「みんな、注目!」 今日も今日とて、麗らかなる日常を甘受している俺の元に、嵐が舞い降りた。 どうでもいいがハルヒよ、もう少し静かにドアの開け閉めはできないのか。 「うるさいわね、壊れたら直せばいいだけでしょ」 ほほぉ、それは殊勝な考えだ。 だが、その壊れた後のドアは誰が直すって言うんだ。 「決まってるわ、キョン、あんたよ」 ……だと思ったよ。 「それで、涼宮さん、何を思いつかれたのですか?」 「あぁ、そうだったわ、バカキョンのせいで忘れるところだったわ」 ……もう好きに言っててくれ。 何を言ってもこいつは俺の台詞なんて聞きゃしないんだよな。 「今回の企画はこれよっ!」 そういってハルヒが取り出してきたのは、またもチラシだった。 こいつの情報の発信源は大抵新聞の折込チラシなんだろうか……? ……なになに、あぁ、カラオケルームバッシュのチラシか…… 「SOS団内対抗カラオケ大会〜!」 「……はぁ?」 「カラオケですか、さすが涼宮さんですね」 何がさすがなのかわからんぞ、古泉。 そもそも、なんで丁度良くこんな折込チラシがハルヒの手に渡るんだ…… もしやお前らの組織が一枚噛んでるなんて言わないだろうな? そう視線に込めて問いかけてやると、古泉はニセスマイルを浮かべるだけで流した…… ……そういうことか。 「……百歩譲ってそれに行くのはいい、だがいつ行く気だ?」 「決まってるわ、今度の不思議探索パトロールは中止にして、その時にいくのよ」 どうやらそういうことらしい。 結局、このメンバーで集まって何かするっていうのには変わらないんだな。 「とりあえず、断るなら今のうちだぞ?」 そう思い今まで黙っていた朝比奈さんと長門に声をかけてみる。 古泉?どうせいつもどおりイエスしか言わないだろうから聞くだけ無駄だろうよ。 「えぇっと、別に私は構いません。それに……少し面白そうですし」 朝比奈さんは、少し照れたようなエンジェルスマイルでそう答えた。 なんといいますか、だいぶハルヒに毒されてますね……? 「長門はいいのか?」 「構わない」 おそらくハルヒはお前や朝比奈さんに歌わせると思うぞ、それでもいいのか? 「……いい」 「それじゃぁ、決定ね!今度の休みはこのカラオケバッシュ前に11時集合よ!」 「……はいはい」 そして後日! とりあえず予定時間より少し早く着くことができたんだが、どうせまた俺が最後だろうさ。 少々の達観と諦めにも似た感情を背負い、カラオケ屋の前に行くと、そこには予想通りSOS団メンバーがすでに揃い踏みだった。 「遅い、罰金!」 ……やれやれ。 いったいどうやれば俺はこいつらより早く来れるのかね? 「まぁまぁ、涼宮さん、今日くらいは多めに見てあげてはいかがでしょう」 「そうですねぇ……いつもキョン君が出してくれてますし、今日くらいは……」 珍しくフォローが入った。 ありがとうございます、朝比奈さん、今の貴方は天使と代わらないほどの光を放っていらっしゃる。 ……不本意だが、古泉、お前にも感謝しておく。 「……仕方ないわね、キョン!今回は特別なんだからねっ!!」 二人の言い分はわりと素直に聞くのか、アヒル口の不機嫌そうなハルヒにそういわれた。 ……ところで、何故に不機嫌そうなんだ、お前は。 「なんでもない!行くわよ!!」 ……本当に、なんなんだろうな? 古泉に説明を求めるも、ニセスマイルで肩をすくめるという反応しか返ってこなかった。 なんだ、いつもどおりのニセスマイルなんだが、妙に裏があるというか、そんな雰囲気があるぞ、お前。 「そうですか?きっと気のせいですよ」 だから、そのニセスマイルが妙に微笑ましいものを見るような雰囲気があるんだって。 「もう、早く来なさい!」 「ほら、涼宮さんがお呼びですよ、向かいましょう」 すでに店に入っていっていたハルヒと、その横に立っている朝比奈さん、長門に呼ばれた。 正確には、痺れを切らしたハルヒに呼ばれたんだが。 入店後、すでに手続きを終えていたのか、すぐに部屋に案内された。 案内された部屋は大体7人くらいまで入れそうなパーティールームのようだ。 「案外、広いな」 「5人用ではなく、大人数用のパーティールームのようですね」 「なんでまたわざわざ……」 「まぁ、涼宮さんですから」 その答えで納得してしまう自分が忌々しい。 だが、ここでひとつ意外な事が起こった。 当初の予想では、ハルヒが一番に選曲し、歌いだすと思っていたのだが、予想より乗り気だったのか、朝比奈さんや長門と3人で曲を選んでいたのだ。 「ひぇ〜、一杯あるんですね」 「そりゃそうよ、メジャーからマイナーまで結構一杯入ってるんだから。で、有希はどれ歌うの?」 「……これ」 どうやら、俺はそこまで歌う必要もなさそうだ。 ま、せいぜいみんなの歌でも聞かせてもらうとしますか。 「それじゃー、一発目、行くわよー!」 そして、ハルヒ曰く、SOS団対抗カラオケ大会が始まった。 せいぜい、俺はみんなの歌で楽しませてもらうとするさ。 とりあえず言わせて貰おう。 ハルヒは文化祭の時に聞いていたから上手いのは知っていた。 長門は、普段喋らないから想像できなかったが、おおよそ、情報なんとか体からデータの同期でもしたんだろう、普通に歌手が歌っているのと負けないくらいの上手さを持っていた。 ……朝比奈さんは、まぁ、時々ねじの外れたような歌を歌われたが、普段のエンジェルボイスを遺憾なく発揮していた。 「いやぁ、みなさん上手いですね」 「あぁ、まったく人並み以上になんでもこなすやつだ……」 古泉の歌は……まぁ、忌々しいことに美声だったと言っておこう。 「ところで、貴方は歌わないのですか?」 「ん、あぁ……いいだろう、別に」 はっきり言って俺の歌なんて人並みもいいところだ。 こんな早々たるメンバーの中で歌ったって恥をかくようなもんだ。 俺には壁の花という役がお似合いなのさ。 「貴方がそういうのなら僕はとやかく言いませんが、それを彼女が許してくれますかね?」 そう言って、指差したほうを見ると、さっきまで笑顔全開だったはずのハルヒが何が不満なのか、顔を不機嫌のアヒル口にして俺の目の前で仁王立ちしていた。 「なんで歌わないのよ、キョン!」 「別にいいだろう、これだけのメンバーがいるんだ、俺が一人歌わないくらい問題ないだろ」 「問題大有りよ!最初に言ったじゃない、SOS団のカラオケ大会だって!」 よほど、俺を歌わせたいらしい。 ハルヒが散々ごね続け、その上遠まわしながら朝比奈さんと長門の援護射撃をくらい、結局俺は今、マイクを持ってなぜかお立ち台に立たされている。 ……何故だ? 「なぁ、ハルヒ。このさいだから歌うのは仕方がないとしよう、だが、何故俺がこんな場所に立っているんだ?」 ハルヒも朝比奈さんも長門も古泉も、全員がその場で歌っていたように見えたのは俺の幻覚か? 「今まで歌わなかった罰、諦めて歌いなさい!」 「あ、私もキョン君の歌、聞いてみたいです」 「…………」 「……やれやれだ」 朝比奈さんの控えめながらの賛成と、長門のわかるひとにしかわからない肯定の動作で、結局俺は諦め混じりで歌うことにしたのだが、どうやら、歌い終わるまで席に着くことすら許されないらしい。 仕方ない……無難なのを選んで終わらすとするか。 それにしても、最近音楽なんて聴いてないからどれを歌えばいいかわからんぞ……? 「これなど、いかがでしょう?」 とりあえずどれにしようかと悩んでいると、助け舟のつもりか、古泉がある曲を示してきた。 って、これは…… 「一番判りやすく、簡単だと思われますが……?」 「お前……俺になにか恨みでもあるのか?」 「とんでもない、貴方には感謝しているくらいですが」 ええい、そんな嘘くさい台詞をニセスマイルで言っている時点で信じられるわけがないだろう! 「なにやってるのよ、なんでもいいから早く歌いなさいよね」 そろそろハルヒの我慢の限界が来ているらしい。 元からそんなに我慢できるような性格じゃないからなぁ…… まったく、面倒なことになった。 ……せいぜい、心を込めて歌ってやるさ。 俺の心情、感情を全て入れてな。 「心を込めて、歌います。聞いてください、ハレ晴れユカイ」 ……はぁ。 「ほら、一緒に行こうぜ」 途中から自分でも若干乗ってきたのか、ついつい歌に熱中してしまった。 だが、いったい誰がこんなものを作ったんだか、とてもじゃないが、俺の私生活を知っていないと作曲できないだろう? 「さて、これで満足か、ハルヒ?」 歌の途中こそ、ハルヒの野次みたいなものが飛んでいたが、最後の方に行くにつれてハルヒたちが大人しくなっていたような気がする。 歌い終わって反応が無いことを不自然に思って、回りを見渡してみると、なぜか全員惚けたような顔をしていた。 なんだ、この反応は? 「あ、うん、よ、よかったんじゃない?」 「キョン君、かっこよかったです」 「……いい」 「勧めておいてなんですが、とてもよかったと思います」 とりあえず、褒め言葉として聞いておこう。 ふぅ、たまに歌ってみるのもいいもんかもな。 その後も、適当に歌わされたが、まぁまぁ楽しかったと思うし、いいとするか。 「あー、歌ったわぁ!!」 「……そりゃよかったな」 団長の判断により、現地解散となり、俺はやむなく帰宅方向が同じハルヒを送ることになった。 どうせなら朝比奈さんや長門を送っていきたかったところだが、悲しいかな、家の方向も違うということで、古泉に泣く泣く一任することになった。 くそう、忌々しい。 「それにしてもあんた意外に歌上手いのね」 唐突に、ハルヒが言ってきた。 俺が上手いっていうなら、お前らの歌は売り出しても問題ないだろうよ。 「そういう意味じゃなくて、なんていうか、感情って言えばいいのかしら。そういうのがすごい込められてるって感じたのよ」 そりゃぁ、いろいろなもん込めて歌ったからな。 あの時のみんなの反応はいまいちわからんかったが。 「最初に歌ったのの最後、なんか不覚にもドキっとしちゃったわよ。あんたこっちみて言うんだもの」 どこかで聞いたんだが、人の顔を見て歌うと感情移入しやすいと聞いたからな。 どうやらこのハルヒの反応をみると、それは正しかったらしい。 「……普段から、あんな風に言ってくれればいいのに」 「ん、何か言ったか?」 「何にもないわよ!」 実はコレが聞こえていたりするんだが…… 普段から……ね、俺はそんなに騒動に嬉々として巻き込まれるつもりもないが…… まぁ……たまにはいいか。 「……ハルヒ」 「何よ?」 あぁ、まったく俺はいつからこんなに役者みたいなことをやるようになっちまったんだか。 これじゃぁまるで古泉みたいじゃないか。 そんな自分に苦笑しながらも、俺は先を歩くハルヒに手を差し出した。 「ほら、一緒に帰ろうぜ?」 「――――っ!」 まったくもってらしくない。 だが、真っ赤になって俺の手を取るハルヒは、純粋に可愛いかった。 「それじゃぁ、帰るか」 「……うん」 こんな事を考えるなんて、本当にらしくない。 ……だけど、それも悪くない。 後書き 以上、『涼宮ハルヒの憂鬱』の二次創作でした。 やっぱり思いつくと唐突です、カラオケネタでした。 いやまぁ、キョンのハレ晴れ聞いて歌わせたくなったっていうのが正直なところなんですが。 あの最後のところは絶対ハルヒに向けて歌っていると断言したくなります。 間違ったら古泉の方に向いてそうで笑えますがw 一応次のネタは考えてあります、上手くいけば同時公開なんてできるかなーとか願望をそこはかとなく見え隠れさせてみたり。 とりあえずSHUFFLEの方を書いてみて、その進行次第ってところなんでしょうけどねー それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/03/30 |