。 おそらく、俺が言ってるは誰か考えてるんだろうよ。 「でもな、案外可愛いところもあってな、そいつが気にかけてる奴が他の女の子と話してると嫉妬するわ、泣き出して駆け出すわ」 なんとなく、俺の言いたいことを察したのか、ハルヒがまた少しずつ震えだした。 それでも、俺は言葉を止めない、これは俺が、俺から言わなきゃいけないような気がするから。 「そんな子を、いつのまにか俺は好きになっていたらしい。だから……」 そして、ハルヒの肩を掴んで、少しだけ離す。 さっきと変わらず泣きはらした目で、でも真っ赤な顔をしたハルヒの顔がすぐそばにあった。 「好きだ、俺と付き合ってくれ、ハルヒ」 多分、俺の顔は赤くなってるんじゃないかと思う。 これでも緊張はしてるんだ、それくらい許してくれるだろうさ。 「で、個人的に返事が欲しいところなんだが……っ!?」 さすがに驚いた。 返事の代わりかなんなのか、唐突にハルヒがキスしてきたんだから。 「ばかっ!言うのが遅いのよっ!!……あたしも大好きなんだから!!」 結局、鶴屋さんの頼みをハルヒも断れるわけもなく。 俺は彼氏役をやったわけだが。 ハルヒたっての希望から、鶴屋さんとは腕を組むのは禁止、手までならOKということを前日に何回も言われた。 どうやら直接鶴屋さんに言いに行ったらしい。 「にゃはははは!キョン君ってばハルにゃんに愛されてるねっ!ちょろんと羨ましいっさ!」 などとからかわれてしまった。 くそぅ…… とりあえず、話を戻そう。 結局、鶴屋さんに交際を申し込もうと思っていたらしい人は、俺と鶴屋さんが手をつないで登場した瞬間涙を流してどこかに走り去ってしまった。 何がしたかったんだ、彼は……? あぁ、もうひとつあった。 一連の騒動から発生した閉鎖空間。 そこから無事生還を果たした古泉に、散々愚痴を言われた。 お前、性格変わってないか……? 後書き 唐突は続くよあと数回、『涼宮ハルヒの憂鬱』の二次創作。 古泉を若干壊れにするのにハマってしまいそうな時雨さんです。 なんていうか普段あれだけニセスマイルしてるわけだし、壊れたらどうなるかなーなんて。 さてさて、次はどんな話になるやら? それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/03/22 |