いったい俺が何をした。 そう問いかけずにはいられないとはこのことだろう。 それは、今朝俺が起きてきた時から始まっていた。 「……そういえば、今日は妹が起こしに来なかったな?」 そう、この時点で気づいていれば、あとでこんな目にあうことは予想が出来ていたはずだったんだ。 結局、時間がやばかったせいで朝飯を食い損ね、活動しきっていない俺の頭には、気づけなかったからこうなっているんだがな。 つくづく思う、人生って言うのは厳しい! 学校生活で数少ない楽しみとも言える昼休み。 ある者は購買限定発売のパンを追い求め走り、また、ある者は持ってきた家族の愛ある弁当に舌鼓をうち、はたまた、一部は弁当を持ってきてもらい、それを食す者もいるだろう。 だが、何事にも例外というのは存在するもので、例えばそれが、金欠のために購買に行くこともできないような状態だったり、弁当を家に忘れてきたというものだったり。 「…………」 「キョン?」 やはりそれも人それぞれではあるのだが、友人などの気配りにより食い物にありつける場合が大抵だったりする。 しかし、その友人も金欠であったりする場合、食料の問題はどうなるか。 簡単なことだ。 食うものも、金も、無いのだ。 「…………」 「ちょっと、キョンってば」 カバンを開けたときに俺は愕然とした。 なぜなら、そこから一枚の家族が書いたものと思われる走り書きが落ちてきたのだ。 内容を、単刀直入でお教えしよう。 ――――ごめんねー、ちょっと出かけてくるわ。 理由なし、動機なし、さらに言うなら計画性無し! どうやら我が家の両親は、俺に何も告げず旅立つのを娯楽のひとつと感じてしまったらしい。 このところ頻繁に、かつ唐突に出掛けては俺に迷惑をかけて楽しんでいる感がある。 「聞きなさいよ!」 「……聞こえている、なんだ、ハルヒ」 支援物資が見込めない以上、出来うる限り動かないで体力の消費を抑えねばならんというのに。 ハルヒの問いかけに、しぶしぶと状態を起こす。 いかん、これだけでも腹の虫がいまにも盛大に鳴り響きそうだ。 「なんだ、はこっちの台詞よ。昼休み入った途端机に突っ伏してたら何かあったのかと思うじゃない」 「いや、お前が気にするほどのことじゃない、俺は気にせず食事をするがいいさ」 とりあえず、机に突っ伏していないと周りの光景が悲しくなってくるんだよ。 なにせ俺は朝飯すら食べれていない上に、早朝強制ハイキングコースすらこなしてきたんだ、すでに体力残量など0に等しい状態だ。 そして、また机にもたれ掛かり、倒れこむ。 あぁ、腹減った。 この現実から逃避する一番の手段、それは寝て忘れるに限る。 ゴンッ! とんでもない衝撃が、頭とおでこに来た。 「いってぇ!」 「誰に断って、勝手に完結して突っ伏してるのよ、あたしの話はまだ終わってないし、あんたが突っ伏してる理由も聞いてないわっ!」 誰が好き好んでこの情けないことこの上ない現状を説明しないといけないんだ。 これを知られたらどんなことをやられるか想像もつかん。 今の俺はほとんど抵抗できるような余裕もないからな。 「別に理由なんて要らないだろう……?」 「ダメよ、言いなさい。せっかくの楽しいお昼時に、そんなへばって這い蹲られてると見苦しいわ」 ハルヒ曰く、俺は昼食時に何かしら行動に移らないといけないらしい。 どういう理由だ……やってられん。 「わかった、見苦しいというなら昼食時はどこかに行くとする」 正直なところ、動くだけで体力を消耗している感覚が強いが、これ以上同じことをしてハルヒの機嫌を損ねるのは得策じゃないだろう。 やれやれ……この時間で動かないでも済みそうな場所…… 中庭にでも行ってみるか、幸い天気は良いようだし。 「それじゃぁな、ゆっくり飯を食っててくれ」 「あ、ちょっと、キョン」 あぁ……今は鳴るなよ?俺の腹。 ……人というのは、朝昼の食事を抜いただけで、これほど判断力が損なわれるものなのだろうか? 暖かくなったこの時期、中庭という空間など、クラスの違う仲良し同士が集まって昼を食べに来ていてもおかしくないだろうに…… 「……やれやれ」 周りを見れば、それほど多くは無いといえ、そこには人がいた。 当然昼時に人がいるということは、持っているのはそれぞれ弁当だったり、パンだったりするわけで…… ぐぅ…… ついに、俺の腹が我慢の限界を超えたらしい。 すまん、最低でも夜まで待ってもらうことになりそうだ…… 「あー、くそ、忌々しい」 やむなく、俺は人があまりいない木陰に移動し、寝転がった。 さっさと寝て、時間が来たらゆっくりと教室に戻ればいいか。 とりあえず、今はもう動きたくない。 「やっと見つけたわよ?」 ……とことん、今日は運が無いのか? それとも、ハルヒよ、俺に何か恨みでもあるのか? 「……どうしたハルヒ?」 そこには、弁当箱らしきものを持ったハルヒが恒例の仁王立ちをしていた。 わざわざお前のために移動してやったというのに、わざわざ追いかけて来たのか? 「どうした、じゃないわよバカキョン」 なぜか、ハルヒは不機嫌モードのようだ。 ……不機嫌にしないように行動したつもりだったんだが? 「ほら、さっさと起きなさい」 「……激しく遠慮したいところなんだが」 「さっさと起きるっ!団長命令!」 やはり、俺には拒否権というものが存在しないらしい。 基本的人権の尊重という言葉をこいつは知っているのだろうか? 「で、なんのようだ?」 俺はできる限り体力の消費を抑えて、夜まで持たせなきゃいけないんだが。 そんな俺などいざ知らず、ハルヒは起き上がった俺の隣に座り、弁当箱を広げ始めた。 なんだ、あてつけか何かか? 「どうせあんた、今日お昼ご飯持ってきてないんでしょ?」 「…………」 なぜ…… 「何故分かった、なんて考えてたらぶっ飛ばすわよ?毎日毎日お昼時になったら嬉しそうにお弁当広げてるくせに」 そんなに俺は嬉しそうに弁当を食っていただろうか……? いや、していたかもしれん。 なにせ学校生活数少ない楽しみといえば、弁当を食ったり、朝比奈さんのエンジェルボイスを聞いて癒されたり程度しかないからな。 「だから、仕方ないから、そう、仕方ないからよ?」 そう何度も言わなくても聞こえている。 第一、何が言いたいのかまだはっきりさせていないぞ、お前。 「だから、その、あの、あぁもう!」 「ハルヒ、とりあえず落ち着け、何が言いたい?」 こいつにしては珍しく歯切れが悪い。 そして、なぜかどんどん顔が赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。 「んっ!」 唐突に、箸を渡された。 すでにハルヒの顔は真っ赤で、下を向いて俯いている。 ……箸を渡されても、どうしろと? 「あぁ、もう鈍いわね!あたしのお弁当分けてあげるって言ってるのよ!」 分からないという動作をしている俺に、ついに痺れを切らしたのか、ハルヒが真っ赤な顔を上げて声を荒げた。 普段ならばそんな恥ずかしいことなどできんと断るはずだったのだが、残念ながら、今の俺にはそんな余裕は無い。 ありがたく、ハルヒの提案を呑むことにした。 「……本当に、いいのか?」 「……ダメだったらあんたなんか追いかけてないわよ」 そりゃそうだ、どうやらだいぶ頭にも栄養が回らなくなってきたらしい。 「……すまん、ありがたく頂く」 「そうよ、しっかり味わって食べなさい」 もちろん、今ならお前が天使に見えてしまいそうだ。 ありがたく、口をつけようとすると、ハルヒの口からとんでもないことが出てきた。 「あ、全部食べないでよ、あたしの分もあるんだから」 「……箸はこれだけか?」 「……そうよ」 なにも白いご飯を箸ですくい、口に運ぼうとしたときに言わなくていいだろう? 「食堂で割り箸かなんかもらえたか……」 「そんなことしてたら食べる時間なくなるわよ?」 ハルヒに弁当を戻し、なけなしの体力を使って、立ち上がろうとしたが、ハルヒに足を掴まれて動けなかった。 まさか、1膳の箸で交互に食うとか言う気じゃないだろうな……? 「そ、そうよ、仕方が無いでしょ、時間が無いんだから」 「お前、自分でどれだけとんでもない事を言っているか分かってるのか?」 簡潔に言えば、間接キスになるわけだ。 まだ幼いときや、親しい同性なんかでペットボトルの回し飲みをするようなものとは微妙に違うんだぞ? それに考えても見ろ、1組の男女、ひとつの弁当、ひとつの箸。 これじゃぁまるでカップルのようじゃないか。 「そ、それくらいがなによ。べ、別にあたしは、き、気にしないわ」 ……気にしていないというやつが、そこまで顔を赤くするものか? 「う、うるさいわね、そこまで文句言うならあげないわよ!」 「すまん、俺が悪かった」 情けないと思うなかれ、一時の恥辱よりも、今は俺の腹を少しでも満たすほうが大切なのだ。 「……それじゃぁ、ありがたく頂く」 「どうぞ……」 ハルヒが若干厳しくなった表情で見つめる中。 先ほどは断念したが、改めて、色とりどりのおかずに目をやり、目に付いた卵焼きを半分に切り、箸に取る。 そして、口の中に運びいれた瞬間、俺は歓喜で打ち震えたかのような錯覚を覚えた。 「……美味い」 「ほんと!?」 とてつもなく、美味かった。 予想以上とか言う話じゃない、別次元のレベルで美味かった。 ついつい箸を入れるペースが速くなる。 「あぁ、本当に美味いぞ、これ」 「そう、それだけ言ってもらえるなら作った甲斐はあるわね」 さらに驚いた。 これ、ハルヒが作ったのか。 「さすがだな」 「当然よ!あ、そろそろあたしにも食べさせてよ」 弁当と箸をハルヒが横から強引に奪っていった。 だが、本来の持ち主はハルヒのために、俺は大人しく従うしかないんだが。 「うん、まぁまぁね」 「それでまぁまぁなのか」 いったいこいつがおいしいと言うのはどのレベルなのだろうか? 十分を超えて、十二分に美味く感じたんだが。 「キョン、まだ食べたい?」 「そりゃまぁ、くれるなら」 正直、ぜんぜん足りん。 ハルヒは少し食べた後、何か悪巧みでも思いついたのか、いつもの不適な笑顔を浮かべた。 若干顔が赤いのが気になるが、それ以上に嫌な予感がするのは何故だ……? 「じゃぁ、はい、あーん」 なんですと!? 「な、お、お前!何を言って!?」 「な、なによ、食べたくないの?」 真っ赤な顔をしたまま言われても対処に困るんだが…… しかし、そのまま食べろというのか…… ぐぅ…… 「…………」 「…………」 その時、俺の腹がまだ足りないと訴えたのか、静かに鳴いた。 「ほら、あんたのお腹、まだ足りないって」 「…………」 俺の腹の音を聞いてある程度落ち着いたのか、赤みが少し引いた顔で、箸に持ったおかずを俺の顔に寄せてきた。 逆に、俺の顔は今あり得ないくらい赤くなっているだろうよ。 というか、ハルヒ、なんでそんなに嬉しそうな顔をしている。 「はい、あーん」 「…………あーん」 弁当は美味かったが、それ以上になにか大切なものをなくした気がする。 しかも、よりにもよってハルヒの前でこんな醜態を晒すとは…… その後結局、弁当は全てハルヒの手によって俺の胃へと納められた。 忌々しい、あぁ忌々しい忌々しい。 「ねぇ、キョン、よければこれからお弁当作ってきてあげようか?」 「マジか」 その後、ハルヒが弁当を毎日作ってきてくれるようになった。 それは嬉しいんだが…… 「ハルヒ、たまに箸を忘れてくるのはどういうことだ……」 「た、たままたよ、たまたま!」 たまにわざと箸、忘れてきてるだろう、お前。 どうやら、ハルヒは『あーん』がブームらしい。 ……やれやれ。 後書き なんだこのバカップル…… ……はっ、失礼しました。 はい、というわけで、ハルヒSS第16弾ということでお送りさせていただきました。 とりあえず、原形は弁当ネタです。 そっから発展して発展して、発展しきってこうなりました……アレ? たまには甘いの書いてみようかなーって考えた末ってことで。 まぁ、これはこれでよかったような気がするのでいっか。 それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/03/30 |