日々の疲れの蓄積か、はたまた、ストレスのせいか。 普段ではまずあり得ないほどの疲労感が俺を襲っている…… 昼休みになったのをいいことに、俺は部室で寝ることにした。 「くそ……なんだこのあり得ない眠気は……」 動くのすらすでに億劫に感じる。 これはどういうわけだ……こんなこと普段ならないというのに…… 「よう……」 満身創痍と言った感じで、辛うじて部室にたどり着いた。 そこにはやっぱり定位置で本を読む長門がいた。 俺が声をかけると、顔を一度こちらに向けたが、またすぐに本に戻った。 「長門、スマンがハルヒたちが来たら起こしてくれ……」 そう伝言を頼むと、返事を確認する事無く俺は部屋の隅に椅子を並べ、そこに横になった。 多少寝づらいが、まぁすぐに意識がなくなるだろうから問題ないだろう。 もうだめだ……おやすみ。 授業……?知ったことか。 「おっはよー!ってアレ、みんなどうしたの、今日はやけに静かね?」 あたしが部室に着いたときは、なぜかみんな余り物音を立てないように動いていた。 みくるちゃんにいたっては、お湯を入れるにも気を使っているように見える。 どうしたのかしら? 「あ、おはようございます〜」 「おはよ、みくるちゃん、どうしたの、随分みんな静かにして」 そういえば、今日はキョンがいないわね、いつも文句言いながらのくせに大抵ここに居るのに。 サボりかしら……それだったら今度罰を与えなきゃいけないわね。 「涼宮さん、そちらの方を」 古泉君が笑顔を浮かべたまま部屋の隅のほうを指差した。 そこには、椅子を何個か並べて眠っているキョンがいた。 なによ、教室から消えたと思ったらこんなところにいたの? 「キョン君、この頃疲れてるのかすごい眠そうにしてます……」 「僕がここを訪れたときはすでに眠られていました」 そういうことね。 あたしが来たっていうのに寝てるなんて、起こしてやろうかしら…… いろいろ考え込んでいると、唐突に有希が本を閉じ、立ち上がってキョンの方に向かった。 「あら、有希どうしたの?」 問いかけると、有希は顔をこちらに向けて立ち止まった。 「彼に頼まれた、貴女が来たら起こして欲しいと」 その台詞を聞いて、自分でもわからないけどカチンときた。 なんだろう、よくわからないけど、有希に起こされるキョンをみたくない。 「いいわよ有希、放っておきなさい」 「…………」 本当にいいのかと聞いてくるような目があたしに向けられた。 「いいのよ、どうせ起こしたって特になにするわけでもないもの」 「……そう」 納得したのかどうかはわからないけど、有希は一言呟いてまた元通り自分の席に座って読みかけの本をまた読み始めた。 さて、キョンはいいとして、今日もまたみくるちゃんの悩殺写真でも撮ろうかしら? 「みくるちゃーん、今日も撮影よー」 「ひえぇぇ」 「では、僕は外で待つとしますか」 みくるちゃんを脱がそうとすると、もう慣れたもので、古泉君は自然な動作で席を立って部室から出て行った。 さぁて、今日はナース服にしようかしらね? 「さぁさぁ、ちゃっちゃと脱ぐ!」 「自分でやりますぅ〜」 「っと、唐突に目を覚まされたら厄介ね」 いざみくるちゃんを剥こうかというときになって、キョンが寝ているのを思い出した。 良く寝てるみたいだし、起きることはないと思うけど…… でも、もし起きてきたらまたみくるちゃんの着替えで鼻の下を伸ばすかもしれないわね…… 「し、しょうがないわね」 ま、まぁみくるちゃんの着替えを見られるわけにもいかないし、し、仕方ないわよね。 あたしは、自分が来ていたカーディガンを脱ぐと、キョンの身体にかけた。 もちろん、顔が隠れるようにかけたわよ? べ、別にキョンが風邪をひこうが知ったこっちゃないんだからね。 「……照れ隠し」 「ふふ、キョン君には優しいんですねぇ、涼宮さん」 「ち、違うわよ、有希!それにみくるちゃんも何言ってるのよ!」 否定してるのに、顔が赤くなってるような気がした。 やだ、これじゃぁ逆に肯定してるみたいじゃない。 「古泉君、もう着替え終わりましたからいいですよ」 「あぁよかった、そろそろ少し肌寒かったところです。おや、涼宮さん、どうして顔が赤いんですか?」 「あぁ、それはですね」 「ちょ、ちょっとみくるちゃん!?」 結局、この後古泉君にも同じ話がされ、あたしは否定し続けたけど、誰も聞いてなかった。 みくるちゃんはあたしのカーディガンを顔が出るようにかけなおすし、有希なんか、どこか微笑ましいといった雰囲気になってるし! あぁ、まったくもう! あたしがこんな目にあうのもどれもこれも呑気に眠ってるキョンのせいよ! 「……すぅ……すぅ……」 でも、キョンにかけた服を取り戻そうとは思わなかった。 まったく、馬鹿みたいな顔して眠ってるんだから…… パタン 有希が本を閉じた。 あぁ、もうこんな時間なの? 「それじゃぁ、今日の活動は終了、解散!」 あたしの号令で今日のSOS団の活動は終了になった。 それでもまだキョンは眠り続けている。 まったく、どれだけ眠る気かしら……? 「それでは、僕はお先に失礼します」 そうそうに帰宅準備を終えた古泉君。 「じゃぁ、私も失礼しますね」 古泉君が出たのを確認して着替えたみくるちゃん。 そして、本を棚に戻した有希が順に帰っていった。 いま、この部室に残ってるのはあたしとキョンだけ。 「いつまで寝てるのよ、早く起きてくれきゃ帰れないじゃない……」 地面にしゃみこんで、眠っているキョンの顔を覗き込んでみる。 最初に来たときと同じく変わらない姿で寝続けていた。 まったく、ずっと同じ体勢だなんて、身体痛くならないのかしら? 「……ふふ、変な顔」 つい、悪戯心に刺激されて、キョンの頬をつついてしまった。 違和感を感じたのか、眉を寄せて手で乱暴にこするようにしたから起きたのかと思ってドキっとしちゃったけど、どうやらキョンは起きなかったみたい。 「…………」 ちょ、ちょっとだけならいいかな…… キョンの無防備な寝顔を見てると、またしてもむくむくとなんともいえない気持ちがわき上がってくる。 なんで……こんなに好きになっちゃったんだろう…… 「……キョン」 なんであたしはこんなのに惚れたのかしら。 普通すぎるほど普通だし、みくるちゃんや有希にでれでれするし、いっつもあたしのやることに文句言ってくるのに。 でも、北高で初めて声をかけてきてくれたし、それからもずっと傍に居てくれた…… SOS団を作るきっかけをくれたのだってキョンだった。 「…………ぁ」 キョンの唇に目がいった。 あの時の夢…… 世界にあたしとキョンの二人だけになったあの世界…… 今でもあの時の夢は見る。 あたしは……やっぱりキョンが…… 「……好きよ」 あたしは静かに、ゆっくりとキョンにキスをした。 「――――っ!?」 唐突で、驚いた。 キョンにキスをしたら、いつのまにかあたしに回っていた腕で抱きしめられてしまった。 なに、お、起きてたの!? 実は、途中から俺は目を覚ましていた。 まぁ、朝比奈さんや長門が帰った頃、すぐにな。 すぐ起き上がればよかったんだろうが、なぜかハルヒがそろそろと近寄ってくる気配があったからすっかり起き上がるタイミングを無くしてしまったわけだ。 しかしまさか、こいつの方からキスしてくるとは思わなかったぞ。 「普通、童話あたりじゃ配役は逆だった気がするんだがな」 すっかり言葉をなくしたのか、限界まで真っ赤にした顔で口をパクパクさせていた。 なんだ、キスをしてきたのはお前からだろう……? 抱きしめたまま、ハルヒの顔を再度覗き込む。 「どうした、顔が赤いぞ?」 うむ、自分でもいじわるな質問だと思う。 「な、何よ、いつから起きてたの!?」 「朝比奈さんと長門が帰ったあたりだな」 「……全部、聞いてたの?」 そりゃもうばっちり。 ついでに言うと、頬をつつかれたときの行動は演技だ。 俺の演技もなかなか捨てたもんじゃないだろう? 「……〜っ!?」 「わ、こら、暴れるなって」 唐突に、ハルヒが暴れだした。 顔が相変わらず赤いところから察するに、照れてるなこいつ。 まったく、少しは素直になれっての。 少しだけ、さっきより力を入れて抱きしめる。 「……ところで、ハルヒ。さっきの答えなんだが」 ビクッと面白いくらいに反応して、ハルヒの行動が止まった。 一瞬俺の方をキっとにらんだかと思えば、今度は俺の胸に顔をうずめられてしまった。 やれやれ、こういうのは人の顔をみて言うのがセオリーだろう? 俺の胸に顔をうずめたままのハルヒのあごを取って俺の方に顔を向けさせる。 はは、面白いくらい真っ赤だな。 「……俺も、好きだぞ」 しっかりと目を見て言ってやると、ハルヒは赤い顔をさらに赤くして、飛びつくようにまたキスをしてきた。 ご丁寧に目はしっかりと閉じているらしい。 ……やれやれ。 俺も、ゆっくりと目を閉じた。 後書き 若干キョンがキョンでなくなりました。 ついでに言うと、ハルヒもなぜか乙女モード発動してます。 あれぇ……なしてこんな状態に? まぁいいや、とりあえずキョンって私生活とかだとMだけど、性格はSだと思うんですよね。 そんな妄想が具現化しました、その18です。 それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/03/31 |