「俺は、もうお前とは一緒にいられない……」 「待って!貴方に死なれたら……あたしは……生きていられない」 「いや……お前は生きてくれ、お前と、お前のお腹にいる俺の子が……俺の生きた証となる」 「……!?気づいて……いたの?」 そう言って、自分のお腹を押さえる女性…… 気づいていたさ……、いつだったか、お前がしきりにお腹に気を使いながら生活していたことに…… 「そろそろ追っ手がくる……お別れだ……」 「……いや、嫌よ、置いて……いかないで……」 「……じゃぁな」 最後に触れた彼女の髪は、とても温かく……柔らかかった。 「いや……いやっ……いやあああ!」 腰にある長年の相棒の刀を携えて、俺は追っ手の迎撃に向かった。 さようなら、俺の愛しい人よ。 「はい、カットです」 その瞬間、空気が変わった。 いや、変わったというより、元に戻ったの方が正しいか。 「はぁ……疲れたぞ」 「キョン君、格好よかったです」 「お疲れ様です、おかげで良い絵が撮れましたよ」 ありがとうございます、朝比奈さん。 その言葉だけで多少なりとも救われた気分になりましたよ。 古泉、お前はいい、黙ってろ。 「それにしても、キョン、あんた意外に演技上手いわね?」 「……そうかい、もう好き勝手に言っててくれ」 最初のはなんなんだとお悩みの方もいるだろう。 お答えしよう。 ここは、毎度おなじみ、SOS団アジト。 その一角のディスプレイを若干変更し、今、俺たちは自主制作映画の第2弾を撮影しているというわけだ。 「いい感じね、この調子ならクライマックスも大いに盛り上げることができるわっ!!」 なぜ、今になって第2弾の製作に取り掛かっているか…… それは、昨日の話に遡る。 いつもどおり、朝比奈さんが奉仕活動に勤しみ、長門が部室の一角で読書をし、俺と古泉がオセロをやっている時に舞い降りた。 「みんなっ注目!映画を作るわよっ!!」 そう、これもまた恒例といっていいだろう、ハルヒだ。 部室の扉を壊れるんじゃないかという勢いで開け、言い放ったのがそれである。 なんでも、映研という部があり、そこがたまたま映画を作っていたところを目撃したところから、第2弾の製作を思いついたということらしい。 そして、その時、偶然か、はたまた運命か。 長門が読んでいた本が運悪くハルヒの目に留まってしまったのだ。 「あら、有希、いいの読んでるじゃない。そうね、次の映画の内容はこれにしましょう!」 その時、長門が読んでいた本は、レジスタンスの男とヒロインたる女性のラブロマンスだったのだ。 こうして、自称、超監督涼宮ハルヒの下、自主制作映画の撮影が始まったのだった。 だが、長門よ。なぜにそんなものを読んでいたんだ? 「……ユニーク」 ……そうかい 「しかし、映画を撮るのはこの際もうどうでもいい。だが、なんで俺が主役で、監督であるお前がヒロインなんだ?」 主役をやるなら、忌々しいが俺より断然美形である古泉のほうが適任だと思う。 「別にいいでしょ、そんなの」 「僕では少々力不足ですよ」 どうせやるなら朝比奈さんがヒロイン役の方が俺のやる気にも繋がるんだがなぁ。 まぁ、そんな事を口に出したらどうなるかわかったもんじゃないから言わないが。 「ヒロインに関しては仕方ないでしょ、有希じゃな無口すぎるし、みくるちゃんじゃイメージが合わないもの」 まぁ、朝比奈さんは前回の映画のことを考えるとわからんでもない。 所詮世界はハルヒを中心に回り続けているということか。 「さ、アホキョンはおいといて、次のシーン行くわよー!」 「かしこまりました」 ……相変わらずのイエスマンめ。 少しは反対する姿勢でも見せてみろ。 「いえいえ、団長のお言葉は絶対ですから」 えぇぃ、忌々しい。 「これで大体のシーンは撮り終わったかしら?」 結局、俺の言うことなどハルヒが耳を傾けるはずもなく。 ずるずると引きずり回され、一通りの撮影をすることになった。 この時点で、すでに言い出してから数日が経過している。 冒頭は、今日撮ったシーンの一部だ。 「……撮影すべきものは大体完了した、後は編集するだけ」 そして、今はこうしてSOS団アジトで撮ったものを整理しているところだ。 主に俺が。 「そ、ありがと、有希。じゃあ休憩した後に撮ったシーンを個別に見てみましょ!!」 どうやら、俺にも休憩をくれるらしい。 ……やれやれ、ようやく休めるそうだ。 「お茶、どうぞ〜」 「あ、朝比奈さん、ありがとうございます」 「いえ、私はこれくらいしか今回はできませんから」 いえいえ、貴女の御手が差し出すお茶があれば、多少の疲れなど異次元の彼方まで吹き飛ばせますよ。 「ほらキョン!のんびりしてないでさっさとプロジェクターに繋ぎなさい!!」 だが、我らが団長様は、俺のこのひと時の至福すら甘受させてくれないらしい。 ついつい、俺が封印していた口癖をついてしまったとしても、誰が責められよう。 ……やれやれ。 「さ、上映を始めるわよ!」 「はいはい」 さすがに、プロジェクターといっても部室にテレビがあるわけでもないので、隣のコンピ研から借りてきたケーブルをパソコンに繋いでみることになった。 その時にまたコンピ研の連中が不幸な目にあったのは……まぁ、関係ないので割愛しよう。 合唱。 「なかなかいい出来じゃないでしょうか、どうです?涼宮さん」 「そうね、悪くないと思うわ。どう、みくるちゃん、有希違和感のあるシーンとかなかった?」 「そうですね……格好いいと思いますよ?」 「……問題ない」 みんなまじめに画面を見ているが、俺ははっきり言って見ていない。 わかるだろう? 俺が、普段やらないような行動ばかりを収められた映像など誰が見るものか。 「もういいだろう、出来がいいと思うのならもう編集するぞ?」 と、いうかこれ以上は俺が見るに耐えん。 さっさと作ってしまってハルヒの欲望を満足させてしまおう。 「そうね……でも、ちょっと撮り直したいシーンがあるのよね」 「なんだ、このままでもいいんじゃないのか?」 はっきり言って俺はもう疲れた。 「いいでしょ別に、それともなに?文句でもあるわけ?」 言ってもいいなら大量にな。 言ったところで聞く耳持たないんだろうが。 「わかったわかった、で、そのシーンはどれだ?」 「今日撮ったところよ」 アレか、しかしそんなに違和感を感じるようなものがあったか? 俺は別にあれでも問題ないと思うんだが。 「だって最後の別れになるかも知れないシーンなのに触れるのが髪だけって変じゃない?」 「それもそうですねぇ……愛し合っていた二人のお別れにしてはちょっと淡白な気もしますよね」 「そのとおりよ、みくるちゃん!」 「ひやゃ〜ん!!」 そういってハルヒが朝比奈さんに抱きついた。 こら、さりげなくそこでセクハラするんじゃない。 「だが、撮り直すのはいいが、どうするつもりだ?」 「それは、これからシーンを考え直すわ。とりあえずそれ以外のところの編集は任せたわよ、キョン」 ……あぁ、はいはい。 俺がこの後、半分徹夜に近い状態で編集作業を行ったのは察してもらえるだろう。 と、いうか察してくれ、頼む。 そして後日、俺が必死に眠気と戦いながらアジトに訪れると、そこには古泉だけが座って待っていた。 くそ、朝比奈さんでもいれば目の保養になりつつ、お茶まで頂けたというのに。 いつもの定置であるパイプ椅子に座り、机に突っ伏したところで、古泉から声がかかった。 「少々よろしいですか?」 「あまりよろしくないが、なんだ?」 気分的にはこのまま夢の世界へ旅立ちたいところだ。 「率直に言いましょう、閉鎖空間が発生しつつあります」 ……今、なんと言った? 閉鎖空間だと? 「……一応聞くが、なぜだ?」 「ここからは僕の仮定の話になりますが、よろしいですか?」 その問いに俺は目だけで続きを促すと、古泉は指を眉間に持っていってから話し始めた。 「おそらく、今回の閉鎖空間の原因は今撮っている映画でしょう」 どういうことだ? ハルヒは十分満足しているように見えたが……? 「大まかな部分では、という意味でなら満足はしているでしょう。ですが、覚えていますか?撮り直したいシーンがあると言っていたことを」 忘れるわけがない、おかげで俺の半分徹夜の作業も完了しないんだ。 「おそらくですが、彼女が撮りたいと思うシーンは予想がつきます。ですが、彼女は迷っている」 迷う……? いったいハルヒは何に迷っているんだ? 「……本当にそのシーンが撮れるのかと不安、しかし、そのシーンはこうしたいという思い、その二つがせめぎ合うジレンマ、それが今回の閉鎖空間の原因となっているのではないかと」 「理解できるような、理解できないような、そんなところだな」 つくづく、お前の言い回しはわかりづらいんだ。 どうせ言うならもっと簡潔にしてくれ、ただでさえ今の俺は頭がそこまで回ってないんだから。 「それは失礼しました、では、率直に行きましょう」 「それができるなら最初からそうしろ」 少しだけ困ったかのような笑顔を見せて、古泉はとんでもない事を言い出した。 「貴方もこういった映画くらいは見たことがあるでしょう、その時、こういう別れのシーンで必ずと言っていい程に恒例なもの、それを彼女は撮りたいんですよ」 戦地に赴く主人公とヒロインが恒例と言っていいほどすること……? 「――――っ!?」 「もう、おわかりでしょう?それを撮るか、撮らないかは貴方次第です」 もっとも、撮っていただいた方がこちらとしては助かりますが。 なんて事を言い残し、古泉はトイレに行くと言って席を立った。 「……やれやれ」 なんだってまた、世界平和っていうのは勝手に俺の両肩にのしかかってくるのやら。 ハルヒとそういう場面を撮りたくないのかと聞かれれば、答えはすぐ出る。 もちろん、撮ってやりたいと思う。。 だが、だからと言って簡単に撮影できるものでもない。 第一、 まだ俺はハルヒと付き合っているわけでもなんでもない。 「……ハルヒとの……キスシーンか……」 映画俳優だってやっているんだ、それくらいなんてことはない。 なんて言える筈が無い。 ハルヒだって、演技だからと割り切ってキスができるほど性格がぶっ飛んでいるわけでもないだろう。 だが、古泉は言った。 『別れのシーンで必ずと言っていい程に恒例なもの、それを彼女は撮りたいんですよ』 確かに、ぶっ飛んだ性格をしているが、そんなハルヒを俺は気に入っている。 いや、これは正しくないか。 惚れている、といっても良いのかもしれない。 多少は、自惚れてもいいのだろうか。 そんな考えが頭に浮かんだ。 「後は、俺次第……か。まったく……やっかいな奴だ」 俺がこの後どうするべきか。 そんなもの、結局のところ簡単な問題でしかないんだがな。 さて、そうと決まれば、ハルヒを探しに行くとしますか。 「今なら、おそらく教室にいるか」 撮影の前に、言わなきゃならないことがあるからな。 おそらく、教室で台本を前に唸っているだろうハルヒを想像し、苦笑しながら。 俺は眠気混じりの表情で、ハルヒの元に向かった。 「まったくもって……やれやれだ」 涼宮ハルヒ超監督の元、我らSOS団が撮った自主制作映画。 ハルヒが唸っていたシーンは、ハルヒがもっとも理想とする形で撮影が行われた。 その後の俺たちの関係がどうなったのかって……? うるさい、そんなもの禁則事項に決まっているだろう。 ただひとつ。 SOS団アジトでの俺の定置が、ハルヒの隣になったということだけ言っておく。 後書き やっぱり人格改変は続いてます、『涼宮ハルヒの憂鬱』二次創作。 結構映画ネタは既出な気がしてビビりつつ書き上げました。 あえてはっきりした表現を消したりしたつもりですが、どんなもんなんでしょう? え、わからない? そこはほら、持ち前の妄想力……じゃなかった想像力を駆使してくださいなw とりあえずーそれでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/03/24 |