それは、毎週恒例となっている不思議探索パトロールを行っているときだった。 組み合わせは珍しくも、俺とハルヒ、朝比奈さんと長門、古泉という組み分け。 くそう、古泉め、両手に花とは羨まし……じゃなかった忌々しい。 「ほら、なにしてるのよキョン、次はあっち、いくわよ!」 「はいはい」 羨んでいても時が戻ることもなく、現実から目を背けても仕方が無い。 俺は、結局普段より3割増しで元気な団長殿の後ろをついていくことしかできないのだった。 ……やれやれ。 組み分けの結果は偶然である……と、思いたいところだが、今日のそれには俺は少々の違和感を感じていた。 普段ならば、俺は大抵ハルヒ以外と行動するのがほとんどであり、確率論から言ってしまえばそれはそれでおかしい結果ではあるのだが。 まぁ、どういうわけか、俺はハルヒと組むなんていうことがほとんどないと言ってもいい。 「ハルヒ、普通の雑貨屋に謎なんて転がってるとは思えないんだが?」 「わからないじゃない、案外謎っていうのは普通に潜んでいるものなのよ!」 それがどういうわけか、今日はこいつと組むことになっている。 だが、いまのこいつを見る限り、不思議探索を目的として行動しているようには見えないんだが…… そう、例えてしまうならばカップルがするようなデートみたいなことをしているわけだ。 まぁ、俺としてはそれもいいかというような考えは頭に浮かんでいるわけなのだが。 ……まて、何を考えている、俺。 「わ、これ可愛い」 「どれだ?」 そういってハルヒが持ち上げて見せたのは某ドーナッツショップのマスコットにまで成り上がったかのようなライオンに似た生物をかたどったストラップだった。 いや、確かに愛嬌があるとは思うが、これを付けたいと思うのか……? 「それ、気に入ったのか?」 「そうよ、キョンも可愛いと思うでしょ?」 頬擦りするかのように笑顔でそのストラップと顔を寄せるハルヒ。 ……可愛いじゃねぇか。 「それ、貸してみろ」 「え、いいわよ。はい」 ハルヒからそれを受け取り、とりあえず何も言わずレジまで運ぶ。 「ちょ、ちょっと、キョン!?」 「まぁ……これくらいなら買ってやるよ」 あぁ、まったく俺は何をやっているんだか…… 「あ、ありがと……」 でも、こいつのこんなはにかんだような笑顔が見れるならまぁいいとするさ。 ……だんだんハルヒに甘くなってないか、俺? 「くそ、ついてないな」 「ほんとね、今日は天気予報晴れだったはずなのに」 ストラップを買った後、特に変わらずに不思議探索に戻った俺たちを待ち受けていたのは、突然の雨だった。 夕立か……これは長引きそうだ…… 「どうする、これじゃあ朝比奈さんたちのところに合流するのも厳しいぞ?」 「ん〜……とりあえず、みくるちゃんたちには携帯で連絡とって各自解散してもらいましょ」 それがいいだろうな、このまま合流しようとすると、無駄に濡れて下手したら風邪でもひきかねん。 朝比奈さんのエンジェルボイスが枯れるなんて事があったら、即座に俺は泣いて逃げ出すだろうさ。 「…………」 「いてぇ!何をする、ハルヒ!」 唐突に、ハルヒに足を踏まれた。 上手くツボに入ったのか、結構な痛みがあり、慌ててハルヒの方を向くと、口をアヒル口にして、不機嫌全開といった感じで立っていた。 なんだ、突然? 「別に、なんでもないわよっ!」 その上、そっぽ向かれた。 本当に、なんだというんだ? ……もしかして、嫉妬か? ……ま、そんな馬鹿なことはないか。 「それにしても、止む気配がないな」 今の所風が出てないだけマシか。 こんな軒下なんて風が吹き込むようになったら遠慮なく夕立の餌食になるだろうよ。 だが、このまま待っていても最初に濡れた分身体が冷えるな…… 「おい、ハルヒ、どうするよ?」 「どうもこうも、どうにかして家まで戻るしかないでしょ?」 「……やっぱそれしかねぇか」 正直なところ、こんな雨の激しいところを走って帰るなんてことは遠慮したいんだが…… まぁ、そうも言ってられないか…… 「ックシュッ……」 どうしたもんかと思案していると、ハルヒからなんとも可愛らしいくしゃみが出てきた。 「……大丈夫か?」 「平気よ、これくらい。ちょっと身体が冷えただけ」 そうは言っても震えてるじゃねぇか、お前。 ったく…… やせ我慢するのはかまわないが、こういうときのお前はそうじゃないだろう…… いつものように俺から強引に上着なりなんなり奪っていけばいいだろうに。 「しかたねぇ、ただこうしてもいられねぇよな。走るぞ、ハルヒ」 「うん、あんたん家の方が近いかな?」 いっつも駅で来るハルヒと違って、俺は自転車で済むような距離だからな…… こいつん家よりは近いか。 「そうだな……距離的には俺ん家の方が近いか」 「じゃ、決まりね、さっさと行きましょ」 「おっと、ちょっと待った」 走り出そうとしたハルヒの腕を掴んで押し留める。 まったく、決めたらすぐ行動っていうのはこいつらしい…… 「なによ、キョン」 「これ、頭から被って行け」 俺は上着を脱いでそのままハルヒの頭に被せた。 これで直接濡れるよりは、ある程度雨はしのげるだろうよ。 「でも、これじゃあんた寒いでしょ?」 「いいから、被ってろ」 上着を俺に戻そうとするが、それを手で押し留める。 まったく、いつものお前らしくないぞ? 「でも……」 それでも引き下がろうとしない、今のこいつは本当にらしくない。 「黙って被ってろ、ほら、行くぞ」 「あ、ちょっと、キョン!」 これ以上の押し問答は無駄と判断して、ハルヒの腕を取って駆け出す。 くそ、予想より雨が強いな…… ちらりと横目でハルヒを伺えば、一応俺の上着を有効活用してくれているらしい。 ちゃんと簡易雨カッパの役割を果たしていることを確認した俺は、前を向いて、少しだけ走るペースをあげた。 うわー……服がべしょべしょで気持ちわりぃ…… 俺がこれってことは、ハルヒの奴大丈夫か……? そうやってハルヒの方を向こうとしたら、なぜか平手で顔面を押さえられて、そっちの方を向けなかった。 「こっち見んな!」 「……なんのつもりだ」 恩を仇で返すとはこのことか…… 「服が透けてるから、見るなって言ってるのよ」 「――――っ!?」 そういうことか……すまん、俺の配慮が足りなかった。 急いで方向転換、ハルヒに背を向ける形になった。 そうだよなぁ……頭あたりは俺の上着で防げても、走ってるから前から来る雨まではしのげなかったか…… ……気まずい。 「あー、じゃぁ俺はタオル取ってくる、お前は風呂使え、奥に行けばあるから」 「そうね、悪いけど借りるわ……びしょびしょで気持ち悪い……」 べちょ、べちょと足音を立ててハルヒが家に上がった音がする。 後でこれ掃除しないとだめだよなぁ…… っと、その前にタオルはどこだったかな…… とりあえず、俺は自分の濡れた身体をどうにかしようと箪笥に向かった。 っていうか、親はどこに行った? 「……またか」 濡れた服はとりあえず洗濯機に放り込み、タオルで身体をふきつつ、新しい服に袖を通す。 そして、そのまま居間の方に顔を出すと、そこにはまたしても、机の上にメモが置いてあった。 ――――町内会でちょっと出掛けてくるわー。 ……カラオケか。 ウチの母親が町内会で集まってすることなんてそれくらいしか知らないぞ…… ん、なんだこれは、メモがもう1枚? ――――ともだちのいえにとまってくるね、おかあさんのおーけーはもらってるよ 妹よ、全て漢字を使えとは言わないが、わかる漢字くらいはもう少しくらい使いなさい。 全てひらがな使用とは、お兄ちゃんは悲しいぞ。 「ちょっとー、きょーん!!」 「ん、どうした?」 風呂場の方からハルヒに呼ばれた。 なんだ、唐突に。 「そういえば、あたし着替えなんてないわよ?あと、濡れた服どうしよう……」 「あぁ、そうか……少し待ってろ。服はお前がいいなら洗濯機ん中突っ込んでおけ、お前が出たら洗濯して乾かす」 そういえばそうだ、とはいっても、ハルヒが着れるような服なんてあったか……? まぁ、俺の服でもいいか。 とりあえず、俺の持っている服の中でも大き目のTシャツともうサイズが合わなくてはけなくなったジャージを持っていく。 服を持った俺は、風呂場へ続く扉越しにハルヒに声をかけた。 「ハルヒ、今いいか?」 「いいわよ、まだ浴室の中だし」 「じゃ、入るぞ」 扉を開けて中に入る。 そこで、俺は自分の失態に気づいた。 浴室の扉はスリガラスになってるので、見えないまでも、中にいる人の輪郭まではわかってしまうのだ。 「ちょっと、覗いてないでしょうね?」 「――――っ!?ば、馬鹿を言うな!服、ここに置いておくぞ!!」 やばかった、すりガラス越しとはいえ、ハルヒの身体のラインを間接的にでも見てしまったようなものだ…… ……スタイル、良かったな…… って、違うチガウ違うチガウ!! 今日はいったい何を考えているんだ、俺は! 「ねぇ、キョン。まだそこにいる?」 大慌てで扉を閉めて一息ついていると、ハルヒから声がかかった。 「あぁ、いるが、どうした?」 「服はこの際仕方が無いとして、下着は?」 「あるわけねぇだろ!」 そんなものを持っていたら、俺は全世界公認の変態だろうよ。 それをハルヒに伝えると、文句を言いつつも仕方がないと納得したのか服を着て出てきた。 「……ものの見事にぶかぶかだな」 「……当たり前でしょ、大きさ考えなさいよ」 そりゃそうだ。 なんだかんだでハルヒの身長は俺の目くらいまでしかないからな。 俺でもでかいと思うシャツを着て出てきたハルヒは、はっきり言って凶悪だった。 これは……予想以上にやばい…… 「……なに見てるのよ!」 「……すまん、見とれた」 って、俺は何を言っている!? いや、見とれたのは事実ではあるが、なぜに素直に答えてしまったんだ! 一方ハルヒはというと俺の一言が予想外だったのか、顔を赤くして俯いていた。 ……しまった、またしても気まずい。 「じゃ、じゃぁ俺は風呂入ってくるから、適当にくつろいでてくれ」 そういって、逃げるように風呂に向かうことしかできなかった…… くそ、なんなんだ今日は…… 変なことばっかり口走ってるような気がするぞ。 「ふぅー、さっぱりした」 風呂から上がり、とりあえず居間へ向かってみたが、そこにハルヒはいなかった。 どこに言ったんだあいつは……? 「ハルヒー?」 「なにー?」 上から声がした…… って、まさかあいつ!? 嫌な予感にかられ、大慌てで部屋に行ってみると、予想通りにハルヒが部屋のベッドの上に座っていた。 「なにしてんだ……」 「なによ、変な本の1冊でも出てくるかと思えば、何もないじゃない」 当たり前だ、見つかって困るものがそう簡単に見つかるような場所にあってたまるか。 そもそも、俺の部屋にそんなものはない。 それを探したいのなら谷口の家にでも行って見ろ、それこそ発掘する必要もないくらい出てくるだろうよ。 「普通過ぎてつまんない部屋ねー」 「やかましい、文句言うな」 そもそも、なんで文句を言われなきゃならんのだ。 こらそこ、さりげなく人の布団に寝転がるな!服がでかいって自覚をしっかり持て!あぁ、見える!じゃなくて、ちゃんと隠せ! 「何よ、変な顔して……ていうかなんでこっち見ないの?」 「お前は……自分の服装を認識しなおしてから同じことが言えるのか」 俺がそういうと、現状を再確認でもしたのだろうか、ハルヒの方から枕が剛速球で飛んできた。 ……人様の物を投げるんじゃありませんっ 慌てて枕を避けて、ハルヒの方を振り向く。 そこにいたのは、羞恥で真っ赤な顔をしたハルヒだった。 「うっさい、ばか、エロキョン!」 「それを俺のせいにするかなぁ!?」 少し前まで人前で平気で着替えてた奴の行動か!? 暴れるハルヒの猛攻をかいくぐり、とりあえずハルヒに布団を被せ上から押さえることで制圧することに成功した。 はぁ……なんでこんなに疲れなきゃならんのだ…… 「落ち着いたか?」 「……一応……ね」 相変わらず真っ赤なハルヒを見て、自分の今の現状を思い直してしまった…… ハルヒが布団の上にいて、俺がその上から押さえつけている…… 目の前には、ほのかに石鹸の香りがするハルヒの顔があって…… これじゃぁ、まるで俺がハルヒを押し倒しているような状態じゃねぇかっ!? 「っ、すまん!」 慌ててハルヒの上から避けようとしたが、それはできなかった。 ハルヒが、俺の首に手を回して押さえつけてきたからだ。 「……ハル……ヒ?」 「……馬鹿、こういうときくらい男の甲斐性見せなさいよね……」 そこにいたハルヒは、さっきまでと同じ赤い顔をして、それでいてどこか潤んだような目をしていた…… あぁ、ダメだ…… 俺は、すでに、こいつに…… 「いいのか……?」 ……惚れてるらしい。 「……馬鹿、聞くな」 そして、俺はハルヒに現実世界で始めてのキスをした。 「ほら、乾いたぞ」 「ん、ありがと」 洗濯、乾燥を終えた服をハルヒに渡す。 取り出すさい、見てはいけないものを見てしまったが、それは忘却の彼方に追いやっておく。 そこまで、人生落ちたくない。 「どうやら、雨も止んだみたいだが、どうする?」 「そうね……どうしようかしら」 ハルヒが着替えるので、部屋から出た俺はまたしても扉越しにハルヒに確認を取る。 ちなみに、あの後、俺はなんもやましいことはことはしていないぞ。 キスはしちまったがな…… フロイト教授も今頃笑いすぎで呼吸困難を起こしてるだろうよ。 「いいわよ、着替え終わったわ」 部屋に入ると、元の姿に戻って仁王立ちしているハルヒがいた。 「そうだ、お風呂と服のお礼にご飯作ってあげるわ」 「別に礼が欲しくてやったわけじゃないんだが……」 「いいからいいから、そうと決まれば台所に行きましょう」 「な、お、おい!」 半ば強引に、ハルヒ作の晩飯にありつくことになった。 まぁ、味はすごい良かったんだがな…… その後、タイミング悪く親が帰ってきて、一騒動起こったのは、察していただきたい。 ……やれやれ。 「あぁ、そういえば」 ハルヒを送って帰る途中、ご機嫌な様子で歩くハルヒを見て。ひとつ、大事なことを言い忘れていたのに気づいた。 いかんな、雰囲気に流されてこんな大事なことを言い忘れるとは…… 「なに?」 「いや、言い忘れたことがあったなと」 ハルヒは、わからないという顔をしている。 まったく、普段のあり得ないくらいの察しのよさはどこに行ったのやら。 とりあえず、ジェスチャーだけでこっちに来い来いとやってハルヒを呼び寄せる。 「わ、ちょ、ちょっと、キョン!?」 寄ってきたハルヒを抱き寄せてやる。 おぉ、ものすごい勢いで赤くなった。 「……好きだ」 「――――っ!」 その抱き寄せた勢いのまま、耳元で囁いてやる。 そして、さらに赤くなったハルヒの反応に満足した俺は、抱きしめている手を緩めようとしたが、ハルヒが俺の背に手を回してきたことによって、それはできなかった。 「返事、聞かない気?」 「聞かせてもらえるものなら……?」 多分、俺はいま笑っているんだろう。 だって、なぁ……こんな可愛い人が、腕の中にいるんだ、顔が緩むのも仕方が無いってもんだろう? 「あたしも、大好き!」 そして、俺たちは2度目のキスをした。 後書き バカップル再来。 あれー、当初考えてたストーリーから外れたぞ……なんでだ。 なんかこの頃書いたら書いたでキャラが勝手に暴走始めてる気がしますが…… まぁいいや、それはそれで。 と、いうわけでバカップルでお送りしました、その19でした。 次はどんなお話を書きましょうかねぇ…… そろそろ別のキャラも出していこうか……? それもありかもしれない。 それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/04/01 |